草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 オリオンの矢、本当に短くなりそうです・・・これは私の見通しの甘さが原因ですね・・・・・・。
 そろそろテストもあって、それも頑張らないとなので頻度がおかしくなるかもしれません。ご容赦ください・・・。


鍛冶師の想い

アルテミス様とヘルメス様からの依頼クエストを受けてから、はや数時間。

 何処かやけっぱちになった様子のヘルメス様から旅装を受け取り、取り敢えず出るのは明朝ということになり。

 今の僕は受け取った服に着替えて、かなり早めの朝食を摂っているんだけど───

 

「どうですか?」

 

「美味しい。特にこのサクサクのクロワッサンとコーンスープの相性がいい」

 

「そう言っていただけると嬉しいです」

 

 ───アルテミス様と共に食べていた。

 食卓には僕が作った黄金色のクロワッサンとコーンスープ、そしてサラダ。

 簡単なものにしたけれど、満足してくれたようで嬉しい。

 

 ───さて。何故アルテミス様が家にいるのか。

 何でも、いきなりのことで宿すらも取れずに槍の担い手を探していたために、泊まる場所がないとのこと。

 何よりこれから一緒に旅をする者同士、交流を深めるべきだ、と。

 様々な理由でアルテミスはここにいる。

 当然、僕は猛反対した。

 男女が同じ屋根の下で眠る事の危険性、何よりお義祖父ちゃんが居ない今、勝手にひとを家に泊めるのはいかがなものか、と。

 様々な理由をあげたけど、結局は押し切られた。

 

 とにかく。

 様々な心配をしていたけど・・・・・・驚く程に問題は起こらなかった。

 アルテミス様の距離感が可笑しい時はあったけど、それも『何故か』安心感と愛しさと言うのだろうか・・・・・・よくわからない感情が出てきて、気にならない。

 むしろ、一人でいる寂しさのようなものがなくなって嬉しい。恥ずかしいから絶対に言わないけど。

 ───でも、僕はこの感情を知ってる気がする。

 ───何処で?

 アルテミス様から感じる『安心感』『愛しさ』『悲壮』『申し訳なさ』『気高さ』『美しさ』そして────『怒り』?

 僕は、これを一体何処で────

 

 

 

 コンコン、と。

 家の扉をノックする音が聞こえて、僕は思考の海から浮かび上がる。

 ヘルメス様かな?

 そう思って扉を開けた僕の視界に入ってきたのは、意外な人物だった。

 

「・・・・・・・・・・ヴェルフ?」

 

「おう、悪いなベル、こんな早朝に」

 

「いや、それはいいんだけど・・・・・・」

 

 ───どうしてこの時間に?

 何か用事があっただろうか、と思う僕にヴェルフは鞘に収められた『短剣ショートソード』を差し出した。

 ───あっ。

 

「予備の短剣・・・・・・」

 

「何だ、忘れてたのか?薄情なヤツだなぁ・・・」

 

「そういうわけじゃなくて・・・」

 

 牛魔刀ロングナイフを依頼した時にお願いしたものが、こんなに早くできると思わなかったというか。

 色々ありすぎて、少し忘れてたというか・・・・・・忘れてました、ごめんなさい。

 ひとまず受け取って、鞘から刀身を抜く。

 鞘と短剣の大きさがぴったりなのだろう、鞘鳴りの音が一切な鳴らなず、すぐに刀身があらわになった。

 ───綺麗な灰色の刀身。

 ミスリルを使用して作ってもらったからだろう。ロングナイフよりも長いのに、重すぎることが無い。

 試しに数回その場で振っても、重心も柄も手に馴染み、むしろ振れば振るほどにその実感が増す。

 

「・・・・・・・・・うん、いい感じ」

 

「そうか。そりゃよかった」

 

