草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 今更ではありますが、もう60話も直前なのにまだ原作で3巻、ソード・オラトリアでも3巻くらいの時系列なの笑っちゃいますね。

 ・・・・・・二つ名、どうしようかな。全然思い浮かびません。
 Geminiに決めてもらおうかなぁ・・・・・・でもなぁ・・・・・・うーん。


短編 その3

 

 

 

『名前で呼んでください!』

 

 

 

「と、言うわけで。名前で呼んでください」

 

「なにがと言うわけなんですか・・・・・・?」

 

 ───喫茶店『ウィーシェ』店内。

 彼女の同郷の妖精エルフが営む店内にて。

 少女──レフィーヤは、ベルに名前呼びをするようにお願いしていた。

 お願いされた側であるベルは、前後の文脈が抜けた彼女の言い分に混乱し、ついオウム返しのように聞き返してしまった。

 

 何故他派閥であり、さらには医療系と探索系の所属という別々の世界を生きる二人が、こうしてここにいるのか。

 その理由は簡単で、ただ単にレフィーヤが歩いている際に少年を見つけ、声をかけてここまで連れてきた。ただそれだけである。

 常でなれば楽しい話をして盛り上がり、最後は別れの挨拶をして終わりなのだが・・・・・・少女はあろうことか上記の通り、理由も説明せずに自身の名前を少年に呼ばせようとしているのだ。

 唐突な出来事に、ベルが困惑するのも仕方がないだろう。

 

「とにかく!私のことを名前で呼んでくれれば、それで済むんです!だからほら、名前で呼んでください!」

 

「ええ、っと・・・・・・やっぱりよく分からない、と言いますか。呼ぶ必要はないんじゃないかな、って」

 

「むぅーーーー〜〜〜〜ッ!」

 

 子供のように頬を膨らませながら──事実、彼女はまだ15の子供だ──、レフィーヤはベルを軽く睨む。

 その鋭い視線に思わずうっと少し呻き、ベルは心を落ち着かせるために紅茶を飲む。

 カップを傾けた途端に香ってくる匂いを味わいながら飲むと、飲みやすい温度になった紅茶の香りが、鼻から抜けていく。

 思わずホッとしてしまうほどに美味しい紅茶の味に心を弾ませ、すぐにレフィーヤの存在を思い出す。

 すぐに視線を戻せば、彼女は目と眉をジトッとしたものへと変え、その顔はどうしようもないものを見るそれへと変化していた。

 

「そうですか、そうですか。私は紅茶よりも気にする価値も無いんですね。すみません、存在が薄くて」

 

「ち、違います!ただ、ここの紅茶がおいしくて・・・・・・!何処の茶葉を使ってるのかな、って考えただけで・・・・そもそもウィリディスさんの影が薄いなら、僕なんて───」

 

「紅茶に向けるよりも興味なさそうに私を見てるくせに、何を今更!」

 

 聞く人によっては理不尽に感じる叫びを聞いても、少年は怒ることはなく。

 むしろ、彼女の叫びを聞くたびに、この状況へと至った経緯を知りたくて仕方がなかった。

 

「その・・・・・・やっぱり、理由くらいは聞きたいかなって思うんですけど・・・・・・どうして、名前呼びをさせようと?」

 

「それは・・・・・・うぅ・・・・・・」

 

 なにも、少女にも理由がないわけではない。

 ただただ、その理由が少女にとって恥ずかしいものであり、少年にとっては迷惑なものであるからだ。

 

(言えない。私が一方的にライバル視してるから、なんて言えない!言ったら、絶対に引かれるに決まってる!!)

 

 ───つまりは、そういうことである。

 彼女は同じ『魔導士』として、少年をライバル視しているのだ。

 発展アビリティの『魔導』を持ち、付与魔法エンチャントを利用して砲撃やら援護射撃やらをし、さらにはナイフを扱った短剣術も扱う。

 レフィーヤと同じものと、彼女が持たないものの両方を同時に持ち。さらには年も一しか変わらない彼に嫉妬してライバル視してしまうのは、無理からぬことだろう。

 

 ───しかし、同時に自身がライバルとして見られていないことも、少女は理解していた。

 少女としては彼のことを『魔法剣士』として見ているが、少年自身は己を『治療師ヒーラー』として扱っている。それを考えれば、畑違いの両者では戦う土俵が違う、と少年は言うに決まっているだろう。

