草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

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 お久しぶりです。おかげ様で体調は回復しつつあります。
 このまま健康優良児になりたいですね。

 今回のお話は
・アイズさん、攫う
・白巫女、白兎、山吹の三人パーティ
・義祖父の貢ぎ癖
の3本立てですね。


 一万文字近くまで言ってしまいましたが・・・・・・最後まで読んでいただけると嬉しいです。
 よろしくお願いします。


短編 その4

 

 

 『攫われちゃった兎』

 

 

 

 朝方。

 軒先に佇む多数のプランターにて、咲き誇る花々に朝露が滴り、葉や花弁がお辞儀をしている。

 朝食は食べ終えているが、飲食店や露店が商売を始めるにはまだ速い時頃。

 少女───アイズ・ヴァレンシュタインは、都市内を歩いていた。

 

 常であれば既にダンジョンへと赴き、『悲願』を達成するための鍛錬へと勤しむ彼女ではあるのだが・・・・・・今回は『遠征』が近いこと、『祭り』が近い等の理由も相まり、『休み』を厳命されてしまった。

 しかし、日々鍛錬や修行に勤しむ事以外のことに手を付けたことのない少女からすれば、『休暇』という存在を貰っても暇を持て余してしまうのは、もはや自明の理。

 かといってあのまま本拠ホームに居続ければ『勉強』をリヴェリアに言い渡されることも目に見えているので、彼女はこうして逃げるように散歩に勤しんでいた。

 

 昔よりも心が落ち着き、こうして都市の景色や風景に情感を感じる事ができるようになったのは『成長』なのか、それとも『劣化』なのか。

 自身の中に燻る『黒』を自覚しながらそんなことを考えていると・・・・・・ふと、目線を前に戻すと、『白』が自身の目の前を横切って行った。

 

 『白』を目線で追えば、そこには先ほど見た少年───ベル・クラネルが、白衣を身に纒った状態で駆けていた。

 その顔は晴れ晴れとした朝の空気のように済んだ笑みを浮かべていて、街行く人々も、彼に声を掛けては日々のお礼の声や自身のお店の商品を投げかけプレゼントし等たりしている。

 

(・・・・・・・・・・・・ベル)

 

 先日の『戦争遊戯ウォーゲーム』では、ナァーザと共に、たった二人で【アポロン・ファミリア】を討ち果たしてみせた少年。

 圧倒的な人数差をものともしない戦いを見た人々──主に冒険者で、それ以外の人はそうでもない──は、様々な反応を示した。

 強さに恐怖する者、賭けに負けたことで檄や怒号を飛ばす者、アポロンに苦しめられた事があるのか、歓声を送った者───少年の『力』に笑みを浮かべる者。

 

 勿論、アイズが平常な状態であれば、あの『戦争遊戯ウォーゲーム』でベルの全力を見れなかったことに残念さを感じ、けれど頑張ったのであろう──そもそもゴライアスを一人で討伐した話を聞いた時点で、頑張ってるね、と思っていた──彼に、声援や褒め言葉を送った者だろう。

 ───しかし。

 

(ベル、レフィーヤ・・・・・・人気者。今、私に、目を・・・・・・向けてなかった、よね?)

 

 少女の金色の瞳に浮かぶ、暗い黒い光。幽鬼の如く揺らめく光を瞳に携えたその姿は、凡そ平常とは言い難い。

 何よりも恐ろしいのは、己の状態をアイズが自覚できていないことだろうか───できる余裕がない、とも言うが。

 少年を見ているようで見えていない彼女の脳内に浮かぶは、兎のような少年と、山吹色の少女の、自身が知る限りの交友関係や仲が良かった人々と戯れる姿。

 白兎ベルに群がる、ナァーザ、アーディ、ティオナ、アスフィ、フィルヴィス───レフィーヤ。

 山吹レフィーヤに群がる、リヴェリア、ティオナ、ティオネ、アリシア、エルフィ、フィルヴィス───ベル。

 

