まあ、ヒーラーとして、患者が隠してる怪我等の弱点を見つける『目』自体は元々備わっているんですが。
だから、実は煽りスキルといいますか・・・言われたら嫌なことはすぐに見抜けて、言えます。
レフィーヤのビビリ癖というか、及び腰をすぐに見抜いたり。
「それにしても・・・」
僕は、改めて周囲を見渡す。
人々の顔から不安の色は抜けていないが、その不安自体に慣れたのだろうか。
顔が青白く震えている人もいたのに、今では殆どの人が平静さを取り戻しつつあった。
──いい傾向だとは言えない。
慣れとは恐ろしいもので、そういった時こそ『事件』や『事故』が起こる。
警戒を改める僕は、周囲を注意深く見る───
「あれ?」
──ウィリディスさんと、確か【剣姫】さんが消えてる?
もう一度探したが、やっぱり見つからない。
(・・・・・・・・・何処行ったんだろう?)
僕の疑問は解消されず。
ただ『身体検査』と称して、フィン・ディムナさんに群がる女性たちの姿だけが、見えた。
────
街を一望できる街壁の上。
そこで一つの存在が、街を──そして、どんどんそこから離れていく『三人』を見る。
特に、金髪の剣士を。
──強いな。面倒なことだ。
フードの奥に見える、緑色の瞳で、一人ひとりの分析を進める中。
唐突に、ソレの背後に何かが現れた。
まさに彼女の背後から、影のごとく現れた、と言えるそれは、全身がローブに覆われた存在だった。
「ねえ、レヴィス?」
「・・・・・・なんだ、お前か。後にしろ」
「アハハハハッ!あしらわれちゃったわ!」
誰が見ても不快だ、とわかるほどに瞳を歪めさせる女性。
掛けられた声は、高い声音の──それも複数の女性の声が重ねられたかのような、極めて不快な不協和音を発していた。
その声そのものが嫌いだ、とでも言うように、彼女は舌打ちする。
そのまま彼女はかけられた声を今度は無視することを決め、ここを去る彼女達を追いかけ───
「面倒だから、もうアイツラ・・・・を呼んじゃいましょうよ」
ピタリ、と女性の足が止まり、振り返る。
そこには、先ほど以上に不快感が丸出しの顔をした彼女がいた。
「やめろ、あいつらを抑えるのも面倒だ。そもそも今回の『作業』も、これからの『仕事』も、本来であれば私一人で十分だ」
「あら、振られちゃったのね?アハハ!」
振られた、と言う割には嬉しそうに、それも他人事のように言うソレは、その場で踊るかのようにくるくると回る。
厚手のローブに覆われたその体の全容を知ることはできないが、それでも小柄な女性──なのだと思われる。
「いいわ!そこまで言うのなら、私は帰るわね!」
言うが早いか、少女(?)の姿が掻き消えた。
あとに残ったのは、女性が一人だった。
「・・・・・・・・・・・・ちっ」
舌打ちをひとつすると、女性はその手を懐へ伸ばす。
それは、草笛だった。
彼女は軽く息を吸うと、それに吹きかけ、鳴らす。
鳴らされた高い音は、彼女が立つ街壁から、冒険者達の集まる広場の方向へと流れ。
そのまま、その近くにに生える水晶──否。その奥底に潜むソレらへと、吸い込まれていった。
────
所変わって、狭い路地の中。
岩が錯綜する路地の中、そこにレフィーヤ、アイズ、そして彼女たちに追いかけ回された彼女──ルルネ・ルーイがいた。
なんでも、彼女は報酬に目が眩んで依頼を受け、とある荷物を運ぶ仕事を請け負っていた。
そしてその荷物は、実は件のハシャーナが最初に運び、その後に彼女が運ぶ手筈だったもの。
怪しさ満点の彼女の挙動──それも、ハシャーナを殺した人物に殺されると思って、焦って路地へ逃げた──に、少女達が呆れる中。
ひとまず、『荷物』はフィンへ渡し、指示を仰ぐことになった。
「それじゃあ、行きましょう───」
少女の号令で、彼らの元へ戻る。
──それが、果たされることはなかった。
『────────ッ!!』
──響きわたる破鐘の咆哮が、彼女達の進行方向へ立ち塞がったからだ。
驚き戸惑う彼女達の視界に入り込む、食人花のモンスター。
それらは彼女達が向かおうとした進行方向を塞ぐ。
───否。
逆方向からもだ。
彼女達が来た方向からも、モンスター。さらには、路地を囲む壁にも、まるで古家に絡む蔦のように、食人花が絡まっている。
───囲まれている。
追い打ちをかけるかのように、彼女達の視界に煙の姿が。
仰ぎ見れば、それは街の方向から立ち昇っており。それらは、天井の水晶を曇らせている。
「あれは・・・・!?いえ、それよりも、いつの間に!!??」
悲鳴を上げるレフィーヤを他所に、すぐに剣を抜いたアイズの姿が、ブレる。
怪物祭の時の代剣とは異なり、自身の愛剣を手にする彼女は、モンスター達を相手に無双──
「させるか」
「ッ!?」
できなかった。
アイズの視界に、目深に被ったフードによって顔が隠れた襲撃者が、自身の腕を振り下ろす姿が入る。
慌ててモンスターからその存在の迎撃に意識を切り替えた彼女は、その腕を剣で受け止め────自身の剣越しに伝わる『膂力』に、驚く。
カァンッ!!!!
