草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 少し遅れました。
 原因なのですが、これの前に書いたものがそのままだとレフィーヤルートに行きそうだったので・・・・・・一から書き直しました。
 ラブコメを見ながら二次創作なんか書くもんじゃありませんね。

 遅くなってしまい、申し訳ありません。


羨望

 

 

 ───それは、大鐘楼の音色の導き。

 北の食料庫バントリーの大空洞より鳴り響いた、優しくも荘厳なる鐘の音色を聞きつけたベートやレフィーヤ、フィルヴィスの三人はその音を頼りに走った。

 途中、何かを察知したかのように(・・・・・・・・・・・・)先を行ったフィルヴィスを除き、ようやくレフィーヤとベートが大空洞へと辿り着いた瞬間に聞こえた、フィルヴィスの叫び。

 

 発生源を二人が見れば、フィルヴィスが一人の少年を守るかのように飛び出し、黒い『影』のようなローブを全身に纏った存在と、彼女は戦闘していた。

 レフィーヤは守られている少年に見覚えがある。

 

「クラネルさん?どうしてここに・・・・・・」

 

 疑問に思うレフィーヤの呟きを他所に、ベートは周囲を見回して舌打ちをする。

 

「アイズは居ねえのか。どこに行きやがったんだ?」

 

 その言葉にハッとし、改めて周囲を見回す。

 大空洞内には彼らの他に、アスフィ達をはじめとした【ヘルメス・ファミリア】の面々、そして彼らに向かって突撃している大量のローブの集団と食人花。

 それらを見て舌打ち一つしたあと、ベートはアスフィ達のもとへと向かう。

 

「時間は稼いでやる。あとはてめえが───」

 

 なんとかしろ。

 言葉をそう締めくくるつもりだったベートは、すぐに狼人ウェアウルフ特有の耳をピクリ、と揺らし。

 ───レフィーヤに向かって、蹴りを放った。

 

「べ、ベートさん!?」

 

「動くな」

 

 短く、簡潔に告げる彼に理由を問いただそうとし──すぐに鳴り響いた甲高い音に、驚き肩を跳ねさせる。

 先程の『影』とは真反対の真っ白なローブに包まれた存在が、ベートの蹴りを片手で(・・・)受け止めていた。

 ───そう。第一級冒険者たるベートの蹴りを、である。

 

「チッ」

 

「フフフ」

 

 ベートの舌打ちと、『白』のせせら笑う声が同時に響き。

 次の瞬間には、レフィーヤの目には追えない戦闘が開始された。

 ベートの高速の足蹴と、『白』がその手に握る、針のようなスティレットがぶつかり合う。

 金属音が何度も鳴り響き、次の瞬間にはドゴォ!という殴打音とともに、ベートが(・・・・)吹き飛ばされた。

 

「ベートさん!?」

 

 悲鳴を轟かせる彼女に、『白』が襲い来る。

 迫るスティレットが『死』の気配を運んでくる様を、レフィーヤは見ているしかなく───

 

「───チッ」

 

 舌打ちを一つして、『白』が飛び退く。

 驚くレフィーヤの目前を、黄色い電撃が通り去った。

 飛んできた方向を見れば、ベルが短杖ワンドをこちらへと向けていた。

 

 今度は彼に標的を変えたのか、ベルのもとへと向かおうとする『白』。

 それを、戻ってきたベートが蹴りつける。

 

「どこ見てんだよ、クソガキ」

 

「あら、淑女レディを背で揶揄するなんてとんでもない駄犬ね。私は貴方よりも年上よ」

 

「───ハッ、ならてめえはババァだな。よお、クソガキババァ」

 

「───いいわ。貴方の挑発、乗ってあげる。すぐに貴方を殺して愛して、後ろにいるエルフも殺す愛するわ」

 

 再びぶつかり合う二人。

 先ほどよりも早くなった戦闘音を耳にしつつ、レフィーヤは一先ず何かを知っていそうな少年のもとへと向かった。

 

 

───

 

 

 ───自身は無力である。

 ベルの胸中を、その言葉が埋め尽くしていた。

 先ほどは手癖の如く炎雷を発動して、レフィーヤに迫る凶行を止めたが・・・それも咄嗟の行動で、今は再び浮かび上がってきた先程の理解不能な言葉(・・)を再生した。

 

 ───私は!ベルこの子のお義祖母ばあちゃんだぞ!!!