 それを理解していて、さらには拒否、ないし止めるように言われるのが分かるからこそ、彼女は絶対にそのことを口にしない。

 ───故にこそ、こうして拗らせているとも言えるが。

 

「とにかく!私を名前で呼んでください!!じゃないと、貴方のお義祖母ばあ様を呼びますよ!?それでもいいんですか!?!?」

 

「え、え〜〜〜〜・・・・・・・・・?」

 

 何故かは知らないが、鬼気迫る顔をした彼女の口から突然出てきた義祖母に何とも言えなくなり。

 ───というよりも、何やら最近増えた義祖母を少年の急所扱いをしている少女に、何といえばいいのか分からず。

 

 ───結局、少年はレフィーヤの名前呼びを受け入れた。

 

 

 

「はい!挨拶と名前!」

 

「えっと・・・・・・こ、こんにちは、レフィーヤさん・・・・・・?」

 

「ふ、ふふん!最初からそう呼んでいればいいんですよ。こんにちは、クラネルさん!」

 

「あ、よかったら僕も名前で呼んでください」

 

「ふぇ!?」

 

 ───尚、カウンターも食らっていたが。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

『義祖父の寝起き』

 

 

 

 初めの頃はフォスとベルの二人しか居なかったこの家も、今ではアルテミスとフィルヴィスを加えた四人に変わり。

 エルフが二人にヒューマン一人、女神が一柱となかなか聞かない種族構成の家での生活は、しかしそこまで問題はなかった。

 

 フォスはそもそも通常のエルフよりも潔癖ではないし、ベルはエルフの生活や習性に理解のあるヒューマンだ。

 アルテミスはフォスのお店の手伝いをしつつ、料理の練習を始め。

 ベルは引き続き、【ミアハ・ファミリア】の構成員として働いて。

 フィルヴィスも【ディオニュソス・ファミリア】として調査と団長としての職務をこなす。

 

 今日もまた、そんな彼らの日常が回っていくのだろう朝が、やって来る。

 

 

───

 

 

「─────ん」

 

 日が昇り始めるか否か、という時頃。家主である彼は、誰よりも早く起床する。

 夜に行った仕込みを仕上げ、来たるお客さんを満足させるために至高の料理に仕上げるためには、こうして明朝から起きるくらいが丁度いいのだ。

 だからこそ彼は誰よりも早く目覚め、家主として威厳ある姿を見せるため、身だしなみを───

 

「フォス。おはよう」

 

「・・・・・・・・・ん。おは、よ・・・・・・・・・・・・ぅ」

 

 寝起きでふにゃふにゃとなっているが、実は彼は朝に弱いのだ。今もそのまま布団の中にいれば、泥のように眠ってしまいそうなほどには。

 それでもこうして早起きができるのは、一重にゼウスとヘラの時代に、不祥事を起こす彼らのせいで静かに寝ている最中にも叩き──文字通り──起こされ、厄介ごとの火消しに奔走させられた結果によるもの。

 いずれにせよ、その過去があるからこそ、こうして誰よりも早起きている、のだが。

 ───そんな彼の部屋の中に一人の少女がいることに、寝ぼけている彼はようやく気がついた。

 

「・・・・・・・・・シャリア?」

 

「そうだ。・・・・・・どうした?私が他の者に見えたのか?」

 

 濡羽色の髪に赤緋色の瞳をもったエルフの少女──フィルヴィスが、クスリと笑う。どうやら、今日は彼女が早くに起きたようだ。

 既に寝間着から部屋着へと着替えた彼女は、なんてことのような顔をして小さな老人の部屋にいた。

 部屋の至る所に棚が立てかけられ、そこに色とりどりの宝玉や魔導書、道具等が積まれたアトリエ風のフォスの部屋にいる彼女は、その美しさから少し浮いている。

 ようやく意識がはっきりしてきた男は、すぐに顔を真っ赤にして掛け布団を被り、頭の天辺までのすべてを隠す。

 はたから見れば布団へかくれんぼをしている子供のようにも見えるそれは、彼からすれば死活問題故のものだった。

 ───彼は、普通に寝顔を見られたのが恥ずかしかったのだ。

 

