もしかしたら一日投稿できない・・・・・・あるいはかなり遅くなる場合があるかもしれません。
すみません。
急にロキに呼び出され、「アイズたんが24階層に行ったそうだから、急いで迎えに行ってやー」、という少し雑な命令を受け。
レフィーヤとベートは、フィルヴィスというエルフを加え、三人で中層へと向かう。
───しかし。
これほどまでに『疲れる』と思ったパーティは、初めてかもしれない。
少女──レフィーヤ・ウィリディスがそう思うほどに、目の前の二人は『苛烈』だった。
肉体的にも、精神的にも、である。
例えば。先程など次々と現れるモンスターを前に、少女が杖を構えた───瞬間。
まさに少女の視界には何も映らないほどの速度で蹂躙した件の二人は、そんなことなど珍しくもない、とでもいうように、何食わぬ顔で前を進む。
このパーティの中で一番レベルの低く、何よりも魔導士──後衛である少女は、涼しい顔で走る二人に置いていかれないようにするのに必死だった。
ようやく休憩に入り、水や食料を食べる時間になったとしても───
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・うぅ・・・」
───無言だった。
言葉でも態度でも、一切のやり取りを見せない二人は、ある意味では息がピッタリで。
反対に、その無言の時間が苦痛な少女の心を、ジワジワと蝕んでいく。
「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・きょ、今日はいい天気ですねー・・・・・・?」
「ダンジョンにいい天気も糞もあるか」
「・・・・・・休憩はできたか?なら、すぐに出発するぞ」
「・・・・・・ひぐぅ・・・・・・」
まさに彼の健脚のように、レフィーヤの話題をにべもなく一蹴するベート。
そして、そんな二人の様子を見て休憩が必要十分であると判断したフィルヴィスが、追い打ちをかけるかのように出発を促す。
悲鳴にも近いうめき声を上げることしかできず、少女は再び二人に食らいつくかのように走り続け───ようやく、18階層へと辿り着いた。
「まずはリヴィラで情報収集。そして、それを元に24階層へと向かう。それでいいな?」
その言葉を受け、ようやく会話らしい会話ができそうな機会が訪れたことに、レフィーヤは息を切らしながら喜び。
・・・・・・ベートは、
心底不愉快だという色を一切隠さず、眉間に皺を寄せて口汚く煽る。
「なんでテメェが仕切ってんだよ、陰険妖精」
「貴様がいつまでも同胞に説明しないからだろう、下賤な狼人。道中に会話する余地はあったはずだが?」
「──ハッ。テメェが話せば良かったんじゃねえか。全然喋んねぇから喋ることもできねぇかとも思ったが・・・・・・なんだ、喋れるンじゃねえか。なら、そのまま挽歌でもモンスター相手に魔法ってろよ、陰険」
「貴様───!!」
「や、やめてください、お二人とも!!」
口を開けばベートが噛みつき、それを受けてフィルヴィスが噛みつき返すかのように罵倒する。
売り言葉に買い言葉の応酬は、レフィーヤが介入しても収まらず。
結局、三人は自然とバラバラに動き出し、情報収集へと向かった。
「どうして・・・・・・どうしてこんなことに・・・・・・」
身も心も疲れそうな程に縮こまる彼女は、それでも少しでもパーティに貢献しようと、情報収集に勤しむ。
次々と話しかけては断片的に集まる話をまとめると、『アイズが正体を隠した集団と行動を共にし、さらには街で様々な道具を購入していった』、ということは分かった。
それ以外に情報は無いか、とさらに探りをいれると・・・・・・"意外な人物"の話を聞けた。
「関係あるのかは知らないけど、『鐘兎』が彼女と一緒にいたのは見たよ」
「『鐘兎』・・・・・・ベル・クラネルさんですか?」
「ああ」、と頷くアマゾネスの女性は、続けて説明してくれる。
なんでも、彼はリヴィラの街にいる怪我人をその回復魔法で次々と癒し、さらにはポーションの譲渡等をしていたそうだ。
そうして『治療』を終えた彼は、アイズ達と共にリヴィラを出たのだとか。
思わぬ人物の登場に少女は驚きつつ、心配の念が押し寄せてきた。
少女が目にする時の少年は、かなり余裕がない状況であることが多い。
『怪物祭』の時も、そして『リヴィラでの戦い』の時も、少女の目に映る彼は、度重なるスキルや魔法の使用による消耗でフラフラだった。