という、とても剣と腕がぶつかる音とは思えない打ち合いの音が響き渡る。
(──────強いッ!?)
一瞬の鍔迫り合いでそれを理解したアイズは、一旦後退し、警戒の度合いを高める。
対する敵も、彼女への認識を強める。
(やはり、強いな。さっさとつぶすに限る。)
負ける、とは考えない彼女たちは、互いを僅かな身動きで牽制し合う。
レフィーヤたちは、レベルが違いすぎる戦闘が目に入らず。
それでも、甲高い音で打ち合いをしたことは理解し。
──アイズを強襲した相手が傷一つないことに、絶望の色を濃くする。
(────Lv5のアイズさんが、反撃をしてない───!?)
それは絶望。あるいは、受け入れられない現実、とでもいうのだろうか。
いつもであれば、攻撃を流した後に反撃をするアイズ。しかし、それをしていないということは──しなかった、あるいはできなかった、か。
Lv3のレフィーヤとルルネ──ルルネはギルドにレベルを偽っているが──にとって、その事実は何よりも恐ろしい。
───敵は恐らくはハシャーナを殺した犯人。
そこまではいい。よくはない、が、それがよりにもよって、こんな路地で襲いかかってきた。
さらには、食人花のモンスター達が、ゆっくりと、しかし確実に迫ってきている。
まるで軍隊のように統率の取れた進軍速度は、まるで調教師に付き従っているかのようだ。
───敵は、私たちを殺すつもりだ。
───そして、それを可能なだけの実力がある。
少女達はそれを理解し。
───早くも追い込まれつつあった。
────
先ほどまでは冒険者しかいなかった筈の、街の壁や入口等の各所にて、咆哮を上げるモンスターが跋扈する。
それらは何かに付き従うかのように街を目指して来ている。
番兵らしき者たちの悲鳴までもが響き渡る中──ついに、天幕や小屋を破壊する音が響き渡る。
『────────アァッ!!』
先陣を切るかのように、一匹の食人花が街へ侵入した。さらには、それに続くかのように、次々とモンスターが殺到する。
宛ら押し寄せる波のように街を蹂躙し、包囲網を作成するモンスター。
「ティオナ、ティオネ、彼らを守れ!」
その声と同時に、人混みの中から弾丸がごとき勢いで、アマゾネスの姉妹が疾走。
自身の獲物を手に、あるときはモンスターの触手や頭部を二本の湾短刀が切り裂き、またあるときは大双刃が、その質量を活かして、迫る触手ごと頭部を叩き切る。
それでも、モンスターの大群の数は減らない。
───彼女達以外の冒険者の殆どが、我先にと逃げ出したからだ。
冷静であれば、既に囲まれた街中では、逃げ場などないことはわかるだろう。
それでも、彼らを責めるのは酷だろう。
───この場で戦うのは、『勇気』よりも『蛮勇』の色が濃いからだ。
事実、もしも冒険者たちがモンスター達に立ち向かおうとも、殆どの冒険者よりも、食人花のほうが──強い。
「フィリア祭の時と言い、こいつ等何処から現れるのよ!」
「みんなっ、逃げちゃ駄目だってっ!?」
ティオナの叫びも虚しく、街の中心へどんどん逃げる冒険者達。
───それが、北門付近の出来事。
他方、南門付近。
そこでは、青髪と同じ瞳を持つ女性冒険者──アーディ・ヴァルマが奮闘していた。
「ふっ!」
いつもは剣に魔力を流し込むことで、下げられている切れ味──人を傷つけないようにするため──を、今回は全開にする。
第一級冒険者のステイタスと、それを十全に扱う技術によって、次々とモンスターが斬り伏せられる。
それでも、状況は良くならない。
否。確実に北門よりも、状況は悪い。
───こちら側は、戦える者が彼女しかいない。
もちろん、戦っている冒険者が、他にいないわけではない。
それでも、闘えているとまで言える領域とはとても言えず、抑え込むだけで手一杯だった。
「このっ!」
それでも、彼女は退かない。
他に戦えるものが居ないのなら、一人でそれを補うために。
最初は怪物祭で戦ったとはいえ、未だ慣れきってはいなかったモンスターの相手が。戦いをこなすことで、段々とこなれていき、最適化されていく。
───それでも、相手はモンスターだ。
やられ行く仲間を見た食人花は、段々と狙いをアーディに集め始めた。
それに気づいても止まれない彼女は、どんどんと追い詰められる。
