関係ないのですが、久しぶりにマクドナルドを食べました。たっけぇですね、今のマクドナルド。でも美味しい。
ゴォォォン、ゴォォォン───、と、綺麗な大鐘楼の音色が鳴り響く。
それは神々が認めるほどに純白、かつ透明な魂を持つ少年の魂より出る音なのかもしれない。
傷を癒し、魂を癒し。あらゆる不浄を浄化する鐘の音色の中にて───浄化しきれない存在たち。
『影』のようなローブを纏った存在と、『白』のローブを纏った存在の二人。
『影』は呪詛が消えた短剣を振り、並行詠唱を駆使して魔法を使用する。
『白』は魔法を使用せず、スティレットを利用した二刀流のみにて圧倒する。
第一級冒険者であるベートを軽々とあしらい、むしろその身体に切り傷や打撲跡をつけていくことを楽しむ『白』。
───ベルの魔法がなければ既に地面に倒れ伏している事実。
既に二人は、その事実を認識している。
故にベートは今の自分の弱さを何よりも恨み、呪う。
故にフィルヴィスは自身の弱さと頼りなさを嘆き、憤怒する。
それらの激情を胸に、二人は奮闘する。けれど───
「無駄ね」
「無駄よ」
あしらわれ、吹き飛ぶ身体。
血を流し、傷を負い───直ぐ様鳴り響いた鐘によって、それらがすぐに癒え、塞がる。
それでも、弱者に、守る者に助けられているという現実が、彼らの心を蝕む。
「面倒ね」
「いい加減飽きてきたわ」
心底うんざり、という気持ちを隠そうともしない二人に、ベート達は内心で舌打ちする。
───お互いに一番悪態をつきたい相手は、自分自身であると言うのに。
ゆえにこそ───
「サンダー!!」
「【アルクス・レイ】!!」
───今、最も助けられたくない人物達の手を借りなければならないというのは、この世で最も屈辱的で・・・・・・一番の天罰となるのだろう。
───
ベルの短杖より放たれた一条の雷撃を、『影』は余裕を持って避けた。
くるり、と避ける様は、まるで円舞でも踊っているかのよう。
それでも隙ができたため、炎雷によって高速で移動し、今度はベルがフィルヴィスを守るかのように立ち塞がる。
先ほどとは逆の立場となった二人は、どちらも、その内心は複雑だった。
片方は守り、助けると誓った存在に助けられたこと。
もう片方は、義祖母を名乗った存在への対応について。
「義孫・・・・・・何故来た。今のお前は
「駄目です。そんな事をしたら貴女g──「お義祖母ちゃんだ、と
なるべく『名前』や『お義祖母ちゃん』等の呼び方をせずに『貴女』呼びで逃げようとした少年を、フィルヴィスは逃さない。
(何度も!?今始めて言われましたけど!!??)
少年は内心叫びつつ、頑張ってお義祖母ちゃん呼びをしている。が、その顔はまだよく知らない少女──しかも年も五しか離れてない──を義祖母呼びしなければならない羞恥によって真っ赤に染まっている。
「──コホン。とにかく、二人でやれば勝てるかもしれないです・・・・・・しれないでしょ?ほら、僕達は・・・・・・その、『義孫と義祖母』で『家族』、でしょ?」
ですます口調をしようとして、すぐに止める。なんだか嫌な予感がしたから*1。
ベルは内心で、『家族』ではない──少なくとも彼の認識ではそうだ──者をそう呼ぶ現状に嘆く。
───そうして。背後から振り下ろされた短剣を、左手に握る短杖の先端で受け流す。
そのまま触れている杖越しに雷を流そうとしたが・・・・・・魔力の動きを察知したのだろう。直ぐ様後退される。
「やっぱり兎、とっても綺麗だわ!─────本当に本当に、大嫌いだわ、貴方」
「それに、向こうはもうやる気みたいだよ?」
「・・・・・・仕方ない。無茶をするなよ、義孫」
「・・・・・・う、うん」
たった数回ではあるが、義孫と呼ばれるのに少しずつ慣れ始めている。
少し前には『アルゴノゥトくん』、『オリオン』などと呼ばれていたが・・・・・・はてさて、次に呼ばれるとしたら何と呼ばれるのか。
少年はそんな事を考えつつ、炎雷を追加で呼び起こし。
始まりのゴングを鳴らすかのように左手の蓄力を解放し、大鐘楼の音色を響かせる。
(帰ったら、絶対にお義祖父ちゃんから聞き出そう・・・・・・!)