 ニッ、と笑顔を浮かべるヴェルフに釣られて、僕も笑顔になる。

 とにかく代金を、と思ってお金を取りに部屋に向かおうとしてヴェルフと離れようとした時。

 家の中が見えたのだろう、ヴェルフがその顔を驚きに見開いた。

 そして、すぐにその顔がニヤついたものになる。

 

「なんだぁ、ベル?ついに女を連れ込んだのか?しかも、見た感じだと女神様じゃねえか!やるなあ!」

 

「違うから!違うよ!アルテミス様も「違うのか?」って感じに首を傾げないで!!?絶対に何か変な誤解をしてるから!!!???」

 

 取り敢えず誤解を解こうと、僕は必死に弁明を述べた。

 都市外にモンスターが出て、その討伐に特別な武器が必要で、僕が選ばれたこと。

 ただ、その依頼主スポンサーのアルテミス様用の宿が取れず、仕方なくこの家に泊めたこと。

 何事もなかったこと。

 口外しないように言われてる内容は言わずに、とにかく誤解を解く。

 

 僕の弁明に納得したのだろう。

 ヴェルフは納得した顔をして───すぐに神妙な面持ちになった。

 

「なるほどなぁ・・・・・・お前も大変だな、ベル」

 

「そうでもないと思う、よ?」

 

「いや、俺のとこにも届く噂が前よりも凄いことになってるぞ?あれが本当なら、お前は相当な巻き込まれ体質だな」

 

「・・・・・・・あはは・・・」

 

 今はもう否定しきれなくなってきたそれに、僕は乾いた笑いしか出ない。

 すると、何を思ったのか。アルテミス様は椅子から移動して、僕の肩から身を乗り出して短剣を覗き込んできた。

 服越しに感じる柔らかい感触や匂いに、普段なら心臓が破裂しそうなほど早鐘を打った筈。

 それなのに僕が感じたのは、やっぱり安心感だった。

 

「・・・・・・業物だな」

 

「──分かりますか!?ヴェルフが打つ剣は凄いんですよ!!」

 

 ───すぐに専属鍛冶師が褒められた嬉しさで埋め尽くされたけど。

 

「ヴェルフの打つ武器は手に馴染むし、装飾も無駄がなくて『まさに機能美』!って言う感じで・・・とにかく凄いんですよ!」

 

「・・・・・・そこまで言ってくれると鍛冶師冥利に尽きる、ってもんだな」

 

 いきなり褒められて恥ずかしいのだろうか。

 ヴェルフは後頭部を掻きながら、目を逸らした。

 

「そうだな・・・・・・済まない。一度貸してくれないか?」

 

「え?・・・・・・いいですよ」

 

 どうぞ、と短剣を差し出すと、アルテミス様はその場で振り出した。

 袈裟斬り、胴切り、逆袈裟斬り、真っ向斬り。

 次々と放たれる剣技は、まさに『神懸か』っている。

 回転を交えて剣を振る動きは、僕が教えてもらった型に似ている気がした。練度は僕よりもアルテミス様のほうが上だけど。

 ───武闘派の女神様なのかな?

 

「・・・・・・うん、いい武器だ。・・・・・・オリオンの手に馴染むように作られたのだろうな。少々の違和感はあったが」

 

「オリオン?」

 

「何故かそう呼ばれてて・・・名前は教えたんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・なるほどなぁ」

 

 アルテミス様が返してくれた短剣を鞘に収める。

 そして、すぐにお金を用意してヴェルフに渡す。

 ・・・・・・お義祖父ちゃんの『お小遣い』で足りてよかった。

 

「それで?いつ出発するんだ?」

 

「そろそろかな。朝ごはんも食べたし、装備と道具アイテムの確認もしたし」

 

 そうか、と言うとヴェルフは背中に担いでいた『長物』を僕に差し出した。

 反射的に受け取ると、その『武器』から『魔力』を感じた。

 

「これ・・・・・・」

 

「何だか嫌な予感がしてな、すぐに作った。銘は──『炎月えんげつ』」

 

