はい、できれば一日が48時間に延びてほしい作者です。
評価及び感想をくれた方々や誤字報告をしてくれた方、並びに拙作をご覧いただいている皆さん。
ありがとうございます。
これからも可能な限り、頭が痛くなりながらも書いていきますので、よろしくお願いします。
ちなみに、フォスお義祖父ちゃんのことなんですが、彼は感想の返信に書いたようにベルくんに医学知識を植え付けるために生まれた存在です。
ただ、何の関係もない奴に義母たちが関わらせるわけがないので、ゼウスとヘラの関係者、という設定が一応あります。
通称、都合のいい彼くんです。
彼の身長が低いのは・・・私の趣味ですが、なにか?
柔らかな橙色の魔石灯が、店内を温かく照らす。
木の香りと、静謐な空間。
自然の香りがする中、2人はお茶を嗜んでいた。
テーブルにはスコーンとアップルパイ、紅茶缶と茶器にポット。
まさにお茶会をしているかのような様相のそれらは、しかし正確ではない。
──なぜなら。
「フフフフフフフフフ・・・」ニコニコ
「────」ダラダラ
「ハハハハハハハハハ・・・」
「・・・うぅ・・・」
こんなにも、居心地が悪いのだから。
こんなにも美味しいと思わないお茶会など存在しない、いやするな。
そもそも、義祖父は甘いものが好きだが、少年の方は苦手だ。
それなのに嗅ごうと思わなくても甘い香りが漂っているのだから、なおさらここには居づらい。
原因を作り出した少年は、もはや先日のステイタス更新の際の主神のように胃がキリキリとしていた。
ミノタウロスを倒し、ランクアップが可能となり。
その際のステイタスの写しを受け取り、最初にヴェルフの元へ行き、新しいナイフの注文。
たった数日でナイフが鉄くずになったことに「ふざけろ!」と彼が叫び。
それをなだめてさあ義祖父へ報告だ、と意気揚々と『臨時休業』の札が立てられた家に帰り。
褒めてくれるかな?それとも無茶をしすぎだ、って諌められるのかな?
そう期待と不安が入り交じった、けれど嬉しさに包まれていた少年は失念していた。
そもそも、少年はミノタウロスとの戦いのあとに丸一日寝ていたこと。
その後にミアハに慰められてさらに一日寝て。
お昼に目覚めて、すぐに帰るのではなく、最初にヴェルフの元へ行ったために時刻は既に夕方。
──計二日半。
それが、少年を心配してお店に来るエルフたちに聞き回り、休憩時間や閉店時間に少年を目撃した者はいないか、の聞き取りを行なっていた、義祖父に何の連絡もよこさなかった少年の不義理の期間である。
──笑っている。
にっこりとした微笑みなどではない。
目は見開かれ、深緑の瞳の全体像が注視しなくても見える。
唇はまるで三日月のように口端が上がり、とても・・・とてもとても、怖い。
しかも身長差の影響で、下から見上げてくるのだから恐ろしさが増す。
ともすれば幽霊のように見える形相も、元が整っているがために余計に怖さが増している。
──美人や温厚な人ほど怒ると怖い。
それを今、改めて──以前も身長について言及して地獄を見た──身を持って理解した少年は何もできない。
テーブルの上にある紅茶に口をつけることすらできず、ただその中心にある羊皮紙──ステイタスの写しをみることしかできない。
──昨日までの、ただ怒鳴られているだけの説教など生ぬるかったのだ。
──現実は感情が振り切って、笑顔、それも狂気的なものを見せつけられるほうが怖いのだ。
「・・・お、お義祖父ちゃん・・・」
「フフフ・・・」
