死とは、必ず巡り合う天命である。
直接目にしたわけではないが、一人の生が終わるその瞬間を認識したことがある。
もっともそれは遠い世界での結末であり、幸いにして深い知り合いが故人となった経験はない。
しかし、他人の死によってその人生を大きく変化させた生徒を、我々はよく知っているはずだ。
自らの死に直面したその瞬間、その覚悟をしていられた者は果たしてどれほどいただろうか。多くがやり残しを抱え、これまで歩んだ旅路がここで潰えることに無力感を覚えたのではないかと、私は勝手にも想像してしまう。
では、残された者はどうだろう。
もはや意思を交わすことの能わぬ彼女らの残り香を抱えながら、嘆きの果てに身を任せることを正しい在り方だと思いたくはない。
何か託されたものがあるはずだと、その足跡を眺めながらそう願う。仮に何かを拾い上げたとしても、その意思を確かめることなど一生できはしないのだが。
その点において私は、滅びの未来を垣間見たあの時、何かを遺そうだなんて考えを一切持つことなく深い眠りへと逃げ込んだ。
変わらぬ未来を前にして全てを放棄したのだ。言い訳がましいが、何もかも無意味だと信じ切っていた。
結局のところあの滅亡を知らせる予知夢は、私が恐怖の果てにその先を覗き見ることができなかったという、何とも情けない結末であった。よって現在このキヴォトスは幾度の危機を乗り越えて平和――比較的平和を取り戻している。
後始末に追われる日々ではあるが、こうして日常に帰還できた奇跡を想った時。
エデン条約のような動乱が再発し、今度こそ私の命が失われた場合に必要な準備があるのではないか。そんな心配事が私の中で燻り続けている。
後ろ向きの思考に聞こえるかもしれない。それでも彼や彼女たちに教わった、抗い続けることの大切さを忘れたわけではない。何もせず夢の中に引き籠ったあの時とは違う。
過去を背負い、未来を生きる人々の背中を見て私が目線を向けた選択。
どうせ逝く時が来るのであれば、何かを遺してやりたいと――そう思ったんだ。
――――――――――――――――
ぱちり。
瞬きを一つ挟んで辺りを見渡すと、視界に飛び込んできたのは見渡す限りの人だかり。
その誰も彼もが私に背を向け立っている。
普段目を覚ました際の景色とかけ離れた情報に混乱しながら、目を凝らす。
「これは、どういった状況だろうか」
後ろを振り向くとそこには大きな扉。いつのまにか立っていたこの建物には見覚えがある。
トリニティ総合学園本校舎から少し遠方に存在する、大人数が収容できるホールだ。
普段コンサートや演劇が開催されている会場だった覚えはあるのだが、私はいつの間にそんなところまで足を運んだのだろう。
「ちょっと、失礼するよ」
人の波を掻き分けて前へと出る。
左右を見渡せば、トリニティの制服に身を包んだ者たちが揃いも揃って神妙な顔で佇む。
その誰もが何故か、私に対して何の反応も返すことなく目を伏せている。
隙間を見つけては身体を滑り込ませること数分。
急に開けた視界で、ようやく集団の先頭に辿り着いたことを知る。
前方の視界をほとんど埋め尽くしたのは、白や黄色を中心とし、大仰なまでの飾り付けを任された花たち。
「ふぅ、中々の運動量だ。かの日より失われた体力は、回復の傾向にあると言っても良いかな」
息を切らしながら周辺の様子を確認しようとした途端、聞き馴染みのある声が鼓膜をつんざく。
この声は私の友、桐藤ナギサと聖園ミカで間違いがない。とはいえ、彼女たちにしてはあまり聞いたことのない種類の声のようだ。
「うぅっ、ううっ......!」
「ひぐっ、うぐっ!」
横並びに整列した彼女たちは、なんと目を真っ赤に腫らして大泣きしているではないか。
これまでの長き交流においても随分と珍しい光景に思考が一度停止する。ナギサの持つハンカチは既に水分を吸収する機能の大半を喪失しており、ミカは鼻水が垂れるのもお構いなしに蛇口を捻っている。