 

(わけがわからない)

 

 いつまでも完結しない情報を前に、脳内の情報を吐き出してしまいそうだった。

 どうにか咀嚼できないか、と情報を反芻してみたが・・・・・・己の無力さを自覚させるだけで。すぐにでも忘れようと、どうにか脳内から叩き出した。

 ───無論、そんなことで完全に忘れられるわけもなく。数秒もすれば、すぐに脳内に戻ってきた。

 

 目の前で戦っている少女──フィルヴィス・シャリアについては、オラリオに来る前に知っている。

 【ディオニュソス・ファミリア】所属。19歳という若さでありながら、Lv4にして団長。

 そして、義祖父からは『旧紫氷の森』──ただの魔導具店で、このときはカフェは併設してない──の常連だった存在だ、と教わった。

 もしも見かければ、お店に呼んで──なんなら友達になってくれ、とも言われた。

 そんな彼女が──祖母?

 20代にもなってないのに?

 つまり、義祖母?

 でも、おじいちゃんからもお義祖父ちゃんからもそんな話を聞いたことがない。

 つまり───どういうこと?

 

 いつまでも完結しない情報を前にフリーズしそうになる少年に、彼女──レフィーヤは近づいた。

 目をまん丸に見開いたまま思考し続ける彼に、彼女は変なものを見る目をする。

 しかしそれも一瞬で、すぐに彼の服が血まみれなことに気づくと、心配そうに眉をひそめる。

 

「大丈夫ですか?クラネルさん」

 

「あぁ・・・・・・ウィリディスさん・・・・・・僕は無力です・・・・・後のことはお願いします・・・・・・」

 

「本当にどうしたんですか?」

 

 先程自分を守るために『白』へと雷撃を放っていた──別に凄いとは思ってない。ええ本当に──彼の姿は何処にもなく。

 今はただ無力さに打ちひしがれるかのように自身の手を見下ろす少年がいるのみ。

 

「ウィリディスさんはどうしてここに・・・・・・?追加の『援軍』ってことですか?」

 

「『援軍』・・・・・・?ええっと、私達はロキにアイズさんの迎えを頼まれて・・・・・・そうだ、アイズさん!何処にいるか知りませんか!!?」

 

 ぐわっ!という音がしそうなほどに、ベルへと問うたレフィーヤ。

 その剣幕に慄きつつも、ベルは簡潔に教えた。

 

「ヴァレンシュタインさんは分断されたんです。さっき回復魔法で察知しましたけど・・・・・・その時はあそこの壁の中(・・・)で、敵と戦ってました」

 

 あそこ、と言いながら指さした先は、ただの壁。

 それでも目の前の少年が嘘をつかない性分であることをなんとなく理解しているレフィーヤは、とにかくそれが事実である、と飲み込んだ。

 

 そうこうしていると、ドゴォ!という音と、カァン!という甲高い音が鳴り響く。

 驚く二人が目を見開けば、それぞれの『影』と『白』を相手取っていたフィルヴィスとベートが吹き飛ばされる場面だった。

 現状におけるこちらの最大戦力である二人の姿は、怪我が一切見受けられない『影』と『白』とはまるで真逆。その身体には切り傷や打撲跡が刻まれ、血も滲んでいた。

 遠くを見れば、アスフィ達も大なり小なり怪我を負っており、命の別状はないにしても『援護』は必要な状態だった。

 

 それを認識した途端、二人は互いの顔を見て頷き合う。

 ベルは短杖ワンドとロングナイフを構え、蓄力チャージを開始し。レフィーヤは杖を構え、『詠唱』を開始する。

 

「【ファイアボルト】」

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】」

 

