草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 人は出会い、別れを続け。
 そして、成長するのです。


別れ

「フレイム!!」

 

『ヴォ!?』

 

 先手を打ったのは、ベル。

 炎雷を纏う短杖から掌大の火球が二つ放たれ、左右からミノタウロスを強襲。

 一つを斧で打ち払った雄牛は、しかしもう片方を防ぐことはできなかった。

 駆け引きを持ちあわせないミノタウロスは、自身の斧でもう片方の火球が隠れることに気がついていなかった。

 火球が直撃し、肉が焦げる時特有の嫌な匂いを発する。

 構えは解かない。

 これは試金石だ。

 これでどれほどのダメージが見込め、それをもとにどう立ち回るのか。

 だが──

 

(──効いてない!?)

 

 ──試金石どころの話ではない。

 全力ではないとはいえ、オークは軽く吹き飛ばせる程の威力は込めた。

 それこそ胸元に大きな火傷を負わせるくらいの気概でいた。

 それなのに、体皮をほんの少しだけ焦がしただけ。

 少年は頬が引きつり、焦りの感情が噴き出るのを止められない。

 

『──オォオオオオォ!!』

 

「ッ!?」

 

 先制を取られたことに怒る猛牛は、驚愕によって硬直した少年の意識を刈り取らんと斧を荒々しく横に振り払う。

 姿勢を低くして間一髪で回避する。

 斧風によって倒れ込みそうになりながらも懐に潜り込み回避し、炎雷の名を呼ぶ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 3回分の魔法を瞬時に発動したことにより、炎雷が少年の周囲で暴れ狂う。

 特に先程の火球によって消費された炎とは違い、雷などは今にもベルを飲み込まんとするかのように、体の外側だけでなく、内側でも嵐の如く荒れ狂う。

 雷が体内を駆け巡る痛みに耐えながら、振り払った姿勢で硬直するミノタウロスの胸元へ跳躍し、二回転。

 全く同じ軌跡を描いた二連の剣閃は、しかしミノタウロスの肉を断つには至らない。

 薄皮数回切り裂いて終わったことに内心で舌打ちをしつつ、急いで後退。少年がいた場所を、ミノタウロスの剛腕が通過する。

 ──それでも、皮を断つ事はできている。

 それは少年の腕か,あるいはLv1用のナイフでありながらも上物、という絶妙な調整をしたヴェルフの腕か。

 

 ベルがミノタウロスに渡り合えているのは、偶然に近い。

 ベルのLv1の動体視力では、ミノタウロスの動きを捉えきれない。かろうじて斧の軌跡や筋肉の動きが追える程度。

 しかし、ベルはその僅かな筋肉の動きや前動作、勘などをフル動員して回避,受け流しを成功させている。

 そして、なにより。

 二つの無詠唱の魔法が、ベルの生存時間を伸ばしている。

 通常のLv1ではありえないほどのステイタス──特に敏捷と魔力──に、それによって裏付けられた炎雷と回復魔法の効果。

 綱渡りではあるが、渡り合えている。

 しかし、それでも──

 

「──【アンジェラス】!」

 

 斧を受け流して痺れた腕を回復しながら、再び回転斬り。

 先ほど以上に力を込めたそれは、先と同じように薄皮だけ切り裂いたにとどまる。

 ───ジリ貧、だ!

 付与魔法と回復魔法によって、じわじわと削れていく精神力マインド

 それに対して、何度も切りつけた皮は一向にその向こう側が見えない。

 如何に無詠唱故に魔力の消費が少なくても、それが短時間、それも何度も使用していれば、精神力の消費は馬鹿にならない。

 特に、付与魔法の方は持続的に削られていく性質と、何度も重ね掛けすることが前提であることを踏まえると。

 このまま戦いが続けば、負けるのは──

 

『ヴォ!!!』

 

「──グッ!!」

 

 薙ぎ払い。叩きつけ。かち上げ。

 一つ一つの動作が大振りな、ミノタウロスの攻撃。

 それらの動作を回転を用いてつないでいるのは、先ほどから回転斬りを繰り返している少年の真似事か。

 技も駆け引きも存在しないそれはしかし、それも雄牛とベルの間の純粋なステイタスの差によって、さながら死の嵐ラッシュ

 絶え間なく訪れる攻撃に、手を痺れさせないように,あるいは痺れさせても即座に回復魔法でそれを消して、隙を殺す。

 そしてラッシュを乗り越えた先に存在する──明確な、隙。

 それこそが、ベルの狙いだった。

 