「『炎月』・・・・・・」

 

 オウム返しをするように銘を呟いて、すぐに戸惑った。

 だって、ヴェルフは『この武器』を───

 

「気にすんなよ、ベル」

 

「え?」

 

「これは俺が嫌な予感がして、勝手に作ったんだ。あとはお前の裁量に任せるだけだ」

 

「でも・・・・・・」

 

 尚も食い下がろうとする僕に、ヴェルフは待ったをかける。

 その目は、覚悟の決めたものになっていた。

 

「そもそも、武器はもう打っちまったんだ。なら、あとは『誰が使うか』、だ。そして、俺はそれをお前に託したんだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「お前なら、誰かのために『コレ』を使える。嫌な予感だけじゃなくて、『お前のためにも』コレを打った。その思い、汲んでくれないか?」

 

 心配する僕以上に、ヴェルフは武器に思いを込めている。

 しばらく迷って、結局受け取った。

 「大事に使えよ」という一言を残して、ヴェルフは帰っていった。

 その背中に、後悔なんて欠片も感じられなかった。

 

「ヴェルフ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 

 

「本気なの?」

 

「何がですか?」

 

 青年が打った武器で溢れた鍛冶工房にて。

 燃えるような赤髪の青年と、片目を隠した赤髪の女神は、そこにいた。

 青年は今も鎚を握り、金属へ『語りかけている』。

 しかし普段とは異なる工程を踏んでいるそれは、『魔の剣』を作り出すための特殊なもの。

 それを見ながら、女神──ヘファイストスは尋ねた。

 

「あなたは『魔剣』を毛嫌いしていたでしょう?なのに、なんでソレを打っているの?」

 

「・・・・・・」

 

 鍛冶師は答えない。

 代わりに、甲高い音が高らかに鳴り響く。

 まるでとある少年の大鐘楼の音色のように一定の間隔で鳴り響くそれは、『何か』を求めるかのような音色だった。

 女神──ヘファイストスは、それ以上尋ねない。

 ただ、その『魂の音』を聴くだけ。

 数分だろうか、それとも数時間か。

 時計の存在しない鍛冶場では、時の概念が存在せず。ただただ鍛冶師の『魂』から出るものが完成するその時まで、終わらない。

 ───やがて。

 

「─────ふぅ・・・」

 

 大きな息を吐いて、それの全容ができあがる。

 ───が、青年はそれを確かめることなく、近くに置いておいた白布で、直ぐ様覆い隠した。

 女神の方を見ることなく、すぐに『彼』の元へ向かおう、と扉へと向かう。

 そして、女神の横を通り過ぎた時にピタリ、と止まった。

 その顔は、女神には伺いしれない。

 

「あいつは・・・・・・」

 

 ようやく聞こえた青年の声は、長時間鍛冶をしていたせいだろうか、それとも言葉を絞り出しているからだろうか。

 その声は、かすれていた。

 それでも、何処か『熱』を感じられるものであった。

 

「あいつは、ベルは。誰かを助けるために自分を顧みないんです」

 

「・・・・・・」

 

「俺たちとダンジョンにいるときはまだマシだった。最悪の場合、俺とリリスケがあいつを助けてやれた」

 

 青年は一旦瞼を閉じた。

 脳裏によぎるのは、この1ヶ月と少しの間の『冒険』。

 ベルとリリルカ。そしてヴェルフ。

 モンスターとの戦い。三人での連携。少年の防具に四苦八苦して、結局作らない方針になったこと。

 そして───冒険者の救助。

 少しでも悲鳴が聞こえれば、そこへ遮二無二に向かっていくベル。

 最初は注意した。何かあったらどうするのか、と。ダンジョンにおいて、冒険者の行動は自己責任だ、と。

 しかし、少年の答えは「助ける」の一点張り。

 