反対側へ振り返ると、そちらにはハナコとミネが同じように直立していた。
前者は本当に見覚えのない表情をしており、彼女はこんな顔ができたのかとひとりでに驚く。
後者に関して言えば、この最前列で唯一凛々しい表情を保っている――と認識したが、よく見るとしっかり涙が重力に従って流れ落ちている。いわゆる漢泣きと言っても差し支えない様相だろう。
「一体何が?」
異様な光景だ。果たして何が起こったなら、知人の誰も彼もが垂泣する状況に立たされるのか。
手がかりを求め彼女たちの視線を追う。
「あ」
何故今まで視界に入らなかったのか。後方からでも十分に捉えられるほどの大きさだ。
飾り立てられた花の上、大きな額縁に写るその姿を確かに網膜で認識する。
「これは夢だな?」
大規模なホールに神妙な面持ちの生徒。
そして大きく飾られた『百合園セイア』の遺影。
誰がどう思考を巡らせてもこの状況、一つの結論に至るだろう。
これは、私の葬式か。
*
『フィリウス分派代表、桐藤ナギサ様より、お別れの挨拶でございます』
司会として壇上に立つサクラコに促され、ナギサが中心に足を運んで向き直る。
震える声を抑えて、彼女はマイクを持ち話し始めた。
「皆様。本日はセイアさんのために足を運んでいただき、心より感謝申し上げます」
いや待て、持っているのはマイクではなく紅茶だ。ソーサーとカップで両手が塞がっているため、お付きの生徒がマイクを彼女の口元へ向けている。
それでいいのだろうか。確かに彼女は紅茶を精神安定剤のように常飲しているけれども、こんな時くらい手放していただきたい。
「我々ティーパーティーは、パテル派、フィリウス派、サンクトゥス派それぞれの代表として、確たる肩書を背負って接することの多い立場でした。しかしそのような立場の中でも、セイアさんと積み重ねた友人としての思い出は鮮明に浮かんできます」
なんとも奇妙な体験だ。
これまで私は予知夢という能力を以て様々な情景をこの目にしてきたけれど、それでも友人が弔辞を読み上げる様を当事者として見る、なんて状況ほどの不可思議さを持ち合わせた場面は他に思い当たらない。
「彼女は私たちに多くのものを与えてくれました。我々ティーパーティーの中で最も賢く聡明で、時には意見のぶつかり合うこともありましたが、常にトリニティの平穏を......ううっ!」
話す途中で堪えきれなくなったのか、崩れ落ちかけたナギサをお付きの生徒が支える。
これだけの生徒がいるということは、関係者のみで行われた後の二部目ではないだろうか。一部目はともかく、そこまで泣くことはないだろう。
ナギサは我々の中で最も対外業務に携わっていた生徒会長なのだから、一般生徒相手くらいはもう少し取り繕っていただきたいものだ。
加えて言えば、ナギサの声は震えてもカップの紅茶には波一つ立っていなかった。彼女の水平を保つ能力は目を見張るものがある。
『続きまして、パテル分派代表の――えっと、大丈夫でしょうか?』
「うぐぅ......! ひぐっ、ふぁい!」
ナギサの弔辞が終わり、ミカの番がやってくる。
どう考えてもまともに言語を発せられる状態には思えないが、彼女もまたフラフラとした足取りで中央へと歩いていく。
「せ、セイアちゃんはいつもすっごく難しいこと言うし、デリカシーとかないし、話しててイライラすることとか多かったけどぉ......!」
マイクを両手で握りしめ、大粒の涙を溢れさせながら声を絞り出す彼女。
マイクから異音が聞こえてくるのは、おそらく彼女の握力からくるものだろう。
幾つか言いたいことはあるが、とりあえず葬式で故人を批判しないでくれ。
「それでも大切な友達でっ! また一緒に......うううっ!」
一体どこにそんな水分があるんだといったレベルで顔面を保湿していく彼女。
事情を知る内々の葬式ならともかく、『百合園セイアのヘイローを壊そうとした犯人』としてトリニティ生に周知されているはずのミカが出席しているのも不可解だ。
