草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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違和感と調査

 

 

 この前の喧騒から、早数日。

 僕たち【ミアハ・ファミリア】は、やっぱり『調合』作業を続けていた。

 

 薬草の香りに包まれた『調合室』に集まり、三人で各々が割り当てた作業を行い、互いに互いを補い合う。

 まさに三位一体の働きとも言える程に連携し、ポーションの調合を行っていた。

 

 時刻は陽が天高く昇る時刻になって来ているけれど───この時間までのお客さんの数が、ゼロ。

 少し前であればこの状況も『ああ、日常だなあ・・・・・・』、なんて悲しい現実を再確認するだけのものではあったのだけれど───最近は違うはず、だった(・・・)

 

 僕が最速ランクアップ記録を更新してからは、物珍しさや冷やかし目的のお客さんの数が僅かではあるが増えてきて。さらには『神月祭』から販売し始めた『高等二属性回復薬ハイ・デュアルポーション』によって、さらに増加ブースト

 まさに零細から抜け出し始める栄光の第一歩を踏み出し始めた、と皆で喜びをかみしめていた。

 ───その筈なのに、ここ数日のお客さんの数が、ゼロ(・・)

 

 やはり何かがおかしい、と思い始めたのは僕だけじゃなかったようで。ミアハ様もナァーザさんも作業を一旦止め、怪訝な表情を浮かべながら顔を上げた。

 

「・・・・・・・・・おかしい。静かすぎる(・・・・・)・・・・・・」

 

「うむ。数日前まではあれほどまでに騒いでいた冒険者達の声・・・・・・どころか、住民の声すらも聞こえないな」

 

 『冒険者』、という単語で、ようやく昨日の夜にお義祖父ちゃんに言われたことを思い出した。

 

「あ、冒険者についてはお義祖父ちゃんがなんとかしてくれたらしいですよ」

 

 唐突に出てきたお義祖父ちゃんに首を傾げる二人に、昨日の夜に言われたことをそのまま説明する。

 なんでも───

 

『ウラノスとフェ・・・・・・知り合いに"頼んで"、ベルのランクアップ情報に補足してもらった』

 

『補足?』

 

 コクリ、と頷きながら、お義祖父ちゃんは一つの洋書を取り出した。

 そこには長文が綴られていて、それらの一つ一つに指を差しながら、一つ一つ説明してくれる。

 

『『ベル・クラネルのランクアップは、ギルドによる冒険者依頼クエストが原因』『依頼先に向かう途中で、『怪物祭モンスターフィリア』の際に出現したモンスターとダンジョンで接敵。近くを通りかかった【アストレア・ファミリア】が回収するまでの間に、かの植物型を総数20匹、さらには大型のモンスターを狩ることに成功。これよって、彼はランクアップした』・・・・・・とするようにし、さらにはウラノスのサインもいれるように、とな』

 

『ウラノス様に、アストレア様・・・・・・ちゃんと許可は取ってあるの?』

 

『・・・・・・ああ。ちゃんとどちらの神にも許可は取ってある。安心しなさい』

 

 と、黒衣の人物──食料庫バントリーに向かうように依頼を出してきた者──が用意したらしい報酬を僕に渡しながら説明してくれた、と報告すると、二人は成る程と納得した。

 幾ら僕のことを嫌ったり、疑ったりする冒険者でも、ギルドまでもを疑うことは厳しい。

 お義祖父ちゃんの言うことが本当に実行されているのなら、数日前のように"冒険者は"集まることはなく、騒がれることもないのかもしれない。

 

 ───そう。

 ───今の話は、あくまで"冒険者が"騒がない理由たり得ても、"近隣の住民"までもが静かな理由にはならない。

 それに気付いた僕たちは、すぐに顔をクシャッと顰めた。

 

「一体、何があったんでしょうか・・・・・・」

 

「ふむ・・・・・・騒ぎが大きすぎたために住民が逃げた、という事もあり得るが・・・・・・やはり、他の理由がある気もするな」

 

「・・・・・・その、心は?」

 

 ナァーザさんの確認とも取れる言葉に、ミアハ様はしばらく思案し。しばらくして面を上げると、一言。

 

「勘、だな」

 

 ───ミアハ様───神の、『勘』。

 神々の未来予知にも等しい直感は決して馬鹿にできない。

 考え込むために少し傾けていた顔を正し、三人で頷き合う。

 

 目の前の作業をキリのいいところまで進めて、『調査』を行うために全員で外へと向かった。

 

 

 

────

 

 