「サンダー!」

 

 できる限りの雷を発射し、ミノタウロスの動きを硬直させ。

 硬直による硬直で動けないミノタウロスに、先程の動きをなぞるかのように、連続で回転斬り。

 一回、二回、三回転。

 そして、ミノタウロスが動き出す素振りを見せた瞬間、ナイフを突き立て──

 

「バースト!」

 

 ──爆発。

 その吹き飛ぶ力を利用して後退し、ミノタウロスの薙ぎ払いが空振る。が。その風圧で身体が吹き飛ばされそうになる。

 

「サンダー!──フレイム!──フレイム、サンダー!」

 

 雷を、火球を打ち出しながら、バックステップで後退する。

 雷で怯んだ隙に、先ほどから斬撃を食らわせて少しずつ裂けてきた胸元を二玉の火球でやき、さらに追い討ち。

 着実に胸元──魔石のある位置を切りつけ,焼いてきたことですでに漆黒の体皮が裂け、その奥に存在する赤が見え隠れする。

 

『グゥアァアァア!!!』

 

 そのことに気付いたのか、あるいはまともにダメージを与えられていないことに対して苛立ったのか。

 雄牛は雄叫びを上げ、斧を投げつけた。

 

「ッ!?」

 

 驚愕をそのままに回避する。

 斧が後方に飛んでいき、ガツン!と甲高い音を立てて壁か何かにあたる音を感じながら、向き直ると──

 ドンッ!!!

 と、ミノタウロスが地面を強く、強く踏みしめた。

 

「グッ!?」

 

 地面が大きく揺れ、天井からパラパラと岩の破片が降り注ぐ。

 それに足を取られてしまい、身動きが取れなくなる。

 ──その隙を、ミノタウロスは見逃さない。

 

『ガァァァアアアアア!!!!!』

 

 これまでの鬱憤を晴らすかのように、ミノタウロスが猛る。

 その腕をさながら鞭のようにしならせ、少年を捉えた。

 

「───ガッ」

 

 それを後方へ飛びながら左手の短杖で受け流そうとするものの、無駄だった。無理な体勢で行った受け流しの意味はなく、左腕が折れた。

 それが、致命的なダメージ。

 ゴキリッ!!というなってはいけない音と共に左腕の骨が曲がってはいけない方向へと折れ、力が入らない。

 痛みが薄いのはアドレナリン故か、それとも慣れ故か。

 しかし左腕が使えなくなったというその事実は、少年の焦燥を煽るには十分だった。

 急いで後退しようとする少年に、嘲笑を浮かべた雄牛が先回りし、追いつく。

 少年の敏捷アドバンテージに、ミノタウロスの目と感覚が慣れてきた証左だ。

 

『ヴモォオオオォオ!』

 

「ち、くっしょう!」

 

 折れた左腕は無視し、ナイフを前に構える。

 

(たとえ後退しようと、先程の地鳴らしをもう一度行われたら、そこで終わる)

 

 一周回って冷静になった思考で出た結論。故に、もう後には引けない。

 獲物がじわじわと追い込まれつつあることに、ミノタウロスは気付いていた。

 ──故に、再びのラッシュ。

 少年も回避を行う、が先ほどまでのキレはない。

 精神力の低下、負傷、気力。

 それらが削られた結果に近づく死の気配。

 先ほどまでとは違い、反撃ができない。

 このままでは──

 

(──負ける───)

 

 少年は、死の崖っぷちへと追い詰められていった。

 

 

 

────

 

 

 

「ぐ、う…」

 

 男──モルドは、目を覚ました。

 重いまぶたを無理やり開くが、目の焦点が合わず。さらには頭もズキズキと傷む。

 目を閉じ、目頭を押さえてそれらが消えるのを待つ。

 そうして頭の痛みが薄れると、再び目を開ける。

 真っ先に目に飛び込んできたのは、寝転がっている仲間たちの姿だった。

 暫く呆然としてから、過去の記憶を遡り始める。

 

(確か俺は、兎に教育をするために…そして、その後にミノタウロスが……ミノ、タウロス、が…)

 

 はっとして、自身の体を見下ろす。

 アウトロー風の自身の服装に血こそこびり付き、ところどころ穴こそあいているが、痛みも傷も存在していなかった。

 が、血を失いすぎたのだろう。下半身──特に足に力が入らない。

 近くに転がっている仲間2人も、意識こそないが、状態はモルドと同じ。

 ポーチの中身を確認し、ポーションは駄目になっているがここまで集めた魔石や素材は無事。剣は──

 ドオォオオォオン!!!

