登場人物が多くなると途端に難しくなりますね。普段同じ人としか話さない弊害が・・・・・・ボッチじゃないですよ?ええ本当です。
周囲に建つどの建物よりも高くそびえ立つ、【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』。
主神の顕示欲故か、それとも周囲の牽制故か。それともかつての最強と最凶への当てつけ故か。
いずれにしても、その館は周囲の建物を威圧するほどに高く、侵入すればたちどころに抹殺すると宣言しているかのようで。
そんな建物内に存在する、『団長の私室』にて。
団長の執務机の向かい側に、勝手に冒険者依頼を受けたアイズに、彼女の回収に向かったベート、レフィーヤの三人が立ち。
反対に机の側に団長であるフィンに、副団長であるリヴェリア、そしてガレスと主神であるロキがおり、三人と対峙していた。
レフィーヤは三首領を前にして緊張の面持ちでいるが、ベートは面倒臭そうな雰囲気を隠そうともせず。アイズは無表情でこそあるものの、その内心は冷や汗がダラダラと流れ、心臓もバクバクと早鐘を打っていた。
「さて。それじゃあ報告を受けようかな。アイズ、君が先に報告してくれ。君への沙汰は、それ以降に下す」
「・・・・・・・・・はい」
下された刑を受ける死刑囚のような暗い面持ちで、アイズは頷く。
常であればアイズを助けようと四苦八苦するであろう少女も、相手が自身の所属する派閥の団長が相手では何もできることがなく。
反対に、処刑台に向かうかのような面持ちの少女とオロオロする妖精を見てくだらないとでも言うように鼻を鳴らしながら、ベートは特に言うこともないので静観した。
「えっと、まず、その・・・・・・黒衣の人から、依頼を受けたのが始まりで────」
辿々しいながらも、必要な事項を次々と説明していく。
上層にて、少年──ベル・クラネルとともに、黒衣の人物から冒険者依頼を受けた話から始まり。
18階層のリヴィラの街で、『協力者』である【ヘルメス・ファミリア】と合流し、必要そうな物資を調達。
大量発生ではなく、食料庫が塞がれたことによる大移動であることに気付いたアスフィの指示により、北の食料庫を目指したこと。
そして────そこでベル達と分断され、分断された先で以前18階層で戦ったレヴィスと呼ばれる存在と会敵し、戦ったこと。
その後色々とあって、レヴィスを吹き飛ばし、ベート達と合流し。色々とあって逃げられたこと等々。
報告を終えたアイズは、普段喋ることが少ないためか何処か疲れた様子になっていた。
報告を受け取ったフィン達は顔を見合わせ、眉間に皺を寄せた。
「Lv6になったアイズが斬っても傷が付きにくく、付いても直ぐに治る自動回復持ちの剣士・・・・・・けれど、やはりレヴィスという名前は聞いたことがないな」
「それもそうだが、私としては『ディース姉妹』の方が気になる。彼女達は、フォスが────」
「そうでなくても、敵の狙いが分からん。アイズが『万能者』から聞いた推理通りに『宝玉』なるものが目的なのだとしても、それを作って一体何をしようとしているのか・・・・・・」
「ちょっと疲れた様子のアイズたん、萌え〜〜」
ロキはふざけた様子ではあったものの、三首領はそんなことも気にせずに話し続ける。
ややあって、やはり結論はでないと判断し。
次に、ベート達の報告を聞くことにした。
「俺達が行った時には、戦闘が始まってた。そんで気付けば、その『ディース姉妹』、ってのと戦うことになってた」
「・・・・・・ベート。お前の主観が知りたい。その『ディース姉妹』と名乗る者達は、どれほどの強さに見えた?」
やはりエルフ──それもハイ・エルフとして、彼女達のことは気になるのだろう。
質問されたベートは、直ぐに嫌そうに顔を顰め、後頭部をガリガリと掻いた。
そんな事をしてもこの場を逃れられないことを理解している彼は、ややあって正直に答えた。
「どちらもLv6クラス。それも成り立てじゃねえ。もう何年も経ってるくらいの熟練度にズレのなさ、何より細くて小せえ癖に強固な体をしてやがった」
ベートが告げた言葉に、三人は目つきを鋭くする。
Lv6。それもベートの言葉を信ずるのならば中期、ないし後期クラス。
帰ってきた際のボロボロになった装備、そしてベートの不機嫌さ加減からして、生きているのが不思議なほどの激闘だったのが見て取れる。
───なにより。
現在の都市では数少ないLv6クラスの敵が、現状把握している部分でも三枚。
それに加えて、食料庫内で、最低でも3Lvクラスの食人花が無数に生まれていたという事実。
もしもこれ以上の手札があるのであれば、敵は一体どれほどの規模を────
「───団長?大大大ですか?」