「・・・・・・ごめん、なさい」
「フ──」
少年が謝罪した瞬間、スン、と。
先ほどまでは曲がりなりにも笑みを浮かべていたのに、今は見開かれた目はそのままに、口が無になる。
笑顔の時よりは圧が減ったことに、しかし安堵はできない。
こういう時は部分的に合ってるが、半分,はたまた三分の一か二しか合ってない場合が大半だ。
「えっと・・・何も言わないで帰れなくて、ごめんなさい」
見開かれていた目が半目になり、ジトーっとした,あるいは睨みつけるかのような目つきになったことでつい怯んでしまう。
それでも目だけは、先ほどとは違って合わせ続ける。
するとハァ、と。
重い重いため息をついた義祖父は椅子を引くと、ちょいちょい、とこちらへ来るように命じる。
ついに怒られるのか、とビクビクしながら少年が立ち上がり、近づく、と。
手を差し出された。
お義母さんみたいに叩くのかと思った少年は思わずキュッと目を瞑る。
しかしそんな少年の様子に気がついたのか、義祖父はまたため息。
「手」
慌てて意図を汲み取った少年が手を握る。
少年は何が起きるのか、とビクビクと体を震わせ続ける。
そんな少年の様子に、3度目のため息。
そして───気づけば、少年は椅子に座る義祖父に抱きしめられていた。
「────えっ」
全く知覚できなかった。
痛みもなかった。
何が起こったのかわからない。
疑問符を浮かべる少年の頭を、グリグリ、と義祖父は強く抱きしめる。
「生きているな」
一瞬言葉につまる。
ミノタウロスと戦う瞬間、死ぬ覚悟を決めたことがなんとなく後ろめたかったから。
「・・・・・・う、うん」
自分でも情けないほどに吃りながら、返事をする。
存在を確かめるかのように、壊れ物を扱うかのように。ゆっくり、やさしく、梳くように頭を撫でられる。
今日は杖の製作をしていたのだろうか。
ローブのような服に木の香りが染み付いていた。
──落ち着く。
心臓の鼓動が聞こえる。
何か言わないといけない。
でも、何を言えばいいかわからない。
だから──
「ただい、ま」
「───あぁ、おかえり」
優しく撫で続ける義祖父に、少年はされるがままだった。
────
「ねえ、お義祖父ちゃん?」
「うん?」
その後。
遅いお茶会はそのすべてが義祖父のお腹に収まり。*1
現在のテーブルの上にはお肉たっぷりのビーフシチューと,手作り酵母を使用した白パン、そして白ワイン。
およそ少年好みの味付けのメニューに舌鼓を打ちつつ。
気になっていることを尋ねることにした。
「僕、ミノタウロスに挑んだんだけど・・・そこには怒ってないの?」
その質問にパチパチと目を瞬き。
そういうことか、とすぐに彼は微笑みを浮かべる。
「そんなことを言ったら、お前の義母とおじ達のほうがよっぽど命知らずだったからな?死んでいないのなら、それだけでいい」
「・・・そっか・・・・・・」
気になっていたことを聞けて、少年は満足し。
残っている料理に手を伸ばそうとした時。
それに、と青年はエルフ特有の切れ長の目をより一層鋭くし。
「もしもお前が死んでいたら、このオラリオを滅ぼすだけだ」
ヒュッ、と息を飲む。
──少年は知っている。基本的に義祖父は嘘をつかない。
──つまりは本気なのだ。できるかどうかではなく、やらなくてはならないのだ、と。
「・・・そこまで、やらなくても、いいんじゃ、ない、かな?」
「いや、やる。お前の義母とおじとの約束*2だからな」
──どうして!?どうしてそんな約束したの!!??
