皇帝(一般TS転生者)   作:ルドルフ応援隊下っ端

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七話:日常ってのはありふれてるから日常

さて俺である。

 

ロミオとジュリエットもビックリの再会を果たした翌日、俺は再び五百籏頭(いおきべ)のもとを訪れていた。

 

「トレーナー君、失礼してもいいか?」

 

コンコンとドアをノックすると、はいと返事が来る。

それを確認してから、俺はドアを開けた。

 

「やぁルドルフ。待ってたよ!」

 

中ではデスクチェアーに座る五百籏頭(いおきべ)の姿。ということで俺は今、彼の寮の自室に来ております。理由は至極明快。新人トレーナーはトレーナー室なんて上等なもの与えられないからである。当たり前なのは当たり前。

 

促され、俺も余っていたチェアーを譲ってもらう。

 

「それで、私を呼んだ理由は何かな」

「じゃあまず、僕は担当トレーナーになったわけだけど、本当に良かったの? 僕バリバリの新人だよ? ルドルフならもっと経験のある、それこそベテラントレーナーとも契約できたと思うんだ」

 

やけに真剣な表情で聞いてくる。何だそんなことか。

 

「私は君の担当ウマ娘になると決めたんだ。それに異論はない。認めもしない」

 

あと口には出せないが、ベテランだと俺は限界まで頑張らないといけないだろうというのもある。それは嫌である。しかしそんなことを勿論知らない五百籏頭(いおきべ)は、嬉しそうに頬をポリポリと掻いた。

 

「……そっか。分かった。じゃあ何回も言ってるけど、よろしくね」

「ああ。勿論だ」

「じゃあ早速だけど、ジャージに着替えてここのトラックに来て欲しいんだ」

 

五百籏頭(いおきべ)がデスクに広げている校内地図の中を指さす。このトレセン学園は設備の数も多いのでバカ広いのである。大学かと疑うほどなので、こういう地図は割と使ったりする。簡単に言えば、初めて東京駅を訪れた時の気分が続くのである。

 

「ちょっと走りのフォームとかのデータを取っておきたくて……いけそう?」

「ああ、問題ない。では着替えてくるとするよ」

 

俺は席を立った。なお女子の着替えというのは俺には駄目なやつである。対策方法を必死に考えた結果、最近では目を瞑りながらでも完璧に着替えができるようになった。

 

努力って怖いね。エジソンもそう言ってる。

 

 

 


 

 

 

無事目瞑り着替えを終え指定されたコースに向かうと、既に五百籏頭(いおきべ)の姿があった。何やら機材を設置しているようで、いそいそとしている。

 

「トレーナー、来たぞ」

「あ!今丁度準備が終わったところだよ」

「そのようだな。それで、どう走ればいいんだ?」

「今日はいつも通りに走ってみて欲しいんだ。僕はまだ新人だから流石に見ただけじゃ分からないから、こうして機械でデータにするんだよ」

「承知した」

 

そこで俺はいつも通りに準備運動をし、いつも通りにスタート地点に立つ。

 

足に力を込めればダンッ!と景色は一瞬にして某ハイランドのドドンパのごとく加速する。一定のリズムを意識しながらぐるーっと周り、最後の直線で一気に加速する。俺は仮ゴールを駆け抜けた。

 

息を整えながら五百籏頭(いおきべ)の方へ行くと、彼は満足気な表情で俺にタオルや水を渡してくれた。

 

「ありがとう!! これで取り敢えずはデータが手に入ったよ」

「手に入ったのなら何よりだ」

「それにしても流石だね。加速時のストライドが初めて見たくらい大きかったよ。普通より一メートルくらいかな、広かった」

 

そう? 言われるまで特に自覚はなかったが……そういえばシンボリルドルフは加速時のストライドがかなり大きいとか聞いたことあったな。それか。にしても一メートルってぱっと見で分かるものなの?

 

「じゃあ今日はこれくらいにしておこう。お疲れ様」

「承知した。ではまた」

「うん。……あ、そうだルドルフ。今度ちょっと一緒に……外出しない?」

「構わないが、どこへ?」

「それは当日のお楽しみってことで。じゃまた明日!」

 

妙に嬉しそうな五百籏頭(いおきべ)は機材と共に消えていった。途中でこけていたが、どうやら機材だけは死守したようだった。それだけを見ると本当に最年少かこいつ?と思うが、天才とバカが紙一重であるように、天才とドジもまた紙一重なのだ。

 

そんなことを思っていると、ベンチに置いておいたスマホが鳴った。開くとシリウスからパピーを見つけたというメッセと共に写真が送られてきていた。

 

……簀巻きにされた男性トレーナーとのツーショットだった。

 

どう返せと。この問いはソクラテスでもいやぁ無理!!と匙を投げるだろう。しかしよく見ると簀巻きトレーナー、慌てているもののどこか嬉しそうである。

 

ひょっとして俺、見せつけられてる?

