前も言ったとおりにあまり考えて作ってないので、大目に見ていただければ・・・
木漏れ日が緑と地に光と影のまだら模様を作る中。
開けた森の一部を、切り取ってそのまま持ってきたかのような土地に建つ、家兼お店の中庭にて。
透明なドーム状のソレが、表面から冷気を放っていた。
ある種結界のようにも見える氷の中に、少年と,少年にしか見えない青年のエルフはいた。
青年が指を弾いた瞬間、少年たちを囲む氷から敵が形成される。
兜に、ブレストプレートやグリーブ、ガントレットと、氷でできた騎士の鎧が形成される。
しかし、それらは本来は守るためのものでありながら、肝心の中身が存在していなかった。
中身が空洞であるにも関わらずに違和感がないのは、冷気が人魂のように揺らめいているからなのか、それとも騎士団のようにのように陣形を整え、キビキビと動くからなのか、ベルには判別がつかなかった。
やがて『氷の騎士』とも呼べるそれが形成された数は、8。
それぞれが剣や双剣、槍に斧、槌に盾や大盾と、様々な獲物を携える。
「・・・・・・お願いします」
それが、鍛錬の合図だった。
少年は即座に5回ほど付与魔法を発動させて炎雷をまとい、爆発的な加速を持って騎士団に突っ込む。
接近しつつ雷を放つ、が即座に位置を入れ替えた大盾持ちが防御に入る。
雷が大盾に衝突するよりも早く、防御されることを見越していた少年は、火球を3発放つ。
上と左右に分たれて放たれたそれは、僅かな時間差をもって騎士たちの下へ向かう。
一つは雷を防御する大盾持ちの頭上に、一つは大剣、もう一つは剣を持つ騎士に、とそれぞれに強襲する。
しかし、内二つは少年が思っていたほどの効果は得られなかった。
雷を防御していた大盾持ちは火球により体勢を崩す。ここまでは予定通りだったが、大剣と剣を持ったものたちは炎を叩き切った。
──数日前に行った鍛錬では、切り払うという行動はしていなかったはず。
出鼻をくじかれた少年は、体勢を崩した大盾持ちを通りすがりながらローキックを食らわせ、前に倒れるソレの背後から刺突。
「バースト」
少年が呟いた途端にロングナイフが纏っていた炎が爆発し、それに貫かれていた騎士を粉微塵にする。
それを視界の端で捉えつつ、炎雷を追加してナイフを構える。
前には盾を持った剣士、その左右を斧と槌を持った者たちが立つことで後続の姿が見えない。
と──
「──ッ!?」
自身の本能が警鐘を鳴らした瞬間にその場を退避した少年が見たのは、先ほどまで自身が立っていた場所に突き刺さる氷の矢と頭程の大きさの氷塊だった。
見れば、騎士たちの隙間から弓を持ったものと杖らしきものを構えたものが存在していた。
(──今までの鍛錬だとこれは存在していなかったはず)
いつもだったら
それは少年の成長を促すためか、それとも必要になると踏んだからなのか。
いずれにせよ、早急に後衛を叩かなければ戦いが苦しくなっていくだろう。
──どう対処するべきか。
そう考える少年に、暇は与えんとばかりに前衛の三人が同時に襲いかかる。
「!」
先頭にいたためか、先に接近をしてきた剣持ちが上段から振り下ろして来る中、少年は心中の動揺とは裏腹に、反射的に逆手持ちをしたナイフの刀身で滑らせつつ、剣持ちの左側面へと移動し、左足を軸に回転。
そのままの勢いで右足で蹴りを──
「ッ」
──放つ前に、後ろへステップ。
少年がいた場所に斧が小さなクレーターを作り出す。
さらには息づく間もなく、矢と氷塊が雨のように降りかかる。
「ッ、ウォール!」
左手の杖を上に掲げると、それを中心に炎雷が渦を巻く。
まるで盾、もしくは傘のように広がるそれは、矢と氷塊から少年の体を守る。
(一対一なら勝てるけど、こうも連携されると・・・・・・キツい!!)
矢と氷塊が止んだ瞬間、少年は一度距離を取ろうとし。
──背後から左肩を強打される。
「ガッ!?」
今日初めてのダメージに視界が明滅しながらも、下に向かおうとするエネルギーを利用して前に倒れ込みながら地に両手をつき、跳ねるように両足で背後の敵に蹴りを放つ。
それをすんでのところで回避される、が。
完全に回避しきれていないのであれば──
「バースト!!」
余裕がなくなってきたのか、声が大声になり始める中。
避けられた足裏に炎雷の爆発が起こり、それによって背後にいた敵──槍持ちの両肩が破壊される。
そのまま爆発によって前に向かう力を利用して前転をしつつ、隙だらけの槍持ちに雷を打ち込み、粉砕する。
(これで2つ!あと6つ!)