(そんな彼が、無茶をしないはずがない・・・・・・)
何より、彼はまだLv2。
いくらアイズがいて、さらには彼が治療師なのだとしても、19階層以降は厳しい部分もあるはずだ。
それを認識して、さらに不安や心配が溢れてくるのを抑え。
聞き取りを、リヴィラの元締め───『ボールス・エルダー』にも行った。
情報料を求める彼に、途中から現れたベートが脅しをかけることで、ようやく情報らしい情報が出てきた。
「【剣姫】とつるんでいた連中が、陽動用の血肉と隠蔽布を買い上げていったそうです」
「血肉・・・・・・モンスターを引き付ける、あの・・・・・・?それじゃあ、アイズさん達が向かったのは・・・・・・」
「食料庫か」
ボールスの言葉に当たりをつけたレフィーヤの言葉の続きを、ベートが引き継ぐ。
モンスターの食欲を刺激して誘き寄せる血肉に、階層ごとに合った色を選択することで周囲の風景と同化することによってモンスターの索敵を撒くことができる隠蔽布。
どちらも食料庫に行く際によく用いられる道具。
このことから、アイズ達は食料庫に向かったのだと、二人は理解した。
「他に情報はありませんか?」
「他に、つったってなぁ・・・・・・そんなに俺も何でもかんでも知ってるわけじゃねえんだぞ?」
「何でもいいんです。それこそ、アイズさん達と一緒にいた人の話でも」
「『剣姫』と?ああ〜・・・・・・、ああ、一人いたな。『鐘兎』」
ベートはもう知りたいことは知れた、とばかりに離れていくのを尻目に。
また出てきた『鐘兎』──ベルの情報を前に、レフィーヤは何も身構えていなかった。
精々がアイズの付き添いや、それこそ彼が治療したと言われた人達の様子を───感謝しているだろう様子を言われるのだろう、と。
そう思っていたがために───一切、身構えていなかったのだ。
「ありゃ酷かったなぁ・・・・・・
「・・・・・・ば、とう?」
言われたことの意味を、レフィーヤは理解できなかった。
───罵倒?誰を?・・・・・・クラネルさんを?自分達を、治療してくれた人を?
何も分からずに呆然とする彼女を他所に、ボールスは続ける。
「24階層でのモンスターの氾濫が起きたせいで体の一部を失ったやつ、パーティのメンバーを失った奴。いろんなやつが、『鐘兎』を罵倒した」
「『『鐘兎』なんてちやほやされてるお前なんかに分かるか!』『お前が治療師なんだってんなら俺の腕を治せよ!』『このインチキ治療師!』なんて、冒険者達が口々に罵倒し続けたんだ」
言っていて、ボールスも理不尽だと思っていたのだろう。
目は細められ、眉は吊り上がり、口もへの字に曲がり。
明らかに不機嫌の色を出すボールスに、レフィーヤは同意する。
冒険者は、例え怪我をしたり──それこそ、体を欠損したり・・・・・・死んだりしても。"冒険者は生きるも死ぬも、それ以外も。全て自己責任"だ。
怪我を治療しようと手を尽くしている人を罵倒するなど、いくら荒くれだらけの冒険者であろうと許されるものではない。
ましてや誇り高いエルフである少女からすれば、余計にありえないことだ。
───が、同時に。
自分が同じ立場だと、彼らと同じことをするのかどうのか分からないが故に、何も言えない。
感情だけが、虚しく吹き荒れるだけだ。
「だがな、そんな冒険者達の罵倒を────あいつは、受け止めやがったんだ」
「──っ」
「ごめんなさい、すみません、大丈夫ですか?ってな。罵倒されても、それこそひでえ奴には殴られたりしたのに。あいつ、平気な顔して治療してやがった」
───その光景を、レフィーヤは容易に想像できてしまう。
付き合いは短いし、何よりそこまで人物像に詳しいわけでもないのに。
彼は、そんなふうに人の悪意を受け止めてしまう───我慢出来ているように見えてしまう。
何故か、心が───魂が。
そんなふうに、彼のことを理解している気がした。
「そして、怪我人の治療を終えたらすぐに『剣姫』達と消えた。俺が知ってるのは此処までだな」
「・・・・・・・・・ありがとうございます」
お礼を言いつつ、レフィーヤは去ろうとして、ベートが足を止めていたのが目に入った。
何かあったのだろうか?と疑問に思う少女は、「まあいっか」、とその場を去ろうとする。
そして、レフィーヤ達が去る方向にボールスが目を向け───少し離れた場所にいるフィルヴィスの姿を捉え、驚きの声を上げる。
「・・・・・・なんで死妖精がこんなとこにいるんだ・・・・・・?」