 

「あぁぁあああ!!!」

 

(!?)

 

 何かが炸裂する音と人の悲鳴。

 その音に導かれて顔を上げると、モルドの目に飛び込んできたのは──

 

「鐘の、兎……?」

 

 そう。自身が教育をしようとしていた少年が、ミノタウロスに挑んでいた。

 ナイフで攻撃を受け流す、或いは回避をしてやり過ごしていた。

 だが、モルドには分かっていた。

 長年の冒険者の勘が、客観的事実を告げる。

このまま続けば、少年は負けるのだと・・・・・・・・・・・・・・・・

 反撃に移れていない。

 そして、たとえ反撃に移れてもその刃は届かないだろう。

 左腕などは力が入っておらずにプラプラと揺れているのを見るに、骨が折れているのだろう。

 そんな少年が、ルーキーが。

 上級冒険者すらも殺すことのあるミノタウロスに、勝てるわけがない。

 

(今のうちに──)

 

 逃げる。

 そうだ、逃げるんだ。

 ミノタウロスはあいつに釘付けだ。

 仲間2人も意識が戻っていないから見捨てることになるが、冒険者は生き残った者勝ちだ。

 そう囁く自身の声に、しかしモルドは従えない。

 動かないのだ。痛みによって?

 ───違う。釘付けにされているのだ。

 ───舞っているのだ。

 自身よりも年下の少年が──ルーキーが。分不相応にも、強敵に挑んで。

 

 炎雷が踊る。

 襲い来る死の嵐を前に、兎が鐘を鳴らす。

 剣舞の最中になるその涼やかな音色は、さながら神に捧げる「舞」を踊っているかのように壮絶で、けれど─────美しかった。

 

 このままいけば、自身に待つのが死の運命だととうに気づいているだろうに。

 それでも諦めずに闘っている。抗っている。

 『冒険』を見せられている。

 魅せられている。

 一歩間違えれば瀕死の状態にも関わらず、尚も食らいついている少年に。

 ふと──

 

「俺の、剣──」

 

 ──自身の剣を、見つけた。

 およそ2M先に存在する、自身が生き残るための最適な調整がなされた、長剣、《アンダーファング》。

 あれならば、ミノタウロスに傷をつけられる─

 そんな自身の思考に、理性が待ったをかける。

 

(馬鹿か俺は!?そんなの自殺行為、ましてやあれは俺の武器だ!いくら足が動かねえからって、死ぬわけじゃねえんだ!それなら、あいつらがどっかに行くのを待つ方が──)

 

 

 

────

 

 

 

 ミシリ、と。致命的な声を少年は拾った。

 その声の出処は、自身の握るナイフ。

 当然だろう。

 本来はLv1のモンスターの相手を想定しているそのナイフは、しかし現実の相手はミノタウロス、それも強化種。

 むしろここまで持ったのが奇跡なのだ。

 それでも少年にとってそれは、新たなる絶望の呼び水であることには変わりがない。

 

「──ちくしょうっ」

 

 ミシリッ。

 軋むナイフに、今度は目に見える亀裂が走る。

 それはまるで、追い込まれた先の断崖絶壁に走る亀裂のよう。

 ──追い込まれた少年を、崖下へと落とす罅だ。

 

「ちくしょうっ!!!!」

 

 ナイフを投げつける。

 目を狙ったそれは、寸分たがわず飛んでいき。

 ミノタウロスの腕に叩き落とされ、金属片に変えられる。

 その隙に火球と雷矢を同時に叩き込むが、意味を成さず。

 ──これでもう、武器はない。

 強いて言えば、左手に握られたままの短杖がある程度。

 それも、ミノタウロスを倒す鍵にはなり得ない。

 ──詰みである。

 

「それ、でも!」

 

 ──諦めるわけには行かない!