如何にLv5であろうと連戦、それも長時間も続けば、集中も切れるし、何より体力にも限界がある。
何よりも、彼女は優しすぎた。
逃げようとする冒険者を止めようともせず、むしろ、逃げ遅れた冒険者達を助け、自身の体力を削いでいってしまう。
段々と疲れが見え始めた時。───その時は、来た。
「───あっ」
それは、なんてことのないことだった。
ただ、先ほどまでと同じく、冒険者を助けただけ。
しかし、食人花は、アーディの『癖』あるいは『特性』でも見抜いたのだろうか。
───倒れた冒険者の近くに待機させていた触手が、地面を揺らす。
グラグラと揺れる地面に足を取られ、一瞬だけ身動きが取れなくなった彼女。
その隙があれば十分だった。
食人花達は、自分達の触手で包囲でもするかのように。彼女を、触手で全方向から襲った。
前後左右、斜め、さらには上下。
まさに彼女をなぶり殺しにするための包囲網は、その檻の中にある命を散らす───
「─────【ファイアボルト】」
───それよりも早く紡がれる、炎雷の名。そして、それに歓喜するかのように纏われる炎雷。
そして──吹き荒れる炎雷。
突然現れたその存在に、アーディが驚く中。都合8回分の炎雷を纏ったその少年を認識した途端、食人花の動きが止まり。
直ぐ様、その狙いを彼に変えた。
「だめ、逃げて!」
食人花の魔力に集まる性質を知っていたのか、叫ぶ彼女。
しかし、それも詮無きこと。
既に怪物の狙いは彼に代わり。例え魔法を解除したとしても、モンスターから狙いを逸らせず、ただただその命を無駄にするだけ。
逃げることも不可能。もうすでに包囲されている。
───通常であれば。
「───はぁ!!!」
自身を囲む触手をぎりぎりまで引きつけ──文字通りの『爆発的な加速』で、急加速で駆け抜けて回避。
数々の触手が、その緩急に取り残される。
少年は、その加速を緩めずにそのままモンスターの近くへ直行する。
ただのLv2とは思えないほどの敏捷によって、すぐに最前線へと躍り出た。
すると、近づいてきて、尚且つ魔法を纏っている少年を食べようと、食人花は花弁の奥の口を開き、近づく──
「───サンダー」
その口に、短杖を向けて放たれた、少年の雷の矢。
以前よりも圧縮され、威力そのものが上昇したそれは、容易くモンスターの魔石を砕く。
魔石ごと灰になる怪物に目もくれず、そのまま少年は舞う。
食人花を相手に、回避を中心にしつつ、たまにナイフで迎撃する。
そして、先ほどのように隙を見つければ───
「────フレイム、サンダー」
───『魔石』だけを狙った、精密な狙撃にも似た『魔法』で、食人花を次々と灰に変える。
舞いのようだ、と言ったのには、実は他にも理由がある。
彼が動く──否、時間が経るごとに、リン、リン──という鐘の音が鳴っている。
その音は、彼がロングナイフを握る方の手で鳴り、淡い、白い光を纏っている。
紅黒いナイフと白の光のコントラストによって、明らかに目立っているそれは、か細い音であるのにも関わらず、厳かだった。
リィン───
それは、完全蓄力の音。
──一分。それが、今の少年に許された蓄力
それでも、問題なかった。
今回も、前回と同じように─────《ruby》回復範囲と、効果時間だけを強化《rt》・・・・・・・・・・・・・・・すればいい。
「─────ガトリング!」
少年は後退しながら、炎雷をばら撒いていく。
それは杖の先から弾丸のごとく勢いで連射される、炎と雷が混ざった小さな丸。
それらは、モンスターへ当たれば小さな爆発を起こし、『運』が良ければ、魔石を砕いた。
やがて、炎雷の全てがなくなると同時に、少年の後退が終わる。
先ほどまで存在していた魔法の消失に、モンスターがキョロキョロと見回す。
そして、少年はすぐにナイフを仕舞い込み、短杖をその手に。
彼の位置は、まさに北門と南門の中心近く。
まさに『後衛職の位置』とも言えるそこで、『スキル』の収束を解除する。
「─────【アンジェラス】」
まるで、ここには存在しないものの名を呼ぶかのように、少年はか細い声が響き渡る。
しかし、この場においてその名前は、彼自身が持つ『鐘』の名前。
ゴォォン、ゴォォォォォン!!と、厳かで、けれども優しい『大鐘楼の音色』が響き渡る。
