さて。最近は本当に気候が不安定ですが、皆様熱中症にはお気をつけください。
「お、白樹の葉。アスフィ、ちょっと採取していかないか?」
「止めなさい。取りに行ってモンスターに囲まれるのが落ちです。依頼の前に無駄な労力を──「行ってきます!!!」──ベル・クラネル!!??」
「戻りました!!」
「早!!しかもカバンがパンパンになってる!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」
通路から広間の奥にたたずむ白大樹を発見し、すぐにでも行こうと提案するルルネを、アスフィが咎める──前に。
ベルがすぐに炎雷を纏い、その場から姿が掻き消え。
次の瞬間には、それまでは薄かったカバンがパンパンになるほどに白樹の葉が詰め込まれた状態で、元いた位置に戻っていた。
樹が立っていた方を見れば、モンスター達も何が起きたのか認識できておらず、暫く葉が少なくなったことに首を傾げつつも、すぐに持ち場へと戻っていった。
モンスター達がこちらに来なかったことに安堵しつつ、いくらなんでも独断をしすぎたベルに注意をしよう───とも思ったが。
彼の本職が『治療師』である以前に『薬師』であることを思い出したアスフィは、同じ道具の『製作者』として暫く悩み・・・・・・その末に、ため息一つで許した。
───無論、以降は許すつもりはないが。
そんなトラブルがありつつも、パーティは順調に進んでいた。
道中に戦闘こそあったが、それでもアイズはもちろん、ベルも治療師の仕事を一切することなく進めている。
『ズレ』を直したときの我儘を聞いてくれた以上、可能な限りの手助けをしたいのだが、中々その機会に恵まれず。
怪我人が出ないこと自体は嬉しいが、仕事が一切できていない事に、すこし申し訳なさを少年が感じ始めた頃。
「全員、止まってください」
───アスフィが片腕を上げ、パーティ全員を制止する。
その先から感じる気配に皆が警戒心をあらわにし、可能な限り気配を消し、ゆっくりと谷の先を覗き込む。
そこには、
「ハハッモンスターが蟻のようだ・・・・・・帰りたい」
「食料庫までの道のりが見えた途端にこれかよ・・・・・・」
エルフの青年と小人族が嘆く中。
ルルネがアスフィに「どうする?」と判断を仰ぐ。
「・・・・・・どうせ依頼の内容的に駆除しなければなりません。行きますよ」
これから待ち受けるであろう苦労を考え、アスフィの顔がゆがむ中。
彼女がパーティへと指示を出そうとしたときに、アイズが待ったをかける。
少女の目には、強い意志があった。
「私に行かせて」
「は?え、待ってくださ────ああ、もう!ベル・クラネルと貴方は姉弟ですか!?人の話を聞きなさい!!」
アスフィが止めようとするも意味がなく。
少女は崖を飛び降り、モンスターの大群の中央へと降り立った。
───尚、アスフィの叫びを聞いた少年は、少し肩を縮こませたが。
モンスター達が少女を蹂躙しようと殺到するが──
「ふっ!」
───それらすべてを一太刀で斬り伏せた。
一瞬の内に複数のモンスターを打ち払った事に何の感動も抱かず、少女も先の少年と同じように『ズレ』の修正へと取り掛かる。
力加減、足運び、何より体力。
全ての『ズレ』を修正し、最適な動きへと体を馴染ませる。
Lv6へと至った少女からすれば、この階層に存在するモンスターの攻撃は致命傷たり得ない。
故に緊張感はないが──
(それでも、場数はある)
もはや攻撃や防御をしているモンスターのそれらを上から斬り伏せ、尽くを狩り尽くす。
『剣姫』の名にそぐわない程の力技を発揮するアイズの姿を、ベルと【ヘルメス・ファミリア】の面々は認識することが難しい。
隔絶しすぎたレベル差によって速さも何も違いすぎて、彼らには気付いたらモンスターが倒されていることだけが分かる。
「すごい・・・・・・すごすぎて、具体的な凄さがあんまり伝わってきませんけど」
「・・・・・・もう全部彼女一人で良いんじゃないですかね?」
「・・・・・・帰っちゃう?」
「そういうわけにはいかないでしょう・・・・・・」
凄まじい戦闘を前に、ベルは感嘆とし。【ヘルメス・ファミリア】の面々が泣き言を漏らし、それをアスフィが諌める。
けれど、彼女も皆の気持ちがわからないわけではなかった。
視界の中には、一切のダメージを受けることなく一方的な蹂躙を繰り広げる少女。
それを前にして自信を持て、というのはいくらなんでも酷だろう。
