ええ・・・・・・と。何故かこうなりました。
一応、恋愛色・・・・・・恋愛?色があり注意です。
茜色の空が濃い紫色に飲まれていき、夜が始まっていく。
数々のエルフが『ディース姉妹』についてざわざわと話し合い、何時もの心地よい静寂が消えたあの時間から、早数時間後。
『紫氷の森』の営業時間が終わり、全てのお客さんが帰った後。僕は24階層で遭遇したことについて、詳しく説明していた。
機密にしなければならないこと、伝えていいものか分からないもの等様々なものに気をつけ、少しずつ脳内で整理しながら口を動かす。
身振り手振りを駆使し、
寝れなくならないように、と淹れられた麦茶の匂いを感じながら、冷たい飲料が喉を通り過ぎる感覚を味わう。
お茶を飲み終えてふう、と僕がため息を吐くのと同時に、お義祖父ちゃんが口元に添えていた手を下ろし───頭を、横に振った。
「居なくなったはずの存在が生きている・・・・・・のみならず。確かに殺したはずなのに、復活する・・・・・・やはり、わからないな。一体どういった原理なのか・・・・・・『魔法』、あるいは『スキル』か?いずれにせよ、普通ではないことは確かだ」
「私は『ディース姉妹』に会ったことも、見たこともない。彼女たちの噂は何度か耳にする機会があった程度。だが・・・・・・死んだのではないか、とまことしやかに囁かれていた者達が、実際は生きていたとはな」
「ああ。私もあの二人を見た時は驚き、言葉を失った。それでも怒りで我を失って突撃しなかったのは、一重に守るべき義孫の存在があってこそだ」
お義祖父ちゃんもアルテミス様も、どちらも確信とも言える情報も考察もなく、やはり"わからないことが分かった"という事実のみが明らかになった。
───『ディース姉妹』。
『暗黒期において最も人を殺した』とも称されている彼女達は、同じ種族であるエルフ──お義祖父ちゃんには同じ種族などと、絶対にエルフの前で口にするな、と釘を差された──にとって、最も忌むべき存在で、最も恥辱とする二人組、らしい。
今更ながらにそんな恐ろしい人物と対峙していて、さらには生き残った事実により安堵と焦燥、そして恐怖が今更ながらにやってくる。
心をジワジワと蝕まれるかのような感覚を味わっていると、唐突にお義祖父ちゃんがパンッ、と手を叩いて僕達の視線を集める。
「とにかく。これ以上は考えていても仕方がないだろう。この話はここで終わりにして、また別のことを考えようじゃないか」
薄く微笑みながら「一旦お茶を淹れてくる」、とお茶のおかわりを淹れるためにお義祖父ちゃんが立ち上がろうとして───すぐに、
椅子から転げ落ちなかったのは奇跡だろう、と言える程にガタガタッ、と音を鳴らしながら格好が崩れたお義祖父ちゃんは、その人物────僕のお義祖母ちゃんを名乗るエルフを、少し困ったような笑みを浮かべて見つめた。
「その・・・・・・
「?可笑しなことを言う。夫婦が共にいることなど、当たり前のことだろう?」
空いている方の手で、お義祖父ちゃんが顔を覆い天を仰いだ。
まるで理解が及ばない存在を前にした時のような挙動と雰囲気を纏い、お義祖父ちゃんはそれでも奮闘する。
「・・・・・・神ディオニュソスに、許可は取ったのか?お前は、その・・・・・・団長だろう?」
「もちろんだ。処理すべき書類等は全て終えているし、ディオニュソス様にも確認を取っている」
「・・・・・・ちなみに、なんと言って確認した?」
「『これからは夫婦としての時間を過ごします。邪魔立てするのであれば、たとえディオニュソス様でも許しません』、と正直に答えた」
「え、と・・・・・・まずいな。どうすればいいのか全然わからない。こんなことは初めてだ」
何処か暗い目をしながら手を繋ぎ、次々と明瞭に質問を答えるお義祖母ちゃんの様子と先の回答に、お義祖父ちゃんは当惑している。
先ほどからお義祖母ちゃんの事を、まるで『妻ではない存在を目の当たりにして戸惑っている』かのような様子を見て、少し怪訝な表情をしてしまう。
(もしかしてシャリアさんが『お義祖母ちゃん』、って呼ぶように言ったり、暴走したりしてるのって、お義祖父ちゃんが原因じゃないの・・・・・・?)
