皇帝(一般TS転生者)   作:ルドルフ応援隊下っ端

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五話:妖怪は出ないよ?(当たり前)

「う、うーん……」

 

目を覚ます。直後俺の視界を埋め尽くしたのは見知らぬ天井、でもなく青空、でもなく顔だった。

 

「起きた? おはよう」

 

顔はニコリと笑った。鹿毛色のショートカットに、顔の中央を流れる一本の異様に長い白髪。そして自信溢れた目付き。

 

……え誰? マジで誰?

 

「いい眠りっぷりだったね」

「……すまない。君は?」

「同室だよ」

「なるほど……私は挨拶を疎かに寝てしまったのか」

「いいよいいよ。そんなかたっ苦しいの求めてないし」

 

ハハハ、と笑いながら俺の勉強椅子に勝手に座る。寛容な態度といい、貴様さてはモブウマ娘ではないな?

 

「改めて、私はシンボリルドルフ。よろしく頼みます」

「おーよろしく。ひとつ年上だし先輩として接してくれよ~」

 

まさかの先輩だった。学年上というとうーん何だ。このウマ娘の世界は史実関係がまるで飴のようにドロドロと溶け合っている。結果孫の方が年上というタイムスリーパー真っ青の事件が発生する。

 

「あの」

「んー何?」

「名前を伺っても?」

 

決意して問いかける。名前を聞くのって実は覚悟がいるのだ。おセンチな俺だけかもしれないが。

 

「あー言ってなかったっけ。私はギャロップダイナ。よろしくな☆」

 

 

 

 

……ゑ?

 

 

 


 

 

 

「じゃあおやすみ」

 

部屋の電気がフッと消え、暗闇が全てを満たす。その瞬間俺は流れるように思考を開始した。まず状況を理解しよう。これはリアルか? 頬を抓る。髪を引っ張る。痛い。尻尾や耳を触る。体がビクッとなった。間違いない。これはリアルだ。

 

顔だけを動かし隣を見る。暗い中ベッドに横になっている相方のウマ娘が目に入る。見たことのない顔だった。俺は実装済みのウマ娘は全て顔を覚えているので、未実装。ギャロップダイナというのは十分あり得る話だ。

 

だがそうだとしよう。ギャロップダイナは史実でシンボリルドルフを天秋(天皇賞秋)で差し返し、土を付けた馬だ。その時のオッズは天秋史上最高だった。アリエルもビックリである。

 

ミスターCBがライバルとすれば、ギャロップダイナはサイレントキラーだ。

 

まさか同室だとは思わなかった。俺も予想外である。予想外というのは起きるのが当たり前だが、今はやば谷園でこんな言葉しか出てこないのである。

 

衝撃隠せぬまま、俺は眠らぬ夜をしばらく過ごした。

 

 

 


 

 

 

――――――ジリリリリリリ!!!!

 

世界を揺らさんばかりのアラーム音が鳴る。

 

「――――ッぎゃあああうるさぁあああ!」

 

ギャロップダイナは飛び起きた。耳をつんざくような音が入る。慌てて耳を塞ぐが、手は恐ろしいアラーム音を防ぐことはできなかった。

 

「何このアラーム?!」

 

元凶はどこかと慌てて探すと、すぐに見つかった。昨日やってきた相方、シンボリルドルフのベッドのわきに置いてあった。

 

慌てて止める。その瞬間、部屋は一気に落ち着きを取り戻した、

 

「ふぅ……朝っぱらから災難……」

 

溜息を吐くギャロップダイナだったが、ふとシンボリルドルフの方を見ると、なんとまだ眠っていた。規則正しい寝息が聞こえる。

 

「マジ? あれで起きないの?」

 

驚愕の表情を浮かべるギャロップダイナ。しかし起こさなければならない時間であることを思い出し、慌ててシンボリルドルフの肩をゆする。何回も続けるが、起きそうになったかと思えば渋い顔をしてまた眠る。

 

「あと5分……」

「それ二回目だから」

 

いよいよ耐えれなくなったギャロップダイナは最終手段である布団剥がしを繰り出す。そこでようやくシンボリルドルフは目を覚ました。とんだ低血圧まがいの後輩にギャロップダイナは一日で参った。シンボリ家ってこんなやつばかりなのか……?

 

 

 


 

 

 

入学式から一夜明け。俺は全力疾走していた。なぜかと聞かれるのは無粋である。俺は元々朝起きるのが不得意である。そのうえどうやらシンボリルドルフの体は朝起きに弱いらしい。足し合わせるとあら不思議、朝起きがてんで出来なくなる。

 

「おはようございます、シンボリルドルフさん」

「おはようございます」

 

全身緑づくめの秘書、駿川たづなに挨拶し、俺は急いで廊下へと駆け込んだ。しかし曲がった瞬間、ウマ娘とぶつかってしまった。パンを咥えていなかったのが惜しい……!

