大体5話くらいかな・・・?
まあ、軽くなので問題はないはずです。
ヴェルフを見送った後。
しばらくその背中を見つめていた僕たちは、すぐに大慌てになった。
出発の時間が迫っていたからだ。
急いで荷物の確認をして、新しくもらった武器二振りと共に抱えて猛ダッシュ。
明朝から早朝に変わりつつある街中に、人が増え始め。
その影響で、全力で駆ける僕たちには視線が集まった。
「駆け落ち」「病的嫉妬から逃げている」「くたばれ糞兎」などという声を無視して、僕たちはようやく待ち合わせの場所──都市外縁部にある、巨大市壁へとたどり着いた。
待ち合わせの場所には、ヘルメス様がいた。
昨日とはまた違う旅装に身を包んだ彼は、昨日までの取り乱した様子とは打って変わって、軽薄の笑みを浮かべていた。
「やあ、ベル君、アルテミス。遅かったね?」
「すまない。少々遅れた」
「ハァ・・・ハァ・・・ぅ、ん・・・ごめんなさい、遅れてしまって。ちょっと用意に手間取って・・・」
「うん?その様子だと何かあったのかな?・・・・・・・・・もしや!アルテミスと同衾・・・いやそれ以上のことをしてしまったのか!?これは一大事だ!!今すぐにその時の様子を──」
「違います!普通に遅れそうになっただけで、何もしてません!?」
慌てて否定する僕を、ヘルメス様が「ハハハハハッ」とわざとらしく笑う。
本当に昨日とは様子が違いすぎて、少し戸惑ってしまう。
そもそも、僕と一緒に全力で走ったアルテミス様は、何で息を切らしてないんだろうか。
疑問に思う僕を他所に、ヘルメス様は暫くすると笑うのをやめ、その顔に軽薄な笑みを携える。
「実は俺たちも来たばかりでね。何でも、これから俺たちを送ってくれる『運び屋』が、少し遅れてるみたいでね」
「遅れてる・・・?」
「ああ。俺たちよりも先に送ってもらってる娘達がいるんだけど・・・・・・どうやらトラブルがあったようでね」
肩をすくめて言うヘルメス様に、僕は何とも言えない顔になる。
遅れても大丈夫だったことに安堵するべきなのか、それとも今も怪我人が出ているかもしれない現状で悠長をしてしまったことを後悔するべきなのか。
「取り敢えず、あとは彼が来るのを待つだけなんだけ、ど・・・・・・・・・どうやら来たみたいだ」
「へ?」
ホラ、とヘルメス様が指差す先を見る。
最初は小さすぎて見えなかったそれも、だった数秒で急成長するかの如く大きくなっていく。
僕の視界に映ったそれは、まるで巨大な翼を広げた鳥のような物体と、その下にある脚にあたる部分にある籠──もしくは家のようなものがぶら下がっている『氷の鳥』。
よりわかりやすく言うのなら、家を掴んだ鳥をそのまま大きくしたようなソレが、こちらへと真っ直ぐに飛んできて。
やがてそれは市壁のそばに降り立つと、その頭の上に乗っていた人物を、僕達のそばに降ろした。
その人は長い黒紫色の髪を揺らし、深緑の瞳を次第に見開いて───
「・・・・・・・・・お義祖父ちゃん?」
「───────」
息を飲む程に目を見開いたお義祖父ちゃんは、直ぐ様ヘルメス様を睨んだ。
その背中には憤怒が吹き荒れており、まさに眼前の男神様を燃やし尽くさんとするほどに燃え盛る焔を幻視した。
「貴様・・・・・・巻き込んだら許さんと言ったはずだが?」
「待って待って待って待って!!お願いだから話を聞いてくれ!」
「黙れ。これは『約束の不履行』に対する正当な権利だ。神であるなら『契約』の重要性を理解しているはずだが?」
言いながらお義祖父ちゃんが指を鳴らすと、パキパキパキ、という空気が軋む音とともに、ヘルメス様の目の前に氷の鎧が出現した。
───その手に握る大剣の切っ先を、ヘルメス様に向けながら。
「違うんだって!今回の戦いについてベル君にはちゃんと説明したし、同行を願い出たのは彼自身の意思なんだ!!だから、今回に関しては彼の想いを汲んでくれないか!!??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだと?」
ヘルメス様を睨んでいた目を、今度は僕に向けた。
本当なのか、と問うてくる目に僕は全力で首を上下に振った。じゃないとヘルメス様が危ない気がして。
そして、お義祖父ちゃんは次にアルテミス様の方を見た。
アルテミス様がコクリ、と頷くと、お義祖父ちゃんは目を閉じた。様々な葛藤が内心で渦巻いているのが、その眉間によった皺でわかる。
やがてパチリ、と指をもう一度鳴らして、氷の騎士を消した。
それを見て安心したのかホッ、としたヘルメス様は、お義祖父ちゃんに問いかけた。
「それで?向こうはもう大丈夫なのかな?」