視線の先にいるお義祖父ちゃんは、どうやって手を離して貰うかについて四苦八苦していた。
視線を彷徨わせて目線を合わせないようにしつつ、細長い耳が少し赤くなっているお義祖父ちゃん。その内心で渦巻いているのは、果たしてどういった感情なのか。
はたから見れば『子供の手を握る女性』の図に見えるこの様子が、実際は『十倍は年が離れた老人の手を嬉しそうに握る少女』であることに、一体何人が気づくだろうか。
唐突に、それも普段は老人のような雰囲気を纏うお義祖父ちゃんの不思議な様子を見て、アルテミス様が戸惑った様子で尋ねてきた。
「ベル。その・・・・・・今更だが、あの娘は何者だ?気付けばここにいたが」
本当に今更で、さらには答えに困る質問をされて、返答に窮する。
知り合い、友人、親戚、戦友。様々な名前を当てはめていって、それらすべてが合わずにポロポロと地面に落ちていく。
さんざん迷った末に、結局は僕目線でみた正直な感想を話す以外になかった。
「えっと・・・・・・実はよくわかってなくて。『お義祖母ちゃん』、って呼ぶように言われたな、くらいしか・・・・・・」
おばあちゃん、と言った瞬間にアルテミス様が少し顔を顰め──しかし、すぐに首を傾げた。まるで合点がいかない、とでも言いたげだ。
「・・・・・・お義祖母、ちゃん・・・・・・?つまりはフォスの妻、か?だが、彼は恋人はなどいないと言っていたはず・・・・・・」
「はい。僕もそう聞いています。ただ・・・・・・あの様子だと、お義祖父ちゃんも知らないみたいですし・・・・・・」
「・・・・・・・・・一体、何があったのだろうな・・・・・・」
「僕も知りたいです・・・・・・」
存在しない、居ないとしか言われていなかった存在が目の前に現れた。けれど、肝心なお義祖父ちゃん本人がよく分かっていない様子。
嘘を見抜ける神が戸惑っている、ということは、少なくとも本当にお義祖父ちゃんの認識上は恋人や妻が居ないとおもっていて、けれどもお義祖母ちゃんの認識だと恋人───どころか、妻である、と認識をしていることになる。
現状の大きな矛盾点であり、これらの疑問の答えだろう存在を認識した。
いろいろと気になることはあるけれど、まずは『お義祖父ちゃんとお義祖母ちゃんは本当に恋人、ないし妻なのか』についてどうにかしないと、話が進まない気がした。
(本人たちの認識を擦り合わせるしかない)
意を決して、僕は二人の元へと向かった。
────
「お義祖父ちゃん」
「ベル。どうしたんだ?すまないが、今は余裕がない」
本当に余裕がないのだろう。普段はベルと話す時は可能な限り目を合わせようとする彼は、今では誰とも目を合わせずに目を伏せ、残っている片手で顔を隠すかのように覆い、考え込んでいる。
恐らくは手を離させる事が出来なかったのだろう。彼が考え中でも片手は硬く握られていて、その原因たる少女は繋いだ手を見て、心底嬉しそうに顔を綻ばせていた。
このまま放置するのも手なんじゃないか、と乱れる思考を放置し。ベルは二人の間に立つことにした。
───その先が、深淵に繋がっていることも知らずに。
「まずは確認するね。シャ・・・・・・お義祖母ちゃんの認識だと、お義祖父ちゃんは夫・・・・・・つまりは、結婚してる。合ってる?」
「当然だろう。いきなりどうした?」
深紅の瞳で、少し暗くなっている赤緋色の瞳を覗き込む。
淀みなく、けれどその奥に何やら『病み』の色を醸し出すその目を見て、少年は少し慄きながら──アルテミスの時のことを思い出したせいもあるが──も、一度頷き。
今度は、フォスを見る。
「でも・・・・・・お義祖父ちゃんの認識だと、二人は結婚はおろか、付き合ってもいない。これで、合ってる?」
言われ、フォスは少し取り乱す。
この質問に嘘の答えを言えば、アルテミスにすぐにばれ、それをしてきされるあだろう。反対に真実を告げれば、今度はフィルヴィスが傷つく。
本来ならば、じっくりと考えなければならない事柄。
───けれど。
正直に言えば彼女傷つくとわかっていても、それでも真実を告げなければならない。そう考え、彼は正直に話すことにする。
「───────ああ。私はシャリアと夫婦である、などという話を、今日初めて聞いた」