「何故、ここに・・・いる?お前の部屋は向こうのはずだ」

 

「早めに起きたからな。朝は早いと聞いていたし、こうして起こしに来たんだが・・・・・・必要なかったみたいだな」

 

「ああ・・・うん。だから、ほら・・・・・・早く、部屋から出てくれ。着替え・・・られない」

 

「わかった」

 

 眠そうなゆったりとした口調でお願いする彼に従い、彼女はそのまま恭しく扉へと向かっていき。

 フォスは今も襲いかかってくる眠気と、驚きによって早くなった心臓がバクバク拍動する感覚、という相反する二つのものを抑えるのに必死だった。

 フィルヴィスがドアノブに手をかけたカチャリ、という音が聞こえた時に「そうだ」、と昔とある老神ゼウスに教えられたことを思い出し、そのまま口に出していた。

 

「その、部屋着・・・・・・とても、よく似合っている。服もそうだが、改めて・・・・本当に・・・・・・綺麗になった、な」

 

 「女子おなごの服装はとにかく褒めろ。同じ屋根の下にいる者には、特に見慣れた普段着であろうと『前よりもよく似合っている、綺麗だ』、などときちんと言え」、という下半身直結男神ゼウスの言葉を参考に彼女を褒めた彼は、フラフラとそのままクローゼットへと向かう。

 褒められた少女はというと、その言葉を受け止め、そのまま洗練された動作で部屋を出て───しゃがみ込んだ。

 

「はわわわ・・・・・・」

 

 下を向いて誰にも見えない顔は、真正面から褒められたことにより耳まで真っ赤オーバーヒートしていた。

 普段は褒めてくる相手と言っても、歯の浮いたようなセリフが日常会話である主神くらいのもの。

 死妖精バンシーなどと呼ばれたり、団長でありながらも派閥内で浮いたりして尊敬など欠片もされていない彼女にとって、好いた相手から贈られた言葉は、相手が嘘で褒めているわけではないとわかるからこそ、恥ずかしく、嬉しい。

 ───もっと好かれるように頑張ろう、と。

 少女は、決意を新たにしていた。

 

 

 

「どうやって嫌われようか・・・・・・よくフラレていたあの子ゼウスの眷属を参考にすればいいのか・・・・・・?」

 

 ───当の本人はこの様子だったが。

 先ほどのようなことをしておいて、フォスは彼女の好感度をゼロにしようと思っているのだから、まさに愚かしいとしか言いようがないだろう。それもこれも彼の情緒教育を担当した(・・・・・・・・・・・)ゼウスが悪いのだが。

 改めてクローゼットの中から服を取り出し、寝間着から仕事着へと着替える。

 緑色を基調とした服を着て、黒紫色のエプロンを上から着る。最後に鏡を見ながら竹櫛で髪を整え、ようやく着替えを終える。

 

 彼はそのまま、キッチンへと直行する。もうすぐ起きてくるだろう朝練前のベルとアルテミス用の朝食を作るために。

 

 ───ちょっとしたトラブルこそあったが、これが今のフォスにとっての朝だ。

 

 

 

────

 

 

 

 

『フォスの好感度調整奮闘記 〜相談〜』

 

 

 

店主ウェールさん、紅茶のおかわりを頂きたい」

 

「かしこまりました」

 

 都市南東にひっそりと建つ喫茶店、『ウィーシェ』。

 本日は『紫氷の森』の定休日のため、フォスは数日前から決めていた『予定』のための情報収集に勤しんでいた。

 テーブルの上には、多数の情報雑誌がメモ紙を挟まれては綺麗に積まれており、そんな彼の様子をマスターは紅茶の用意をしながら微笑ましく眺めていた。

 

 彼とマスターの付き合いはそこまで長い訳では無いが、それでもマスターは彼のことを知っている。

 年齢や所属ファミリア、そして───本来(・・)の種族も。

 そんなマスターにフォスも気を許し、こうして本を読む際には自身の家よりもここを利用する程に気に入っている。

 

 恭しく紅茶をテーブルに乗せるマスターへとありがとう、と言いつつお辞儀をして、フォスはウィーシェ産の茶葉を使用した紅茶を味わ───

 

「む?」

 

「──────」

 