 最初は責任感が強いのだと思っていた。

 彼は『医療系ファミリア』に所属していて、人の命に関わる仕事に従事しているからだ、と。

 ───しかし、それだけではないことがすぐに分かった。

 ───誰か助ける時の目が、あまりにも鬼気迫るものだったから。

 まるで『親の敵』のように他者の『怪我』や『血』───もっと言えば『死』を憎んでいる様子に、ヴェルフとリリルカは危うさを感じていた。

 それでも大丈夫だと思っていた。自分達二人で支えれば、少年は大丈夫なのだ、と。

 ───今思えば、『慢心』以外の何物でもないのに。

 

 ───そして。

 あのミノタウロスとの戦い(・・・・・・・・・・)が発生してしまった。

 

「見たんです、ヘファイストス様」

 

「・・・・・何を?」

 

「─────バベルの治療施設に運ばれていく、ベルあいつの姿を」

 

 それは数日前。

 一人の少年が『冒険』をし、三人の冒険者の命を救った日。

 血を失ってフラフラでありながらも、自分たちを助けた少年を抱えて、冒険者達が治療施設へと駆け込んだ日。

 そして、ヴェルフとリリルカが用事を終えて、たまたまバベルに来ていたとき。

 二人でベルが危険なことをしていないか、もしくは武器を壊していないか等。

 少年のことを話していたとき───それが、やってきた。

 担ぎ込んできた冒険者達の姿もボロボロだったが、それ以上にボロボロになっていた『ソレ』。

 血に塗れ、焼け焦げた跡が痛々しく残り。さらには、左腕もあらぬ方向へと曲がっている───白髪の少年。

 ともすれば死人のようにも見える少年の姿を前に。二人は、いったい何を思っただろうか。

 

 

 

「予感がするんです。多分、あいつはすぐにまた同じことをする」

 

「予感?」

 

「確信と言い換えてもいいです。あいつは、自分から『悲鳴』の元へと突っ込んでいくから」

 

 喉の調子が戻ってきたのだろうか。

 その声に、力が入っていく。

 

「だから、俺はあいつを『守る』武器を作る」

 

「・・・・・・・・・そこまでする必要は、あるの?残酷だけれど、死に急ぐ冒険者なんてこの都市にはご五万といるわ」

 

 それは神のお告げか。あるいは主神おやとしての助言か。

 確かな主神おや心を感じさせるそれを──青年は一蹴した。

 

「あります」

 

「・・・・・・何故?」

 

「俺が、あいつの『専属鍛冶師』だから。『本当の意味での冒険者じゃない』あいつの冒険に、俺はいつまでも寄り添えるわけじゃない。だから───」

 

 燃え上がる心を表すように、声に力がこもっていく。

 それほどまでの『熱』を持った彼を、ヘファイストスは見たことがなかった。

 

「───友のため。あいつと、あいつが助けようとする者たち全てに降りかかるものを払えるくらいに凄い武器を、あいつに与えるため。でも、今の俺にはそれを作れない。だから『魔剣コレ』を作った。いつか、本物コレを超えるものを与えるために──死んでしまわないようにするために」

 

 それだけです、と言い残して眷属おとこは去った。

 あとに残ったのは、彼が座っていた炉の前を見つめる女神だけ。

 

「意地と仲間を秤に駆けるのは止めなさい、ね・・・・・・」

 

 その呟きに込められた想いは、何なのだろうか。

 分かるのは、主神おや眷属を思っていることだけ。

 

「子の成長は早いと言うけれど・・・・・いざという時は、寂しいものね」

 

 そうして、女神もその場を去り。

 工房には、青年がコレまで打ってきた武器たちだけが残った。




 ベル君の所属が違うと、ヴェルフの想いも少しだけ変わるのかな、って思いました。
 なによりここのベル君の所属を考えると、今みたいにダンジョンに潜る頻度は本来低いはずなんですね。借金の影響でバンバン潜ってますが。
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