少し躊躇いがちにフォスが告げた────瞬間。
ガタッ、と大きな音を立てながらフィルヴィスが椅子から立ち上がる。
その顔は動揺と悲しみで彩られ、瞳や唇、肩を震わせている。
「何故・・・・・・?何故、そんな事を言うんだ・・・・・・?私達は、夫婦で・・・・・・?・・・・・・??あれ?でも、私達は今日再会したばかり、で・・・しかし、私達は夫・・・婦。確かに、式は挙げてない・・・・・・だが、フォスならば式は挙げようとする筈で・・・・・・その筈なのに、私はそんな記憶が、ない?しかし、それでは私の中にある義孫との記憶と、義娘との記憶は一体なんなんだ・・・・・?・・・・・・・・・な、ぜ?何故何故何故何故何故何故何故何故何故─────」
壊れたオルゴールのように同じ言葉を繰り返し、まるで呪詛のように呟きを漏らし続けるフィルヴィス。そんな彼女を見て、二人は大いに慌てた。
互いの認識の擦り合せのために行われたそれは、フィルヴィスにとって『それまで彼女の心を守るために行ってきた『妄想』』を壊す行いであり。
精神の防波堤が消え去り、それまでせき止められていた感情や情報の濁流を前にして、少女の心は崩壊寸前───いや、もとから限界だったのだろう。
フォスとの別れの際に感じた、耐え難い苦痛と悲しみ。
信じたくない先達の死に直面し、深い悲しみと絶望に染まったあの日。
その先達を殺した存在と再会した際に感じた、身を焦がすほどの憤怒。
そして──義孫だと
様々な感情がフィルヴィスの身体を飲み込み、心を粉々にしようと暴れ狂う。
自身の精神の支えが消え去った少女は───直ぐ側にいる、彼女を一度救った存在へと縋り付いた。
「フォス・・・・・・私は、貴方にとって・・・・・・いったい、なんだ?」
それは、『依存』。
一度自身を救ってくれた存在に永遠と縋り付き、それによって自身の根幹を構成、ないし再構成する行為。
一度壊れかけた少女の心にとって、かつて自身の心を癒すために四苦八苦し、たとえ傷つけられようとも支え続けてくれた彼は、主神以上に心の底から寄りかかれる唯一の存在だった。
───もしも。
そんな彼に拒絶されてしまえば、彼女の心は壊れるかもしれない。
それでも、彼女のことを思うのであれば拒絶することも一つの手だ。受け入れてしまえば、遠い未来にフォスはもちろん、フィルヴィス自身すらも傷つける可能性はいつまでも存在し続けることになる。
そんな分かれ道を前にして、フォスは───
「・・・・・・・・・一度、手を離してくれないか」
「────、ぁぁ・・・・・・」
何処かうわ言のようになりつつ、フィルヴィスは言われた通りに手を離した。
───拒絶された。
フィルヴィスの心は、それ一色に染まった。
縋り付いていた存在が完全に掻き消え、彼女は背中から荒波へと倒れていく。
彼女の心を壊さん、と荒れ狂う感情の波を前にして、少女はもうなにもできることはなく。
ただ受け入れがたい現実に心を壊す───よりも前に、一度席を外していたフォスが、再び少女の前に現れた。
「シャリア。右手を出してほしい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
心の中の荒波に耐えることしかできない少女は言葉を返せず、機械のように言われた通りに右手を出す。
フォスは「取るぞ」と言い彼女の手を覆う手袋を取る。
顕になった白い手を、フォスは左手で支えるように持ち上げ───右手に握っていた『指輪』を、薬指に通した。
それを見た途端、ベルはアルテミスを伴って席を外した。
「『契約』だ」
「───ぇ───」
通された指輪は、木製──大聖樹を削り出して作り出されたもの。それには、小さく、けれど綺麗なワスレナグサの意匠が施されていた。
彼女よりも背が低いために、見上げる形になる彼。
その深緑の瞳が赤緋色の瞳を射抜き、彼女を見つめる。
「以前の『約束』を、具体的な『契約』にしよう。そうだな──期間は、一年」
「一、年・・・・・・」
「そうだ」、と頷きながら、フォスは続ける。
指輪をつけられた瞬間から、彼女の心の中では荒波を前に宙吊りになった少女が、その指輪を強く握りしめ、彼の言葉を待っていた。