「・・・・・・・・・!」
「ベル・クラネル?なにを───」
何かに気付いた少年が、崖を滑り落ちていく。
彼の目は真っ直ぐに向けられており、その先にあったのは──
「───逃げ遅れた、冒険者の遺体」
彼の視界に映るのは、アイズが斬り殺した怪物の灰から出てきた、冒険者の遺体。
その身体は噛まれた跡やぐちゃぐちゃになった四肢、あるいは半身だけであったり等々。
モンスターに蹂躙された者の末路を示すかのように、地面に転がっていた。
『モンスターに食い荒らされて、ぐちゃぐちゃにされて───』
「────ッ」
尊敬するファミリアの先輩の言葉を思い出し、息を詰まらせる。
以前よりは血への恐怖が現れなくなったが、それでもなくなったわけでもない。
乱れそうになる呼吸を落ち着かせるために深呼吸をする。
心臓こそ少しバクバクとしているが落ち着きを取り戻し──すぐに歯噛みした。
可能であれば、すぐにでも遺体を持ち帰り、地上へと送り届けて『家族』あるいは『ファミリア』の元へと返してあげたい。
しかし、今は冒険者依頼の真っ最中。
彼らを送り届けることができないだけでなく、放置するしかないという『現実』を前に、少年は自身の無力さと、やるせなさに包まれた。
やがて戦闘が終わったのか、アイズが少年の元ヘとやって来た。
「・・・・・・ベル?大丈、夫?」
「・・・・ヴァレンシュタインさん。はい、大丈夫ですよ」
可能な限り先程の感傷を奥底へと押し込め、無理矢理にでも笑みを浮かべる。
しかし、ここに来る前に彼の表情を見た少女からすれば、それは空虚なものにしか見えない。
コミュニケーションが得意とは言えないアイズでは、彼にどう接すればいいのか分からずオロオロとし。とりあえず、と彼女はベルが見ていた遺体の前にしゃがみ込み、祈りを捧げるように手を合わせた。
それを見て驚いたベルは、すぐに真似るように手を合わせる。
冒険者達の安らかな眠りを祈る彼らの時間は、【ヘルメス・ファミリア】の面々が降りてくるまで続いた。
────
パーティの皆が協力して、モンスターの魔石やドロップアイテムを回収し終え。
彼らは気を取り直し、北にある食料庫バントリーへと向かっていた。
24階層においての食料庫は北の他に南西や南東の計三ヶ所にある。
三カ所あるうちの北に進むのは───
「食料庫が大量発生の端を発しているというのなら、モンスターが押し寄せる方面へと向かえば、その近辺に恐らく原因があるはず」
───というアスフィの説明に全員が納得して従い、結果北から押し寄せてきたことが分かったからである。
現在はアイズを前衛に──先程の戦闘を見て、アスフィが速さを求めるのならそうした方がいいと判断──しつつ、地図を持つルルネが先導して道を歩んでいた。
判断が正しいことを示すかのように、断続的にモンスターの群れが押し寄せ、その度にアイズがすぐに殲滅する。
連戦に見兼ねたサポーターの少女──確かメリーというヒューマン──から渡される回復薬で体力を回復しつつ、先を歩む。
───そして、ある時を境に景色に変化が訪れる。
大樹の如き樹皮の天井や壁面が、岩場のようなでこぼことした構造となり。色は薄赤色で、まるで洞窟のような様相へと変化していた。
食料庫が近付いてきた証拠であるそれを見て、彼らの警戒度はさらに上がった。
この先に待ち受けるものへの緊張で心臓がバクバクする中、皆は一歩一歩しっかりと歩む。
そうして、緊張感が増す中───
「なっ・・・・・・」
───冒険者達は、それを目撃した。
「これは・・・・・・」
「・・・・・・植物?」
道を塞ぐかのように緑色の壁がせり立っており、あらゆるものの侵入を防いでいた。
緑色のそれはヌメリとした光沢があり、ぶよぶよとした膨れ上がった表面は、少年の目には筋肉のように見えた。
(『アンタレス』の影響で変化した神殿みたいだ・・・・・・)とベルが思っていると、アスフィの指示で虎人とエルフの二人がそれぞれ5人ずつ【ヘルメス・ファミリア】のメンバーを連れ、予備の地図を手に元来た道を戻り、他の経路が無いかを調査に行った。
「・・・・・・今のうちに『調合』しときますね」
「お願いします」
特にやることが思いつかなかったベルは、魔法で火を起こしながら鍋と調合道具を取り出し、先ほど採取した白樹の葉の一部を使用した回復薬の『調合』を開始する。
『肉壁』から漂う異臭──腐臭と『調合』の際の薬品の香りが混ざり、より気持ち悪い匂いへと変化する。