その音色は今もモンスターに襲われ、傷を負う者たちを癒していく。
ゆっくり、優しく癒すこの魔法は、まるで彼の信条を表す『鏡』のよう。
フィンが少年を見た。
そして、理解した。
───団員たちが自身へ届けた情報は、その殆どが事実なのだと。
だが、同時にフィンは理解ができない。
どうして、彼のことを欠片も知らないのか、と。
最短でも1年程の期間もあれば、少年が有名になることは明白なのに、と。
───彼は少年のランクアップの情報を聞いていない。
───たった一ヶ月でランクアップをした少年の、明らかな異常性を聞いていない。
故に、知らない。
「立ってください」
先ほどの少年の戦闘時の音に比べれば、小さなその声。
しかし、今も鳴り響く大鐘楼の音色・・・・・・そして。リン、リン───と、再び鳴り響く鐘の音だけが響き渡る戦場で、その声はよく響いていた。
「立ち上がって、剣を執り、杖を握り、槍を振りかざし、斧ですべてを砕いてください───」
段々と大きくなる少年の声は、未成熟な心を映すかのように、少し震えていた。
───それでも、皆の目を引きつける。
「─────僕が癒しましょう」
───宣言する。もしくは、約束だろうか。
否定する者はいない。
だって、もうすでに証明されている。
───彼が、戦場の癒し手になり得ることを、大鐘楼が証明する。
「あなた達の傷を癒しましょう。あなた達の折れた心を叩いては治し、再び、奮い立たせましょう───」
目を伏せ、俯きがちだった顔を上げる。
そこには、『覚悟』を決めた少年がいた。目をつり上げ、敵を睨みつけ、必ず討ち果たすと決めた顔が。
しかし、次には、まるで『挑発』をするかのように、軽薄な笑み──下手──を浮かべた。
「それとも」
ナイフと短杖を見せびらかすかのように構える。
いつもの構えとは異なるそれは、彼の眼前でクロスするかのように、構えられる。
それは、先ほどまで食人花を倒した『武器』だった。
「────ここに来たばかりの新人。それも、つい最近ランクアップしたばかり──恩恵を得たばかりの僕にできて。あなたたちには出来ませんか?」
─────瞬間。
ブチッ、という、青筋が立てられた音が聞こえた。
───明らかな年下。それも、彼のことを──ランクアップや『鐘兎』──知る者たちにとって、その『挑発』は効く。
───効きすぎてしまう。
「ふざけんな!お前にできて、俺たちにできねぇわけねえだろうが!」「粋がっただけのルーキーが、調子に乗ってんじゃねえ!」「白髪ショタはぁはぁ」「こっちを見てぇぇ!!」「あんな啖呵を切ったんだ、ちゃんと治せよ!!」
「────いいでしょう。あなたたちに『覚悟』があるのなら、僕も今一度信条を捨て、あなたたちを、傷つくことがわかりきっている『戦場』へと送り続けましょう」
やがて少年は、チラリ、と背後を見る。
そこには、フィン・ディムナがいた。
(お借りします)
そう心で言った彼は、『勇者』の言葉を借りる。
「あなたたちに、『勇気』を問いましょう」
少年の言葉が響いた瞬間。
冒険者たちが武器を手に、モンスターへと飛び掛かる。
───反撃の、始まりだった。
◯バレット
・炎雷の弾をばらまく
・威力自体は低く、まさに牽制用。それでもLvによっては、雷の影響で痺れる
書いてて「もっと煽ればいいかな・・・」とか思いましたが、そもそもこれでも十分ですね。
単純、というか・・・すぐに頭に血が上る冒険者相手なら十分だし・・・ベル君はそこまで煽り厨じゃない!ってなりました。
ちなみに、炎雷の加速って意外と速いと思ってまして・・・今のベルくんは、敏捷だけなら大体一般的なLv3初期〜中期の間くらいの速さを出せる印象です。
なのであとちょっと経つだけで、ヒュアキントスのスピードだと間に合わないくらいには速くなります。
・・・・・・『魔力』のステイタスが上がるほどに火力が上がるエンチャントって、ベルくんと合わせるとここまで凶悪に・・・いや、でもイカれたスキル構成具合でいったら、アリーゼのほうが・・・いやでもヒーラー・・・うーん。
そういえば、もう20話なんですね。なんだかんだ初めて投稿をしてから、8日経っているんですね。
なんだか感慨深いですね・・・。
これからも頑張ります。