草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 主にアルテミス様がキャラ崩壊します。
 厳格で気高い彼女が好きな方々はご注意を。

 連続投稿の最後ですね。
 なんだかんだでここまで連続で投稿したのは、最初の頃くらいですね。
 楽しくはありますが、同時にストックもなくなるので困ったことになりますね。


恐ろしき膝枕

「・・・・・なるほどねぇ・・・」

 

「ベル・・・」

 

 少年と、女神。

 二人の逢瀬にも等しい時が流れる、部屋の外。

 氷の扉の外で、エルフの義祖父と旅神が、二人の話しを聞いていた。

 

「ベル君は『英雄』が憎い。だが、それ故に・・・・・『英雄を支える者』になりたい。矛盾しているようで、動機を思えば矛盾していない。不思議な話だ」

 

「ベル・・・すまない・・・力不足な義祖父を呪ってくれ・・・」

 

「『家族』を愛するが故に、それを傷つけているように見える『英雄』が──『きず』を隠そうとする『英雄』が、憎いか・・・・・耳が痛い話だ」

 

「私に、あいつらを治す力があれば・・・お前が傷つかなかったのに・・・・・」

 

「そして・・・・・多分、勉強ばかりしたせいなんだろうね。あのゼウスじじいの言葉が虫食いまみれになって、重要な部分を忘れているようだ」

 

「すまない、ベル・・・『女帝』・・・『英傑』・・・ファミリアのみんな・・・・・・私は・・・」

 

「・・・・・・・・・いや、あの。そこまでマイナスになる必要は──」

 

「黙れ」

 

「・・・・・わーお」

 

 自身の見解を述べ、フォスの自虐を案じたヘルメス。

 だが彼のことを嫌っているフォスからすれば、彼の言葉は『雑音』にすら劣るものにしかならない。

 それまでの自虐を止め、ヘルメスの言葉を一刀両断する。

 ───自虐を止められた時点で、ヘルメスの目論見は達成したようなものだが。

 

「ひとまず、ベル君のことは分かった。彼は・・・・・こう言ってはなんだが、『癒す英雄』にはなれても、『戦う英雄』にはなれないだろう。気性が戦いに向いていなすぎるね、いっそ可哀想なほどに・・・・・・今回のことに、選ばれてしまったことを嘆きたくなるほどに」

 

「・・・・・・」

 

「どうして、『運命』ってやつは彼を選んだんだろうね・・・・・俺ですら、彼には平穏な時を過ごしてほしいと思うくらいには、彼は優しさに満ち溢れている」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・あの、フォス?何をそんなに目を見開いているんだい?君とは違って、俺は中の様子は分からないんだけど?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ずっと押し黙るフォスは、部屋の中を見えるかのように───否、実際見えている───睨む。

 まるで『義孫』がやってはいけないことをやっているかのように。

 ひとまず、これ以上の覗き見や聞き耳は御法度だろう、とヘルメスが去ろうとした・・・その時。

 

「膝枕・・・・・・」

 

「は?」

 

 フォスが、重々しく呟いた。

 ヘルメスが変な声を出す。呟かれた言葉の意味がわからない、とでも言いたげに。

 

「ベルが、神アルテミスに膝枕をしている・・・・・・」

 

「そうなのかい?それはまあ・・・・・・微笑ましい状況なんじゃないかな?逆だったら、俺は嫉妬の炎を燃やすけどね」

 

 男神が、何時もの軽薄の笑みを浮かべてそう言った──瞬間。

 ギンッ!という効果音が聞こえそうなほどに、フォスがヘルメスを睨む。

 その目は、危機感に満ち溢れていた。

 

「ヘルメス、お前はわかっていない。ベルの膝枕───『全てを癒す至高の膝枕オアーゼ・デア・ルーエ』の恐ろしさを─────!!」

 

「オア、なんて?」

 

「ベルの膝枕はまさに『至高の領域』──!何処ぞの『正義の派閥』の団長なぞ、『女神の膝枕のように優しい』などと漏らすほどに、あの膝枕の力は恐ろしいんだ────!!!」

 

「なんて?」

 

「それが・・・何故かは知らないが、神アルテミスに義母──アルフィアを重ね、慈愛の表情を浮かべ・・・・・下心の介在しない、純然たる『愛』だけを込めて、優しく頭を撫でる──それを受けてしまえば、処女うぶな女神なんて───ああなるに決まっている!!」

 

「なんて?」

 

 ヘルメスが見えない、フォスが指差す先。

 そこには────

 

 

「アルテミス様。お加減はどうですか?」

 

「ぇ、あ、ぃゃ、その・・・・・・・・・」

 

 アリーゼが評するように、優しい膝枕が女神を襲っていた。

 いつの間にか取り出されていた膝掛け越しに感じる太腿の感触、そして下心の入り込む余地のない程の、圧倒的な『慈愛』。

 優しく撫でつける手つきからすらも感じられる『愛情』に、アルテミス初心な女神の思考回路は気絶ショート寸前だった。

 