 内心の幼女アイズも、白兎と山吹色の妖精に群がり、戯れる人々の幻影を前に膝をつき、頭を抱えて号哭している。

 未だに少女はベルとレフィーヤが盗られた──別に彼女のものではない──事実を前に頭が割れかねないほどの衝撃に見舞われた際のダメージが一切抜けず、ジュグジュグとした謎の液体が流れ出ている感覚すらも幻覚している中に現れた、目的の白兎。

 立場上何時でも会える訳では無い彼女が、しかしこの場にあっては一方的に彼が居ることを知っている状況。

 ───故に、だろうか。

 ───これから彼女が行う行動は、もしかしたら彼女の脳が発した防衛本能故なのかもしれない。

 

 

「────え?」

 

 間抜けな声を発する少年。

 それはそうだろう。先ほどまでから感じていた"知っている人の視線"が、何故か暗い光を錯覚するほどのソレに変わり───彼の背後に迫ってきているのを感じたのだから。

 何よりも不幸だったのは、その視線の中には『敵意』が一切含まれていないだけでなく、ただただ暗い"だけ"だったために、抵抗すら許されなかったことか。

 背後を振り返った少年が最後に見たのは───美しい金色が風に靡く、幻想的で、何処か美しい光景だけだった。

 

 

────

 

 

「───ん?アイズ、もう帰ったのか」

 

「ッ!?」

 

 大きなバックパックを背負った金髪の少女に、翡翠の王族が声を掛けた。

 つい数時間前に出掛けたばかりの筈の少女がもう帰ってきた事実に、彼女は驚いた。

 大方自身の『勉強』の時間より逃げたのだろう、と少女の出かけた理由をすぐに理解し「仕方ないな」で流したはずだったのだが、今は何故早くも帰ってきたのか、と言うことに思考を巡らせる。

 声を掛けられた少女はというと、肩をビクッ!と跳ねさせ、何処か後ろめたいことをしたかのように目を逸らし、バックパックを守るかのように後ろへと腕を回していた。

 

 大きな鞄を背負っている、ということに違和感こそあるものの、少女の反応に覚えがある王族は大きな大きなため息を吐いた。

 彼女の推理の証明と言わんばかりに、アイズの膝等が薄汚れていて、必要もないのに帯剣もしている。

 ───実際は、無意識に暴れる少年を抑えていたら汚れただけなのだが。

 

「行くな、と言ったというのに、また『ダンジョン』に向かったな?」

 

「え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん

 

 やはりな、と頷く彼女は気づかない。

 アイズの頬を一粒の汗が通り過ぎ、地へとシミを作ったことなど。

 少女の背負うバックパックには、現在では有名となりつつある『白兎』が入れられていることなど。

 

「一先ず湯浴みへ行け。説教はそれからだ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 青い顔をした少女が、逃げるように自室へと向かうのを見送り。

 リヴェリアは後ほど少女に行う『勉強』に使う資料を集めに、これまた自室へと向かっていった。

 

 

 ───なお。

 数十分後に、ベッドに白兎を寝かせ、膝枕をする彼女の姿が発見されて一躍騒動となり。

 さらには、ベルの主神に謝罪をする羽目になる騒動にまで発展することなど。

 この時のリヴェリアは、一切知らなかった。

 少女の部屋で白兎が発見された際には───

 

「ベルは・・・これで、私の・・・・・・・・・後で、レフィーヤと一緒にしてあげるね・・・・・・・・・」

 

「う、うぅ・・・・・・・・・っ」

 

 ───仄暗い眼をした少女が唇を三日月の如く曲げながら膝枕をしている光景が、そこにはあったのだとか。

 

 

 〜アイズ、無自覚に覚醒ヤンデレ化end〜

 

 

作者のコメント:場合によってはこれに似ている『誰にもバレないまま監禁し続ける』ようなルートに直行するかもしれませんね。

 ・・・・・・・・・いや、ないか。

 

 なお、アイズさんは二人で共通する人物──フィルヴィスさんが一番『盗りそう』なことに、全く気づいていません。

 頭かわいい(そう)ですね。

 