 

 

 お店の扉に『臨時休業』の看板を立てかけてから、僕たちは調査に乗り出した。

 陽が高くを登り終え、現在は少しずつ傾き始めている時頃。一日の中で二・三番目程に暖かい時間帯の陽射しに目を細めつつ。

 調査を開始した僕たちが目にしたのは───『青の薬舗』周辺でだけ(・・)極端に人通りが少なく、それ以外の・・・・・・それこそ、少し遠くに見える通りなどは人が疎らではあるものの、きちんと存在している光景。

 静と動真反対の様相を呈しているそれぞれの通りによって、この大通りの『寂しさ』や『異質さ』を加速させている。

 

「なんだ、これは・・・・・・」

 

「何時もは誰か一人は居る筈なのに・・・・・・誰の気配も、ない?」

 

 ナァーザさんの言う通り、今のここは人の気配が欠片もなく。耳を澄ませば、それこそ家の中で動くヤモリや水の音でさえも聞こえそうなほどに静かで、嫌いな種類の静寂に包まれている。

 ここまで来て、ようやく僕とナァーザさんも本格的な危機感に襲われ始め。

 兎にも角にも情報が必要だとして、三人で手分けして聞き込みを開始する。

 

 

 

 『青の薬舗』の周辺に近い通りに出て、人が居ないかを探し回り、一人一人に──特に、顔見知りの人を対象に、聞き取りを行いう。

 可能な限り内心の言い表しようのない『焦り』の感情を隠しながら、路上販売の時のようににこやかに尋ねた。

 けれど───

 

「すみません、ちょっと話を───」

 

「────!すみません、急いでいるので!」

 

「え、ちょっ」

 

 脇目もふらずに逃げられた。

 それでもめげずに人を見つけては尋ね、見つけては尋ねてを繰り返していく。

 けれど───

 

「す、すみませ───」「すまん!」

 

「すみ───」「っ!?ご、ごめんなさい!!」

 

「────す「ひぃっ!?」・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ────結果は、全滅。

 誰も彼もが僕を見た途端に怖がって(・・・・)、逃げていく。

 中には僕がダンジョンに向かう際には果物を投げ渡して激励してくれる果物屋さんの店主にすらも「今は、無理だ」などとよくわからないことを言われ。調査は一切進んでいない。

 一度『青の薬舗』に戻って人が戻っていないかを確認したけれど、悲しく閑古鳥が鳴いていただけで。むしろ、僕達が調査に向かったことでより『寂れた感』を醸し出しており、衰退していく街の様な『寂しさ』に包まれた。

 肩をがっくりと落とし、胸元をぎゅっと握りしめながらトボトボと先程調査を行っていた通りへと戻り。

 一度冷静になって、気になることを一つずつ考えながら聞き込みをする。

 

 

(───調査を始めてから、違和感・・・・・・いや、『視線』を感じるような気がする)

 

 以前──それこそ、ランクアップ後には感じていた、『妬み』や『嫉み』───恐らくは、冒険者の視線。

 たまに感じていた、ねっとりとした気持ちの悪い・・・・・・それこそ、全身に水飴でも塗りたくってくるかのような、粘ついた視線。

 そして、新しい───調査を開始してから感じ始めたそれら複数の視線。

 それは『恨み』『怒り』『嫉妬』、そして・・・・・・・・・『同情』?

 

 恐らくは同じ集団のものであろう視線でありながら、凡そ同居するとは思えない───統一性、及び統率力のないそれに違和感を覚える。

 一度立ち止まり、視線の出どころを向いても何もなく。

 かと思えば、また違う通りから同種の物を感じるところから、やはりこれは僕に向けられたもの。

 

 そこまで考えて、はて?視線の主達に何か粗相でもしてしまったのだろうか、と。チラと見えたエンブレム───太陽に弓矢が描かれたそれの主───【アポロン・ファミリア】について、覚えている限りの記憶を思い出そうとする。

 

 【アポロン・ファミリア】。ファミリア等級ランクはDの、探索系ファミリア。

 団長の『太陽の光寵児ポエブス・アポロ』の二つ名を持つLv3。

 彼以外の所属する団員はLv2以下のみだけれど、それでも自派閥のパーティで、あの『ゴライアス』を討伐してみせた実績があるという。

 

 そんな華々しい活躍をする彼らから向けられた『感情』。

 そして、彼らの視線を感じ始めた日から始まった『異変』。

 突如パズルのピースがハマリ始めたかのような感覚に苛まれ、新たなヒントを求めて歩き回っていると───大きな声が、耳に届いた。

 