「アルテミス様が頑張っているのは、少ししか関わってない僕にもわかります。剣の腕、弓の腕。全てが凄くて、気高い貴女は──眷属にだけ戦わせる事を良しとしないで、自分も戦ったはずです」

 

「・・・・・・・・・・・・私は、頑張ってなど───」

 

「───はい。アルテミス様がそういうのは、分かってます。それでも言わせてほしいんです──────頑張ったね」

 

「────ッ!!??」

 

 ベルの左手の方向に寝転がるアルテミスの目を右手で覆い。左手で、優しく撫でられる。

 その手から伝わる『熱』が、『優しさ』が。

 厳格で、かつ貞潔であるべしと魂に刻まれているアルテミスの魂を──溶かしていく。

 

「何時も、何時までも頑張る貴女の姿が好きです。何処か気高い貴女の姿が好きです。でも───何処か悲しそうな雰囲気を醸し出している貴女は、好きじゃないです」

 

「ぇ、ぁ・・・い、ゃ・・・・・・」

 

 既に心がグズグズに溶かされ始めている女神は、「好きじゃない」、という言葉に焦る。

 嫌だ、離れないで、いなくならないで、と。

 嫌だ嫌だ、と首を振る女神に───ベルは微笑む。

 大丈夫だよ、貴女が何を嫌がっているのかは分かっているよ、と。

 の全てを見透かす母性ふせいが、少年から溢れ出していた。

 

「大丈夫です、僕は貴女のことを嫌いになんてなりませんよ。僕は、アルテミス様のことが大好きですからね」

 

「ぁ、ぅ・・・・・・・・・」

 

 ────えげつない光景が、広がっていた。

 優しさという毒でドロドロに溶かしておきながら、それを少し取り上げるような素振りを見せて。

 それに少しでも相手が焦ったら、さらに深い『愛』を与えて。

 既に溶かされた心を、もはや液体になるほどに蕩かす。

 これほどまでに手慣れた女性との関わりコマシ方をしておきながら、少年は普通に接しているだけ──義母にやっていた手法そのままという意味──のつもりなのだから、始末に負えない。

 

 既にアルテミスは初語期、喃語期を超え───クーイングへと、その言語活動を落としていた。

 ヘルメスが見ればドン引きを超え、少年と関わることに危機感を覚えるほどに危険な光景が、そこには広がっていた。

 

 

「あぁ・・・・・・このままでは、神アルテミスも『ベルニウム』に取り憑かれてしまう・・・・・・・・・!!」

 

「ベ、なんて?」

 

「『ベルニウム』に侵されたものは・・・・・・定期的にベルからの膝枕あいがなければ禁断症状がでて、最悪───全てを破壊してでも取り戻そうとするだろう・・・・・・・・・!!!」

 

「なんて?」

 

「アルフィアだってそうだ・・・・・・・・・!今はザルドが抑え込めているようだが、それも何時まで持つか・・・・・・・・・!!」

 

 それは、とある村の光景。

 小さな村の中で、美しい女性と、偉丈夫な男性が───『本気で』戦っている光景。

 そんな遠く離れた地の光景を、フォスは容易に想像できる。

 

「アルフィアはベルが膝枕を習得したその日からずっと、その身にベルの『愛情』を込めた膝枕を受け続けたんだ──!そんなあの子にとって、ベルと離れて暮らすというのは、まさに拷問───!!」

 

「なにて?」

 

「私も一度だけしてもらったことがあるが───あれはヤバい。こちらが欲しいと思う言葉だとは微塵も思ってなかった言葉をもって、こちらの心を溶かし尽くしていくのだからな。それは、まさしくあらゆる防御を無視して叩き込まれる第一級冒険者の一撃に等しい────!!」

 

「な、ん、だ、そ、れ?」

 

 人格キャラが変わっているほどに熱弁をするエルフの姿に、ヘルメスはドン引きした。

 そして、同時に思う─────これ、このあとに来る『現実』を前に、大丈夫なのかなぁ、と。

 もちろんベルの心が一番大変だろうなぁ、とヘルメスは考えていた。

 しかし────

 

 

「アルテミス様、どうですか?お腹ポンポン、気持ちいいですか?」

 

「あ、う・・・」

 

 

 ───もしもフォスが言うことが本当なら、アルテミスの方が離れたがらないんじゃないか?

 そんな危機感を、ヘルメスは持ち始めた。




◯ベルの本気の膝枕
・一章の頃にアリーゼにしたものは真の姿ではなく、医療行為の面が強い
・一度でも喰らえば、女神の魅了に耐えられるくらいの精神力がないと耐えられない。つまり耐えられるものはいない
・これをされる人物は、『家族』及びそれに並ぶほどに大切な人だけ
・今回は弱っていた頃の二人みたいに『死相』のようなものを見せるアルテミスに怒ってやった。それでも『愛』は本物なので、アルテミス様は耐えられない
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