「うわあああん! セイアちゃーん!」
とうとう赤子のように泣き出したミカを正義実現委員会の委員長が連れていく。
何かの拍子に彼女が暴れ出すようなことがあれば、止められるのは彼女を以て他に存在しないだろう。
未だ扉の向こうで響く喚き声のみが残り、会場には微妙な空気が流れる。この有様、本当に私の葬式なのか。
なんだか眩暈がしてきた。回復傾向にあったおかげでここ数週間は感じることのなかった、懐かしさすら覚える体調不良に大きく息を吐く。
それだけではないようだ。
うっすらとした浮遊感に、今まで視界に映っていたものの輪郭が溶けていく。
これは良く知っているもので、私が何度も予知夢で経験した夢から覚める前兆。
霞む頭でぼんやりと思考を巡らせる。
私は特段死後の名誉など必要としていないし、豪華な葬式を挙げるべきなどという思想も抱いたことはない。予知夢は私の人生に多くの諦めをもたらした。死に対しても、何かしら恐れを抱いたり抵抗したりしようとする気はそこまで持ち合わせていない。
しかし、それでも。
「あのように、ショートコントみたいな葬式をされるのは困るな──
チュン。
「はっ!」
再び視界が開ける。見慣れた天井と柔らかな感触を確認して、安堵のため息をつく。
気づくと額の上に、シマエナガが一匹留まっていた。視線だけを滑らせて壁掛けの時計を見やると、約束の時間までそう遠くない時間のようだ。
「起こしてくれたようだね、ありがとう」
そっと指の腹でふわふわの球体を持ち上げてから、寝起きで少し怠さの残る身体を起こす。一時間後にはトリニティを発つ必要があるため、早めに準備を済ませたいところだ。
「......やれやれ」
その前にシャワーを浴びるとしよう。寝汗まみれのまま、友人と会うわけにはいかないからね。
*
シャワーを浴び終えて身支度をし、D.U.行きの電車に乗り込む。
車輪とレールの繋ぎ目が鳴らす定期的な音を聴きながら、今朝見た奇妙な夢を思い浮かべる。
「予知夢、ではないはずだ」
そもそも私の予知夢は失われて久しい。
バシリカでゲマトリアに囚われ、百花繚乱の賢者に救われたあの日。私に残されたのはやけに鋭くなった勘だけ。
「あの未来視が私にもたらしたものは、この捻じ曲がった性格だけなのではないか?」
未来を識ると言っても、結局終着点に変動はない。
選択肢のない未来視など視ていないのと何ら変わりがないのだ。
以前顔を合わせる機会のあった、ミレニアム生徒会長との交流で再認識したことがある。
諦観と合理は表裏一体。
人間一人にできることはそう多いものではなく、正しさを突き詰めるため必要ないものを削ぎ落としていく行為は、必ずどこかで諦めに繋がる。
調月リオはその超人的な能力と生徒会長という立場によって、他者との関わりに多分な諦観を抱いているように見えた。私の場合は予知夢がそれに該当する。
彼女は自らの死が合理的な選択肢に現れたとしたら、手を伸ばすことに躊躇いを持つだろうか。あるいは彼女は自分が死んだ後のことさえ、詳細な計画を立てている可能性もある。
対して私はどうだろう。
携帯端末で銀行のマイページを開くと、そこには相当な額の貯蓄が放置されているのみ。お金の使い道など、お茶菓子を買うか本を買うかくらいのものだ。
「最近は貰い物のお菓子を消費するので手一杯だし、そもそも図書館にだって読んでいない本はごまんとあるからね」
要するに持ち腐れであり、このまま行くと私の遺産はこの莫大な金銭のみである。
それはあまりにも寂しく素っ気ない話だ。
『急停車します』
突如横向きにGがかかり、シートに倒れ込む。
『......近隣の銀行で爆破テロが発生した模様です。当列車の運行には特に関係ありませんでしたので発車いたします』
加えて言えば、我らがキヴォトスの銀行はあまりに儚い。貯め込むのはハイリスクだ。