「───ン?ああ、大丈夫。ちょっと考え事をね」
思ったよりも深く考え込んでいたのだろう。心配の声を上げる団員に申し訳なく思いつつ、フィンは少し話題を変えよう、と話を曲げる。
同行者───とりわけ、その中でも注目している少年へと対象を当てた。
「同行者の中に、ベル・クラネルがいたようだけど───」
「それについてなんやけどな、フィン」
アイズが語った同行者。
その中でもとりわけファミリア内でも話題になった少年に対象を当てようとしたフィンに、それまではふざけ倒していたロキが、普段は飛びている目を開き、鋭い目線を送っていた。
「その少年なんやけどなあ・・・・・・どうやら、
「────なに?」
心底気に食わないという色を隠そうともしないロキの言葉に、フィンのみならずガレス・・・・・・特に、リヴェリアが反応した。
「それは本当か、ロキ。そもそも、彼奴がオラリオにいるなど、儂は一切聞いておらんぞ」
「うちかて、最初は何の冗談かと思ったわ。『紫氷の森』に関しても、『分身』か何かが来ただけやと思いたかった、んやけどなあ・・・・・・どうやら本当に本人、しかも義孫まで連れてやってきたらしいんや」
「なるほどねえ・・・・・・」
神妙な面持ちで話し合う四人に対し、アイズ達はよく分からず首を傾げる。
レフィーヤだけは、『フォス』と言う名前がフィルヴィスとの会話の中で聞いた、フィルヴィスの夫(勘違い)の名前で、ベルの義祖父(本当)の名前である事を把握しているが、それだけ。
何をしている人物なのかも分からず、いきなり出てきた『紫氷の森』の名前に首を傾げ、よく分からない話をする四人に置いてけぼりにされる。
「となると、十分な注意が必要だね。扱いを誤れば、最悪はオラリオが氷の都に早変わりしてしまう」
「懐かしいのぅ・・・・・・彼奴の庇護下に置かれた者に手を出した美の女神のせいで、
「思い出したくもないがな・・・・・・普段はそこまで沸点は低くないのにも関わらず、身内に関しては直ぐに熱くなる。好ましくはあるが、もっと自重してほしいものだ」
「うちはあんなクソガキ、嫌いやけどな。
「それは僕達の力不足のせいだよ、ロキ。助けてくれた彼に感謝こそすれ、責めるのは筋違いだ。そうやって君がいつまで経っても彼を嫌っているから、僕達は彼の作る魔導具を買えないんじゃないか」
「それはクソガキの度量が狭いからやろ〜」
「これに関してはお前が全面的に悪いぞ、ロキ」
「いい加減に彼に謝ってくれ、ロキ。彼の魔導具や杖・・・・・・もっと言えば『魔法石』があれば、切り抜けられた場面も多々あったというのに」
「なんや三人して!うちが悪いみたいな言い草やんけ!」
「「「悪いから言っている」」」
キィィィ!!と金切り声を上げるロキにドン引きしつつ、蚊帳の外だった三人は話を戻してもらった。
つい三人忘れて話し込んでしまったことを恥じ、三首領は一度咳払いをした。
「すまないね。もう一度聞くけれど、ベル・クラネルについて聞かせてくれるかな?アイズの話が本当ならもうLv3になっていて、以前よりも回復範囲は広くなっている・・・・・・どころか、『魔導』も獲得したようだしね」
「改めて考えれば信じられない話だ」
「フォスの義孫である事を考えれば、それほど不思議でもないがのう」
度々出てくるフォスと言う名前が気になりつつも、アイズとレフィーヤは身を引き締めた。
ベルにはスキルや魔法について黙っているようにお願いされ、お願いし合った仲だ。
だが、二人は団長に報告する義務がある。
可能な限り話さないようにしようと思っても、二人と違って三首領は口も上手く、勘もいいために下手なことを言えば勘付かれる。オマケにロキすらもいる。
とうしたものか、と当惑しつつもアイズが前に出た。
そして、可能な限り必要な情報だけを─────
「ベルは、凄く頑張ってました」
「そ、そうなんです!あのヒューマンはあの場の誰よりも頑張ってました!!」
「うん、それはわかるよ。そうじゃなくて、彼の『情報』を教えて欲しい」
「「ぐぅっ!」」
一蹴。
抑えすぎて、まるで人の褒められる点で『優しい』しか書けない人のように上辺だけの情報しか言えていない言葉。にべもなく切り捨てられるのも無理はないだろう。
撃沈し、床にへたり込みそうになる身体を二人は堪え、もう一度挑戦する。
「凄い砲撃魔法を使ってました」
「ふむ?新しい魔法を獲得した、ということか?」
「え、と・・・・・・」
「───そ、その、付与魔法を利用して、以前よりも強力な砲撃を繰り出してました」
「ふうん・・・・・・・・・」
「以前見た火球に稲妻、そして砲撃の強化。それも、今回の敵に通じるほどの・・・・・・いくら『魔導』を獲得したにしても、およそ治療師が持つには攻撃的にすぎるな」
