早いもので、もう25歳です。アラサーです。
私がダンまちを見始めたのが14くらいなので・・・ゼノス編前後だったかな?
当時はベル君可哀想・・・とか思ってましたね。感慨深いです。
───『決戦』、当日。
日が昇り始めるかどうかという明朝に、僕達は広場に集まっていた。
辺りはまだ薄暗く、青というよりは黒に近い藍色に空が染まっている。
嵐の前の静けさ、と言うのだろうか。昨晩からここまで、特に異常事態も何も起こっていないことに、逆に警戒心が高まる。
強いて言えばお義祖父ちゃんと一緒に【アストレア・ファミリア】の人達に謝罪したことだろうか。
それも、僕が野営地の回復薬を調合する、という条件で許された。
条件がゆるすぎないか、と思ったけど、自分達の鍛え方が足りなかったのが悪い、と言って聞かなくて。
結局のところ、僕が折れるかたちでその場は収まった。
──閑話休題──
そんなこんなで、僕が調合した回復薬がみんなに配られていく中。
僕達の目の前に、アルテミス様とアストレア様が現れて、『作戦』の概要を説明してくれた。
それは、部隊を『本隊』『陽動部隊』『殲滅部隊』に分けるというもの。
『本隊』は『アンタレス』の討伐を目指す部隊。
メンバーは僕、アルテミス様、リオンさん、アリーゼさん、そしてなんとアンドロメダさんとヘルメス様。
神様が二人、と心配になる編成だけれど、そこはアンドロメダさん──『万能者』さんが基本的に護衛につくらしい。
『陽動部隊』と『殲滅部隊』は、それぞれ残りの【ヘルメス・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の各員を半分にした部隊。
『陽動部隊』が遺跡周辺のモンスターを狩って、モンスターの注意を引く。
そして『殲滅部隊』は、遺跡以外のモンスターの殲滅が担当。村への被害を出さないようにするための部隊だ。
「皆も承知の通り、遺跡周辺はモンスターの巣窟と成り果てている。もちろん、今までアストレアやヘルメスの眷属たちのおかげで、村への被害は最小限に抑えられている」
「それでも、『アンタレス』を討つまでこの戦いは終わらない。それに、時間を経るごとに『アンタレス』は力を蓄える」
二柱の神様達の言葉に、みんなの表情に緊張の色が見える。
『アンタレス』の危険性を身を持って知っている人たちは、特に拳に力も入っていた。
「それでも、臆するな!恐れるな!この戦いにおいて、敗北は許されないのだから!」
「───皆の力があれば、この戦いは乗り越えられる。私達はそう確信している。だから───力を合わせましょう」
緊張感に溢れていた人たちの顔が、次には覚悟を決めた人たちの顔になった。
ここには、憂いを持つ人も、臆病風に吹かれた人もいない。
ただ、自分達の勝利を確信している人達が、そこにはいた。
改めて、僕は持ち物の確認をした。
ナイフ、短剣、短杖、魔剣、槍。そして各種回復薬。
それらがちゃんと装備、ないしポーチに入っているのを確認して。
「がんばろう」
そう口にしながら、移動を開始した。
───何処か、嫌な胸騒ぎがしながら。
────
『陽動部隊』と『殲滅部隊』が出てから。
僕達『本隊』は、森の中を移動していた。
昨日よりもモンスターが少ないのは、先行した部隊が既に殆ど倒したからか。
もちろん、モンスターがゼロというわけじゃない。時々現れては、僕達を襲うために飛び掛ってくる。けれど───
「フッ!」
「甘い!」
僕がそれに気づくよりも早く、リオンさんやアリーゼさんがそれを倒す。
僕がここまで蠍型のモンスターに関するもので見たのは、灰になる瞬間だけだった。
───Lv5。第一級冒険者。
圧倒的なまでの早さや状況分析、そして判断力。
全てが圧倒的な彼女たちに、僕は心震えた。
同時に、申し訳なく思う。
どうして僕が『槍』に選ばれたのか、と。
彼女達なら、きっと楽に終わっただろうに、と。
そんな事を思いつつも、僕達は順調に進んでいた。
───進んでいた、んだけど。
僕はずっと気になっていたことを聞くことにした。
「あの、アンドロメダさん・・・・・?」
「なんでしょうか」
僕はアンドロメダさん──アスフィ・アル・アンドロメダさんに話しかけた。
切れ長の目を細めながらこちらを見た彼女の目は、心なしか昨日最後見た時よりも鋭く、そして隈が酷くなっている気がした。
───こんど『睡眠深度向上薬*1』をあげよう、と思いつつ、気になっていたことを聞く。
「あの、なんでヘルメス様は簀巻きになってアンドロメダさんに背負われて・・・・・・?その状態だと血行が悪化するので、やめたほうがいいんじゃ・・・・・?」
───そう。
なんとアンドロメダさんは、己の主神であるはずのヘルメス様を簀巻きにした状態で背負っていたのだ。
腕どころか首から下全てが縄で縛られ、なおかつ口にも布が巻かれて声すらも出せない状態になっている。
涙目でこちらに助けを求める目をしているが、果たして何をしたのか。
そう思っていると「ああ、貴方はいなかったんでしたね」、とアンドロメダさんは何処か遠い目をしながらも納得した様子だった。
(いなかった・・・・・?)