*
『次はD.U.第二十九地区センター前。お出口は右側です』
「着いたか」
いつの間に人数の目減りした電車から降りて地図を確認する。
その矢印が指し示すのは、二股に分かれた幾つもの道。
突き当たっては左右のどちらかを選ぶ。どちらに行くべきかを知る由もないが、しかし迷うことなく歩みを進めていく。
そうして十数分後。突き当りに現れた地下室の扉を叩いた。
「私だ。定刻通り」
「入ってちょうだい」
カチリとロックの外れる音。
それと共に姿を見せたのは、調月リオその人だった。
「流石ね。誘導用ドローンを送るか検討していたのだけれど、本当に勘だけであの路地を抜けてくるとは思っていなかったわ」
「二択にして貰えれば、そう間違えはしないとも」
とある事情で身を隠すリオ。
此度のセーフハウスは、ミレニアム外の寂れた地区に居を構えている。
未だ学園に戻っていないことに少し肩を落とすが、彼女には彼女のやり方があるのだ。
招かれた部屋では所狭しと機械が敷き詰められ、駆動による重低音を奏でている。
私は背負ったリュックから紙束を取り出し、彼女に手渡した。
「依頼のものだ。確認してくれ」
「感謝するわ」
手渡したのは、図書委員長に頼み複製してもらった古書。この場所へ足を運んだ目的の一つだ。
「この量を複製したのね。先日伝えた通りバラしてデジタルデータにして貰えたら、貴方の手を煩わせる必要はなかったのに」
「そんなことをすれば、我がトリニティの図書委員長はたとえ私であっても古書館を出禁にするだろう。それにわざわざ此処まで出向いたのは、友人である君に会うためでもある」
パラパラと用紙を捲る彼女の背中を見つめながらそう呟くと、彼女は一瞬手を止めた。
「......そう。しばらくかかるから、コーヒーでも飲んで待っていてちょうだい」
相変わらず表情の変化に乏しいまま再び手元へと目を戻す。
手持ち無沙汰となった私は、自動で抽出を完了したコーヒー片手に機械まみれのセーフハウスを見回した。
薄暗い部屋を照らすモニターには幾つかの不明なメーターやグラフ、そして『デカグラマトン出現予測データ』の文字が表示されている。
神出鬼没にキヴォトスを荒らす機械の異常存在......いつかの動乱においても、それを模した怪物が出現している。どうやら今の彼女はこれの対策に取り掛かっているようだ。
「私もその資料を読ませてもらったが、この『デカグラマトン』に関係のあるものだね」
「ええ、トリニティ総合学園の古書館には『色彩の光』に関する本もあったのだから、電子データより古い時代の情報が拾えると考えたのよ」
あれだけの試練を乗り越えながらも、未だこのキヴォトスには災いをもたらす火種が息を潜めている。
こんな時未来視ができればという思考が浮かんでは、コーヒーの湯気と共に霧散していく。
何も変わりはしないことは理解しているけれど、それでも見たくなってしまうのは力を失ってからの悪癖である。
久々の苦味を味わっていると、重低音と共に聞こえていた紙の音が止んだ。
「助かったわ、セイア」
読み終えたようで、書類を袋にしまいながら彼女は立ち上がる。
「幾つか重要な記述が見つかったし、おそらく出現予測や対策に組み込めるものよ。お礼をさせて欲しいのだけれど、何かあるかしら」
「トリニティ総合学園の長として、キヴォトスの安寧に協力は惜しまないとも。礼など不要さ」
残念ながら我が校は未だ不安定な情勢の最中である。
兵力を動かすことによってゲヘナとの関係がこじれるのは避けるべきで、こんなことでしか手伝いができないという事実を歯痒く感じる。
「何もないのであれば、代金を支払うわ」
「......いや、一つお願いというか相談事がある。それを聞いてはくれないだろうか」
彼女のことだ。何か要求しなければ引き下がってくれそうもないし、せっかくならば今日電車の中で考えていたことを聞いてみたくなった。
