《追記》
修整点が修整されていない物を投稿してしまっていました。
申し訳ございません。
───正午。
真上より照りつける太陽によって、古戦場で伸びている影が小さくなる。
遠方より鳴り響く銅鑼の音が、古戦場の城砦まで届く中。
盛り上がっているオラリオとは異なり、戦場における【アポロン・ファミリア】の団員たちの士気は低かった。
しかし、それも当然だろう。
攻城戦であることもあり、期間は三日間も用意されてはいるものの・・・・・・約50倍もの相手方の人数差も相まり、彼らが『勝ち試合』である、という認識を持つことは仕方のないこと。
現在は、【ミアハ・ファミリア】による本格的な城攻めは、士気の低下する最終日にやって来るだろう、と言うのがほぼ全員の予想だ。
故に、彼らはしっかりと見張りはしているものの、その空気は弛緩しており。
彼らの脳内では、散発する攻撃を見逃さずに流し、最終日に攻め入ってくる二人を打ち果たすイメージだけが構築されていた。
「魔法の詠唱だけには注意しておけよ」
「なぁに、姿を現したらコイツをお見舞いしてやるよ」
平野の見張り担当が耳にした言葉は、やはり軽口。
長弓と特注の巨矢を携える獣人は、それらを手で叩きながら自慢するように見せつける。
城壁を破壊し得る程の魔法となれば長文詠唱クラスの魔法が必要となる。
そのため、生半可な短文詠唱では修復された城壁はビクともせず、ただ自分達の居場所を教えるだけに留まってしまう。
逆に長文詠唱をしてきたとしても、それを矢で撃ち抜けば自然と自爆──魔力暴発を起こして重症となる。
故に、彼らが気をつけるべきは魔法だけである。
───通常であれば。
まだ開始してから一時間も経っていないため、もうしばらく戦況は変わらないだろう、と緩んだ空気が団員たちの間に漂っている。
眼前の平野にこそ目は向けているものの、そこに意識を咲いているとは言えない程度の真剣さをもって景色を眺めている見張りの気が緩んだ・・・・・・・・・途端に迫りくる、
「────う、あぁぁぁ!?」
何処からとも無く飛んできた物体が、見張りをしていた小人族───ルアンの前腕を
思わずたたらを踏んで悲鳴を上げた彼は、しばし痛みに悶え、苦しむかのように右腕を押さえてうずくまり・・・・・・そのまま、
「て、敵襲!敵襲─────!!!」
一切警戒を怠っていなかったはずなのに起こった現象に、一部始終を見ていた団員は反射的に叫んだ。
早くも攻撃を仕掛けてきたことに嘲りや同情を抱いた見張りや弓使いが、岩が乱立する平野や遠方の林を含め全域を見回し、狙撃手を探す────が、
「────が!?」
「げっ!?」
二人を探す見張り達の後方、ローブを纏っていた魔導師の内二名が、唐突に地面へと倒れた。
容体を確認しようと、倒れた者たちに速やかに近寄った男は、はたと気づく。
───倒れているのに、血が広がっていないことに。
慌てて怪我人の内一人を抱き起こすと、射抜かれた箇所──腕や太ももに存在しているはずの怪我が一切なく。もう一人を確認しても同様で、あるとしても穴の開いた戦闘衣やズボンがあるだけ。
───そう、怪我はない。
それなのに、怪我人が動き出す気配が無い。
彼らは呼吸はしていて、瞳も動いている。脈もあり、話しかけてみればこちらの言葉に目で反応を示す。しかし───身体だけが、動いていない。
───『麻痺毒』。
その可能性に行き着いた男は周囲を見回し、すぐに魔導師を貫いたであろうソレ──矢を見つけた。
地面や壁に一矢ずつ突き刺さったそれの鏃の形は『柳葉形』。文字通り柳の葉のように細く長い形をしている鏃で、空気抵抗を減らし、獲物を深く射抜くことを目的に作られた形。
その矢をよく見れば、全体的にヌメリとした毒々しい紫色の液体に塗れており、まさに『自分には毒がある』と告げているかのようで。
知るべきことを知った男は、それをヒュアキントスに伝えるため、ひいては動けない物たちを城内へと運ぶために動こうとし───すぐにその手を止めて、『違和感』を感じた、とある一点を見た。