気になりつつも、アンドロメダさんの言葉を待つ。
しばらく何ごとかを考えていた彼女は、何かを決めたかのように大きく頷いた。
「知らないほうがいいです」
「え」
「貴方は知らないほうがいいです。そのままの貴方でいてください」
「は、はい・・・・・?」
それでは、と言いながら、彼女は先を進んだ。
どういう事・・・・・・?と気になりつつも、結局先を急ぐことにした。
なんとなく深入りしたら、ヘルメス様みたいになりそうな気がしたから。
────
しばらく進んでいると、
───旧い遺跡だった。
天に届くのではないか、と錯覚するほどに高く、大きな遺跡。
石造りのそれは、天辺には女神様を模しているのだろう弓矢を構えた石像が建てられていて、まるで天を射るかのように矢を引き絞っていた。
相当古い時代に建てられたのだろうか。その大部分は木の根に掴まれ、まるで大樹の一部になっているかのようだった。
誰も住んでいないことは一目でわかっても、かつては荘厳な雰囲気を纏っていたであろうことが分かるくらいに大きく、そして神聖な建物が、そこにはあった。
───その堀の中の水と、遠目からも大きく見える大樹が毒々しい紫色に染まっていなければ、だが。
「・・・・・・・・行きましょう」
『はい!』
部隊長をしているアリーゼさんもその雰囲気に一瞬圧倒されたようだけど、すぐに気を取り直す。
アルテミス様がついてこれる程度の速さで走り──ヘルメス様はまだ簀巻き状態──ながら、僕達は入り口をくぐり抜けた。
それまでは、たまにではあっても、蠍型のモンスターに何度か奇襲をかけられ、多少は騒がしさがあったのに。
今はそれらが嘘だったみたいに、嫌な静けさに包まれていた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
皆、無言だった。
場は緊張感に包まれていて、いつ襲われても良いように警戒を怠らない。
アルテミス様の話が本当なら、『アンタレス』は『門』の向こう側にいる。
けれど、何処から『眷属』が現れているのか分からない以上、警戒をしておくに越したことはない。
ほとんど会話がない部隊は、しばらく進んで。
───『門』に辿り着いた。
両開きなのだろう。
大きな石造りの扉が、まるで外界を拒絶しているかのようにそびえ立ち、待ち構えていた。
「これが、封印の門・・・・・」
「ああ。そして・・・・・ここから先は、『敵』の巣窟。今まで以上に危険なものとなるだろう」
「・・・・・取り敢えず、皆装備のチェックをしましょう」
何時もの騒がしさが消え、真剣な表情になったアリーゼさんの指示通りに、僕達は改めて確認する。
と言っても、僕やアンドロメダさんは殆ど戦闘を行っていないから、そこまで時間は掛からなかった。
そして───
「───開くぞ」
アルテミス様が、『門』の中心にあった紋様に触れた。
それは三日月を弓に見立てた弓矢のようだった。
───ファミリアのエンブレム?