死ぬ、などということを一切考慮に入れずに、そんな事を考えながら。
───
中程度に離れた場所に着地した『影』へ向けて、少年は短杖を向けた。
「フレイム」
「そんな遅い攻撃、誰が当たるのかしら?亀でも当たらないと思うわよ?」
牽制、及び挨拶代わりに上下左右へと放たれた四つの火球を、『影』は接近しながら姿勢を地面スレスレまで低くすることで、避ける。
そのまま走破の勢いを利用し、短剣でもって兎の首を刈ろうと振り上げる───が。フィルヴィスの短剣が、行く手を阻む。
「させるか」
「───また貴女?いい加減飽きたわ!」
『影』はそのまま強引に短剣を弾き、ガラ空きの胴体へと回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばす。
少女の横腹からビキッ、と骨にヒビが入る音が響き───すぐに鳴り響いている大鐘楼が癒す。
みるみる内に消えていく痛みを感じながら、少女は短剣から短杖へと持ち替え、構える。
「───【一掃せよ、破邪の聖杖】」
「遅いわ!!」
吹き飛びながらも受け身を取り、詠唱を開始した妖精を『影』は嘲笑う。
既に『影』とベルの距離は近く、例え今すぐに彼女の魔法が発動したとしても、雷撃が届くより先に少年の命が落ちる。
あと一歩で『影』の短剣の間合いに入る、その時。
少年が左腕を前に構え、その手に握る短杖を『影』へと向けた。
その手には白い燐光が集っており、リン、リン───、とか細い音を、大鐘楼に隠れながら響かせていた。
───二十秒の蓄力。
「サンダー!」
「──!っ」
轟く雷鳴の音と共に、黄金色の雷が『影』へと
それは少年の体の三分の二を覆うほどに大きく、まさに雷の砲撃と呼ぶに相応しい。
踏みしめていた左脚に込めていた力を無理矢理変更し、少年から見て左側へと『影』が飛んだ。
それでも完全には避け切る事が出来ず、逃げ遅れた右手──さらには、その手に握る短剣に当たる。
「!?」
大したダメージはないだろう、と高をくくっていた『影』の体内を、稲妻が駆け抜ける。
身体に直撃した雷はもちろん、短剣を通して来たものを含めてすべての雷が『影』を貫く。
それはなるほど、確かに体内を駆け巡り
時間にして数秒。常であれば問題ない誤差の範囲内の出来事。すぐにでも少年の首を斬る、ないし致命傷を負わせられるだろう距離にいる『影』にとって、現状はプラスマイナスであればギリギリでプラス、と言える。
───ここに自分を傷つけ得る存在がいなければ、だが。
「【ディオ・テュルソス】!!」
「あ、ぁぁぁぁぁあ!!?」
それまでは避けられるか、もしくは相殺されるかの二択しか無かった雷撃が、ようやく直撃した。
その効果は凄まじく、『影』の身体を先程の少年の雷撃以上に痺れさせ、その身体を内と外から焼いていく。
無論、その程度で死ぬ事などないと分かっているため、雷に焼かれる様をただ黙って見ている二人ではなく。
少女はスキルによって上昇した敏捷で、少年は炎雷による爆発的な加速によって、それぞれ彼我の距離を高速で詰める。
「【一掃せよ、破邪の聖杖】」
詠唱をする少女。
対して少年は、リン、リン──と鐘を鳴らし、今度は燐光をロングナイフへと収束させる。
淡い光が炎雷を吸い込み、斬撃の威力、及び炎雷の火力を底上げする。
「はあ!」
「【ディオ・テュルソス】!!」
「ぐ、うぅ・・・・・・ッ!?」
距離が近かったが故に先に辿り着いたベルが、渾身の力を込めてナイフを横一文字に振るう。
十秒にも満たない蓄力を経て強化された炎雷の斬撃は、『影』のローブと薄皮数枚を切り裂き、焼き貫く。
体の表層だけを焦がす炎、体内を駆け巡る雷によって一秒にも満たない時間の間、身体が硬直する。
無論、そこまでダメージがあるわけでもないが、硬直した隙にフィルヴィスが短剣と雷で追い打ちをかけ、切り傷に火傷、痺れをもたらす。
雷を受けた衝撃により宙に浮いた身体へと、さらに少年と少女が回し蹴りを叩き込む。
左右から放たれたそれはまさに阿吽の呼吸の如く同じタイミングで放たれ、少女の膂力、そして少年が爆発させた炎雷の衝撃をモロに受けた『影』は、後方の壁目掛けて真っ直ぐに吹き飛んでいく。
───が、手応えが薄い。
「衝撃を逃されましたね」
「ああ、あまりにも手応えが軽すぎる。・・・・・・構えていろ、義孫。いつ来ても対処できるようにな」
敵の飛んでいった方向を見ながら警戒する彼女に頷き、すぐに炎雷を四度程呼び出す。
薄くなっていた付与魔法が増加し、吹き荒れる。もう一度短杖で蓄力を開始しながら、『影』の出方を伺う。
パラパラ、と小岩が壁を転がっていく音を聞きながら、二人は警戒を解かない。
数十秒経つと土煙が消え、『影』の姿が見えてくる。
『影』のような不気味さを保っていたローブのお腹あたりには大きな切り傷があり、さらには至る所が焦げ付いている。