 ───おうとしたところ。

 一人のエルフ───いや、ハイエルフ(・・・・・)が入店した。

 その人物は神すらも嫉妬するほどの美貌を持ち、綺麗な翡翠色の長髪と同色の瞳を持っている。

 入店した際にさりげなく店内を見回した彼女は、その瞳でカップを傾けるフォスを見つけた。

 彼女に見られている本人はと言うと、それまで無表情だった顔を少々顰め、切れ長の目をさらに細めて睨んだ。

 

「・・・・・・・・・ン、ふぅ・・・・・・すまない店主予定を思い出したこれで会計を頼む大丈夫だ釣りはいらないではまt───」

 

「待て。私を見て逃げるな」

 

 紅茶を速攻で飲み干し、彼は本を鞄に詰め込んで流れるかのように会計へと向かう。

 明らかに多めのお金を渡し、一泊も置かずにすべてを言い終えては退店しようとする彼を、ハイエルフ──リヴェリアは引き留めた。

 思わず舌打ちをしそうになる自身を堪え、老人は可能な限り感情を押し殺して席に戻った。

 

「久しぶりだな。まさか後進レフィーヤに教えてもらった穴場にいるとは思わなかったが」

 

「それはこちらのセリフです。わたくしとしましては貴女のような高貴なるお方に声をかけて頂けるなどとは、微塵も想像もしておりませんでした」

 

 普段とは異なる口調の彼に、リヴェリアの顔が強張る。しかしそれも一瞬で、すぐにそれを引っ込めてマスターに紅茶を頼んだ。

 マスターが紅茶を淹れる音が響く中。二人の間には沈黙が訪れていた。

 フォスは話すことがないから。リヴェリアはどう接すればいいのかがわからないから。

 それぞれの理由で流れた沈黙ではあるが、心地良いとはとても言えない。

 

 耐えきれなくなったフォスは店内に店主以外のエルフが居ないことを確認して、鞄に詰め込んだ本を取り出し。リヴェリアが目の前にいる事も気にせず、そのまま先程まで読んでいたページへと戻り、読み込んでいく。

 手持ち無沙汰となったリヴェリアは、それに注意することなく紅茶を待とうとし・・・・・・・・・その表紙に記されたタイトルを見て、目を見開く。

 

「・・・・・・・・・『嫌われる人の特徴100選』?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 およそ彼が読むとは思えないタイトルの本を思わず二度見してしまい、狼狽える。

 彼女が知る彼は、それこそ大切に思っている家族にすら何と思われようと、自身の道を貫く人物。

 

(そんな彼が、嫌われることを恐れている・・・・・・?)

 

 恋愛面に疎いリヴェリアでも、その理由はすぐに察せられた。

 すなわち───好きな人ができたのだろう、ということ。

 それは喜ばしいこと・・・・・・とは、言えない。

 彼の本当の種族を考えれば、もしもその恋が実り、結ばれて・・・・・・万が一にでも人々にバレれば───それこそ、オラリオ中のエルフを巻き込んだ大騒動になるに違いない。

 

(一体、相手は誰なんだ・・・・・・)

 

 彼女にとって、目の前のエルフは知らない仲ではない・・・・・・どころか、彼女の父親繋がりで仲が良かった(・・・・)のだ。

 今でこそ避けられては居るものの、それでも彼女にとっては彼は親しい友人だ。

 そんな彼に好きな人ができた(多分)のだ。気になっても仕方がないことだろう。

 

 彼女が知る限りの彼の交友関係を脳内で洗い出していると、唐突にフォスはそれはそれは大きなため息を吐いた。

 本をパタンッ、と少し大きな音を立てて閉じ、すぐに頭を抱える。そんな動作をする際に一瞬見えた彼の顔は、酷く悩んでいるものとなっていた。

 

「どうした?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、この際は貴様でもいいか」

 

 先ほどよりも切羽詰まっているのか、元の仲が良かった頃の口調が出ている。

 その事に喜ぶよりも前に、リヴェリアの脳内を疑問符が埋め尽くす。

 

「何の話だ」

 

「恋愛についての相談だ」

 