気になりはしたけれど、すぐにアルテミス様が『神威』を解放した。
普段から人とは異なる雰囲気を漂わせていた彼女が、今はもっと遠い存在のように思えた。
そして、ゴゴゴゴゴ、と重い音を立てて、紋様が回った。
そして、その矢が下を向いた途端、扉が動いた。
こちら側か向こうへと開け放たれるのかと思いきや、スライド式の扉だったことに少し驚きつつ。
門の中にあったのは───
「・・・何だ、これ・・・・・?」
先ほどまでの石造りの姿は、そこにはなかった。
これまでに見た、毒毒しい紫色の植物の根──あるいは筋肉の繊維のようなものが、壁や天井に張り巡らされていた。
それは生き物のようにドクン、ドクンと脈打ち、その管を通って──その先にある白い物体に、『何か』を送っていた。
不気味すぎる現象に、目の前のものが嘘であってほしい、と僕が思っていると。
『────』
──
白い殻と異なる黒の物体が、粘性のある液体を纏いながら地に落ちてきた。
それはしばらくユラユラ、と立ちくらみを起こしたように揺れて───数秒にも満たないうちに、その顔を上げた。
それは昨日、そして道中に遭遇した蠍型のモンスターだった。
漆黒の殻を纏い、ギョロギョロとした一つ目がこちらを見ている。
そこでようやく、ここにあるものの正体が分かった。
───卵だ。
ここにあるもの白い物体は、全てが蠍型の卵。
まるでその答えを肯定するかのように、一体、また一体と蠍が降ってくる。
「───突破するわよ!こんなところで、無駄に消耗するわけには行かないわ!!」
アリーゼさんの号令を受け、僕達は隊列を組む。
前衛をアリーゼさん、中衛にアンドロメダさんとアルテミス様、ヘルメス様、後衛に僕とリオンさん。
アリーゼさんが突破口を開いて、アンドロメダさんがそのサポートと神々の護衛、僕は治療師なので後衛、リオンさんは後ろへの警戒及び魔法による援護。
──そんな即席にしてはバランスのいいパーティ構成でありながらも、僕達の嫌な予感は消えない。
「───【ファイアボルト】!フレイム!」
牽制のために、僕はすぐに火球を五つ打ち出した。
僕よりも後ろに立つリオンさんが息を飲む音がしたけれど、僕はそれを気にすることができない。
ゆったりとカーブを描いた火球は、蠍達に着弾。
生まれたばかりだからなのか、動きが鈍い蠍達は殆どが避けられず、着弾。
小さな爆発を起こしながらも、蠍達が死に絶える。
その攻撃を皮切りに、僕達は速やかに突破──できなかった。
始まりは、アンドロメダさんが投げた魔導具だった。
不思議な色のした液体の入った瓶を投げて、それが着弾して。
蠍の体全体をゆうに覆う程の爆炎がモンスターを包みこんで。それが蠍型のモンスターを焼き焦がす───
「何・・・・・!?」
その動揺が広まるように、蠍達を倒すスピードが落ちていく。
皆が疲れ始めたわけじゃない。
装備の切れ味が落ちたわけでもない。
───モンスターが順応、いや──『進化』しているのだ。
「自己進化に、自己増殖・・・・・この空間にいる奴らは、異常なまでのスピードでそれを成し遂げるのか──!?」
ヘルメス様の驚愕の声も、距離的には近いはずなのに今は聞こえない。
モンスターとの戦闘音が激しくなって、互いの声が聞こえなくなっている。
───このままだと、不味い───!
そんな僕の予感を裏付けるかのように、怪我人が増える。
致命の一撃にはならないにしても、ソレでも怪我であることには変わりない。
リィン、リィン──!という音が数回鳴り響き、すぐに発動する。
回復効果はそこまで高くなくても良い。だから──十秒の蓄力で十分だ。
ここは遺跡内部。音は──反響する。
「【アンジェラス】!」
リィン、リィン──!という安らかな音が、『反響』する。
安らかに鳴り響く鈴の音は、怪我をした人達の傷を癒す。
身体から痛みが消えたことで、冒険者達の意識が攻撃に向く、と───
『────ギ、ギィ・・・・・・』
「・・・・・また?」
───まただ。
昨日もそうだけど、この蠍型のモンスター達は僕の回復魔法を嫌う・・・・・いや、嫌がっている?