 白の魔法円マジックサークルと、山吹色の魔法円マジックサークルが展開される。

 白は少年の足元に一瞬、山吹色は今も少女の足元で強大な魔力を受け止めている。

 二つの魔力──それも、これまで感じたことのない一つの強大な魔力を感知した食人花が、少年と少女へと標的を変更した。

 

 まさに猪突猛進、と言える程に一心不乱に突っ込んでくる花を、炎雷を纏った少年が次々と斬り伏せる。

 およそLv3とは思えない敏捷、そして魔力によって俊敏となった脚によって全ての食人花に速攻で接近し、即座に剣閃と魔法の爆発の合わせ技によって、一撃で粉砕する。

 さらには無数の食人花の隙間を縫って、火球と雷を飛ばしては『魔石』を正確に砕く。

 まさに『妖精を守る騎士』とでも言える程にレフィーヤに食人花の触手の一本も近づけさせない少年の姿に、それを見るローブの集団も味方も戦慄する。

 

「【同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。打ち放て、妖精の火矢】」

 

 そんな少年の姿に、守られているレフィーヤは頼もしさを───

 

 

 

 

(はぁ〜〜〜〜〜!?なぁんで魔法円マジックサークルを展開できてるんですか!?『魔導』を獲得したんですか!!?そもそも前よりも速くなってませんか!?私、目で追えてないんですけど!!?それじゃあれっきとした『魔法剣士』じゃないですか!!!???ずるいずるいずるいずるいずるい────!!!!)

 

 

 

 

 ───失敬。嫉妬していた。

 自身の目指し、なおかつ憧れでもある戦闘スタイルを見事なまでに確立している少年の姿に、少女は内心で号哭していた。

 

 並行詠唱こそ行っていないが、それでも『高速戦闘中の魔法の行使』を正確に行っている。

 先に挙げた火球や雷も規模こそ小さく見えるが、レフィーヤにはその凶悪さがすぐに分かった。

 

(あんな威力、『魔導』を持っていると言ってもヒューマン非魔法種族──それも無詠唱の付与魔法エンチャントのついで感覚で出せる威力じゃない!一体どれだけの貯金があるんですか!?ズルい!!??)

 

 自身の魔法威力を棚に上げつつ。レフィーヤの見立て通りならば、あれは通常の魔導士が出せる短文詠唱の魔法の威力とそれほど威力が変わらない。

 

 つい数日前まではLv2だったが、今はLv3になった──レフィーヤはランクアップについては知らないが、それでもそれに類するものというのは見ればわかる──少年が、さらには『魔導』の証を持っている。

 先輩冒険者としての威厳、及びまだ勝てていた部分がまた一つ消えたことによる焦燥、怒り。

 それらがない混ぜになった結果、その強大な感情の渦に伴い、普段よりも強大かつ激しい魔力が荒れ狂っている。

 何よりも恐ろしいのは、普段であれば『魔力暴発イグニス・ファトゥス』を引き起こしかねない危険な魔力運用を、現在の少女は完璧にこなしていることだろうか。

 

 そんな少女の内心を知らない少年は、その溢れ出る魔力を前に──

 

(やっぱり凄いなぁ・・・・・・どうやったらこんなにすごい魔力量になるんだろう・・・・・・羨ましいな)

 

 ──などと呑気に考えながら、彼女に尊敬の念を滲ませていた。

 

 少々方向性の違う羨望の念を互いに抱く二人は、『怪物祭モンスターフィリア』の際に似たようなことをした記憶を蘇らせる。その時よりも成長していることを互いに悟らせられ、さらに感情が燃え上がる。

 互いへの羨望や嫉妬によって、二人はいつもよりも自身の力を発揮し、さらに互いへの羨望や嫉妬───と、永久機関のように力を十全以上に発揮する。

 

 やがて、リィン───と、それまでのか細い音とは異なる強いチャイムの音が鳴り、スキルによる最大蓄力フル・チャージが完了したことを告げる。

 

「──【アンジェラス】」

 