 リヴェリアは思わず顔を顰めてしまう。

 彼女は年齢=恋人、ないし好きな人が居ない暦なのだ。

 そんな彼女に恋愛話をするなど、自殺行為としか言いようがない。

 何より、彼の悩みはただの恋愛話ではない(・・・・・・・・・・)のだから。内容を知れば、例え彼女だろうとふざけるな、と怒りたくなるか、もしくは意味が分からない、と呆然とするのが普通だろう。

 

「どうすれば相手の心を傷つけずに私の好感度だけ最低にすることができるか、知らないか?」

 

「は?傷つけずに?好感度を?」

 

 思わず聞き返してしまった彼女を責めることができる人物は──彼女をハイエルフだと知らなくても──居ないだろう。

 それほどまでに、彼の相談は意味不明だった。

 

(傷つけずに好感度を下げる?一体何を言っているんだ・・・・・・?)

 

 およそ理解に及ばない存在を前にしても、リヴェリアは──少なくとも表面上は──動揺していなかった。

 しかし、今この場においてはそれが悪手となる。

 現に、彼は彼女の様子から話についてこれていると考え、そのまま話を続けたのだから。

 

「これまでも無数の手を尽くしたのだが・・・・・・どれも意味をなさずに終わった。その理由が知りたい」

 

「・・・・・・なるほど」

 

 わからん、という言葉をギリギリのところで飲み込み。

 兎にも角にも現状──何故こんなことになったのかと嘆きたくなるが──を理解しないことには話が進まない、とし。

 そのためには、やはり本人から詳しく聞くしかないだろう、と彼女は既に相談に乗る気満々だった。

 

「どういったことをしたのか、聞いてもいいだろうか」

 

 具体的には何を行い、どんな反応があったのか。

 そういった情報を求めた彼女に、フォスは小さく頷いた。

 

「・・・・・・いいだろう。私の惨敗の歴史を語ろう」

 

 こうして、フォスからの恋愛相談は本格的に始まり。

 ───同時に、後にリヴェリアが『私の人生の中で2番目に無駄な時間だった』と言わしめた話し合いが、幕を上げた。

 

 

 

 

 ステップ1『手を握る』

 

 

 

「手を握った」

 

「・・・・・・なんだそれは。そんなことで嫌われようとしたのか?」

 

 ───手を握る。

 唐突に告げられる身体接触の話に、──初心うぶ以上に初心な──リヴェリアは動揺しつつも、それを表へ出さないようにする。

 そんな彼女の(表面上の)様子に、フォスは小さく鼻を鳴らし、顔を小さく左右に揺らした。まるで呆れたかのように、あるいは小馬鹿にするかのように。

 

「知らないのか?女性のエルフの手を勝手に握る行為・・・・・・およそエルフとして耐え難いものであろうそれを、男性側わたしの意思で勝手に行う。同じエルフ、それも女性ならば分かるだろう?・・・・・・これほど嫌われそうな行動は、ない」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「何より・・・・・・ただ手を握るだけじゃない。そう、恋人を作りたいと願う人類の誰もが憧れるソレ・・・・・・すなわち恋人繋ぎ(・・・・)!」

 

 『恋人繋ぎ』。

 初心なリヴェリアでも知っているそれは、通常の手繋ぎとは異なり、指と指を絡めることで接触面積を広げる、という行為。

 しかし、それ以前に。

 ───はたして目の前にいる存在は、本当に自身の知るフォスなのか?

 そう思うほどに、今の彼のテンションは高く感じられた。

 ひとまず、それほどまでにこの作戦の期待値も大きかったということなのだろう、と一人納得しておき。

 わかりきった結果だけは聞いておくことにした。

 

「・・・・・・結果は?」

 

「・・・・・・強く、それはもう強く握り返された。・・・・・・あの子は、心底嬉しそうに微笑んでいたよ」

 

「・・・・・・・・・はぁ」

 

 つまりは、失敗。

 彼と話に聞く彼女がどういった関係なのかはしらないが、つまりは親しい間柄なのだろう、と。

 一先ずの理解をして、次の話に移行してもらった。

 

 

 

 

 ステップ2『髪、及び頭に無遠慮に触れる』

 

 

 

「髪や頭を無遠慮に触る男は嫌われると聞いた」

 

「・・・・・・誰にだ?」

 

「ゼウス」

 

「・・・・・・そうか」

 

