皇帝(一般TS転生者) 作:ルドルフ応援隊下っ端
「では続きまして、新入生代表シンボリルドルフさんによる宣誓です」
案内の人が俺を呼ぶ。舞台脇から背筋を伸ばし、綺麗な歩幅で俺は登壇する。その瞬間、膨大な視線が俺へと集まる。いや、訂正しよう。彼女らはじゃがいもだ。じゃがいもが俺を見ている、それだけだ。なぜ緊張する必要がある、じゃがいも相手に。
因みにだが緊張した時は手に人と書くのが良い。効果の責任は一切負わないが。
「桜のつぼみもほころび、春の温かな光が満ちる今日の良き日、私たちは伝統あるトレセン学園への入学を許可されました。本日は私たちのためにこのような素晴らしい式を挙行していただき、新入生を代表して心より御礼申し上げます」
壇上のマイクに向かい、はきはきとしゃべる。速度も言わずもがな、つっかえないことも重要だ。え~とか、であるからして~とか、睡眠導入剤となんも変わらない。逆にその中で意識しなくても起き続けられる人間を俺は化け物と呼びたい。
「期待と少しの不安を胸に迎えた今日、私たちは晴れて高校生としての第一歩を踏み出しました。これから始まる期間は、大人への階段を上るための大切な時期です。
私たちは、勉学に励むことはもちろんのこと、トゥインクルシリーズにも全力で挑戦し、仲間と切磋琢磨しながら自らを高め合っていきたいと考えています。時には壁にぶつかることもあるかもしれませんが、決してあきらめず、何事にも全力で取り組むことをここに誓います。 」
読んでて思うが、やっぱこの文って建前成分が高い。なんだよ全力でって。力を抜いたり、入れたりするのが世渡り上手である。普段はノロノロ生き、上司の前では200パーセントで叫ぶ。これである。完璧だ。
「まだまだ未熟な私たちですが、理事長先生をはじめ諸先生方の教えをしっかりと受け止め、良き伝統を守り、さらに発展させていけるよう努力してまいります。
先輩方におかれましては、温かいご指導とアドバイスをどうぞよろしくお願いいたします。
一日一日を大切にし、悔いのない充実したを送ることをお誓い申し上げ、新入生代表の挨拶とさせていただきます 。新入生代表シンボリルドルフ」
一礼し、俺は壇を降りた。うん。なかなかいい感じにできたな。よしこれで仕事は終わりだ。終わった終わった。
と、いうことで。新しいクラスはどうなることかな。
……そう期待していた。うん。で実際どうか?
「ねねシンボリルドルフさん!」
「一緒に昼食食べに行かない?」
トレセン学園というのは、素晴らしいものであったらしい。気分で言えば、ガガーリンが地球は青かったと呟いた時である。
昼頃になると俺の周りに何人もウマ娘達が来てくれるのだ。少し疲れるがこういうのも、悪くない。
ホクホク気分になりながら、楽しい昼食を囲んだ。こういう時に上司との会食で培ったスキルと経験が生きるとは誰も思わなかっただろう。俺もだ。
「それにしても蕎麦とかあったんだね……いつも人気なものしか頼まないから知らなかったよ」
「ああ。あって良かった」
「シンボリルドルフさんは蕎麦好きなの?」
「ああ。昔から好きだった。トレセンにもあるからずっと傍にいれるな」
「だといいね」
十割そばはいいよ。俺の中のフードランキング堂々の一位だ。しかもそばには結構ピンからキリまであるので、色々食べ回るのもまた密かな楽しみなのだ。
おっと。気づけば空になっていた。楽しい時間はいつも早いな。ジャネーの法則とかいうんだったか……いや違うか。
「ごちそうさまでした。さて、私は先に教室に戻っておくとするよ」
「あ、了解。じゃね~また一緒に食べようね」
「ああ、いつでも」
食堂を出て、爽やかな風の靡く廊下を歩く。あー心地イイ。猫が日向ぼっこをしたがる理由がわかる気がする。
ほのぼのしながら歩いていると、ふと一人のウマ娘とすれ違った。
……あれ?待て待て。俺は振り返る。小さくなっていくウマ娘は右頭部に緑リボンの帽子を付けている。
絶対ミスターシービーじゃん。史実で史上三頭目の三冠に輝いた馬。本来ならシンボリルドルフの一歳年上だったが、この世界では一つ上らしい。改めて思うと運命的な赤い糸で結ばれてる可能性がある。きっとある。
「先では私のライバル、か……」
レースで切磋琢磨するのは構わないのだが、俺は安全第一である。えだってシンボリルドルフって怪我結構したんだよ史実でも。いやだよ痛いのは。痛みでありがとうございますは上司の前だけだよ。
俺は何かよく分からない気持になった。
取り敢えずファンとして会えたことを感謝して拝んどこう。
放課後、俺は色々なウマ娘と会話をするという新しい試みをした後寮へ向かっていた。ウマ娘の世界には史実に習い、栗東寮・美浦寮がある。因みに俺は美浦寮。別に茨城県民でもなんでもないが美浦寮である。史実で美浦だからだ。他意はない。
寮長に軽く挨拶し、俺はいそいそと指定された自室へと向かう。さてここで一つ問題がある。寮は基本二人一部屋。しかしシンボリルドルフの相方は公式で明かされていないのである。古参組なのに相方いないって不思議だよ。ゴルシみたいだわ。
「失礼する……」
貰った鍵でドアを開ける。しかし、中はガランとしていた。
「あれ? いないのか……?」
だが向かって左側のベッド周りには私物らしきものが置かれているので、確実に相方は存在している。勉強机に置かれた謎のオブジェに、ベッド脇に置かれた謎のオブジェツー。なにやら独特な雰囲気がにじみ出している。
ガチで誰……? 分からないまま俺は鞄を降ろし、ベッドに座る。
ん?お、これは……!
「このベッド中々いいな……!」
前世で使ってたやつと同じくらいの反発性である。慣れているからか心地よい。
うん。そうだ。暫く寝よう。勉強なんぞしなくともできる。いや驕りとかでなく。
段々と眠くなってきた。今の俺はベッドに取り込まれた被害者である。
夜ご飯何にしよう、か……。
寝息がリズム良く静かに響く。すると、部屋のドアを開く音が割って入った。
「ん……? あーそうか。私の同室か」
ウマ娘時空は双曲線のごとく歪んでいるので個人解釈で設定・学年設定されている部分があります。ご了承ください。