男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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71話 海の家

 水の掛け合いを終えたあと、私たちは一度海から上がった。

 

 大輔君がビーチボールを抱え、砂浜に設置された簡易ネットへ目を向ける。

 

「せっかくだし、ビーチバレーやろうぜ」

 

「7人だけど、どうするの?」

 

 瑞葉が尋ねる。

 

「3対3で、ここあに審判をやってもらえばいいだろ」

 

 大輔君が言うと、ここあは少し考えてから頷いた。

 

「動かなくていいならやる」

 

「審判もちゃんと見てないと駄目だぞ」

 

「見てるぅ」

 

「本当かな」

 

 私は苦笑する。

 

「じゃあ、チーム分けしようか」

 

 グーとパーで分かれた結果、私と叶多、大輔君の3人と、直樹君、瑞葉、里穂の3人に分かれた。

 

「向こう、強くない?」

 

 大輔君が直樹君たちを見る。

 

「運動部は直樹君だけだろ」

 

「その1人が強そうなんだよ」

 

「こっちも人数は同じなんだから、頑張ろうよ」

 

 私はネットの前へ移動する。

 

 ここあはネット脇の日陰へ立ち、ビーチボールを受け取った。

 

「始めるよぉ」

 

「ここあ、ちゃんと点数数えてね」

 

「たぶん大丈夫」

 

「たぶんじゃ困るんだけど」

 

「じゃあ、最初はこっちからね」

 

 瑞葉がボールを受け取り、ネットの向こう側へ移動する。

 

「いくよー!」

 

 軽く放たれたボールが、弧を描いてこちらへ飛んできた。

 

「俺が取る!」

 

 大輔君が前へ出て両腕で受ける。

 

 けれど、ボールは思った以上に高く跳ね、そのまま後ろへ飛んでいった。

 

「叶多!」

 

「ああ」

 

 叶多が追いかけ、落ちる寸前でどうにか打ち上げる。

 

「千夏、頼む!」

 

「任せて!」

 

 私はボールの下へ入り、両手で相手側へ押し返した。

 

 勢いはなかったものの、ネットを越えたボールが里穂の前へ落ちていく。

 

「危ない」

 

 里穂が慌てて両腕を出す。

 

 受けたボールは横へ逸れたが、直樹君がすぐに回り込んで拾い上げた。

 

「瑞葉!」

 

「うん!」

 

 瑞葉が打ち返したボールは、私たちのコートの奥へ飛んでくる。

 

「大輔君、後ろ!」

 

「分かってる!」

 

 大輔君が振り返って追いかけたものの、あと少しのところで届かず、ボールが砂の上へ落ちた。

 

「向こうに1点」

 

 ここあが指を一本立てる。

 

「今のは取れただろ、大輔」

 

「無茶言うな。思ったより砂に足を取られるんだよ」

 

「まだ始まったばかりだよ」

 

 私がボールを拾い、大輔君へ渡す。

 

「次はこっちのサーブだよね?」

 

「うん。大輔君が落としたから、大輔君」

 

「そういうルールだったか?」

 

「今決めた」

 

「勝手に決めるなよ」

 

 文句を言いながらも、大輔君はネットの前へ立った。

 

「今度こそ決める」

 

「普通に入れてよ」

 

「分かってるって」

 

 大輔君がボールを高く放り、勢いよく手を振り抜く。

 

 ボールはネットを越えたものの、そのまま大きく右へ逸れて砂浜へ落ちた。

 

「外ぉ」

 

 ここあが間延びした声で告げる。

 

「今の入ってないか?」

 

「全然入ってないよ」

 

「風だな」

 

「そんなに吹いてないけど」

 

 瑞葉が笑いながらボールを拾いに行く。

 

「梅原君、力を入れすぎじゃない?」

 

 里穂にまで言われ、大輔君は悔しそうに頭をかいた。

 

「次は絶対入れる」

 

「その前に、また向こうのサーブだよぉ」

 

「分かってるよ」

 

 試合は思っていたよりも接戦になった。

 

 直樹君はどこへ飛んでもすぐに追いつくし、瑞葉も安定して返してくる。

 

 里穂は慣れていないようだったけれど、丁寧にボールをつないでいた。

 