 かの男神を知る彼女は、つい顰めっ面になるのを堪えられない。

 武勇伝と同じくらい───否。それ以上に醜聞の多いゼウスに、彼女はいい反応をしない。

 ───歴史上唯一神聖浴場を覗いた、というエルフとしては嫌悪するべき逸話を持つため、というのもあるのだろうが。

 リヴェリアの反応がよろしくないことを察したフォスは、すぐに話を進めた。

 

「そこで私は彼女の部屋へと入り、髪に触れることにした」

 

「・・・・・・部屋に、入れたのか?エルフの女性の?」

 

「?そうだが」

 

「・・・・・・許可は?」

 

「取っているに決まっているだろう」

 

 そこまで聞いて、リヴェリアはようやく理解した。

 ───ああ、これは嫌われるのは厳しいだろうな、と。

 たった二つ目にして、未婚のエルフ──言葉の端々からそう読み取れる──の女性の部屋に入る許可が取れる。ここから読み取れるのは、それこそその女性は──フォスの性格を考慮すればあり得ないが──襲われ(・・・)ても構わない、と思っているのだろう。あるいは、それと同じくらいには彼を信頼している、とも。

 兎にも角にも、リヴェリアはもう話を真剣に聞くのが馬鹿らしくなった。

 そもそも好感度調整などと言い、ダメ押しとばかりに恋愛相談と銘打ったこの話し合いは、前提としてその全てが失敗談。

 そんなものの中に、明らかに相手方からの折れることのないほどの好意が感じられる。これは、つまり───

 

(私は相談を持ちかけられているように見えて、惚気られているのだろうな)

 

 リヴェリアがこれは高度なイチャつきや惚気を聞かされているのだ、と判断しても無理からぬことだろう。

 

「あの子を椅子に座らせ、私はその背後に立ち。そのまま手に持つ『竹櫛』で、その綺麗な黒髪を────」

 

「まて、まて。竹櫛?手ではなく、か?」

 

 リヴェリアの疑問に、フォスは顰めっ面で返した。何を言っているんだお前は、とでも言いたげな顔だ。

 

「・・・・・・正気か?リヴェリア・リヨス・アールヴ。手櫛では、髪が傷つく可能性があるだろう。それに、もしもこの手であの子の髪に少しでも傷をつけてみろ。私は迷わずこの腕を切り落とすぞ」

 

「なんなんだお前は・・・・・・」

 

 ───もう、これは放置しても良いのではないだろうか?と。リヴェリアはそう考え始めた。

 そもそもが好感度を下げる必要があるのかがまだよく分かっていない彼女からすれば、彼からも想いがそこまで重いのであれば、受け入れて上げればよいのではないだろうか。

 少なくとも、彼女はそう思えてしまった。

 

「とにかく。私は理由を告げずに椅子へと座らせた彼女の髪に勝手に触れ、『竹櫛』で無遠慮に梳いたんだ。案外いいものだな、ああいった時間は」

 

「・・・・・・・・・・・・結果は?」

 

「・・・・・・お礼に、私の髪を整えるだなんだと言って・・・・・・こうして、髪を結わえられた」

 

 そう言いつつ彼が指さす先には、綺麗に整えられたハーフアップになっていた。

 リヴェリアですら見たことがないほどの完璧な比率や整え具合。誰がどう見ても彼の作戦の失敗の証であるそれを見て、リヴェリアは重いため息を吐いた。

 ───帰ろうかな、と頭の片隅で考えながら。

 

 

 

 

 ステップ3『重い贈り物をしよう』

 

 

 

「重い贈り物・・・・・・特に高価なもの程嫌われる、とかつての最凶の娘昔の知り合いから聞いた」

 

「・・・・・・何を贈った?」

 

 もう早くにこの話し合いが終わって欲しい、と願い始めた彼女は質問を止め、話を進める方向へとシフトした。

 

「彼女の故郷、『アシェニアの森』から取り寄せた『大聖樹の枝』と『妖精の刃』、そして『最高純度のミスリル』。ダメ押しに『私の魔法石』を使用して武器を創り。最後に私が魔術加工を施すことでようやく完成した、世界にたった一つの、私以外に作れない短剣ショートソードをあげた」

 

