草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

5 / 10
 今回は短いです。


断章 暗雲

「クソが・・・」

 

 ダンジョン18階層。

 『迷宮の楽園アンダーリゾート』とも呼ばれるそこは、モンスターが現れない安全階層セーフティポイント

 大自然と水晶に囲まれたその地の、リヴィラの街──『世界で最も美しい「ならず者の街ローグタウン」』とも呼ばれる──に。

 男性──モルド・ラトローはいた。

 

「どうしたんだよ、モルド」

 

「今日は収入源があるって張り切ってたじゃないか?」

 

 ガイルとスコット。

 よく共に行動する二人を前に、思わずモルドは舌打ちをする。

 その様子に、二人は荒れてんなぁ、と思わず呟く。

 

「で、どうしたんだよ?」

 

「・・・・・・主神と団員が回復薬ポーションを配ってる医療系ファミリアがあってな。そこからポーションを巻き上げられねえか、ってやってみたら反抗された」

 

「そりゃ・・・そうだろ。地上はリヴィラの街こことは違うんだぜ?」

 

「わかってんだよ、そんなことは!無料タダで手に入れば御の字、程度のモンだったんだよ!」

 

「なら何に苛ついてんだよ?」

 

「そこにいたんだよ、あいつが!あのいけ好かねえ治癒師ヒーラーが!!」

 

「いけ好かない治癒師ヒーラー・・・最近噂の鐘兎、ってやつか?」

 

 それは、最近の冒険者たちの間で噂になっているもの。

 白い髪に深紅ルベライトの瞳をした兎みたいな見た目をしたヒューマンが、傷ついた冒険者たちの治療や、格安でポーションを譲ってくれるという噂。

 

「いや、それだって上層も上層・・・・・・9階層の話だろ?わざわざそんなに目くじらを立てるようなもんでもないだろ」

 

「・・・・・・俺が聞いた話だと、もう12階層まで来てる、って噂だ」

 

「・・・・・・は?」

 

 噂には特徴があった。

 出現したのは、古い情報でも20日前。

 それも、最初は5層。

 似たような容姿のヒューマンを見た、という情報と照らし合わせればそいつは間違いなく初心者──恩恵を得たばかりだろう、という話だ。

 そう、20日前。

 早すぎるのだ。

 ギルドが公開している、12階層の攻略可能ステイタスセーフティ・ラインは、B〜S。

 LV1でそこに行くのは、いくらパーティを組んでいたとしても危険だ。

 何より、噂は基本的にソロの噂しかない。

 つまりは、一人でも切り抜けられる程のアビリティ。

 たとえコンバージョンをしていたのだとしても、そんな存在が二つ名も無く、そういった噂すらないのは不自然だ。

 

「本人じゃない可能性はないのかよ?」

 

「あんな特徴的な外見のやつ、他にいるかよ!!」

 

「そうだよなぁ・・・」

 

 神妙な面持ちで何かを考えるスコット。

 それを無視するかのように、ガイルとモルドは話を続ける。

 

「で、どうすんだよ?」

 

「あぁ?」

 

「そいつになんかすんのかよ、って話だよ」

 

「そうだなぁ…」

 

 二人の言葉にモルドは思案するかのように腕を組む。

 暫くすると、名案を思いついたかのように手を叩く。

 

「じゃあ、今日やろうぜ」

 

「今日?」

 

「ああ、周期的に考えて、あの野郎は今日も一人で12階層までやってくるはずだ」

 

「それで?何をするんだよ」

 

「決まってる」

 

 モルドは腰に携えた剣を抜く。

 自身が生き残るために調整された彼の愛剣が、鈍い輝きを放つ。

 

「あいつに、やきを入れてやるんだよ」

 

 そう呟く彼の口元には、下衆のような下卑た笑みが浮かんでいた。

 

 

 

───

 

 

 

 ──いた。

 ──その雄牛は、気づけばそこにいた。

 ──手に握るは剣。

 ──体を彩るのは鮮血。

 時間が立つにつれて紅から黒へと変わっていく体を他所に、それは歩き出す。

 壁から、モンスターが生まれ出ずる。

 オークだ。

 何も知らない豚頭は、しかし雄牛を目にした瞬間。

 その双眸に怒りを携え、それに襲いかかる──

 

 ザンッ、と。

 戦意を纏ったオークは、しかし攻撃を加える前に灰となる。

 雄牛の目線には、オークが何かをしようとしていたことしかわからない。

 ──遅すぎたのだ・・・・・・

 それ──ミノタウロスには、オークが攻撃をしようとしていたようには見えなかったのだ。

 

 そして、灰になったオークの亡骸から、魔石を広うとガリッと。

 食べたのだ。

 およそ食べ物には思えないそれを噛み砕き、嚥下した瞬間──ミノタウロスの筋肉が、より引き締まった。

 ──『強化種』。

 およそ通常のモンスターがいる階層は、12。

 

 ──今ここに、少年を叩き潰さんとする試練・・が、死神の鎌を携えて現れた。




 いったい何タウロスなんだ・・・?
 モルドさん、逃げてぇ!!??
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