「・・・・・・・・・ああ。今はあの娘達が食い止めている。あとは『槍』と、その担い手を連れて行くだけだ」
「そうか、なら急ごう。間に合わなくなる前に、ね」
行こう。
ヘルメス様はそう言うと、荷物を担いでお義祖父ちゃんのそばに寄る。
「何をするんだろう?」と思わず首を傾げる僕とアルテミス様に、ちょいちょい、と僕達に手招きをする。
それに黙って従うと、市壁の外にいる『氷の鳥』がその嘴を広げ、僕達の目の前に、それを『置いた』。
人ひとりは余裕で通りそうな氷のトンネルのようになっている氷の『口内』が目に映った。
見るからに冷たそうな冷気を発するそれに、ヘルメス様は迷わずに飛び込んだ。
驚く僕とアルテミス様をお義祖父ちゃんが「急げ」と急かす。
慌てて僕達も、その『氷のトンネル』へと飛び込んだ。
────
「うわぁぁぁ────!?」
「───────!?」
巨大な生物に飲み込まれたかのような危機感が心のなかで警鐘を鳴らしながら、僕とアルテミス様は滑り落ちていた。
いつの間にか手を握られていた僕は、その手を握り返す──どころか、アルテミス様のことを抱きしめていた。
アルテミス様が驚きの声を漏らすことに気づかないまま。
僕達は、トンネルの先に見える光へと突っ込んだ。
「ヘブ!?」
「ぐっ」
咄嗟に僕が下になるように位置を調整して、地面に激突した。
背中に伝わる痛みと、体の上から伝わる柔らかい感触。
それらを無視して、僕は周囲を見回した。
───氷の鳥の中。
より正確に言うなら、鳥の喉、腹、足の順で通っていき、鳥が足で持っていた『家』へと繋がる『トンネル』──『煙突』を通り、薪も炎もない暖炉に、僕たちは降り立った。
「綺麗・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」
視界に映る世界は、まさに氷の世界だった。
僕達がいる暖炉、ストーブガード、リビング、キッチン。
目に映る全てが氷で形作られたここは、まさに別の世界に迷い込んだかのよう。
何より、全てが氷に囲まれたここは、発している冷気に反して冷たくない。
むしろ暖かさを感じさせることに驚く僕とアルテミス様に、ヘルメス様が説明してくれる。
───驚いているってことは、アルテミス様も初めて見たのかな?
「察しているかもしれないが、ここはあの鳥が持っていた『氷の家』の中だ」
「『氷の家』・・・・・・」
「そうさ。この家は特別性でね、アスフィ・・・・・『万能者』が作った『魔道具』によってお湯が出るのはもちろん、何よりも重要な保温性──暖かさが保たれている。それも、氷を溶かさない効果付きでね」
凄いだろ、とニヒルな笑みを浮かべながら近くにある『氷のテーブル』を軽くコンコン、と叩くヘルメス様。
『万能者』って・・・確か世界で最も強力な『魔道具』を作れる、って有名な人だっけ。
改めて周囲を観察する。
まずは椅子とテーブル。
これは家の中央に鎮座していて、その上には食器が綺麗に置かれ、真ん中には花が飾られていた。
そしてキッチン、トイレ、お風呂、と次々と部屋を確認する。
その内の殆どが曇りガラスで出来ていて、透けていいものと透けてはいけないものへの配慮を感じた。
全てが氷でできているのにお湯が出て、尚且つ一切氷が溶けないことが、何よりも不思議だった。
そして──2階。
同じく曇りガラスで形成されたそこは、個人の部屋が複数個存在していて。
僕達三人はそれぞれの部屋を選び、荷物を運び込んだ。
部屋の中は氷でできた机と椅子、そして──普通のベッドが置かれていた。
「流石に氷のベッドはないよね・・・・・・よかった・・・」
安心した僕は荷物を置くと、ふと視界の端に映った『ソレ』が気になり、目を向ける。
それは窓だった。
一切の曇りのない氷で作られたそれは、外の景色をありのままの姿で映し出す。
そう、高速で流れ行く雲の姿を──
「────は?」
驚いた僕はすぐに窓に駆け寄り、下を覗き込む。
そこには『緑』が存在しており、まるで波のように木々や植物の色が流れている。
さらには、小さな泉が映ったと思った次の瞬間には消え、また緑の波が映る。
───早すぎる。
今の僕が付与魔法を使用して全力で駆けても、ここまでの速さにはならないだろう。
それほどまでに景色の移り変わりは早い。
何より恐ろしいのは、こうして窓の外をみるまでその『浮遊感』や『速度』を感じさせないことだろうか。
「凄い・・・・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
────ん?
僕の呟きに、答える声?
