勇者ロトの弟にチート持ちで転生したけど、異世界のダンジョンに転移したのは間違っているだろうか:Re 作:醜い蛭子
『お主には再び世界を闇で覆いつくさんとす災厄を退ける為に選ばれた魂じゃ』
神様というよりは如何にも王様といった風貌のゼニス1世と名乗った男は姿形のない恐らく魂だけの存在である俺に向かってそう言い放った。
この状態で脳裏に浮かぶと言うのが正確かどうか定かでないが、ここで意識が覚醒する直前の記憶は歩道へと乗り上げて目前に迫り来るトラックの姿。
どうやら俺はそのままトラックに轢かれて死んでしまったらしい。
『お主が庇った幼子は無事じゃから安心するといい』
それと同時に思い至った俺の懸念に対し、ゼニス1世は先手を打つようにすかさず答えを返してきた。
取り合えず無駄死にという訳ではなかった事に安心するものの、何やら自分の考えが筒抜けになっているようで少し身構えてしまう。
まぁ今となっては、身構えるような身体もないんですけど!
ちょっと理解が追いつかない現状に対して思わず
それにしてもゼニス1世か。
国際化社会に取り残されていた生前の知り合いで無い事は確かだが、何やらその名前には聞き覚えがあるような気がする。
すると俺の中で奇妙に符合が合わさった。
……会心のギャグ──会心の一撃──ドラゴンクエスト!?
『ようやくワシが何者か思い至ったようじゃな』
死ぬ前はオーソドックスなRPGが好きだった俺は当然ドラゴンクエストのシリーズもプレイしており、それなりに知識もある方だと自負している。
ゼニス1世。
確かリメイク版のドラクエⅢより登場したキャラクターで、隠しダンジョン内のセーフティゾーンであるゼニスの城の主だ。
Ⅵに同名のキャラクターが登場していた事からシリーズ間の繋がりが示唆されたものの、Ⅲの前日譚とも言えるⅪにも登場せず結局何者か明かされないままという酷く中途半端な存在であった。
『お主の視点からすればそう思われるのも致し方ないとはいえ、随分な言われようじゃのう』
そりゃそうである。
ただでさえ不慮の事故で死んでしまった混乱も冷めやらぬ中、いきなり世界を救う為に選ばれた魂だ何だ言われたって俺としては困惑する他ない。
そうなると自然と辛辣な態度を取ってしまうのは無理もないだろう。
『しかし納得出来ようと出来まいと、お主がロトゼタシアに転生する事実に変わりはない。後は座して滅びの運命を迎え入れるか、抗う為に戦いの道を選ぶか、二つに一つじゃ』
あまりに理不尽だ。
最期はそれなりに人として立派と言えるものかもしれないが、前世の俺は特に何か秀でていた才能があった訳でもないし人に胸を張れるような人格者だった訳でもない。
かといって何か罰を受けるような事を仕出かした事もないので、世界の運命を担うような責任を背負わされるなんて真っ平御免だ。
そもそも情報があまりに少なすぎる。
ロトゼタシアと言うからにはⅪの世界に転生する事になるのだろうが、そこで世界を救えだなんてまさか
『すまぬ、ワシも些か早急過ぎたようじゃ。まず誤解を解かなければならないのはお主が転生するのは遠い過去ではない。例え遥かな時間の流れによって大地が大きく姿を変えようと、人々からその名を忘れ去られようと世界そのものが別のものへと変化する訳ではないのじゃ。具体的に言えばお主が新たな生を受ける地の名はアリアハン、大魔王【ゾーマ】が勇者アルスに討伐されてから凡そ一年後の事となる』
成程どうやらドラクエⅢの時代でも世界の名前がロトゼタシアである事に変わりはないらしい。
そして再び世界を闇で覆いつくさんとす災厄というのは【ゾーマ】に続いて新たな脅威が現れるという事なのだろう。
しかし【ゾーマ】は今際の際で再び闇より出でし者が現れると予言を残していたとはいえ、俺はてっきりⅢから見て未来の話であるⅠのラスボスである【りゅうおう】のことだと思っていた。
いくら何でも悪役が復活するスパンが短過ぎる上に、勇者アルスだってまだ現役と言える年齢の筈だ。
『残念じゃがお主の兄である勇者アルスは【ゾーマ】を倒した後にアレフガルドからロトゼタシアへ戻る事は叶わなかった』
そこは残念ながらゲームと変わらないという事か。
それよりも今ゼニス1世が気になるような事を言っていたような……えっ、勇者アルスが兄!?