思わず悲鳴を上げそうになった声をのみ込む。
義母との生活を通して、『家族』の前では大声を上げないように調教された悲しき兎の姿が、そこにはあった。
「まあ、お前には『保険』を渡してあるからな。そうそう死ぬことはない」
「『保険』・・・・・・?」
「・・・・・・こちらの話だ。気にするな」
話はこれで終わりだ、とでも言うようにカップを口に運ぶ。
気になるし聞きたいとも思ったが、この様子では言いそうにない。
少年は仕方なく食事を再開する。
「・・・お義祖父ちゃん」
「なんだ?」
食事中は静かに食べることを好む故か、義祖父は少し機嫌が悪そうだ。
手早く済ませるために、一言だけ。
「ありがとう」
言葉を受け取った義祖父は、少し恥ずかしそうに目をそらし、その頬と耳を赤く染める。
「やめろ、恥ずかしい。そういうのはおじに言え。私の味付けはあいつ仕込みだからな」
褒められ慣れてない義祖父は、気恥ずかしさを誤魔化すように紅茶をあおる。
基本的におじと義母の所属していたファミリアの書記というか、尻拭い担当だった彼は感謝されることと褒められることに慣れていない、とは祖父の言葉。
それを見て、ようやく満足した少年は全ての食事を平らげた。
────
ご飯を食べ終え、ゆったりとお茶を飲む2人。
ちゃんと寝れるようにと選ばれたノンカフェインの紅茶が、落ち着きと安らぎのひとときをもたらす。
そうしてポット内の紅茶が半分になったあたりで、義祖父が木箱をテーブルに乗せる。
ベルの前腕ほどの細長いそれは、漆が塗られているのか艶があり、高級感があった。
「これは・・・」
「お前の杖だ」
え、と驚きの声を上げる少年に義祖父は微笑む。
「元々お前がLv2になったら渡そうと前々から作っていたものでな。今のお前が使っているものは、さすがに耐久性以外は第三等級にすら届かないからな」
少年は、すぐさま自身の腰に差しっぱなしの短杖を取り出す。
そもそもが幼少期の彼が杖を欲しがった際に作られたそれは、魔法石がなく、しかし力ある大聖樹から作られた影響か神聖さを感じられた。
「それは大事にとっておきなさい」
「・・・・・・うん」
今まで一緒に育ってきたに等しい相棒に別れを告げ、木箱を手に取り、開ける。
真っ先に目に入ったのは、魔法石。
宝石のように光を反射する色は、紅。
少年の瞳のような色をしたそれは、神々しさの中にどこか恐ろしいものを閉じ込めたかのようなおどろおどろしさがあった。
そしてそれを携えた、指揮棒のような形状の持ち手。
恐る恐る手に取れば、少年の手にピッタリと収まり、まるで最初から少年のものであったかのような錯覚に陥る。
杖の先端から持ちてまでの色は白で、全体的に少年の色をそのまま落とし込んだかのような印象を受ける。
杖の先端ではなく、持ち手に魔法石があるのはよく少年が短杖でも受け流しを行うからだろうか。
「その杖の名は、『クリンゲル・デア・ルーエ』」
「『クリンゲル・デア・ルーエ』・・・?」
「『安らぎの鈴』、という意味だ。私はネーミングセンスがないらしいからな、そのまま名付けた」
おどけたように言われ、少年は思わず苦笑する。
ネーミングセンスがないのは本当で、何でも殆どのお客さんは絶対に青年に名付けをさせないくらいには酷い、らしい。*3
らしいというのは、少年に渡されるものは殆どがマシなものばかりだからだ。
改めて短杖をみる。
飾り気のない機能美が前面に出たデザインは、少年には合っている気がした。
デザインが凝っているものは使うのを躊躇う、という少年の内心を見抜いているのかもしれない。
「ありがとう、お義祖父ちゃん」
「・・・ああ」
ジッ、と見続けながらの感想に、義祖父は微笑みを浮かべた。
新しい短杖に喜ぶ少年の姿は、初めて恩恵を刻まれたばかりの子どものようにはしゃいでいるように見えた。
『クリンゲル・デア・ルーエ』
・短杖
・第一等級武装
・直訳すると『安らぎの鈴』。ドイツ語
・とても純度の高い魔法石が使用されており、これ一つでリヴェリアの杖に使用されている魔法石二個分の性能と値段がする
・魔法石が持ち手側についており、杖本体の強度もとても高い。これは、ベルが杖で受け流しをすることもあるために、頑張って強度が上げられた
・実はとある灰髪の魔女の超長文詠唱で試し撃ちされており、全く傷つかなかった
・購入しようとしたら1億5千万ヴァリスする。もちろん少年は知らないしタダ