「死妖精・・・・・・?」
フィルヴィスさんの二つ名かな、と少女は思ったが、それほどまでに酷い二つ名を神々が付けるだろうか・・・・・・?と首を傾げるレフィーヤに、ボールスが説明する。
「死妖精ってのは二つ名じゃねえ。冒険者達が勝手に呼んでるだけで・・・・・・あいつの二つ名は別にある」
「勝手に、呼んでる・・・・・・?」
「ああ」、とボールスは頷く。
その顔は、恐ろしいものを見るような目をしていて。
そんな目で、フィルヴィスを見ていた。
「六年前になるんだがな。その時にあいつのファミリアの連中、皆死んじまったんだ」
「え・・・・・・」
嫌なものを思い出したのか、彼の顔は苦虫を噛み潰したようにしかめられていた。
レフィーヤは突然の情報に驚き、絶句することしかできない。
「『ディース姉妹』、って知ってるか?」
「名前くらいなら・・・・・・」
───ディース姉妹。
それは『暗黒期』において、
高潔なエルフにあるまじき格好や性格をしている、『妖魔』とも言われた二人組。
何よりも当時Lv5の能力値と高い連携力を持っていたことで、殆どの冒険者達が彼女達に太刀打ちできなかったのだとか。
そんな二人の目撃情報も
「そいつらのせいで、あいつのパーティが全滅したんだ。・・・・・・あいつを除いてな」
その言葉を聞いて、レフィーヤはどんな表情を浮かべていたのだろうか。
急に流し込まれた情報によって急激に冷やされた彼女の脳は、遠ざかって行くはずだったベートの足音が止まる音を、耳で捉えた。
「まあ、それはいいんだ。あの『暗黒期』の中で、そんな話はごまんとあった。"その一年後くらいに闇派閥が全滅"したし、それで一件落着で終わった。ただ───」
「大体そのくらいの時だったか、それとも、もう少し後だったか?あいつ、狂ったようにモンスターを殺しまくるようになった。それこそ、『剣姫』みてえにな」
唐突にアイズの名前を出されて一瞬混乱したレフィーヤは、すぐに言葉の意味を理解した。
狂ったようにモンスターを切りまくり、そして返り血に塗れた姿を見た人々が、二つ名以外に『畏怖』の念を込めて言い出したもの───『戦鬼』。
───二人は、美しいところだけでなく、そんなところまで似てるのか、と。
レフィーヤは、内心で何処か納得したような気持ちになる。
「怪我や返り血、そしてボロボロの装備。まるで死人みてえな面をしてるあいつを見て、誰が言い出したのか『死妖精』って言い出した」
「まるで、仲間たちの元に行きてえかのように、でも死にたくないつってるように───贖罪みてえに。死臭を漂わせながら次々戦いを求めてる姿に、皆怖がってんだよ。だから、誰もあいつとパーティを組みたがらねえ」
「そんな・・・・・・」
「一部のやつなんかは『好きな人に振り向いてもらうためなんじゃねえの?』とかなんとか狂ったこと言ってやがったがな。あんな戦いを求めるような奴を欲しがる奴が、何処に居やがるってんだ」
教えられた二つの情報を前に、レフィーヤは狼狽えるばかり。
何も言えず、何も分からず、何もしてあげられず。
どちらも知り合ったばかりで、そこまで深い仲でもない。
それでも───
「そんなの───」
酷い。
そんな言葉を飲み込みながらも、レフィーヤは何がしてあげられるだろう、と。
二人のためにできることが無いか、考える。
「───ハッ。特に面白みも何もねえ話だったな」
「ベートさん・・・・・・」
「自分達の尻もろくに拭けねえ雑魚、力を持たなかったから奪われた雑魚。そして、そんな弱い自分を傷みつける雑魚」
「勘違いした奴らの末路、って奴だ。全く笑えるぜ」
「そんな言い方・・・・・・」
「事実だ。お前もいつかそうなるんじゃねえか?」
嘲笑うかのように口端を吊り上げるベートに、レフィーヤは強く否定する材料がない。
怪我人を治療したのに拒否された少年。
仲間が死んで、狂ったように戦う少女。
どちらも悲しくて、感情がついていかなくて──思考が纏まらなくて。
言いたいことは言った、とばかりに離れていくベートについていくことしかできないのが、なんだか彼の考えに同調しているかのようで。
───それが、とても気持ち悪い。
※ フィルヴィスさんに関しては本当に好きな人に振り向いて欲しいから『強さ』を求めただけなんです。傍から見たら死に急いでるように見えるだけで。
ベル君、急に罵倒される。
まあ、人の感情は理屈じゃありませんからね。仕方ないですね。