大昔にモンスターによって傷つけられたのか、爪痕が深々と残っている、凸凹の岩が乱立する平野にて。
───そこに、『白』がいた。
────
「見つかった」
走りながらも、向けられる『視線』が増えたことにより、発見されたと気づいた少年は、しかし足を止めない。
全身を包む灰褐色のローブに、それが風にたなびく度に中に着ている紅いラインの入った白を基調とした戦闘衣が見え隠れしている。
一切の防具をつけていない彼の様相は、およそ前衛とは言えず。それこそ、魔導師の装備構成の方が近い。
『白』───ベル・クラネルを発見した者達が、先程の狙撃によって先制を取られたことに憤りの赤を顔に浮かべながら、弓兵部隊と魔導師部隊を即座に編成し、弓と杖を向ける。
弓使いが矢を番え、魔導師が詠唱のために口を動かしているのを見て。少年は、自身の腰に収められている純白の二振りの剣
灰褐色の手袋に握られているそれらの柄を握った少年は、それを自身の眼前へと持っていき───両者の
『純白』は柄頭同士が触れた途端に蒼白い光を放ち、一秒にも満たない時間が経つと本来の姿一歩手前──湾曲した純白の棒が、姿を現す。
そして───
「放てぇ!!!」
『──────ッ!!!』
「!」
かなりの距離が離れているのにも関わらず聞こえる指揮の怒号と、それに数瞬遅れて雨のように放たれる矢。
人一人分ほどの隙間も無く放たれたそれらは、通常であれば回避は絶望的だろう。
まさに絶体絶命な飽和攻撃を前に、しかし、ベルはそれに慌てることなく湾曲している棒に
───そして、現れる蒼白い
棒の両先端をつなぐように現れたそれにより、ようやく『純白』本来の姿───『弓』が、姿を現した。
───『兎月』
鍛冶神ヘファイストスが作成した、"分割弓"。
素材は、かつて少年が『浄化』した大型蠍モンスター、『アンタレス』のドロップアイテム『アンタレスの鋏』。
それを元に作られた弓は、複数の効果が付与されている。
一つは分離・合体機構。これにより、マウントした際に高速戦闘の邪魔になりがちな弓も、分割して収納すれば動きを阻害せず、戦闘スタイルに障害を与えない等の効果をもたらす。
そして、二つ目が先ほどもしたように、
何故弦が出るのかの理屈は神ヘファイストスですらよく分からないが、これにより弦を持ち運ぶ必要が無くなり、また弦が千切れる心配も無くなった。
何より、『兎月』が『弓』となったことによりベルのスキル───『月女神の英雄』が、発動される。
全能力値が引き上げられる感覚を味わいながら、迫り来る矢を上昇した敏捷で走り抜け───ることなく。むしろ、矢に向かって行く。
「なっ────」
自殺行為にしか見えない行動を前に、新たな矢を番えようとしていた弓使い達は驚愕し、動きを止めてしまう。
標的たる少年はというと、迫る矢一つ一つを目視し、
無論、使えない矢も存在しているため、それらが軌道を変えずにベルに迫るが───すべて
自身に当たる軌道を描く矢のみを弓で下方向へ弾く、もしくは手で掴んで別の矢へと当てて互いに粉砕し、一矢たりとも少年に届くことはなかった。
「なっ!?」
まさに曲芸さながらの動きによって矢が掠りもせずに無力化されたことに動揺する【アポロン・ファミリア】の一同。
───無理もないだろう。まさか放った矢を避けるでも防ぐでもなく、掴む、或いは撃ち落とす行動に出るとは思ってもいなかったのだろう。
誰も彼もが動きを止め、魔導師隊すらも詠唱を止めてしまっていた。
───その隙が命取りだった。
いつの間にか彼の『白』は矢を弓に番えており、ギチギチと引き絞られる音が唸りを上げていた。
射抜くかのように細められた瞳は、城砦に居る全ての者たちに睨みを利かせ、彼がこれからすべき『動き』を計算する。
「【ファイアボルト】」
炎雷が純白の魔法円が五度瞬くと同時に出現し、術者の身体を包み込む。