 対するこちらは、大輔君が勢いだけで打って失敗することも多かったものの、叶多がその分を無難に拾ってくれている。

 

「千夏、そっち!」

 

「うん!」

 

 直樹君が返したボールへ向かって踏み込む。

 

 両腕で受けたボールは高く上がり、叶多の方へ飛んでいった。

 

「叶多、お願い!」

 

「ああ」

 

 叶多が打ち返したボールを、瑞葉が拾う。

 

 そこから何度かボールが行き来し、最後に瑞葉が返した一球が、私と叶多の間へ落ちてきた。

 

「俺が取る!」

 

「私が取る!」

 

 同時に踏み込み、肩がぶつかった。

 

「わっ」

 

 足元の砂に取られかけたけれど、どうにか踏みとどまる。

 

「悪い。大丈夫か?」

 

「うん。私もちゃんと見てなかったから」

 

 叶多と顔を見合わせ、どちらからともなく少し笑う。

 

 その間に、ボールが私たちの足元へ落ちた。

 

「叶多君たちの失点」

 

 ここあが淡々と告げる。

 

「今のは仕方なくない?」

 

「落ちたから駄目ぇ」

 

「審判が厳しいな」

 

 叶多が苦笑しながらボールを拾う。

 

「次はちゃんと声を掛けよう」

 

「そうだな」

 

 それからは互いに声を掛けながら動くようになり、さっきよりもボールがつながるようになった。

 

「叶多、前!」

 

「ああ!」

 

「大輔君、そっち!」

 

「任せろ!」

 

 大輔君が打ち返したボールが、今度はきれいに相手側の中央へ落ちる。

 

「こっちに1点」

 

「よし!」

 

 大輔君が拳を握る。

 

「今のはちゃんと入ったな」

 

「最初からこうするつもりだったんだよ」

 

「さっき外したのは?」

 

「あれは調整だ」

 

「便利な言葉だね」

 

 瑞葉が呆れたように笑った。

 

 それから何度か点を取り合い、試合は最後まで接戦になった。

 

「次で最後にしようぜ」

 

 大輔君が息を弾ませながら言う。

 

「今、何対何だっけ?」

 

 瑞葉がここあへ尋ねると、ここあは少し間を置いた。

 

「たぶん同点」

 

「たぶん?」

 

「途中までは数えてたぁ」

 

「審判の意味ないじゃん」

 

「最後に取った方が勝ちでいいよ」

 

「急に雑になったな」

 

 叶多が苦笑する。

 

 結局、ここあの言うとおり、最後の一点を取った方が勝ちということになった。

 

「絶対取るよ!」

 

 私は腰を落とし、ネットの向こう側を見る。

 

 瑞葉のサーブがこちらへ飛んできた。

 

「大輔君!」

 

「任せろ!」

 

 大輔君が受けたボールを、叶多が高く打ち上げる。

 

「千夏!」

 

「うん!」

 

 落ちてきたボールを相手側へ返す。

 

 里穂が両腕で受けたものの、ボールは少し横へ逸れた。

 

「直樹君!」

 

「届くよ」

 

 直樹君がすぐに回り込み、片手で高く打ち上げる。

 

 瑞葉がそれをこちらへ返し、ボールはネット際へ落ちてきた。

 

「叶多、前!」

 

「ああ!」

 

 叶多が手を伸ばす。

 

 けれど、ボールは指先をかすめ、そのまま砂の上へ落ちた。

 

「向こうの勝ちぃ」

 

 ここあが片手を上げる。

 

「あー、惜しかった!」

 

 私は落ちたボールを見下ろした。

 

「悪い。もう少しだったんだけどな」

 

「叶多のせいじゃないよ。今のは取りにくかったし」

 

「直樹がいる方が強いって言っただろ」

 

 大輔君が不満そうに口を尖らせる。

 

「人数は同じだったよね?」

 

「だから余計に納得いかない」

 

「どういう理屈だよ」

 

 叶多が笑う。

 

 試合を終えた頃には、足や腕に砂がまとわりつき、身体にもうっすらと汗をかいていた。

 

「一回、海で砂を流そうよ」

 