『そうじゃ。以前ここを訪れた勇者アルスは見事【しんりゅう】の試練を乗り越え、願いを叶えてオルテガを生き返らせた。そして長い年月を経て互いに愛し合う夫婦が再会したとなれば、新たな命を授かるのも道理じゃろう』
うーん、何だか微妙に生々しい。
しかしゲームでは一度【ゾーマ】を倒してからでないと【しんりゅう】がいる隠しダンジョンには挑めなかったが、確かにそれだと時系列に矛盾が生じてしまう。
取り敢えずそこはそういうものだと納得しておく事として、これで一応は俺自身の立ち位置のようなものは理解出来た。
『それではそろそろ本題に入るとするかのう。まずいくら理由があって選ばれたとはいえ、ワシとて元々は只人だったお主に何の助力も無しに大いなる災厄に立ち向かって貰おうとは思っておらん。お主の新たな身体となる血筋に代々受け継がれてきた力の他に、ワシが認知する勇者の力を別途与えよう」
血筋に宿る力というのはイレブンあるいはローシュから受け継がれてきた勇者ロトの力と見て間違いないだろう。
今は魂だけの状態なのでそんな事を言われてもピンと来ないが、勇者アルスの弟となれば潜在能力に関しては同等の力を秘めているのかもしれない。
……正直それを十分に発揮出来るとは全く思えないが。
それに加えてゼニス1世が把握するというロトの血脈とは異なる別の勇者の力。
それが何を意味するかはまだ分からないとはいえ、危険な目に遭う事を避けられない事を考えれば貰えるものは貰っておくに越した事はない筈だ。
『そして何もお主一人で災厄に立ち向かう必要はない。勇者アルスと同じように、絆を育み共に困難を乗り越えて行けるような仲間を見つけるのじゃ。その一助となるようお主と仲間達の成長が促進される加護と共に、仲間となる者達の潜在能力を限界以上に引き出す術を与えよう」
経験値増加なんてゲームではチートの定番だし、それに加えて潜在能力を限界以上に引き出す能力というのも大概おかしい。
それを聞いて第一に思い出すのはやはり漫画ドラゴンボールに登場した老界王神の力で、原作最強と名高いアルティメット悟飯の存在が自然と彷彿される。
勿論全く別の作品なので何の参考にもならないが、強力無比な能力である事は間違いなかった。
『本当なら武具も相応の品を用意したかったのじゃが、ワシに許されているのはあくまでお主の可能性を広げる事だけでな。その代わりとまでは行かぬものの、お主の旅路に役立つアイテムを用意しておいた。ワシに出来るのはここまでじゃ』
……ここまで至れり尽くせりだと逆に怖いくらいだ。
ドラクエの主人公なんて僅かな支度金と最低限の装備だけで旅立つのが定番なのに、大判振る舞いにも程がある。
これが世に聞く転生特典というヤツなのかもしれないが、どうも俺の新たな人生には随分な厄介事が待ち構えているらしい。
それを予め教えてくれているのは有難い一方で、裏を返せば与えられた力の分だけ危険の大きさを表しているのではなかろうか?