兎にも角にも不思議な現象に首を傾げながらも、次々と襲いかかるモンスターを撃退する。
終わりのない戦いに明け暮れたかのように重い疲労感が襲ってくるが、すぐに高等二属性回復薬を飲んで回復する。
回復の波を絶やすわけには行かない。
「ベル君!」
「何ですか!」
「私達のファミリアに入らない!?」
「こんな時に冗談言わないでください!」
「冗談何かじゃないわよ!!」
「・・・・・どっちにしても入りません!僕は医療系志望なので!」
「そっかー!!」
遥か前線から大声でアリーゼさんがかけてきた声に、僕も大声で返す。
恐らく発破をかけるためなんだろうけど、それにしたってもう少しいいものはなかったのか。
そう思いつつも、心強さを感じるのだから厄介だ。
───しばらくして、ようやく。
「【ルミノス・ウィンド】!!」
リオンさんの声と共に、モンスターの大群が止み、つい先ほどまでとは異なり、静寂に包まれた。
僕達がいるのは、通路を進んだ先にある階段前。
そこまでの両側が毒毒しい紫色に染まっているせいで、酷く不気味に見える。
道具の消費量を確認して、ここまでで既に半分も回復薬を使っていることに戦慄していると。
「────っ」
「アルテミス様、大丈夫ですか?」
突然、アルテミス様が胸元を苦しそうに押さえ、しゃがみ込んだ。
昨日の『光の矢』の時と同じ現象に、僕は不安が拭えない。
まさか、また何か────
『──────ァァア!!!!』
───遠くから、咆哮が聞こえた。
それが誰のものなのか、すぐに分かった。
「『アンタレス』・・・」
「近い、ってことね・・・・・進みましょう!」
僕達は、不気味な雰囲気を纏う階段を進む。
薄暗い階段を一歩、また一歩と、警戒を緩めないまま進んでいく。
道中に蠍達が襲いかかってくることを危惧したけれど、全くと言っていいほどに現れなかった。
───嵐の前の静けさ。
出立前に考えたその言葉が、今更蘇る。
(進むごとに、嫌な予感が消えない・・・・・?)
むしろ、強くなっている。
それに困惑と、焦りに包まれて。
まるで真綿で首を絞められているような、言いようのない緊張感がジリジリと迫ってきている。
そして、辿り着く。
階段を抜けた先に、居たのは───
ドクリ、ドクリと脈打つ黒い管。
まるで血管のように脈動するそれが繋がれた先に───大きな蠍が、一匹。
赤いラインが入った黒い外骨格に身を包んだソレは、まるで歓喜するかのように咆哮した。
『──────ギィォォォオオオオオ!!』
よく見れば、その蠍には人間の上半身を模したかのような細長いものが背中辺りから生えていて、咆哮が響く度に震え、仰け反っている。どうやらソレが今の『咆哮』を上げているようだ。
その人型には、三対六本の腕のような器官。
そばで管が踊っている様は、まるで多腕のマリオネットのよう。
気味が悪いほどに不気味な存在感を放つソレが、こちらを見る。
すぐにでも攻撃をするために、僕が武器に手を伸ばそうとした、その時。
バグァ、と粘性の液体を垂らしながら、人の上半身のようなものの上──頭部らしき部分が、花のように開いた。
いつか見た食人花のようなその挙動に、僕はそこに『魔石』があるのか、と思い、そこを見て────固まった。
───青い結晶があった。
漆黒の蠍には似合わないほどに、綺麗な青。
その水晶の中に──最近見慣れてきた、青い髪をした女性が。
服がない事を除けば、その姿はまさに酷似していて。
僕はただ、その名前を呆然と呟くことしかできなかった。
「アルテミス様・・・・・?」
その水晶の中にいる彼女とは別の、そばにいたもう一人のアルテミス様と、目が合った。
その目が、いつか見たようなとても悲しく、申し訳のない──悲痛なものに染まっていることに。
僕は、ようやく気がついた。
ヘルメス様は覗きをしようとしてボコボコにされて、その後一日中そのまま吊るされてました。
主にボコボコにしたのはアストレア・ファミリアの方々ですね。ヘルメス様の目的はアルテミス様とアストレア様の水浴びを覗くことなので。
ベル君がもし覗きのことを知ったら、おじいちゃんが覗きをしようとしたせいでアルフィアさんが家ごと吹き飛ばしたことを思い出して、むしろこの程度で済ませてくれたことを感謝したほうがいいですよ?とか言います。