「【アンジェラス】!」
肩の痛みを軽減するために治癒魔法を3回ほど発動する。
リリリン、と左肩に連続で鈴の音が鳴り響くのを聞きながら、痛みが消えたのを確認し、駆け出す。
背後に後衛の攻撃が突き刺さるのを確認しながら、ジグザグに、かつ幅もバラバラにして捉えられづらくしながら、少年は自身の手札でどうやって突破するかを考える。
(フレイムもサンダーも、あの陣形を崩すには至らない。ナイフも体術も連携で潰される)
考える暇など与えない、と言わんばかりに今度は双剣使いが左右から挟み込むかのように斬りかかる。
スライディングをして懐に潜り込み、そのままナイフを──
「くっ」
──そんなことなど見抜いている、と言わんばかりに氷同士がぶつかるゴリゴリ、とした音を響かせながら足を踏みつけられそうになる。
それを地面についた左側の足裏と背中、左手の炎を爆発させ、無理やり横に転がる。
ゴロゴロと横に転がりながら双剣の突き刺しを回避しつつ、牽制のために炎と雷をばらまく。
ある程度離れた位置に転がったら上体を起こし、後ろに飛ぶようにステップしながら追撃の遠距離攻撃を回避する。
「ベル」
「!」
息が上がり始めたベルに、鍛錬が始まってから初めてフォスが声を掛ける。
タイム、ということだろう。
氷の騎士たちも動きを止めていた。
「お前は付与魔法の応用で遠距離もできる、が、肝心の火力が足りない。だからランクアップをするか魔力のアビリティが上がるまでは、今回みたいに牽制でしか使えない場面も来るだろう」
「ハァ・・・ふぅ・・・・・・、っうん。今、すごく火力不足を実感してる」
ベルの現在の戦い方は魔法を仕える前衛と魔法剣士の間程度の完成度だ。
通常の前衛程の剣術を扱え、魔法も多く使え、治癒魔法も使える万能型ではある。
の、だが。無詠唱故か、肝心の魔法の規模が小さい。
魔法種族とは異なり、恩恵を得る前の素の魔力も、エルフの多くが有する魔法威力向上系のスキルもない。
故に魔法剣士と呼べるほどに火力がない、かと言って魔法を使える前衛よりも魔法が扱える、と中途半端な結果になっているのだ。
「そうだな、お前の魔法はどちらも無詠唱。付与魔法もそうだが、連続で何度も魔法が発動できるのが強みではあるが、このままでは未だLv1のお前では火力不足は消えないだろう」
「・・・・・・うん」
逆に言えばランクアップをすればするほど強くなる、とも言えるのだがかと言って火力がなければ肝心の偉業を成すこともできない。
まさに服を買いに行く用の服がない状態だ。
「故に、お前の火力が足りない問題を解決する方法がない・・・・・・と、いいたいが」
「?」
無表情だった義祖父が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
何故そんな顔をするのか分からないベルは首を傾げる。
「正直に言えば、これは使わない状況であればいいんだが…そうも言ってられないだろう。私の占いによれば、お前にはもうすぐ超えるべき壁が現れると出ているからな」
「え、と・・・すごくリスクがある、ってこと?」
「それもあるんだが・・・多分、これを使うだけでお前の腕が焼け焦げるだろうからな・・・いくら治癒魔法を使えるとはいえ、痛みはあるんだ」
すごく辛いぞ、と。
こちらを心配そうに覗き込む義祖父の気遣う姿に、ベルは覚悟を決める。
「教えて、お義祖父ちゃん」
「いいのか?すごく痛いぞ。・・・・・・炎雷じゃなく、ダンジョンの娘みたいな風の属性とかだったら、痛みは無かっただろうになぁ・・・」
「・・・?」
「・・・何でもない。やり方を教えよう」
「う、うん!」
アレを的にしよう、と先ほどまで戦っていた氷の騎士を指差す。
すると、剣と盾持ち以外の騎士たちが左右に分かれ、剣持ちは盾を構え、防御姿勢をとる。
「あの盾ごと貫ければ十分、とするか」
「が、頑張る!」
「よし。ならまずは付与魔法を・・・確か10回までの重ね掛けはコントロールできるんだったか?」
「うん。ただ、コントロールを考えないならそれ以降もできるけど・・・」
「そこまではいい。最悪片手が焼失するぞ」
焼失。
その様を想像して、少年は思わず苦い顔をする。
切り落とされる痛みならまだしも、焼失はどんな痛みを伴うのか──考えたくもない。
「まずは付与魔法を限界まで使え」
「う、うん。──【ファイアボルト】」
話に集中していたためか、いつの間にか消えていた炎雷を都合10回重ねる。
身体の表面に薄く渦巻いていた炎雷がはっきりと視認できる程に、密度が濃くなる。
赤い炎がベルを中心に竜が渦を巻いているかのように荒れ狂い、その渦の中を黄色い光が暴れまわる。
まさにギリギリのコントロールに汗を浮かべてはそれが炎によってすぐに蒸発するのを感じながら、次の指示を待つ。
「次に、それを右手か左手、どちらでもいい。全部を集めろ」
「──、え?全、部?」
「ああ、全部だ」
「・・・・・・・・・・・・わかった」
全部集めた──それも限界ギリギリまで付与魔法を使った──炎雷は熱いし痛いのだが、仕方がない。
普段であれば何時でも逃げれるように足元の炎雷は残すのだが。
しょうがなくコントロールが難しくなっている炎雷に意識を集中させ、少しずつ左手に集める。
左手を選んだのは、普段から短杖を持っているし、火球等も基本的に杖──正確には杖にまとわりつく炎雷──から出すことが多いからだ。ナイフだと溶ける可能性があるし。
すぐにでも爆発しそうになる炎雷を抑え込みつつ、ゆっくりと全身の炎雷が薄れ、左腕に集まる。
(──痛い痛い痛い!熱い熱い熱い!やばいこれ左手が焦げる!焼けて消える!)