 

「うわっ―――!」

「あ! すまない。大丈夫か?」

 

転んでしまったウマ娘に手を差し伸べようとした時俺は気づいた。

 

「ごめんごめん。アタシこそちょっとよそ見してた~。おや?キミ新入生代表してたシンボリルドルフじゃない? アタシはミスターシービー。よろしくね」

 

特徴的な白と緑の小さなハットを頭に付けた黒鹿毛色の長髪のウマ娘、ミスターシービーだった。差し出した手を掴まれたことで、俺は一気に現実に戻った。

 

「――――あ、ああ。よろしく頼む」

「うん。じゃあ授業始まっちゃうから戻るね。じゃ~」

 

軽快な笑みを浮かべてから、ミスターシービーは走って去っていった。俺も慌てて自教室に駆け、自席に鞄を下ろす。いやはや、あんな運命的なぶつかり方をした相手がミスターシービーとは。史実で三冠取った者同士何か惹かれるものでもあるのだろうか。中身は俺だが。

 

授業が進む。流石は府中にドデカイ敷地構えている学園なだけあり、進度は早い。なつかしいな反証とか……。そして一つ、他の学校とは違う特異的な点がある。

 

それはそう、レースに関する授業だ。

 

「では、シンボリルドルフさん。クラシック三冠に該当する重賞は何ですか?」

「はい。順に皐月賞、日本ダービー、菊花賞です」

「正解です。それぞれの開催場所は分かりますか?」

「皐月賞が中山競バ場。日本ダービーは東京競バ場。菊花賞は京都競バ場です」

「正解です。流石ですね」

 

ハハハ俺をなめてもらっちゃ困るね。前世現地まで行ってた勢だからな。今世も行ったことはあるが。シリウスや母親と。

 

「クラシックレースでは皆さんに事前に提出していただいたクラシック登録が必要ですよ」

 

知ってます。

 

というかそれ以上に隣の席で製造されている巨大鼻提灯に何故先生は気づかないのだろうか。クスッと笑ってしまったじゃないか。なお俺の頭に”起こしてあげる”とかいう言葉は存在しない。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで終わった授業。ジャージに着替えた俺はトレーニングとしてベンチプレスをしていた。

 

「やっほ~。また会ったね」

 

隣に俺と同じくベンチプレスするミスターシービーがいた。……偶然()だね。絶対。

 

「何か用かい? 妖怪はいないよ」

「たまたまだから目的はないかな~。でも折角だから仲良くなりたいな」

 

え~ネームドと友達ですか?それはちょっと……という冗談はさておき、俺はウマ娘ファンとしてミスターシービーと会話できるのは大変恐縮である。どうせ元々仲良いのだから問題はない。問題があるというやつは打ち上げ花火に括り付けてやろう。チャッカマンはあるぞ。

 

「あ、そういやルドルフ選抜レースは出るの?」

「ああ勿論だ。明後日の選抜レースの中距離に入ることになっている」

 

俺の直近の課題はトレーナー確保である。トレーナーといかに相性良く、効率良く走るかで、レースの成績もまた変わる。騎手に某強すぎて滅!なリーディングジョッキーが乗るか、競馬学校出たばかりのジョッキーが乗るか、みたいな違いといえば正しいか。うん例えが悪いか。

 

兎に角、レースの成績次第では家からグチグチ言われるのでトレーナー確保は重要だ。

 

「そういう君はレースに出るのか?」

「アタシ? うーん、来月のダービーかな~」

 

考えるように視線を動かすミスターシービー。無事三冠の道を闊歩しているようで何よりである。ベンチを降ろし、タオルで汗を拭いながら立ち上がる。

 

「あ、そういや知ってる? 今年の新しく入ったトレーナーのこと」

「? 知らないな」

「最年少が出たらしいよ。同い年」

「へぇ……それは凄いな」

 

高校生で受かるとか凄いのでは。某T大(どっかの学部)の難易度に比肩するといわれる中央のトレーナー試験を突破するとか、それも高校生で。飛び級ここに極まれりではないだろうか。天は特定の人物に三物も四物も与えたがるらしい。

 

なんか切なくなった俺は帰ることにした。うんむ。寝よう。睡眠はよい現実逃避の術なのだ。

 

「じゃあ私は戻ることにするよ。また今度」

「またね~」

 

別れをしてから俺は着替えるために、足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※ミスターシービーの口調については知見が足りないので一部怪しいところがあります。
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