焦げ臭い匂いがあたりを充満し、焦げたことにより周囲との温度差が大きくなったのか、ローブからは蒸気が上がっている。
「・・・・・・やってくれたわね?」
いつ襲いかかって来ても良いように身構える二人の目の前で、『影』の顔を隠していたフードがハラリ、とめくれた。
あらわになった素顔は────
「─────」
「・・・・・・お義祖母ちゃん?」
その顔を見た途端、フィルヴィスの顔から表情が消える。
彫像のように感情が抜け落ちた、とも表現できそうなそれを目にし、ベルは思わず恥ずかしさを忘れて『お義祖母ちゃん』、と呼んでしまう。
それに嬉しさ等を感じることもなく、彼女は『影』───否、素顔からエルフだと分かる存在を睨む。
「あれ、は・・・・・・」
それは幼い顔をしていた。
二つに結わえられた長い銀髪、黒妖精特有の褐色の肌。そして、右目の下に刻まれた、涙を模した刺青。
幼いエルフの少女を思わせる彼女は───すぐに、その顔を何処か狂気的なものを感じさせる笑みへと変えた。
「・・・・・・・ああ、貴女、ようやく思い出したわ。あの時の白い妖精ね?」
「────私達が殺し損ねた存在。そして───あの嫌いなチビエルフを
幼い黒妖精の隣に、ベート達が戦っていた『白』のローブが現れた。
それ───彼女も黒妖精の少女と同じようにフードが退けられ、素顔が露わになっている。
金髪の髪を一つに結わえ、白妖精特有の白い肌。そして、こちらは右目に涙のような刺青。
白妖精の特徴を持つ少女は、その唇を歪ませながらこちらを見ていた。
「大丈夫?
「大丈夫よ、
何が面白いのかケタケタと笑う少女二人に、ベルは悪寒が走った。
そしてまさか二人がやられたのか、と考え周囲を見回し───すぐに彼らの隣に、ベートとレフィーヤが姿を現した。
ベートは装備こそボロボロにはなっているが、致命傷や怪我は──致命傷でなければ大鐘楼が癒すが──なく。
後衛故、もしくはベートが守ったからだろう。レフィーヤも一切の怪我が見られず、一先ずベルは安堵した。
「おい、アイツらは誰だ?陰険」
「─────」
「おいっ!!」
「・・・・・・フィルヴィスさん、大丈夫ですか?」
叫ぶベートの声も、心配するレフィーヤの声も聞こえていないかのように、フィルヴィスは押し黙る。
その顔はだんだん青褪めてきて、まるで心傷を前にしたかのよう。
そんな彼女の代わりに、遠くからアスフィの声が響く。
「まさか、ディース姉妹!?ですが、貴方達は六年前を最後に、消息を絶っていたはず・・・・・・!一体どうしてこんなところに・・・・・・!!??」
彼女が出した名前に、ベルは心当たりがなかった。
オラリオの殆どの冒険者を覚えてこそいるものの、それでも全部を把握できているわけじゃない。
それ故に知らなくてもおかしくはない、が・・・・・・それでも、隣に立つレフィーヤの顔から血の気が失せて行くのを見れば、彼女たちは相当な有名人なのだろう、と何も知らない自分を恥じた。
「あの、ディース姉妹って・・・・・・?」
「・・・・・・私も故郷や先輩方から聞いたかつてのお話しか知りません。それでも、かつての『暗黒期』で最も多く人を殺し回った『闇派閥』の構成員で、エルフの風上にも置けない二人、ということ。そして────」
レフィーヤはチラリ、とフィルヴィスを見た。
彼女は怒りも、憎しみも、悲しみも何も表情に浮かんでおらず。
ただただ、目の前に存在する『現実』に打ちひしがれていた。
「───六年前に、フィルヴィスさんを除いた当時の【ディオニュソス・ファミリア】の団員たちを全員殺した二人、ということくらいですね」
「──────」
言葉を失い、顔を上げる。
ベルの視線の先には、今も何処か虚ろな目をしたフィルヴィスと。
その奥にいる、楽しくって仕方がない、と言う色を抑えようともしないディース姉妹が存在していた。
「お姉様、私達の正体がバレちゃったわ!」
「そうねヴェナ、こんなときは
「ええ、
先ほど以上にうるさく、不快感が強くなる。
少女たちはお祭りを楽しみに待つ子供のように、無邪気に微笑んだ。
「「蹂躙しちゃいましょう!私達二人で!!」」
お互いの手を握り合い、少女達は嗤う。
視界の先にいる存在を目にし、恐ろしいほどに蠱惑的に。
◯フィルヴィスさんのオリジナルスキルの概要
・簡単に言えば、感情の種類、及び波によって強化幅が変わるスキルです。対象の感情は《怒り》《憎悪》《愛》《喜び》ですね
・潜在値を含めた全能力値に弱補正(感情の波によってさらに強くなるし、逆に弱くなることも)
・今回の劇中では大体中程度(大体Lv5中〜後期くらいまで上昇。《怒り》と《愛》だけだから)
・フォスお義祖父ちゃんがいたら?いるだけで超高補正になります。現状だとLv6に届くくらいになる・・・・・・かも?