「その一年で、可能な限り、一緒に時間を過ごそう。それで、その時間がお前にとって嫌なものでなければ───」
一度目を伏せ、もう一度目を開いた。
フィルヴィスの目には、深緑だったはずの瞳が、高貴さを感じさせる翡翠色に変わっている気がした。
「───結婚、しようか」
結婚。そういった途端、彼の頰が深紅に染まる。
それまでは一切逸らさなかった目線が逸れ、恥ずかしそうに赤くなった耳をピコピコと動かしている。
熟れた果実のようになったそれを見て───フィルヴィスは、思わず抱きしめた。
心の中では、荒波が一瞬で干上がり、辺り一面に綺麗な花園が咲き誇る程に、大きな変化が訪れていた。
いきなり抱きしめられたことに初めは戸惑ったものの、少女の身体が震えていることに気付いた彼は、その背を慈愛を込めて撫でた。
(───幻滅されるように頑張らなければ)
その内心で、ありえないことなことを考えながら。
────
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
あの後。
結局フィルヴィスは泊まることになった。従業員を雇った時用に用意していた部屋を与え、眠りの挨拶を返す。
先程まではあれほどまでに絶望を顔に貼り付けていた表情など何処にもなく。
嬉しそうに手袋の下にある指輪を撫でながら部屋へと向かう少女の姿が、そこにはあった。
そんな彼女を見ても、「早く幻滅されないといけないなあ・・・」、などとバカなことを考える彼を止められるものは此処にはいなかった。
たとえ居たとしても、そんな事が出来るのは神々のみ。
彼らでは、面白がって焚き付けるに決まっているので、結局は彼に的確な『助言』を授ける事ができる者はいない。
アルテミスですら、「それがお前の選択なのだな、フォス・・・」などと彼の行動の裏に気付かず、制止していない。
恋愛経験が薄すぎる・・・・・・どころかベルが初めてな彼女に多くを求めるなど、愚か以外の何物でもないが。
閑話休題。
少し浮かれた足取りで上の階へと向かう少女を見送り、彼女より託された短杖に向き合う。
久方ぶりの『護手のティアーペイン』の整備を前に、義祖父は少し楽しそうにしていた。
何処から手を付けるべきか、と考えたところで、今更ながらに『ディース姉妹』の
嫌なことを思い出したな、と思いながら・・・・・・ふと、とある事に気がついた。
「今思い返せば。あの二人は分割して、互い違いにくっつけた後にそこいらにいたモンスターに喰らわせた筈・・・・・・なのに、どうしてそれぞれがきちんと分かれている?」
およそ生き残るはずのない殺害方法をしたはず、と漏らす彼の言葉に、答えるものは居らず。
当時はフィルヴィスが傷つけられた怒りに任せた行動でしかなく、衝動的に残虐な殺し方をしたために記憶の彼方へと飛ばしていたために、少し記憶の内容が曖昧だった。
結局答えが出なかった彼は、作業に集中することにした。
───その胸中に、嫌な胸騒ぎを感じながら。
◯お義祖父ちゃんの内心
・なんだか見たことのある雰囲気だな(ヘラとかで)・・・・・・このままだと心が壊れそうだ
・そうだ!夫婦であることにこだわりがあるのなら、一度それを約束して、幻滅してもらおう!そうすれば、彼女は私から離れようとするはず!
・私のような存在と共にいても、彼女は幸せにならないだろう
皆さんに言っておきます。お義祖父ちゃんは結構人間関係についてはポンです。
本人が人に注ぐ愛情に上限はなく、けれど相手からそれが返されるとは微塵も思ってない人なんです。
だからこうなります。またやらかしたね、お義祖父ちゃん。
フィルヴィスさんの心の中?
こんな浅ましい妄想を繰り返した私を受け入れられた、許してくれた、と嬉しさのあまり舞い上がって、幻滅なんて見当たりません。
そもそも、幻滅なんてされるなら、ファミリア全滅の際に慰めていた頃にされているはずです。結構一緒にいましたし。
《追記》
恋愛系の描写って、ここまで心臓がバクバクするものなんですか?これを書いてる他の作家さん達、凄いですね。
それとも、これは原作死亡キャラの恋愛描写によるものなのでしょうか?よくわからなくなってきました・・・・・・