ここは僕が選んだ部屋で、その声の主が別の部屋を選んだことは確認したはず。
何より僕の肩越しに窓を覗き込んでいるのだろう、肩に柔らかい感触が・・・・・・
チラリ、とそこを見ると───アルテミス様の姿が。
「何でいるんですか!?」
「・・・・・・いては駄目なのか?」
「駄目です!?部屋は選んだはずですよね!?」
「しかし、私はオリオンとともにいたい」
「え"」
ナニヲイッテイルンダロウコノヒトハ。
それだと一つ屋根の下で──って、昨日同じ家で寝泊まりしたんだった。
でも、その時は何ともなかったよね!?何で今になって!!??
驚きで固まる僕に、ドアの外から声がかかる。
「おーい、ベルくーん。荷物の整理は終わったかな?終わったのなら、君のお義祖父さんと情報の整理をしたいんだけどー?」
いつまで経っても部屋を出てこない僕を呼びに来たのだろう。ヘルメス様の気の抜けた声が響き渡る。
その声にホッとし、この状況から逃げ出せる──と思った僕は、すぐに気づいた。
それぞれの部屋を選んだのに、二人して同じ部屋にいる状況。
何より、僕達は互いに医療行為でもないのに──医療行為ならいいというわけでもないが──くっついてる。
──この状況を見られたら勘違いされる。
何より僕を呼んだあとはアルテミス様のことも呼ぶだろう。
そうなれば、自身の部屋にいないアルテミス様が僕の部屋から出てくることになる。
そんなことになったら、ヘルメス様は僕達のことを『勘違い』するに決まってる!
そして、それをお義祖父ちゃんに報告する可能性がある。
場合によっては、そのお義祖父ちゃんがお義母さんに報告するかも───
かつて、村から出てオラリオへ出る日。
お義母さんと離れ離れになるのが嫌で、いつまでも涙が止まらない僕に、お義母さんがいつものように瞼を閉じたまま、困ったような顔をした日。
ようやく涙が止まり、目を赤く腫らした僕にお義母さんが言った言葉が、今になってリフレインされる。
『ベル。もしもお前が恋人を作ったのなら教えろ』
『・・・・・・え?わかった、けど・・・・・・どうして?』
少ししゃくりあげながら返事をした僕に───お義母さんがその目を開いた。
綺麗なオッドアイが、僕を──もっと言うなら、僕が作るのであろう『恋人』を、睨んだ。
『嫁の作法を教える』
『ぇっ』
『大丈夫だ、加減はする。何より───私一人討ち果たせない者が、お前の『恋人』になる資格など、ない』
唐突に恋人ができたら云々の話が出て困惑する僕を他所に。
お義母さんはその瞳に、まるで『自身の大切な妹がポッと出の男にかっさわられた姉』のように怒りの色を有していた。
『おい、アルフィア。さすがにそれは───』
『福音』
『おじさぁぁぁぁぁぁん!!!???』
止めようとしたおじさんが、山の向こうへと消えていった。
───本気だ。
お義母さんは本気で僕が恋人を作ったら『嫁の作法』を教える──要は戦う──つもりだ!!
(確か、この時に僕は『恋人、暫く作らないようにしよう・・・』って思ったんだっけ)
お義祖父ちゃんが額に置いて。お義母さんが僕に凄んで。僕はそれに怯えて。
今考えても凄い出発の日だったな・・・・・・と、考えていると。
「おーい、ベルくーん?・・・・・・いないのかな。と、おや?部屋の鍵は開いているじゃないか。不用心だな〜!」
「っ!?」
やばい、考え事をしてる場合じゃなかった!
部屋の外から響く声と、ガチャリ、という扉が開く音に慌てる。
(どうしようどうしようどうしよう!ベッドの下──いやいや、そんな場所に隠すのは不敬・・・・・・クローゼットもないし、かと言って机の下なんて論外───)
どうにか隠そうと思考を回しても、結論は出ず。
結局、ヘルメス様に部屋の中──アルテミス様がいることが、バレた。
「おやおや〜?アルテミスとベル君が一緒にいるぞ〜?もしかして・・・・・・やっぱり、二人はただならぬ関係に──「いつまでふざけている、さっさと行くぞ。ベル達も早く来い」ふげ!?」
僕達をからかう気満々の雰囲気で入ってきたヘルメス様。
そんなヘルメス様をお義祖父ちゃんがひっぱたき、すぐに部屋から出ていった。
特に逢引やら恋人やらの言葉が出てこなかったことに、逆に驚いてしまう。
二人が消え、まるで変なものなどなかった、と言わんばかりに静寂に包まれた部屋。
(無事に終われるのかな・・・・・・)
思わず心配になってしまうほどに、旅の始まりは前途多難だった。
◯お義母さん
・ベル君の恋人撲滅委員会会長
・ベル君の回想だと冒険者だと『嫁の作法』──なんて言ってますが、実際は冒険者でなくてもします。ベルを取られたくないし、と
・お義祖父ちゃんもベル君に過保護ですが、もしもオラリオに付いてきていたら、例えダンジョンだろうと遺跡だろうと尾行してます。守るために