『弓』装備時の急激なステイタスの変動によって吹き荒れるはずの炎雷は、しかし少年が既に
スキルと雷によって強化された身体能力を利用し、より強く弦を引いたベルは、そのまま流れるように紫色の液体が滴る矢を射った。
アポロン一派は恐怖した。
無論、先程の曲芸さながらの動きやそこから流れるように矢を番えた彼の動き、さらにはベルが矢を放った姿勢になるまで彼の動きの殆どがそもそも視認できず、残像程度しか見えていなかったことも理由ではある。
しかし、何よりも彼らが恐怖したのは───
「がぁっ!?」「っ!ああ!?」「ッ゙!?な、ぜ」
一秒の間に上げられた悲鳴の数は五───どころか、十を超え。
矢に貫かれた者の中には、他の者より貫通してきた矢が突き刺さった者すらもいる。
まさに阿鼻叫喚の叫びを上げるアポロンの眷属たちは、倒れた者たちと未だ標的になっていない者たちの心が一つとなった。
「速すぎる・・・・・・!?」
悲鳴を上げる者たちに狙いをつけた少年から、再び矢が連続して放たれる。『雨のように』あるいは『矢継ぎ早』の言葉がよく似合うほどの速射は、その狙いのすべてが正確。
ベルの狙い通りに急所を避け、腕や脚、太腿等の四肢を中心にアポロンの眷属を貫き、さらにはその奥にいるもう一人の標的すらも貫き、そして───
───これこそが、ベルとナァーザの秘策の一つ、『回復毒薬』。
本来はポーションの効果向上の施策として生み出されたはずのその薬品は、回復効果こそ万能薬に迫ってこそいるものの、よりにもよって『回復対象に麻痺効果』を付与する効果があった。
そのため、捨てるのも忍びないことから今日まで封印されてきたのだが───今回の『戦争遊戯』受け、ベルとナァーザはこの薬品に目をつけた。
『回復毒薬』を調合した時よりも向上した『調合』の腕を利用し、回復効果をそのままに、『麻痺』の効果を向上させた。
これにより『敵に麻痺だけを与え、傷は即刻治る』薬と化したそれに矢を浸し、アポロンの子達の再起を封じている。
しかし、この薬品の最も厄介な点は───
「【キュア・エフィアルティス】」
【悲観者】──カサンドラが解害魔法を発動する。
カサンドラが解毒魔法と
「な、なんで・・・・・・どうして!?」
再び詠唱しようとした彼女は、ベルの居る位置とは
───驚愕に見舞われる彼女は知らない。
『回復毒薬』は、ベル───『神秘』を持つ者が手をつわえたことにより、その毒性が『回復効果の概念を持つ物』へと変換されていることに。
これにより、ただのポーションや治癒魔法では解除できなくなっており。解除するには、専用の『解除薬』が必要となる。
───ベルにのみ意識を集中してしまっているアポロンの眷属たちは、誰一人気づかない。
いきなりの奇襲。早業の連続射出。こちらの矢が一切合切無力化され、むしろ彼に矢を与える結果になってしまう。
これらの様々な出来事に驚いているために、彼らは気づけない。
───先ほどまで、ベルは弓を収めていたことに。
彼らは、一切気づくことがなかった。
────
『おおっとどういうことだぁ─────!!!ベル・クラネルの身体がブレた途端、【アポロン・ファミリア】達が地に倒れていく────!!!』
オラリオは早くも熱狂と混乱の渦に包まれていた。
彼らにはベルの動きがよく見えず、見えたとしても残像が遅れて見える程度。
何より、『鏡』越しでは最も重要な『麻痺』の危険性に気づくこともできず。ただただ、アポロンの眷属達が矢に一度貫かれただけで動けなくなった、ということしか一般市民や下級冒険者達には読み取れない。
『それにしても、正面から挑んできたことも驚きですが、ベル・クラネルが持つあの『弓』は何なのでしょうか!ギルドの情報には彼が弓を扱う情報などなかったはずですが・・・・・・・・・ガネーシャ様、どう思いますか?』
『あれは───ガネーシャだ!』
『解説する気がないなら帰ってくれませんかねぇ、ガネーシャ様!?』
『・・・・・・・・・うーん?』