 左手から短杖を無理やり取り、構える。

 

「【ファイアボルト】」

 

 炎雷を、限界まで追加する。精神力の残りなど気にもかけず、全力で。

 炎雷が猛る。

 最後のあがきをするために。

 そして、それらすべてを右腕に集める。足元のものも含めて。

 ──これで、敏捷も捨てた。

 ミノタウロスは嘲笑するように、ただそれを見つめるだけ。

 ──舐められている。

 そして、それは事実だ。

 たとえこのまま砲撃を撃ち込もうとも、ミノタウロスへの決定打にはなり得ない。

 そうしたら炎雷のない少年は、ミノタウロスの攻撃が躱せない。

 雄牛は、ただ向かってくる少年を返り討ちにするだけで済むのだ。

 目を閉じ、開く。

 悲壮な決意を込めた目で敵を睨み、そのまま砲撃を──

 ブオン、という何かが空を切る音が鳴る。

 

「!?」

 

 慌てて下がると、ザンッ──と。

 少年の目の前に、さながら選定の剣のように長剣が突き刺さる。

 慌てて抜き取りながら飛んできた方を見れば、ミノタウロスに襲われていた3人のうちの1人が、何かを投げたあとの姿勢で硬直していた。

 その表情は、まるで自分でも予想外なことをしたかのように、驚愕に染まっていた。

 

「ありがとう、ございます!」

 

 すぐに長剣を抜き、構える。

 一切握ったことのない武器故か、その重心のバランスは悪く、ひどく格好つかない。

 ──それでも、必要なピースは揃った。

 ミノタウロスと戦える武器と、決意。そして、魔法。

 あとはそれらを駆使して、戦い、勝つだけ。

 武器をもらった以上は敗北など許されない。負ければ彼らの命もないことを、少年は理解していた。

 故に────

 

「勝負だ────!!!!」

 

 己を鼓舞する。

 勝利するために。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 ───英雄になりたいと思っていたことがある。

 子どもみたいな、青い夢。

 お爺ちゃんからもらった、黄金のようなその夢を───────僕は諦めた。

 

 ───あの人たちと出会ったからだ。

 僕を『家族』と呼び、温かい料理と,優しい笑顔と───ちょっと怖い、お義母さんが怒った時。

 ───それでも、幸せな『家族』だった。

 ───お義母さん。

 本当のお母さんの姉だという灰色の人は、厳しく,恐ろしく,苛烈で──儚くも悲しい雰囲気を纏った人だった。

 

 ───僕は怖かった。

 時を経て、幸せな時が進むほど。

 恐ろしい『疵』が、二人を蝕んでいたから。

 その人達の生が短いことが、幼い僕にも分かったから。

 残酷なまでに、その首を落とさんと迫る死神の鎌が見えたから。

 

 自身へ迫る死を悲しんでいるのかと問う僕に、2人が告げたのは、否。

 ───でも、あの人たちの悲しみの理由を、僕は知らない。

 ───聞き出せなかったんだ。聞いてしまえば、致命的な何かが変わる予感がして。

 それでも、時を経るたびに2人の苦しみは増した。

 何とかしたい、助けたい。そう思っていた、ある日。

 思いついた。

 お義母さんとおじさんを助ける方法を。

 

 ───僕がなればいい。

 二人を蝕む『病魔』を,『死毒』を。

 それらを消し去り、打ち消し。

 二人の『死』を殺す、『治療師ヒーラー』や、『薬師ハーバリスト』に。

 その日から、お爺ちゃんにも頼み込んで薬学や医学の本を取り寄せて。

 ───僕の、初めての運命への反逆が始まった。

 そして、オラリオで『魔導具店』を営んでいたお義祖父ちゃんも巻き込んで、僕は二人を助けようと努力した。

 はじめの内は困惑と悔恨、そして自分自身への怒りを、二人は持っていた。

 ───困難な道になることを知っているから。

 すでにあらゆる手を尽くし尚も、自信を蝕む『モノ』を、二人は無くすことなどできなかったから。

 無理だと思っていたから。

 だけど────

 

 勉強を始めて、3年。

 僕が、ちょうど11歳を迎えた日。

 その日────

 

 ────『家族』を蝕む『病魔モノ』を、僕は殺した。

 

 だから、僕は『英雄』になれない。

 ───■■■、■■■■■■■■。

 

 

 

────

 

 

 

 

 互いに叫ぶ。

 もはや死の運命は猛牛と少年の両者に、平等にその首元も刈り取らんと構えられた。

 そのギロチンを粉砕せんと、両者は猛る。

 

 少年が駒のように回りながら、ミノタウロスへと剣閃を放つ。

 それによって、ミノタウロスの右腕は断たれた。

 