 


 

 

 

 『白巫女と白兎、山吹の戯れ』

 

 

 

 ───ダンジョン、24階層。

 『大樹の領域』とも称され、自然溢れる植物とそれに擬態するモンスターや、巨大な昆虫達や動物達の姿をした怪物が跋扈する階層。

 ダンジョン内の自然とも称せるその広大な領域に、ベル達三人(・・)は存在していた。

 

「サンダー!」

 

「【ディオ・テュルソス】!」

 

 白兎と白き妖精より繰り出されし計二条の稲妻が空を疾走り、瞬きの間よりも短い時間でもって進行上にいた怪物たちを複数貫き、地面へと撃ち落とす。

 灰へと変じる『蜂』の姿に目を向けず、二人は疾走を始める。

 互いにスキルや魔法によって同レベル帯の冒険者よりも早く駆ける二人は、抵抗の意思を示し突撃してくるモンスターを前に、鏡合わせのように『踊る』。

 フィルヴィスは右手に握った短剣で、ベルは左手に握るロングナイフで、駒のように回り、刃を閃かせる。

 次々と怪物を一太刀ずつで斬り伏せながら───二人は詠唱と、蓄力チャージを、それぞれ開始した。

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖いかずち】」

 

 リン、リン───

 鳴り響く詩歌うたごえと鐘の音。

 どちらも綺麗な旋律を響かせながら、しかし不協和音となることなど一切なく。

 寧ろ、高尚な音楽のように感じられるほどに美しく荘厳であり。それを『詠唱』をしながら見聞きしている少女の心に『羨望』と『嫉妬』の念を湧き上がらせる。

 

「───【撃ち放て、妖精の火矢】」

 

 言葉を紡ぐたびに練り上げられる『莫大すぎる魔力』を背に受ける二人が、それに勇気づけられていることにも気づかないまま。

 少女は白兎と白巫女の"両者"に、先の二つの感情を抱いていることを自覚した。

 

「【ディオ・テュルソス】!!」

 

「フレイム!!」

 

 再び走る一条の光。

 それに追従するは、成人の顔程の大きさをした五つもの火球。

 赤黄が『巣型のモンスター』へと向けて放たれ、次々と生み出される成人の人間程の大きさの『蜂型のモンスター』ごと貫き、焼き尽くし、目標───それの吊り下がっていた『宝石樹』と、それを守るように佇んでいた宝財の番人トレジャー・キーパー木竜グリーンドラゴンの姿がようやく見えてきた。

 

『──────アァァァ!!!!』

 

 木が軋むような音と共に鳴り響く咆哮に眉を顰めた二人は、しばしの間、竜の緑眼と目を合わせ。

 ───直ぐに、左右へと向かって跳んだ(・・・)

 突然の行動にほんの一瞬だけ目を見開いた木竜がその視界に捉えたものは─── 

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

『!?』

 

 ───山吹色の髪を溢れ出る『魔力』の奔流ではためかせる、美しい妖精の姿だった。

 その内より感じる膨大すぎる力は、木竜ですら慄き、己以上の格を持つ『竜』の姿を彷彿させる程に強大。

 そんな存在を前に、本能的に『退避』の選択をした竜の行動は────しかし、一歩遅かった。

 

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 高らかに魔法の名を叫ぶ少女の願いに応えるかのように、数百、数千もの炎が木竜・・・・・・どころか、周辺に生き残っていた蜂や蜻蛉、猪等々の周辺のモンスターへと向けて放たれ───全てが焼き尽くしていった(・・・・・・・・・・・・)

 悲鳴を上げる暇すらも無いままに死骸へと変じさせる山吹色の妖精の姿に、二つの『白』は引きつった笑みを浮かべることを止められなかった。

 

 

────

 

 

「ドロップアイテムが一杯ですね」

 

「そうだな。私もこれ程までの魔石や素材の数々は見たことがない」

 

「・・・・・・・・・むむむ」

 