解説の熱狂も上がり、イブリの叫びが都市中に響き渡る。
彼とガネーシャの掛け合いに人々が苦笑いを浮かべる中、アーディだけは戦場───よりも、遠く離れた山を見た。
違和感を覚えた彼女は、山の天辺周辺をジッと注視し───視線の先に、長弓を構えた犬人の少女の姿を見た気がした。
中央広場に建つ巨塔では、多くの神々が、関心と驚きに目を見開き、ベルとナァーザの主神──円卓にて微笑みを携えて座る神ミアハを見た。
彼の神置く羽根へてくは特に驚いた様子もなく、ただジッ、と映像を眺めていた。
「ベルきゅん、強くね?」
「ギルドの『ゴライアス単独討伐』の発表、強ち嘘でもないのかもな」
「・・・・・・だとしたらヤバくね?俺、眷属達にアポロンに賭けるように言ったんだけど」
「早くも敗色濃厚だな・・・・・・御愁傷様」
「やだ〜〜〜〜!!!?」
「もう一人の姿も見えないが・・・・・・まあ、何となく今も何かしてる
好き勝手に騒ぐ神々に、未だいいところの一つもない神アポロンは舌打ちを放つ。
そんな神々を置いて、神ヘルメスは近くにいた鍛冶神に質問を飛ばした。
「それにしても・・・・・・ベル君が持つあの弓、途轍もなく凄い力を感じるんだけど・・・・・・一体どんな素材を使ったんだい、ヘファイストス?」
嫌な予感がしつつも気になるのは、やはり彼が『未知』を求める神の一柱であるためか。
「アルテミスが持ってきた『素材』で作ったのよ。なんでも、都市外で出たモンスターらしいのだけど・・・・・・あんなにも綺麗な素材は見たことがなかったわ」
「・・・・・・・・・それって、白くて、大きな鋏の形状をしてなかった?」
「してたわね。何、貴方何か知ってるの?」
ヘファイストスの言を聞いた途端、ヘルメスは頭を抱えた。
漆黒のモンスター・・・・・・それも、女神を喰らった蠍より出でしドロップアイテムを、まさか『弓』に扱うとは、さしもの男神も予想していなかったのだ。
突然うんうん唸り始めた男神を怪訝な顔で見て「いつものことか」、と軽く流した女神は視線を鏡に戻した。
何処かアルテミスの弓の扱いを彷彿とさせる、一人の少年へと。
「あの子が、アルテミスの好きな子ねえ・・・・・・」
割と可愛い系が好きなんだな、と俗っぽい事を考えながら。
『兎月』の製作者たる鍛冶神は、己の製作物の活躍を目に焼き付けていく。
◯『回復毒薬』
・強力な回復薬を作るために試作されたが、失敗したもの
・効果自体は万能薬級の回復効果と、一見すると成功しているように見えるが、変わりに『麻痺』状態になってしまうため、高ランクの『耐異常』がなければ耐えられない代物。そして、今回のものはそれを改良───否、『改悪』したもの
・『回復効果の概念を浴びた麻痺』というどうしょうもないものに変異しており、アミッドですら解除に難儀する程の『薬』へと変じた(『泉』の方なら解除可能)
◯『兎月』
・素材『アンタレスの鋏』
・第一等級武装
・分割で運べるよう作られた弓で、これによりベルの高速戦闘の動きを阻害しない
・魔力を込めることにより、弦が現れる
・刃をつけることも検討されたが、『弓』の概念が薄まる予感がしたので断念
・今回使用するかは分からないが、使用者からそれなりの精神力マインドを消費することで、『蒼白い矢』を生成可能
・何故かは知らないが、ベルの『炎雷』や『鈴や鐘』に反応し、魔法効果を増幅する効果がある
・参考資料:『新・光神話パルテナの鏡』の主人公、ピットの有する双剣兼弓矢(兎月には双剣機能はなく、矢にも曲がる機能は無いが)
◯灰褐色のローブ
・ゴライアスの硬皮より作られた
・ヴェルフがガワを作り、フォスが魔術加工を施した
・ベルの炎雷を浴びても燃えることは一切なく、また物理防御もそれなりに硬い
◯灰褐色の手袋
・ゴライアスの硬皮より作られた
・ヴェルフがガワを作り、フォスが魔術加工を施した
・『回復毒薬』に触れてもベルが痺れないのはこれのおかげ
・ローブ同様防御面が硬いため、これで手刀を繰り出す事も可能