『さてお主が旅立つ時間も近付いてきたようじゃ。これから新たな人生を歩む事になる世界の事をお主は物語として知っているかもしれないが、実際はその知識とは似て非なる紛れもない現実じゃ。時が経てばお主自身も実感するであろうが、その事だけはゆめゆめ忘れぬよう可能な限り万全を期して来るべき時に備えて欲しい』
ゼニス1世は俺の心中は察している筈だが、特に俺の疑念に反応を示すことなく話を続けた。
要は何度でもやり返しが利くゲーム感覚でいるなという忠告だろうが、その点に関して言えば俺は割と安泰だと思う。
何故なら俺はゲームをプレイする上でも根っからの慎重派。
新たな町に着けばパーティー全員の装備を整える為の金策も厭わないし、レベル上げ自体が楽しくて気付けば一般的な攻略レベルを遥かに上回っている何て事もざらにある。
別に自慢になる訳でもないが、普通のコマンドRPGなら一度も全滅した事はなかった。
確かに今はまだ転生に対する実感は伴っていないものの、良くも悪くも未来への不安だけは着実に募っているので準備に手を抜くつもりは微塵もない。
『それとこれからお主が歩む道はお主自身の意思で選ぶものじゃが、その中で一つだけ確約された出会いが待っておる。その人物もまたお主と事情は違えど、世界の行く末に関わる大きな運命を背負った者じゃ。その者とどんな関係を築く事になるかはお主達次第とはいえ、出来れば手を携えて未来を切り開いて欲しい』
何やら含みがある言い方だが、出来ればという事は敵にもなり得る存在という事だろう。
その話を聞いてパッと思い付くのはピサロやテリーのようなライバル的な立ち位置のキャラクターで、俺にもそういう風に運命づけられた相手がいるらしい。
しかし敵対する可能性があるのは面倒だと思いつつも、それならそれで分かりやすいフラグがあるだろうと俺は心の中に留め置いておく事にする。
『では最後に何か聞いておきたい事はあるかのう?』
まだ一番肝心な事を教えて貰っていない。
俺が倒さなければならないという災厄の正体と、実際に世界が滅ぼされてしまうまで猶予がどれくらい残されているのか?
そんな俺の疑問に答える為にゼニス1世は重々しく口を開いた。
『お主が世界を救う為に倒さなければならない邪悪、その名は……』
その予想外とはいかなくとも少し意外な名に俺は驚きながらも、こうして俺の新たな人生の幕が上がる。
父オルテガと母ルシアからノクスと名付けられた俺は健やかな少年時代を過ごす事になった。
折角奇跡的な再会を果たした両親の間に生まれた子供が転生者というイレギュラーな存在である事に少し後ろめたさを感じながらも、めでたい事に五年後には妹のアイリーンが誕生。
ちょうど良いタイミングだと俺は過剰とも言える才能を腐らせないよう本格的な鍛錬を開始し、父さんからも代々受け継がれてきたという『ユグノア流剣術』の修行を通じて戦いにおける極意を叩き込まれた。
力だけあっても本当に戦う事が出来るかどうか最初の内は不安があったものの、父さんの厳しい指導の甲斐もあってか一応は俺も一端の戦士に成長できたと思う。
そして迎えた16歳の誕生日。
俺は転生する際に得た情報を神託として家族やアリアハンの王様にも伝え、俺は災厄の正体である【ギスヴァーグ】を探し出すべく幼馴染で生まれつき賢者の資質を持つ少女セレネと共に世界へと旅立つ事になった。
その居城として一番怪しむべきは、やはり【バラモス】の居城があったネクロゴンドだろう。
とりあえずアリアハン大陸を出てロマリアを経由して船を貸し出してくれる手筈となっているポルトガに向かう為、俺達は【いざないの洞窟】の奥にあるロマリアへと続く【旅の扉】へと足を踏み入れた。
しかし跳ばされた先は何度か通った事がある【いざないのほこら】ではなく、気付けば全く見覚えがない街中に俺達は佇んでいたのであった。