「クソが・・・」
ダンジョン18階層。
『迷宮の楽園』とも呼ばれるそこは、モンスターが現れない安全階層。
大自然と水晶に囲まれたその地の、リヴィラの街──『世界で最も美しい「ならず者の街」』とも呼ばれる──に。
男性──モルド・ラトローはいた。
「どうしたんだよ、モルド」
「今日は収入源があるって張り切ってたじゃないか?」
ガイルとスコット。
よく共に行動する二人を前に、思わずモルドは舌打ちをする。
その様子に、二人は荒れてんなぁ、と思わず呟く。
「で、どうしたんだよ?」
「・・・・・・主神と団員が回復薬を配ってる医療系ファミリアがあってな。そこからポーションを巻き上げられねえか、ってやってみたら反抗された」
「そりゃ・・・そうだろ。地上はリヴィラの街とは違うんだぜ?」
「わかってんだよ、そんなことは!無料で手に入れば御の字、程度のモンだったんだよ!」
「なら何に苛ついてんだよ?」
「そこにいたんだよ、あいつが!あのいけ好かねえ治癒師が!!」
「いけ好かない治癒師・・・最近噂の鐘兎、ってやつか?」
それは、最近の冒険者たちの間で噂になっているもの。
白い髪に深紅の瞳をした兎みたいな見た目をしたヒューマンが、傷ついた冒険者たちの治療や、格安でポーションを譲ってくれるという噂。
「いや、それだって上層も上層・・・・・・9階層の話だろ?わざわざそんなに目くじらを立てるようなもんでもないだろ」
「・・・・・・俺が聞いた話だと、もう12階層まで来てる、って噂だ」
「・・・・・・は?」
噂には特徴があった。
出現したのは、古い情報でも20日前。
それも、最初は5層。
似たような容姿のヒューマンを見た、という情報と照らし合わせればそいつは間違いなく初心者──恩恵を得たばかりだろう、という話だ。
そう、20日前。
早すぎるのだ。
ギルドが公開している、12階層の攻略可能ステイタスは、B〜S。
LV1でそこに行くのは、いくらパーティを組んでいたとしても危険だ。
何より、噂は基本的にソロの噂しかない。
つまりは、一人でも切り抜けられる程のアビリティ。
たとえコンバージョンをしていたのだとしても、そんな存在が二つ名も無く、そういった噂すらないのは不自然だ。
「本人じゃない可能性はないのかよ?」
「あんな特徴的な外見のやつ、他にいるかよ!!」
「そうだよなぁ・・・」
神妙な面持ちで何かを考えるスコット。
それを無視するかのように、ガイルとモルドは話を続ける。
「で、どうすんだよ?」
「あぁ?」
「そいつになんかすんのかよ、って話だよ」
「そうだなぁ…」
二人の言葉にモルドは思案するかのように腕を組む。
暫くすると、名案を思いついたかのように手を叩く。
「じゃあ、今日やろうぜ」
「今日?」
「ああ、周期的に考えて、あの野郎は今日も一人で12階層までやってくるはずだ」
「それで?何をするんだよ」
「決まってる」
モルドは腰に携えた剣を抜く。
自身が生き残るために調整された彼の愛剣が、鈍い輝きを放つ。
「あいつに、やきを入れてやるんだよ」
そう呟く彼の口元には、下衆のような下卑た笑みが浮かんでいた。
───
──いた。
──その雄牛は、気づけばそこにいた。
──手に握るは剣。
──体を彩るのは鮮血。
時間が立つにつれて紅から黒へと変わっていく体を他所に、それは歩き出す。
壁から、モンスターが生まれ出ずる。
オークだ。
何も知らない豚頭は、しかし雄牛を目にした瞬間。
その双眸に怒りを携え、それに襲いかかる──
ザンッ、と。
戦意を纏ったオークは、しかし攻撃を加える前に灰となる。
雄牛の目線には、オークが何かをしようとしていたことしかわからない。
──遅すぎたのだ。
それ──ミノタウロスには、オークが攻撃をしようとしていたようには見えなかったのだ。
そして、灰になったオークの亡骸から、魔石を広うとガリッと。
食べたのだ。
およそ食べ物には思えないそれを噛み砕き、嚥下した瞬間──ミノタウロスの筋肉が、より引き締まった。
──『強化種』。
およそ通常のモンスターがいる階層は、12。
──今ここに、少年を叩き潰さんとする試練が、死神の鎌を携えて現れた。
いったい何タウロスなんだ・・・?
モルドさん、逃げてぇ!!??