先ほどから、まるで重要な部分を隠そうと努力するかのように口を重ねる二人に、フィンの目がだんだんと鋭いものへと変化していく。
反して、普段からアイズやレフィーヤと接しているからだろうか。
リヴェリアは基本的には攻撃面が弱くなりがちな治療師の法則に反して、以前見た時よりもさらに攻撃面も強化されていると読み取り、ベルの評価を引き上げた。
その様子を見て間違えたか、けれど彼が付与魔法を利用して様々な事ができることはもう知られているはず、と慎重に慎重を重ねている二人は、自分達を見るフィンの目が鋭くなっていくことを感じながら、約束を履行するために奮闘する。
「他には?」
「ほか、には・・・・・・凄く、脚が速かった、です?」
「そ、その。私の目でも追いきれないくら───」
「そうじゃなくてね」
レフィーヤの言を途中切り、フィンが微笑みかける。
その笑みはにこやかでありながらも、二人の心臓を鷲掴みにするかのように高圧的だ。
「『情報』、と言ったのが悪かったのかな。じゃあ言い換えよう。僕は『以前と比べた強化具合』じゃなくて、『彼の新しい情報』が欲しいんだ」
「頼めるかい」、と続けながら、二人を追い込むかのように次々と言葉が並べ立てられる。
何の情報もなく、出口も分からない迷宮が、さらに複雑、かつ罠が至る所に新たに設置されていくかのような錯覚に陥り、二人は冷や汗が止まらない。
背中に嫌な汗が流れる感覚を味わいながら、それでも自分達を何度も助けてくれた少年との約束を守るために、何とか言い訳を重ねようと───
「何やってんだ、くだらねえ。雑魚のことなんか知っても、俺達には関係ねえじゃねえか」
───しようとしたところで。
それまでは黙り込んでいたベートが唐突に口を開いた。
自分達をサポートし、何度も助けてくれたベルを『雑魚』と呼ばわりをされたことにより、二人は少しムッとする。
二人としては、あまりベルと仲が良いとは言えず、何より余計なことを言いそう*1な彼には黙っていて欲しかったが───
「・・・・・・ベート。君も彼に助けられたんだろう?」
「助けられただあ?治療師がやるべきことをやって、前衛もやるべきことをやった。ただそれだけだ」
「───なら君に聞こう。ベート。君から見て、彼はどう映った?」
今度はベートに標的を変え、フィンは尋ねる。
アイズ達は圧が自分達から逸れたことで安堵したが、直ぐに別種の緊張に包まれる。
余計なことを言わないか、と少しベートを睨んでいる二人に見られながら、ベートは一度目を伏せ、不快そうに眉間に皺を作りながら答えた。
「言わねえ」
「・・・・・・ふむ。理由は?」
「契約だ」
簡潔に答えた彼に、その場の全員が、理由は違えどため息を吐く。
アイズ達は、情報を漏らさなかったことに関する安堵。
フィン達はこれ以上は聞き出せないだろう、と理解したが故のため息。
『契約』。つまりは口外しないという約束を互いに結び合ったということなのだろう、と三首領は理解した。したが故に、頭が痛かった。簡潔に言えるのはいいが、もっと分かりやすく言えないのか、と。
幹部として、情報関係について勉強させるべきかと悩む三人を置いて、ベートは出口へと向かう。
「もういいだろ?ロキ、さっさとステイタスの更新をしろ」
「へいへい、わかったから急かすなや。フィン、先に失礼するで〜〜」
「・・・・・・ああ、わかったよ」
元々ステイタスの更新を約束していたのだろう。ロキを連れて、ベートは執務室を出た。
少しオロオロしていた二人にも解散を宣言し、残るはフィンとリヴェリア、ガレスの三人のみとなった。
「困ったなあ。もう少し情報があれば、彼を『遠征』に連れて行ったんだけどね」
「それこそ望みすぎだろう。彼は【ミアハ・ファミリア】所属。私達の『遠征』について行く道理も、理由もないだろう」
「これで探索系ならば誘いやすかったのだろうがなあ・・・・・・広域を治癒できる治療師を連れていければ心強いのは確かじゃが、初めての階層で冷静にそれができるのかは未知数。厳しいものでもある。今回は見送るべきじゃろう」
「それに、たとえ神ミアハやベル・クラネルを説得できたとしても、フォスを説得できるかは怪しいだろう?」
言われ、三人は説得出来るのかを考え・・・・・・無理だな、と半笑いになる。
彼が身内を大事にする人物であることを理解している三人はそれぞれ『今度彼に会いに行こう』、と内心で考えながら口を湿らせるため、お茶を口に含み───
『ベート、Lv6キタァァァァァァァ!!!』
「「ブッ!!」」
「ッ、ケホッ、ケホッ!」
唐突に聞こえたロキの絶叫によって、フィンとガレスは口から盛大に吹き出し、近くにあった書類を濡らし。
リヴェリアは吹き出すことこそなかったが、盛大に咳き込んだ。