 戦闘終了後。

 三人───ベルとフィルヴィス、レフィーヤは、視界に映らないことが無い、と言わんばかりに転がっている数々のドロップアイテムを前に、喜びと安堵、そしてちょっとした悔しさを内心に募らせる。

 喜びは冒険者依頼クエストの収集対象物──『デッドリー・ホーネットの強殻』が三つどころかさらにあり、さらには多数のレア素材すらも転がっていることに対するもの。

 安堵は、自身の発展アビリティ『幸運』がちゃんと機能していそうなことに対するもの。

 そして悔しさは先に聞いていた通り(・・・・・・・・・)にドロップアイテムが多いことに対するもの。

 

 ───さて。

 各々が内心に感情の船を浮かべているわけだが。

 何故、ベルとフィルヴィスが共にダンジョンにいる───どころか、レフィーヤまでもがここにいるのかについて。

 理由は多々あるのだが、簡潔に。

 

 フィルヴィスが神ディオニュソスの散財──主に葡萄酒ワイン関係──によって、このままではファミリアの家計が危篤に陥ることを危惧し、冒険者依頼クエストで稼ぐことした、と『紫氷の森いえ』で報告し。

 「もしかしたら数日は帰れないかもしれない」と寂しげに零す彼女に寂しさを感じたベルが、発展アビリティの『幸運』があることを理由に自らついていくことを志願したことで、少年はこの場にいる。

 そして、レフィーヤについては───ただ二人がダンジョンへと向かう道中で彼女を見かけ、さらには一人のようだったので、ダメ元で誘ったらついてきただけであるのだが・・・・・・それはさておき。

 

 ともかく、各々に理由があってこうして三人は集まり、パーティを組んでいるのだ。

 無論、ファミリア外の者との探索など普通は問題が出てもおかしくないのだが・・・・・・そこはそれ。

 三人とも知らない仲ではないことや、信用──どころか信頼し合っていることで、こうしてスムーズに連携を行ってモンスターを駆逐し、落ちたドロップアイテムを集める、を淀みなく繰り返せる程度にはパーティとして完成されていた。

 

 最早下手な三人組パーティよりも連携できる三人が、各々が範囲を決め、慣れた動作でドロップアイテムを鞄に詰める中。

 普段から『調合』作業を行いながら話すことがあるためか、ベルはつい"何時ものように"口が動いてしまい、「そう言えば」と世間話でもするかのように、レフィーヤに向けて話を投げかける。

 

「やっぱりレフィーヤさんは凄いですね」

 

「・・・・・・なんですか?当てつけですか?」

 

 「?」とレフィーヤのライバル心やそれに付随する対抗心、嫉妬心を読み取れていないために彼は一瞬だけ首を傾げたが、直ぐに気を取り直し、改めて少女を褒め始める。

 

「『詠唱』も淀みないですし、広域殲滅力も高くて・・・・・・何より、あの莫大な『魔力』。レフィーヤさんが後ろにいるってだけで安心感があって、凄かったです」

 

「・・・・・・・・・」

 

「僕じゃあんなに派手なことはできないですし・・・・・・凄く羨ましいです」

 

「・・・・・・そうですか?」

 

「はい!他にも複数の『敵』を狙っているのに一切逸れることも周りに余計な被害を出すこともなく、全部正確に撃ち抜いて───」

 

 真正面から次々と褒め言葉を紡いではその凄さや羨ましさ等々を説いていくベルの姿に、レフィーヤはすっかり膨らませていた頬を萎ませ、少々ニヤついた笑みを浮かべていた。

 口元を手で覆い、隠そうとしているものの、それによって余計に笑みを浮かべていることがバレていて。

 彼女が笑っていてくれることが嬉しくて、さらに饒舌にベルが褒め、さらにレフィーヤがニヤけてのループに陥る。

 

 まさに『イチャついている』とも表せる光景を前に、放置されているフィルヴィスはと言うと───腕を組んで、頷いていた。

 やはり良いな・・・・・・良い・・・・・・と言わんばかりに満足気に二人を眺める彼女の顔は、とても清々しい笑みを浮かべている。

 ともすれば長年の夢を叶えたかのような達成感や幸福感に包まれた彼女の心は満たされ、眼前の光景を脳に刻みつけようと見つめ続ける目は真剣そのもの。

 まあ───

 