 聴き終えた途端、リヴェリアは頭を抱えた。

 確かにそれは高価なものになるし、相手によっては引くものだろう。

 だが、そこまで来ると一般人だろうと引いてしまうもの。何よりも、恐らくは相手は『冒険者』なのだろう。

 そこまでされれば、最早『彼は私に生きて帰ってきて欲しい、と全力で思っている』、と愛されている自覚を得ながら受け取るだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・一応、聞いておこう・・・・・・幾らほどになる?それは」

 

「そうだな・・・・・・『私の魔法石』も使用したことから・・・・・・込み込みで、およそ10億ヴァリスになるか」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 彼からすれば自分が作ったから負担は原材料費だけ、と思っているのだろうが・・・・・・もっと自重してほしいものだ。

 なによりも、そこまでの値段がするのであればそれは明らかに『第一等級武装』。

 世界で一つ?当たり前だろう、そんなものを持つものが他にいてたまるか、とリヴェリアは内心で件のエルフを羨んだ。

 

「それで?(分かりきっているが)結果はどうなった」

 

「・・・・・・『今度、私の故郷へ行かないか』、と言われた・・・・・・」

 

「だろうな・・・・・・」

 

 残当残念ながら当然

 いつぞやにロキが口にしたそんな言葉が、リヴェリアの脳内を過った。

 

 

 

 

「以上が私の失敗談だ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「その上で聞く。私はどうすればいいと思う?」

 

 リヴェリアはしばし考え込むかのように顎に手を添え。口を湿らせるために紅茶を飲み──始めから決めていた文言を口にした。

 

「責任を取ってやれ」

 

「は?」

 

「お前もその娘を大切に思っているのだろう?責任を取ってやれ」

 

「それを回避するための行動を知りたいのだが・・・・・・待て、逃げるな。待て、リヴェリア・リヨス・アールヴ!!」

 

 引き留めようとするフォスの言葉に耳を貸さず。

 リヴェリアは、そのまま逃げるように帰宅した。

 

 

 

「おや、もう帰ってきたのかい?早いね」

 

「・・・・・・フィン。私はもう恋愛相談には乗りたくない」

 

「この数時間で一体何があったんだい・・・・・・?」






◯『名前で呼んでください!』

・ルート分岐でここから始まるベルレフィがあるかもしれないし、ないかもしれない。少なくともここではないと思う
・レフィーヤさん、前よりもベル君をライバルとして意識し始めました
・ベル君、前よりもちょっと張り合ってくるレフィーヤさんのことを「かわいらしいなぁ」と「微笑ましいなぁ」で済ませてます

◯『義祖父の寝起き』

・フォスは寝起きがすごく弱いです。ちょっと頭を撫でたらすぐに寝ちゃうくらいに
・フォスの褒め言葉はゼウス仕込み。おそろっちですね、ベル君
・この後、凄く上機嫌なフィルヴィスさんの姿が【ディオニュソス・ファミリア】の面々の前にお出しされました。酷く不気味がられましたが

◯『フォスの好感度調整奮闘記 〜相談〜』

・これだけ長い
・実はフォスはリヴェリア様のお父さんと知り合い・・・・・・どころか、良き友人。今でも手紙でやりとりをしている
・他にも作戦はあったけれど、惨敗以前に全てフィルヴィスさんを喜ばせて終わった。フォスは敗北者じゃけぇ・・・
・ちなみに本当に髪に傷一つでも付いたら腕を切り落とすくらいの覚悟があった。
 安いもんだ、(フィルヴィスの髪に比べれば)私の腕一本くらい。(フォス談)


◯短剣『クストス・カンディダ』

・フィルヴィスに贈った短剣
・ラテン語で『純白の守護者』の意
・第一等級武装
・ベルの短杖に使用した『魔法石』と同じものを使用しているため、これ単体でも魔法の補助を必要十分以上にこなす
・『鍛冶』も含めて、全ての工程をフォス一人で行った
・フィルヴィスにスキルを含めた全てを教えてもらった結果、第一等級武装を贈っても問題ないだろうと考え、やりすぎなほどに素材に糸目をつけずに集め、加工も拘りに拘り切った
・値段は10億ヴァリス(売り値をつけるなら)
・最後まで銘を『白短』と迷ったが、アルテミスに相談してこちらの銘になった
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