男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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9話 羨望の眼差し

 入学してから5日目。

 

 初日にはどこか硬かった教室の空気も、少しずつ和らいできていた。

 

 授業が始まる前や休み時間には、あちこちで会話が交わされている。

 

 とはいえ、まだ誰もが気軽に話せるようになったわけではない。

 

 特に男子と女子の間には、目には見えない壁が残っていた。

 

「叶多、昨日の数学の最後、分かった?」

 

 隣の席から声をかけられ、顔を向ける。

 

 千夏が教科書を開いたまま、こちらを見ていた。

 

「最後の応用問題?」

 

「そう、それ。途中から何やってるのか分かんなくなった」

 

「先生、式をいくつか飛ばしてたからね。ノート見る?」

 

「見せて」

 

 俺は机の中央へノートを広げた。

 

 千夏が椅子ごと少しこちらへ寄ってくる。

 

「ここで一度、式を整理してるんだよ」

 

「えっと……ああ、そっか。いきなりこの形になったと思ってた」

 

「この部分を移項すれば、後は教科書と同じ解き方だよ」

 

「なるほど。叶多のノート、やっぱり分かりやすいね」

 

「役に立ったならよかった」

 

「ありがと。後で写させて」

 

「いいよ」

 

 千夏が満足そうに頷き、自分の席へ戻る。

 

 その直後、教室の一角から小さな声が聞こえてきた。

 

「また火野さんと話してるよ」

 

「最近ずっとじゃないか?」

 

「昼も一緒に食べてたし」

 

 声を潜めているつもりなのだろう。

 

 だが、静かな教室では意外とよく聞こえる。

 

 視線を向けると、数人の男子が慌てて顔を逸らした。

 

 ここ数日、こうしたことが増えていた。

 

 千夏とは隣の席だ。

 

 授業について話し、昼食を一緒に食べ、休み時間に雑談する。

 

 俺たちからすれば、それだけのことだった。

 

 だが、周囲の男子にとっては、そう簡単に片づけられることではないらしい。

 

 聖凰学園へ入学した男子の大半は、女子との出会いを期待している。

 

 日本有数の進学校であることも、もちろん志望理由の一つだろう。

 

 しかし、日本で最も女子生徒の多い学校という点に、まったく魅力を感じなかった男子がどれほどいるのか。

 

 俺だって、人のことは言えない。

 

 彼女が欲しくて、この学園を選んだのだから。

 

 そんな中、入学して数日でクラス一番の人気者と親しげに話していれば、目立つのも当然だった。

 

「なあ、槻山」

 

 声をかけられ、顔を上げる。

 

 近くの席にいた男子が、探るような表情で立っていた。

 

「何?」

 

「お前、火野さんと付き合ってるのか?」

 

「いや、付き合ってないよ」

 

「じゃあ、なんでそんなに仲いいんだ?」

 

「隣の席だから、話しているうちに自然とね」

 

「それだけか?」

 

「それだけだけど」

 

 男子は納得できないように眉を寄せた。

 

「でも、お前……火野さんのこと『千夏』って呼んでるだろ」

 

「本人にそう呼んでいいって言われたからね」

 

「だからって、すぐ呼べるか普通?」

 

「呼んでいいって言われたのに?」

 

「女子を名前で、それも呼び捨てだぞ。普通はもうちょっとためらうだろ」

 

 そんなものだろうか。

 

 千夏自身が望んだ呼び方なのだから、名字で呼び続ける方が不自然だと思う。

 

「別に失礼なことをしてるわけじゃないだろ」

 

「それはそうだけど……お前、よく普通に呼べるな」

 

「慣れれば気にならなくなるよ」

 

「その慣れるところまで行けないんだって」

 

 男子は悔しそうに千夏の方を見た。

 

「……隣の席、ずるいな」

 

「ずるいって言われても、席は俺が決めたわけじゃないよ」

 

「分かってるけどさ」

 

「だったら、自分で話しかけて仲良くなればいいだろ」

 

 俺がそう返すと、男子は呆れたように目を見開いた。

 

「それが簡単にできたら苦労しないって」

 

「でも、話しかけないと何も始まらないと思うけど」

 

「正論だけどさ……火野さんを前にして、平然と名前で呼べるお前とは違うんだよ」

 

 男子は深いため息をついた。

 

 別に千夏は、話しかけただけで怒るような性格ではない。

 

 むしろ明るくて人当たりもよく、話しやすい方だと思う。

 

 それでも、この世界の男子にとって、女子へ自分から声をかけることは俺が考えている以上に勇気が必要らしい。

 

「何か話すきっかけが欲しいなら、授業のことでも聞けばいいんじゃない?」

 

「簡単に言うなよ……」

 

「難しく考えすぎだと思うけどな」

 

「それができるから、お前はもう仲良くなってるんだろうな」

 

 男子はそう言い残し、自分の席へ戻っていった。

 

 その背中からは、悪意よりも羨ましさの方が強く感じられた。

 

 俺だって、立場が逆なら多少は羨ましく思っただろう。

 

 だから、嫉妬されること自体を責めるつもりはない。

 

 ただし、その視線を気にして千夏と距離を置くつもりもなかった。

 

 せっかく仲良くなれそうなのに、自分からその機会を手放す理由はない。

 

 俺は彼女を作るために、聖凰学園へ入学したのだから。

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