鼻がいい犬人のルルネは、絶対に嗅ぎたくない、という意思を示すかのように鼻を全力で押さえている。
アイズは初めて見る『調合』の様子に興味津々に見つつ、アスフィとともに周囲の観察、及び調査を続ける。
「アスフィ、戻った」
「どうでしたか」
他の経路の調査に行ったファルガー達が戻り情報共有をすると、やはり他の道も目の前の『肉壁』と同じようなものに塞がれているそうだ。
情報を整理して考えがまとまったアスフィは、自身の推論を口にする。
「あのモンスターの大群は異常事態・・・・・・ダンジョンから急激に産み落とされた類のものではないようです」
曰く、食料庫へと腹を空かせたモンスターが階層中から集められたが、その経路が眼前の『肉壁』によって閉ざされたが故に他の食料庫へと
そして、だからこそ───
「・・・・・・この肉壁は、どうして発生したんでしょうか?」
「・・・・・・それも、調査するしかないのでしょうね」
ベルの質問に何処か諦めたかのように答えたアスフィの言葉に、ルルネが「うぇ〜・・・」と嫌そうに肩を落とし、そしてすぐに意識を切り替えた。
「ひとまず、ここから先を行かなきゃなんだけどさ・・・・・・どうする?これ。一応、『門』みたいなやつはあるけどさ」
ルルネが指さす先には、複数の花が重なったような『門』・・・あるいは『口』と言えるものが存在していた。
そこが開けば、何もせずとも中に入れるのだろうが・・・・・・今のところ、微動だにしていない。
「・・・・・・やはり、『肉壁』を破壊するしかなさそうですね」
触れればブヨン、という感触と共にドクリ、ドクリと脈動する壁。
それは構造的にも、そしてモンスターたちが攻撃しても壊れなかったのであろうという事実的にも分厚いことが分かる肉壁を、アスフィは注視する。
「斬りますか?」
「焼き貫きますか?」
「あんたら、やっぱりさっきアスフィが言ったとおりに姉弟なんじゃねえか?しかも結構物騒だし」
アイズが剣を、ベルが短杖を構えると、ルルネが呆れたような視線を送る。
「アスフィ、メリルにやらせたらどうだ?」
「・・・・・・そうですね。炎が有効かどうかを調べたいですし・・・・・・それに、何が起こるか分からない以上、治療師の精神力を消費したくありません」
「でっかいほうですか?」
「はい、詠唱をお願いします」
とんがり帽子をぴょこぴょこと揺らす小人族の少女が、杖を前に構えながら詠唱を開始する。
足元には魔法円が展開されていて、『魔導』のアビリティを持っている事が伺える。
「メリルは『魔導』を習得してるんだ。珍しいだろ、小人族の上級魔導士なんてさ」
小人族の少年──ポックが、ベルとアイズに話しかける。
「未来を嘱望される才能ある小人族ってわけ。・・・・・・俺達とは違ってな」
自嘲するかのように、あるいは羨ましがるように、ポックは笑みを浮かべる。
「気づいてんだろ?前衛・中衛の中でオレらだけがLv2だって」
「・・・・・・え、っと・・・・・・」
「Lv2になってるだけ、凄いと思いますよ」
「そんなのは何の慰めにもなんねえよ。特に、世界最速兎の言葉なんかはな」
「・・・・・・えっと・・・・・・」
アイズが言葉に詰まり、ベルは反論をする──が。すぐに切り捨てられ、むしろベルには言われたくない、と言外に告げられ、ベルもアイズと同じように言葉に詰まった。
「オレらと違って、メリルは替えの利かない小人族だ。この先はあいつに付けよ」
「「・・・・・・」」
「・・・・・・ま、剣姫んとこの団長さん程じゃないけどな」
「フィンを知ってるの?」
「知らない小人族がいるかよ」
「小人族じゃなくても知らない人はいないと思いますよ?」
イマイチ常識に疎いアイズが質問をすれば、ポックだけでなくベルも──別にベルも常識に富んでるわけでもないが──答えた。
二人から総スカンにあい、少し視線を逸らすアイズを他所に、ポックは地面に突き刺していたメイスを蹴り、肩に担いだ。
「どんだけ才能に恵まれてたんだか知らねーけど、勝手に小人族の英雄みたいになりやがって。頼んでねぇっつーの」
「小人族でもやればできるみたいなことをされると、まるでオレ達が何もしてこなかったみてえじゃねーか」
「・・・あの・・・・・・もしかして、フィンのこと・・・・・・嫌い?」
不貞腐れたかのように目線を逸らしながら告げた言葉に、アイズはフィンを嫌っているのかな、と思い質問した。
