皇帝(一般TS転生者) 作:ルドルフ応援隊下っ端
小学生になっている俺。勿論小学校に通っているわけだが、ウマ娘の割合は小さかった。ゆえにウマ娘の子達は自然と人が集まる……なぜか俺の周りには誰も来ない。今日も今日とてサイコロ本を開き、黙々と読むのである。
「おはようございま~す」
先生が営業用のスマイルを浮かべながら教室へと入ってくる。分かるよ。小学生の相手は大変だろう。
「今日の最初は運動場で鬼ごっこしましょ~う」
教室が騒めく。小学生にとって鬼ごっこは天国の一つなのだ。俺も小学生の頃はよく鬼ごっこで遊んだ記憶がある。最も、前世の世界にはウマ娘がいないのだが。
「シンボリルドルフさんはゆっくり走りましょうね?」
このようにやんわりとウマ娘お断り宣言が発令される。当たり前の話である。
なお鬼ごっこは先生の一人逃げで終わった。大人なげないことこの上ない。
私は先生をしています、小学生の先生です。ある小学校に勤務するようになってから早くも5年が経ちました。
そして今年もいつも通りにある高学年のクラスの担任をすることになりました。
「シンボリルドルフさん、何読んでるの?」
「サイコロ本」
「ええ……?」
クラスに一人、変わった子がいました。ウマ娘の子で、名前はシンボリルドルフ。小学生に似合わぬオーラと読み物を持っていました。シンボリという名は有名です。ウマ娘界において数々の偉業を成し遂げた一族、シンボリ家のご令嬢なんだそうです。
実際、シンボリルドルフさんはとても強いです。彼女が鬼ごっこで逃げる側になれば私のように捕まらないし、鬼になれば鬼にしたことを後悔します。なにせ数分で全員捕まえるのですから。
しかし活発ではなく、いつも教室の隅で一人本を読んでいます。様子を見ていて分かりましたが、クラスの子達は彼女の近付き難い雰囲気に怯えているみたいでした。服装がズボンに落ち着きのあるパーカーというのが猶更そうさせているのでしょう。大丈夫かなと思いましたが、どうやら彼女は特に寂しいとは思っていないらしく、現状でも満足だと言っていました。小学生にしては達観し過ぎていて、私は少し不気味に感じました。
「ふぅ……次でようやく最後かな」
丸付けの終わったテストを捲る。最後の一枚はシンボリルドルフのものでした。
「うわぁ……満点だし、しかも小学生にしては達筆過ぎる……」
まるで大人が解いたのかと錯覚するような回答用紙の点数欄に100、とペンで記し、私はまとめたテストをトントンと机で整えた。
「今回のテスト、小学生には少し難しいと思ったんだけどなぁ……本当に不思議な子。きっとああいう子がレースで三冠とか取るんだろうなぁ」
ポツリと呟いた一言。
まさかこの時はその言葉が現実になるとは、まったくもって思いもしませんでした。
今日の帰りのことだ。いつも通り下駄箱を開けると、一枚の半分に折り畳まれた紙が入っていた。これはまさかと思いそっと開く。
”放課後 三階のはしっこの部屋に来て”
おおう……ラブレターというやつだ。前世では縁も所縁もなかった。同じスタイルで学校を生きているのに違うということは、やはりこの体が前世のヒョロヒョロと比べるまでもないことになる。少し悔しくなった。
しかしこれをどうしよう。俺は男に興味はない。特殊な性癖もない。それに大の大人だった俺は小学生に恋愛感情を抱くなどありえない話である。だがシカトしたらどうだ。ラブレターを出した小学生は恥死するだろう。違いない。
「兎に角、行くしかないか……あまり気は進まないが」
ランドセルを玄関の部分に下ろし、上履きをぺたぺた鳴らしながら三階へと階段を上がる。
この階の空き教室は一番奥の部屋しかない。なぜかはわからないが普段から鍵が開いており、小学生の密かな楽しみの場となっていた。
ドアの前に辿り着くと、嵌められた窓越しに、男の子の姿が見えた。ガララとドアを開けると、驚いたような表情で俺を見た。まぁ実際俺が来ることが予想外でもあったのだろう。
「それで、用事は何かな?」
諭すような声で問いかける。はいリラックスリラックス。過度の緊張は失敗を促す。経験者はかく語るのだ。しかし何故か目の前の男の子はさらに体をガチガチに固めた。
「あ、あのッ!」
「?」
「す、好きです!付き合って!」
バッと俺の前に手が差し出される。俺は関心した。勇気あるねぇ。これが高校生や中学生なら納得なのだが、小学生が、しかも自ら黒歴史を作りだそうとしている。普通の女の子ならこの勇気に割とキュンだろう。普通なら。
「……その気持ちはありがたい」
「……!なら」
「でも私は恋愛に興味がないんだ。すまない」
「……!」
すまんね。俺はもう恋愛とは最遠距離にいるのだ。男の子はよほど堪えたのか、俯き嗚咽を漏らしている。気まずくなった俺は「じゃあ……」といって逃げるように教室を出ようとする。すると突然、男の子が何かを決意した目でこちらを見た。
「じゃ、じゃあ!」
「?どうした」
「ぼ、僕もとれーなーになって一緒にトレセン?に行く!」
「……へぇ」
俺トレセン学園に行くとは一言も言っていないが。まぁ多分行くと思うが。行かなければ家が煩い。それにしても素晴らしい覚悟だ。偉い。小学生だがぜひ我が社の社畜仲間になってほしかった。前世の話だが。
「面白い……ならばそのとき私は君と契約することにしよう」
パァッと顔を輝かせる男の子。
「ありがとう!シンボリルドルフさん!」
「ルドルフでいいよ。」
「……! うん!ルドルフ!」
嬉しすぎたのか突然走り去っていった。狂喜乱舞とはまさしくこれだろう。
さて、俺も帰りますか。無事平穏に終わったことに安堵のため息をしながら教室を出る。
「……良かったのか?それで」
「いたのか、シリウス」
壁にもたれかかりながらシリウスがフンと鼻を鳴らす。格好良い見た目と相まって、それはずいぶん様になっていた。
「いいじゃないか。頑張る者には私は優しいんだ」
「そうかよ。じゃこれ」
シリウスが何かを投げてくる。受け取るとそれは俺のランドセルだった。窓を透過するオレンジの光がランドセルの黒をひと際強調する。
「……持ち物は、ずっと持っとけよ」
俺が何かを言う前に、シリウスは背を向ける。引き留めたくなった俺は叫んだ。
「今度一緒に京都競バ場に行かないか?!」
「……勿論行く」
ポツリとそう呟き、シリウスは階段へと消えていった。
……勿論とは。