 瑞葉の言葉に従い、私たちは再び波打ち際へ向かう。

 

 足元へ寄せる波の中にしゃがみ込み、腕や脚についた砂を洗い流した。

 

「お腹空いたぁ」

 

 ここあが海の家の方へ目を向ける。

 

「審判しかしてないだろ」

 

「見てるだけでも疲れる」

 

「点数も途中から数えてなかったじゃん」

 

「それはそれ」

 

 ここあが気にした様子もなく答える。

 

 海水浴場の案内所に掛けられた時計を見ると、もう昼を少し過ぎていた。

 

「先に昼飯にするか」

 

 叶多の言葉に、全員が頷く。

 

 レジャーシートへ戻ってタオルで身体を拭き、近くの海の家へ向かった。

 

 店内は海水浴客で賑わっていたが、少し待つと奥の長いテーブルへ案内された。

 

 壁には料理の写真と一緒に、焼きそばやカレー、ラーメン、海鮮丼といったメニューが並んでいる。

 

「俺は焼きそばだな」

 

 叶多はほとんど迷わずに決めた。

 

「海の家なら、やっぱり焼きそばだろ」

 

 大輔君もメニューを閉じる。

 

「大輔君も同じなんだ」

 

「俺は大盛りだけどな」

 

 向かい側では、直樹君と瑞葉が揃ってカレーを選んでいた。

 

「2人とも同じなんだね」

 

「こういうところのカレーって食べたくならない?」

 

 瑞葉が言うと、直樹君も頷く。

 

「僕も同じ理由かな」

 

「私は海鮮丼にする」

 

 里穂はメニューに載っている写真を見ながら答えた。

 

「千夏は?」

 

「私は……冷やしうどんにしようかな」

 

 ビーチバレーで身体が熱くなっていたため、冷たいものがちょうどよさそうだった。

 

「ここあは?」

 

「フランクフルトと焼きとうもろこし。あとポテト」

 

「結構頼むね」

 

「ポテトはみんなで食べる」

 

「まあ、最悪残しても俺が食べるから、任せとけ」

 

 大輔君が言うと、ここあはすぐにメニューを閉じた。

 

「じゃあ頼む」

 

「決断早いな」

 

 注文を終えてしばらくすると、最初に大皿のポテトが運ばれてきた。

 

 ここあは皿をテーブルの中央へ押し出す。

 

「みんな食べていいよぉ」

 

「ここあが最初に食べないの?」

 

「食べる」

 

 そう言いながら、ここあはすぐに一本つまんだ。

 

 私たちもそれぞれ手を伸ばし、料理が届くまでの間にポテトをつまんでいく。

 

「海で食べると、普通のポテトも美味しく感じるね」

 

 瑞葉が言う。

 

「食べる場所や周りの景色、そのときの気分なんかで、同じものでも味の感じ方が変わることがあるからな」

 

 叶多がポテトを一本つまむ。

 

「コンテクスト効果ってやつだ」

 

「急に難しい言葉が出てきた」

 

 大輔君が眉を寄せる。

 

「簡単に言えば、海でみんなと食べてるから、いつもより美味しく感じるってことだよ」

 

「なるほどな」

 

 大輔君は頷き、もう一本ポテトを取った。

 

「つまり、海で食うポテトは美味い」

 

「まあ、そういうことだな」

 

 話しているうちに、それぞれが頼んだ料理も順番に運ばれてきた。

 

 叶多と大輔君の前にはソースの香りが立つ焼きそばが置かれ、直樹君と瑞葉の前にはカレー、里穂の前には海鮮丼が並ぶ。

 

 ここあはフランクフルトと焼きとうもろこしを交互に見て、どちらから食べるか真剣に迷っていた。

 

「そこまで悩むこと?」

 

「最初が大事」

 

「何が違うの?」

 

「気分」

 

 結局、ここあはフランクフルトから手をつけた。

 

 私も冷やしうどんを一口食べる。

 

 冷たい麺が火照った身体に心地よく、思っていた以上に箸が進んだ。

 

 窓の外には、さっきまで遊んでいた海が広がっている。

 

 昼食を終えたら、もう一度みんなで海へ戻る予定だった。

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