 呟いた途端、再び純白の魔法円マジックサークルが大空洞全体に展開され、『影』と『白』以外の全ての者たちの傷を癒す大鐘楼の音色が鳴り響く。

 たちどころに全ての者を癒す音の波動はなおも鳴り響き、再び断続的に傷の治癒を行う。

 食人花の動きにも変化が起き、レフィーヤのもとへ向かおうとする個体と、純白の魔法円マジックサークルの発生源へと向かおうとする個体に分かれ、少年の負担が減った。

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】───」

 

 ベルが再びチャイムの音を響かせた途端、少女の詠唱が完了する。

 目を見開き、杖を構えて全ての敵の姿を見据える。

 少年の目には、その姿がアルテミスが弓を構えている時のように凛々しく、美しいものに見えた。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 少女の叫びとともに、魔力が溢れ出し、魔法が発動される。

 小人族の魔導士メリルの「皆、伏せてえッ!!!」という普段の彼女ならば上げない鋭い叫びに、聞いたもの達全てが従う中。

 少女の詠唱文をそのまま表したかのような、数百、数千の炎が、彼女の眼前に広がる戦場全て(・・)に降り注いだ。

 

『が、あぁぁぁぁあぁぁあ!!!??』

 

 敵の悲鳴がまさに雷鳴の如く重なって響き渡る。

 まさに雨の如く敵を打ち払う炎達は、少女が普段以上に溢れ出る魔力を運用したのにもかかわらず、術者主人の意向を反映したかのように『敵』のみに向かって行き、逆に味方には当たらない軌道で飛んでいく。

 食人花も、ローブの集団も───『影』も『白』も、自分たちに降り注ぐ火矢を避ける、または防ぐのに精一杯。

 一人、また一人とローブの者達が倒れていく。──が。そんな者達も、すぐに傷や火傷が大鐘楼によって癒え、ただ気絶したという結果だけを残して無傷に終わる。

 

 やがて魔法が終わり、戦場に立っている敵は───『影』と『白』の二人のみとなった。

 ローブの者達はすでに全員が気絶し、食人花は新しい個体が生まれるのを待つしかない。

 

 形勢逆転、と言える程の状況の変化を前に───『影』と『白』は、笑った。

 アハハハ!、と心底楽しそうに、愉しそうに笑う。

 

「すごいわね、すごいわ!貴女って見た目や雰囲気に反してやるのね!」

 

「でも、それもここまで。貴方達では私達に勝てないし、逃げられない。ただお人形おもちゃになって殺される愛される。それだけよ!」

 

 アハハハ、ウフフフ、と嘲笑しながら、不思議なほどに息がぴったりな掛け合いをする二人。

 フィルヴィスとベートがその隙を突いて攻撃を浴びせるが──それも反撃を食らってしまい、吹き飛んで終わってしまう。

 二人の傷こそベルの魔法によって癒えているが、肝心の突破口が見えてこない。

 

 【ヘルメス・ファミリア】も、先ほどまでのローブ達による自爆特攻によって身も心も満身創痍。

 傷や魂が癒えてこそいるが、武器や道具アイテムを失った者もいて、万全とは程遠く。今の二人を相手取るには不足と言えるだろう。

 

 それを理解したベルは、すぐに片方への援護に向かう。

 ベルの他に動けるのはレフィーヤだけであり、同じファミリアであることを加味すれば、彼女はベートの援護に向かうのが良いだろう。

 つまり、自分はシャリアさん──お義祖母ばあちゃんと呼ぶかはまだ迷っている(呼ばなくてもいいけど、呼んだほうが喜ぶし強くなりそうな予感がした)──を助けよう、と飛び出そうとするベルの裾を、レフィーヤが掴む。

 

「待ってください」

 

「ウィリディスさん?どうしたんですか?」

 

「─────」

 

 何事かを告げた少女の言葉に目を丸くした少年は、ややあって頷く。

 

 ───そうして。二人は、それぞれの戦場へと向かって行った。




 レフィーヤさん、ベル君に羨ましがる。
 大丈夫よ、貴女が獲得する(かもしれない)スキルがあればベル君がもっと尊敬の目で見てきますよ。頑張れ、先輩冒険者!
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