 ミノタウロスの拳撃が、少年を捉えた。

 咄嗟に受け止める形になったそれによって、少年の骨にヒビが入る。

 互いに血と肉を飛ばすその戦いにおいて。

 もはや互いに、対峙する者しか目に映っていなかった。

 対峙する宿命。

 モンスターと人。

 それでも、そこには何かを感じさせるものが、確かにあった。

 やがて───

 

 『───────ウゥ・・・・・』

 

「・・・・・・やべぇ」

 

 モルドから、思わず焦りの声が漏れ出る。

 ドスンッ。という音とともに、残ったミノタウロスの腕が、大地を踏みしめる・・・・・。頭──否、双角を少年に向け、その視線は一直線に。

 ミノタウロスの最大のぶきを使用するその突進は、進行上のすべてを轢き殺す。

 それに対峙する少年は───

 

「【ファイアボルト】」

 

 魔法を呼ぶ。

 最大以上に・・・呼ばれた炎雷によって、少年の身体に火傷を増やす。

 それを無視して、そのすべてを右腕に握る長剣に纏う。

 そして、それを横溜めに構えた。

 ──迎え撃つ気だ。

 そのことを理解したモルドは怒号を浴びせようとし──やめた。これは、『少年の冒険』だ。

 自分が口に出すことではないのだ、と。

 

 ───やがて。

 溜めチャージが完了したのか。

 両者が、疾走する。

 

『ヴモォォァォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

「はぁぁぁああああああああ!!!!!」

 

 互いに叫び声を上げた両雄が、ついには激突する。

 振り上げられた右角に、振り下ろされた長剣。

 甲高い音とともにぶつかったそれらは──

 

「まずい!!?」

 

 ───長剣が、かち上げられた。

 思わず叫ぶモルドに対し、ミノタウロスは笑みを浮かべる。

 そのまま左角でかち上げようとし、気づく。

 少年の炎雷が、右腕に集まったままなことに。

 勝ちを確信していた筈なのに、どこか空恐ろしいものを感じる始めるが・・・最早遅かった。

 少年は臆することなく、かち上げられる角に捕まり──上へ跳ぶ。

 向かう先は天井に突き刺さる、長剣。

 それを掴み、足裏に残っていた炎雷を爆発させながら落下する。

 それを見て、猛牛は慌てて左腕で迎撃しようとする。

 体重、剣の重さ、勢い。

 すべてを込められた一撃は、その腕を切り裂き。

 胸に、突き刺さった。

 

『ヴォオ!?』

 

 痛みに悲鳴を上げ、尚も抵抗をしようとするミノタウロス。

 両腕がなくなったことなど気にもかけず、ただ死にたくないと足蹴を繰り出そうと力を込める。

 ───しかし、少年の一撃のほうが、速い。

 

「───ブラスト」

 

 剣越しに放たれる、炎雷の砲撃。

 それは剣が突き刺さる胸を通して、体内を焼く。

 抵抗をしようにも、体内に流された電流によって筋肉が硬直して動けず、ただ体内が炎雷によって焦がされることを享受することしかできず。

 ──やがて。

 猛牛が、灰へと変わった。

 

「─────」

 

 先ほどまでの激戦が嘘のように静まり返る『ルーム』。

 その中心に、剣を構えた姿勢のまま固まる少年。

 その足元には積もった灰と、砕けた魔石と──赤緋色の角。

 

「勝ちやがった・・・・・・」

 

 呆然と呟くモルドの声に導かれたかのように、彼の仲間たちも目を覚ます。

 頭がぼーっとしているのか、それとも目の焦点が合わないのか少しフラフラしている。

 そんな彼らを気にもとめず、モルドはじっと少年を見つめる。

 目に焼き付けるように。

 

 ───目撃者一名の、誰にも知られずに始まった冒険が。今、終わった。




〜今回の紹介〜

◯ブラスト
・炎雷の砲撃
・今回の場合は剣を通して流し込みましたが、実際はベルくんの半身は隠せるくらいの立派な砲撃です
・付与魔法になっていることで何度も重ね掛けできる今作の仕様ならではですね

◯今更ながらに加速する歩法
・作中で説明した通りに、雷で身体能力を上げ、炎を足裏で爆発させることで文字通り爆発的な加速を行います
・これのおかげで馬鹿みたいに速いです
・多分レベルが追いつけば、速さだけならアイズさんの魔法よりは上になります。そもそもの性質が違うので、比べるものではありませんが
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