炎と雷が、ベルの耐久が低かった頃のように蝕む。
炎が腕の表面を焦がし、雷も腕の内側を焦がさんと暴れまわる。
思わず叫びだしそうになるのを堪え、必死に魔法をコントロールし、時々治癒魔法を発動して火傷を治す。
──一分程かかり、ようやくすべての炎雷が左手に集まる。
「うん、いい感じだな」
「ハァ・・・・・・ハァ・・・ッ。今更だけど、最初から10回じゃなくて、数回から始めたほうが良かったんじゃ・・・」
「仕方ないだろう?お前は追い込まれないと成長が遅いんだ。呪うなら自身の才の無さを呪いなさい」
「酷い!って、わわわ!」
思わず叫んで炎雷が暴発しそうになるのを、必死に抑える。
幸い暴発はしなかったので、思わず胸をなで下ろす。
「さて。そのまま集めたソレをできるだけ圧縮して、的に向かって発射してみなさい」
「・・・っ!!はい!!」
大きく返事をして、気合を高める。
そのまま暴発しないよう、慎重に腕を上げ…短杖を騎士に向ける。
狙いを定めながら、可能な限り炎雷を圧縮する。
風船のように圧縮しては別の箇所が膨らむそれを無理やりに抑え込み、少しずつ圧縮していく。
「──いまだ、打て!」
「────ッ!!!!!」
いつものように適当な魔法名等を呟くことすらなく、魔法が発射される。
ベルの腕と短杖に圧縮されたそれは、発射とともにベルの身長の半分程の大きさに膨れ上がる。
それは魔導士の砲撃のように一直線に突き進み、騎士の姿を飲み込んでいった。
──やがて。
砲撃が止んだあとには、騎士の姿はなく。
それどころか、騎士のいた場所からほんの少し後ろの地面を削り取っていた。
少年が左腕を降ろそうとすると痛みが走る。
慌てて見ると、左腕の袖は消え、やけどの跡が痛々しく残っていた。
「──やっぱり、火傷は負ってしまうか」
「・・・・・・うん。それに威力はすごいけど、発射までにどうしても無防備になるね。もっと制御しやすい範囲なら安定するんだろうけど、ソレだと威力が低いだろうし・・・そこは練習あるのみ、かな」
「そうだな・・・ほら、腕を見せなさい」
義祖父に言われるまま腕を差し出すと、そこに液体を振りかけられる。
すると、先ほどまでの火傷が嘘のように消え、先程の惨状など嘘であったかのように綺麗な肌が現れる。
「・・・・・・ねえ、お義祖父ちゃん」
「うん?」
「今使ったのって、万能薬だよね?すっっっごく、高いやつだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。今日はここまでにしよう。今日は確かホームに行くんだったか?気を付けて行きなさい」
「お義祖父ちゃん?ねえ、お義祖父ちゃん?僕の質問に答えてほしいんだけど・・・お義祖父ちゃん!?・・・・・・お義祖父ちゃーーん!!??」
もったいないでしょーーー!!!お義母さんに言うよーーー!!!!
そう叫ぶ少年から逃げるように、青年はせっせと結界を解いて家に入っていった。
〜今更ながらベルくんの使う疑似スペルキー紹介〜
◯フレイム
・掌大の火球を打ち出す技
・火球の数は自由だが、その分付与魔法の炎が薄れる欠点あり
◯サンダー
・雷を真っ直ぐに打ち出す技
・挙動は原作のファイアボルトに近い
・早い、痺れる、扱いやすい、と牽制にはもってこいだが、フレイムと同じく、使うほどに雷が薄れる
◯バースト
・手や足等の炎雷を纏った場所を爆発させる技
・これによってあまり力を入れずとも敵を粉砕できる──が、ナイフでこれをやって壊したことがある。怒られた
◯ウォール
・炎雷を一箇所に集めて渦を作ることで、盾になる技
・なお物理防御力はなく、今回みたいな魔法等の遠距離専用の防御技となる
・矢の場合は基本的に火力で溶かして守る
・これは受け止めた魔法を打ち消すもので、残った炎雷をそのまま打ち出すこともできる