 

「なんなんですか貴方は!勝手に店内に入ってきたりして!今日は休業日だと、そう言ったはずですが!!」

 

「調査することがある、と先に申したはずだが。背も低ければ記憶力も小さいのか、小人族パルゥム

 

「なんですとぅ!?!?」

 

 聞き覚えのある声と、聞き覚えの無い声が言い争っている。

 聞き覚えるある声はキンキン、と耳をつんざきかねないほどの大声を張り上げ。

 聞き覚えのない声は落ち着き払っているように見せかけてこそいるものの、その奥に他者を見下す傲慢さを滲ませていた。

 すぐに通りを駆け、声のした店舗───リリがお世話になっている老夫婦のお花屋さんが、目に入ってきた。

 

「リリ!大丈夫!!?」

 

「ベル様!?何故・・・・・・・・・いえ、そういう事ですか」

 

「ベル・・・・・・そうか、貴様がベル・クラネルか」

 

 大声で彼女の名前を呼びながら突撃すれば、リリは最初こそ驚いていたものの、何かに気付いたのだろう。すぐに納得したかのように落ち着いた。

 反対に、リリと対峙していた男性は僕の名前を聞いた途端に苦虫を噛み潰したように、あるいは嫌なものでも見たかのように、端正な顔を歪めた。

 小さな栗色を守るかのように彼の前に立ちはだかり、可能な限りの力で睨む。

 

「貴方は何をしているんですか。彼女の言う通り、この花屋さんは定休日のはずですが」

 

「・・・・・・話を盗み聞いていたのなら分かるだろう。私は『調査』のためにここへとやって来たのだ。分かったのなら疾く失せよ」

 

「いいえ、退きません。貴方の言い分では理由も、名分も、何もかもが足りません。もう一度ちゃんと『調査の理由』を含めて、一から説明をしてあげてください」

 

 『調査の理由』と告げた途端、彼は苦々しく舌打ちをした。

 その後の僕達は互いに言葉を一切酌み交わすこともなく、しばし睨み合っていた。

 背の関係から上から見下ろす形になる彼と、見上げる僕。

 互いに一歩も引かないその時間は、男性が「フン」、と鼻を鳴らしながら出口へと向かうまで続いた。

 

「何か言うことはないんですか」

 

「────何をだ?」

 

 心底わからない、と全く悪びれた様子もなく、そそくさと退店していく彼の背を追いかけない。嫌な視線(・・・・)がしたから。

 窓から見える彼の姿が遠くまで消えるまで、僕は睨み続けていた。

 

 

 

────

 

 

 

「リリ。その・・・・・・知ってる限りのことを教えてほしいんだ。助けたのはいいんだけど、実は何も知らなくて」

 

「わかりました。・・・・・・長話になりそうですね。少々お待ちください、お茶をお持ちしますので」

 

「・・・・・・・・・お願い」

 

 彼が去った後。

 僕は店内にある部屋へと案内されて、リリに知っていること・・・・・・先程の男性のことも含めて尋ねていた。

 おそらくは本当に話が長くなるのだろう。お茶を淹れてくれる彼女の申し出を、断ることなく受け入れる。

 下の階の花の香りがここまで届いているのか、それともリリや老夫婦が、自然界における『風』のような自然の運び屋となっているのか。リビングは様々なお花のいい香りに包まれていて、ここで寝てしまえば綺麗な花の夢が見えてしまいそうなほどに安らかな空間だった。

 

 窓から差し込む陽はすっかり傾いていて、そろそろ夕方に差し掛かるところだった。

 窓から洗濯物を取り込む人、駆け足で走り抜けていく人、窓を開けて換気をしながら料理を作る人。

 視界の先に広がっている人の営みを瞳に映していると、スッとリリが差し出したお茶の香りが漂う。

 

 マグカップから漂う白い湯気がゆらゆらと揺れる様を見ながら、リリと姿勢を改めて向き合う。

 

 暖かい内に飲もうとしたか、若しくは緊張を解そうとしたのだろう。淹れたてだろうお茶の入ったカップを傾けたリリは、すぐにその熱さによって「うぐっ」、と悶える。

 何時もは冷静な彼女のその様子に思わずクスリと笑えば、すぐに抗議の目線が飛んでくる。

 「これはしょうがないんじゃないかなぁ」、と思いながら落ち着くまで深呼吸をして。終わった頃には、どちらも緊張が完全に解れていた。

 