唐突に振られた質問に、(もしかしてこいつ、天然かノンデリなのか?)と思いながらも、ポックは答えずに少し俯いた。
被ったヘルメットによってできた影に目元が隠れ、その表情は伺えない。
しかし───
「───いえ、それはないと思いますよ」
それ以上に感情が読み取りづらい義母を持つベルからすれば、関係がなかった。
「本当に嫌ってるはずなら、もっと嫌悪感等の悪感情が出てるはずです。でも、貴方からは強い羨望と憧れを感じられます。だから、むしろ好───「だぁーーーッ!余計なことを言うな!!おまえ、もしかしてある意味では『剣姫』以上に天然だな!!?」・・・僕は天然じゃありませんし、そもそもそれが本当だったとしても『剣姫』さんレベルはないと思いますけど・・・・・・」
顔を真っ赤にしたポックがベルの言葉を遮る。
もしかして天然なのではないか、とするポックの言に、はっきりと天然ではなく、そうだとしてもアイズ程ではないと反論するベルの態度に、少女は「ガーンッ」とショックを受けていた。
もしかして、私って強さ以外に尊敬されてない?と地味に先程のベルの「凄い」という呟きを聞いていたアイズは『先輩冒険者としての威厳』がガリガリと削られる音を幻聴していた。
そんなこんながありつつもメリルの魔法が発動され、炎の大火球が発射される。
轟音と衝撃が発生し、『肉壁』が焼き払われ、人が通れる程の穴が開いた。
「行きます。全員陣形を崩さないように」
アスフィの号令を受け、皆が『門』の先を見据えながら連れ立つ。
ベルもナイフと短杖を構え、何時でも対処できるように身構える。
───嫌な
────
広い大空洞の中。
不気味なまでの空間は腐臭に包まれていて、獣人がいれば裸足で逃げ出すほどの悪臭が鼻を壊しにかかる。
そんな空間の中でも平気な顔をしてシャリ、と奇怪な色の果実を齧っている彼女は、すでに鼻がきかなくなっているのか、それとも慣れきってしまったのか。
仏頂面を隠そうともしない女性──レヴィスは、無感情に食事をしていた。
美味しいとも、不味いとも言えない微妙な果実を貪りながら、
「レヴィス、侵入者」
「・・・・・・モンスターか?」
「いいえ、冒険者だわ。・・・・・・本当、いつまでも面倒臭い蛆。苛つくわ」
うんざりした様子で吐き捨てるローブの存在を、レヴィスは胡乱な眼で見る。興味がないとでも言うように。
慌ただしく駆けずり回る、目の前の存在とはまた別種のローブに全身を包み、姿を隠す者たちは声を張り上げ、様々な道具や罠の準備を進める。
それらから視線を外し、少し上を仰ぎ見る。
視線の先には宝玉のような蒼白い水膜が、壁に埋め込まれていた。
隣に立つローブの目──あるいは顔──が、そこに映る冒険者の一団を見て、所感を言う。
「塵芥ね。あの綺麗は金髪の蛆以外は、むしろ弱すぎるくらい」
戦闘はしていないが、それでも足運びや雰囲気等で分かることはある。
それでも冒険者の一団・・・・・・アスフィ達はローブの人物からすれば、そこ迄強くない。
アイズにはフード越しに自虐的な笑みを浮かべていることは分かったが・・・・・・それだけだ。特に悪感情も何もない。
───ただ、殺すという意思があるだけ。
興味がないかのように見ていたレヴィスだったが──先の『影』が言う金髪の剣士を見た途端、目の色を変えて立ち上がった。
「止めろ。あれは『アリア』だ」
「『アリア』?・・・・・・ああ、あれなのね。気持ち悪い『声』が言うのは」
レヴィスの言を聞いた途端、『影』のアイズを見る目が遊び甲斐のある肉人形を見る目から、まさに『頭痛のもと』を見るかのような鋭い目つきで睨んでいた。
「私が行く。お前は『アリア』を周りの奴等から分断しろ」
「なんで貴方が仕切っているのかしら。私が貴方に従う義務はないわよ、レヴィス」
楽しみにしていたお菓子を取り上げられたかのように殺意を剥き出しにする『影』に、レヴィスは「面倒だな」と思いながらも説得する。
「私だけであいつには十分だ。それに───」
視線を水膜へと戻し、そこに映る
少し緊張感に溢れた顔をしつつも、警戒を怠らない姿はまさに『未知』に挑む冒険者の姿そのものだった。
その顔に、レヴィスは以前の『鐘の音』を幻聴した。
───あの存在のせいで、追撃ができなかった日の苛つきとともに。
「ある意味では、『アリア』以上に面倒な存在がいることだしな」
今更なのですが、この作品の魅力ってなんなのでしょう。
・・・・・・更新頻度の高さでしょうか?