「何かしら」
「これくらいの金額で作れる、何か学園のためになりそうな機械を教えて欲しい」
打ち込んだ計算機を提示する。
私は悩んだ末、貯蓄の半分相当を『モノ』に変えることに決めた。
あの日......存在し得ないと思い込んでいた未来に到達して以来ずっと考えてきた。私が不慮の事故で死に至った際、生者の世界に遺すべきもの。
どう考えても金銭ではないだろう。ナギサにとっては不要のものだし、ミカは......まあ現状欲しているかもしれないが、死を以て気にかけてやる案件ではない。
遺言は、次代のサンクトゥス分派リーダーに遺すものはあれど、あの二人に示せるような道を持ち合わせてはいないのである。
リオはしばらく悩んだのち、タブレットを取り出した。
「これだけあればアヴァンギャルド君が一体作れるわ。学園防衛の要とするのはどうかしら」
「それは......止めておこうかな」
虚妄のサンクトゥム攻略戦においてその性能は確認済みだが、アレを遺産として受け取った彼女たちの反応が予測できない。
彼女は僅かに残念そうな表情をしながら、他の案も提示してくれた。
固定砲台型アヴァンギャルド君、護衛用ポータブルアヴァンギャルド君、変形合体式DXアヴァンギャルド君......
案も尽き二人して頭を悩ませる。そもそも遺産として戦闘兵器を送るのは、解釈の方向性として危険性が高すぎる。
意味の歪曲により地獄を見た少女たちの記憶はあまりにも新しい。
そうこうしているうちに、つい秘めていた疑問が口から零れ出てしまう。
「君は、自分がもし居なくなった時、何かを遺す準備をしているかい」
それを聞いた彼女は、相変わらず表情の読めないまま少し目を細めた。
「......質問の意図が分からないのだけれど」
「実はその、トリニティに遺せるものを探しているんだ。私が居なくなった後の話さ」
勝手な想像かもしれないが、合理を追求する彼女は十中八九何かを準備をしている。
あまりに考えたくもないけれど、もしも『リオの遺産』が成ったとしたら......それは一体どういった形で、ミレニアムに何をもたらすのだろう。
兵器か、資金か、超性能のコンピューターか、かの都市のように想像を絶するものか。
要するに私は、底に溜まるこの焦燥感を溶かす一助が欲しいのだ。とはいえ、そう長い付き合いでない彼女に投げかける問いとして相応しいものではなかった。
「すまない、変なことを聞いてしまった。忘れてくれ」
すっかり冷めたコーヒーを流し込む。強い苦みは、しかし心の淀みを上書きしてはくれない。
「......以前の事件で騒動になった『ビッグシスターアルゴリズム』を覚えているかしら」
彼女はしばらくの間逡巡した後、そう呟いた。
「確か、ミレニアム全ての情報を追跡できるシステムだったね」
強力過ぎたが故にミレニアム全体を巻き込んだ騒動の原因となり、その後製作者のリオ本人によって闇に葬られた代物だ。
「その通りよ。あれは当時私が、学園の全てを掌握するために作り上げたもの。でも製造時に予定されていた使用目的はそれだけじゃなかったの」
「他の用途があると?」
あのシステムを遺産として考えていたとすれば、他の誰も真似のできる芸当ではない。当然と言えば当然だが、分野の違う者同士で参考にするというのはいささか無理があったか。
「最終的にあれは、私の構成要素になる予定だった。当然廃棄された今は違うけれど」
「それは、どういうことだい?」
発言の意図を読み取れない。
少なくともあのシステムを次の生徒会長に譲渡するといった意味ではなさそうだが、構成要素とは一体――
いや、まさか。
「ミレニアム全てのデータを使って、ビッグシスターを再現する。それこそが『ビッグシスターアルゴリズム』の最終到達地点だったの」
「私が遺すのは、私自身よ」
次回中編『襲来、ユリゾノロボG-SF』
突如トリニティに現れたG-SF。その冷たい瞳に映る真意とは。