「それじゃあ、教えてくれるかな?」

 

「はい。・・・・・・と言っても、何から話せばいいのやら・・・・・・」

 

「・・・・・・じゃあ、先程の男性の事から」

 

 コクリ、と深く頷くと、ゆっくりと分かりやすいように説明してくれる。

 

「あの男性の名前はヒュアキントス・クリオ。ベル様はご存知かもしれませんが【アポロン・ファミリア】の団長であり、Lv3の冒険者です」

 

 その名前を聞いた途端、やっぱり、という思いと。どうして?の思いの両方が同時に浮かび上がる。

 言い方は悪いけれど、彼らが花を購入するのなら──先程の『調査』の言葉からそれはないだろうが──もっと高尚なお店を選ぶはずだ。リリ達のお店はどちらかといえば、地域に根ざしたお店。あるいは、一般家庭向けと言えるもの。

 そうなると彼の言っていた『調査』の言葉が原因なのだろうけど・・・・・・生憎、リリもその内容までは知らないらしい。

 

「でも、察することはあります」

 

「・・・・・・・・・それは?」

 

「・・・・・・【アポロン・ファミリア】がベル様のことを調べ上げていたことは、ご存知ですか?」

 

 目を見開きながら、首を横に振る。

 黒いローブの集団が僕達を調査していることは知っていたけれど。まさか、そのローブを纏っていたのが【アポロン・ファミリア】・・・・・・・・・?

 どうにか知っている情報で思考を巡らせる僕を目を細めながら見ていたリリは、続けて教えてくれる。

 

「昨日まで続いていた『調査』。そして、今回は直接『何らかの被害』を・・・・・・恐らくは『このお店以外にも』もたらしています。それもベル様の話から考えると、"ベル様や【ミアハ・ファミリア】が関わったことのある人達を対象に"与え始めた。これらの行動は、恐らくは彼らの『何らかの目的』を達成するための、一貫性のものなのでしょう」

 

 それを聞いてハッとする。

 逃げて行った人たちは皆"僕と大なり小なり関わりがあった人たち"だった。

 

「その、『目的』って・・・・・・」

 

 震えた声で問われた質問に、リリは目を伏せて頭を振って『わからない』、と答える。

 再び目を開いたときには、鋭い目つきに変わり。怒りの感情を含んだ瞳は、震えていた。

 ───やはり、彼女も先程のことを怒っているのだろう。僕がいる手前、それを抑えているだけで。

 

「そこまでは・・・・・・・・・・・・ただ、ベル様が関係していることだとは思います。若しくは【ミアハ・ファミリア】ですが」

 

 

 ───当たり前だけど、【ミアハ・ファミリア】に【アポロン・ファミリア】との接点は一切(・・)無い。

 彼らは他の医療系ファミリアから回復薬ポーションを購入しているし、僕がダンジョンに潜る際にも一度たりとも会ったことはない。

 

 これまでに一度でも会ったことがあって、さらには衝突をしたことがあるのなら、リリの推理通り───僕達の知り合い、若しくはお客さんに被害を出し始めたのなら、理解は出来なくても納得自体はする。

 けれど、それが無いのならば、やはりこれは執拗な嫌がらせ行為。

 昨日の冒険者達による騒動もそうなのだけど、どうしてダンジョンにも行かずにこんなことをしているのか分からずに困惑してしまう。

 

「一体、何が目的なんだろう・・・・・・」

 

 数日前にも似たようなことを考えたな、と思い記憶を辿ると、すぐに以前とは異なる感情が───静かな『怒り』の感情が、自身に渦巻き始めていることに気がついた。

 どうしてその感情を抱いたのかは、皆目見当が付かなかったけれど。

 

 ───途轍もない嫌な予感が、止まらなかった。






 ベル君が珍しく怒り始めてきました。原作でもそう見ないですよね、ベル君の怒り。
 今は知り合いや顔見知りにちょっかいをかけられてほんの微かに怒っただけですので、まだ完全にはキレてないです。一体どんなふうに怒るんでしょう・・・・・・。

 まったくアポロン・ファミリアめ、姑息な手を・・・・・・。
 ここではベル君の所属が医療系だから、どうしても思いつくのはお客さんを散らす方法でした。お客さんがいないと成り立たないファミリア運営ですからね、仕方ないね。

 ところで。
 今出せる範囲での『設定集』のようなものは必要なんですかね?
 必要なら、時間を見つけて少しずつ書いていき、完成したら『短編』の欄に置いていこうかな?と思うのですが・・・・・・
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