 

 

 

 

次の日。

 

メイクデビューまでやることがトレーニングくらいしかなかった俺は、暇なので五百籏頭(いおきべ)の元を訪れていた。

 

「少しお邪魔していいかな?トレーナー」

「あ、ルドルフ。勿論だよ」

 

部屋に入ると、彼はチェアーに座ってパソコンと会話しながら優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

「折角だし、一杯どう?」

「ぜひ頂こう」

 

淹れたてのコーヒーを受け取る。う~んイイ。やはりコーヒーは飲み物として優秀だ。カフェインてんこ盛りだが。

 

「あ、そうだ。少し手伝って欲しいことがあるんだけど」

「勿論。何を手伝えばいい?」

「荷物整理であの本棚の一番上の本を取りたいんだけど、背が届かなくて……」

 

そう言って指さしたのは部屋の隅にある天井まで突き上げた巨大な本棚の一番上。一冊の分厚い本が置いてあった。何アレ。逆にどうやって置いたんよ。

 

「いやー気づいたらああなってて、今脚立も壊れてて困ってたんだ」

「……そうか」

 

理由は聞かないでおこう。にしてもどうやって取ろうか。あ、そうだ。

 

「肩車でいけるんじゃないか?」

「え?いやいや、流石にそれは……」

「今すぐにできる最も効率的な方法だと思うのだが」

 

肩車の力を舐めてはいけない。試してみろ、飛ぶぞ。腰もな。だが今の俺にぎっくり腰も、筋肉痛も存在しない。フハハハなんて素晴らしいんだウマ娘。

 

「さあ、早く乗ってくれ」

 

かがんで乗れという意を示す。しかし五百籏頭(いおきべ)は混乱している。

 

「え、えーっと……」

「早く」

 

かがみ続けるのも辛いんだぞ。それが伝わったのか、少しの静寂の後、五百籏頭(いおきべ)は分かったと呟いた。

 

 

 

 

 

「も、もう少し右で」

「承知した」

 

彼の脚をがっちり掴みながら少し右へずらす。すると無事に本にたどり着けたらしい。

 

「よし、取れたっ」

 

そんな声と同時、本を取った勢いで比重が一瞬グンッと後ろへ傾く。不意打ちのようなそれに俺はバランスを崩す。

あ、やべ。

 

「え―――――」

 

後ろへ傾いた俺達は、ピサの斜塔が崩壊するがごとく、周りの書類などを巻き込んで倒れた。

 

ドガシャン!

 

「ってて……ルドルフ大丈夫?って―――――」

 

目を開けると、五百籏頭(いおきべ)の顔が目の前にあった。どうやら俺が地面に倒れ、その上に五百籏頭(いおきべ)が覆いかぶさる形で倒れたらしい。いやどんな奇跡。どうやったらそう倒れるんだよ。取り敢えず無言のままが嫌なので口を開く。

 

「……トレーナー君こそ問題はなかったか?」

「う……うん」

 

五百籏頭(いおきべ)の顔が赤くなる。顔近いもんね。でも俺男だからね。

 

「とりあえず起きてくれないと、私も起きれない」

「あ、あうん。ごめんごめん」

 

バッと彼が立ち上がる。俺も立ち上がり、手で服についた誇りを払う。

 

「それで、本は無事に取れたかな?」

「う、うん。ありがとう。助かったよ」

 

五百籏頭(いおきべ)が散らばった資料から一冊の分厚い本を取り上げる。表紙には”歴代ウマ娘に関する資料”というあまりにも無骨なタイトルが書かれていた。

 

そして五百籏頭(いおきべ)が俺と目を合わせてくれない。理由は何となくわかる。そこで気の利く俺はここで去るという選択肢を取ることにした。

 

「それでは私はトレーニングに行くとするよ。また何かあったら呼んでくれ」

 

そっと外へ出る。彼の耳が赤くなっていたのを気のせいということにしておこう。

 

俺はあくまで気づかないフリを続けるのである。まだ自意識が男である俺には、恋愛は無理なのだから。

 

 

 




('◇')ゞ
書き溜めが切れたので、次回から間隔が生じます。
なお次回は五百旗頭視点で行こうと思ってます。いいお気分だべだべ。
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