「お義祖母ばあちゃんも凄くて、僕が姿勢を崩した時にさり気なくモンスターを多めに請け負ってくれて───」

 

「むっ。よく見てますね・・・・・・ですが!フィルヴィスさんは私を守るためにも、モンスターの射線や動線も意識してくれていたんですよ!突撃してくる個体や後ろに回り込もうとしている個体を障壁魔法で押し留めたり、蹴りつけて他の個体にぶつけたり───」

 

 ───ある程度レフィーヤを褒め終えたベルが、二人への『尊敬』の念を爆発させたことで、さらにエスカレートし。

 対象を変更し、途中でレフィーヤすらも参加しながら、フィルヴィスを褒め始めた。

 

 二人の紡ぐ言葉は、まさに人を褒める天才の所業とも言うべきなのだろうか。それらはフィルヴィスですら意識していなかった行動を含め、全てを褒め殺し、彼女を照れ殺すためのもので。

 二人以外が言えば『嘘』と断定してしまうほどに浮いた言動は、しかしそれら全てが『本音』であることなど、顔を真っ赤にしながらも熱量高めに喋り続ける様から容易に読み取れて。

 そんな言葉の数々を真正面から受けまくったフィルヴィスはと言うと───

 

 

 

「も、もうやめないか・・・・・・?その、私はそれほど褒められたエルフなどではないし・・・・・・・・・そ、そうだ!私などではなく、義孫ベルを褒めたほうがいいだろう?だから、もうやめ───」

 

 ベルとレフィーヤとはまた異なる理由──照れで赤くした顔を逸らす彼女の姿が、そこにあった。

 褒められ慣れていないのだろう。頬どころか耳まで赤くし、左腕を右手で掴み、恥ずかしそうに二人が居ない方角へと顔を向けている。

 ベルは普段義祖父を相手している時以外で中々見る機会がないその姿に新鮮さを感じ。レフィーヤはそのあまりにも美しく、また可愛らしい姿にゾクゾクッ、と背筋が震え。

 二人の褒めに対する燃料が投下され、さらに燃え上がる。

 ───つまりは。

 

「お義祖母ちゃんは気遣いがさりげなくて、寝起きで喉が渇いてる僕達にお茶を淹れてくれたり、さりげなくおかわりを入れてくれたりして凄いんですよ!」

 

「短剣術や並行詠唱の切り替えが綺麗で、さらには休憩を提案するタイミングも絶妙で・・・・・・!フィルヴィスさんと行動するとこんなに楽なんだ、って実感する事が凄く多いんですよ!」

 

 当然、二人の褒め殺しがさらに過熱する始末につながり。

 肌が白いことも相まって、照れによる赤が際立つ少女のそれがさらに濃くなっていき、また褒めが加速する、とまさに無限ループへと陥り。

 

 ───結局。

 フィルヴィスが顔を赤くする時間は、彼女が自身の範囲内の全てのドロップアイテムを拾い終え、逃げ始めるまで続いた。

 

 

 

 〜ベルとレフィーヤによる褒め殺しend〜

 

作者コメント:平和ですね。今作を書き始める前はアレほどまでに白巫女さんに酷い事をする想像をしていたというのに。

 

 

 


 

 

 

 『義祖父の悪癖が一つ、貢ぎ癖』

 

 

 

「神アルテミス。今月の御駄賃だ」

 

「?」

 

 唐突に差し出された布袋を反射的に受け取った女神は、その重さに首を傾げる。

 ズッシリとした重みを()に伝え、尚且つギチギチに『何か』が詰められている布袋は、女神へと向けて異様な存在感を放っている。

 縛っている紐を解けば、中にはキラキラと輝くヴァリス金貨が顔をのぞかせた。

 店内の魔石灯の光を反射する金貨を前に、女神はそのとんでもない量に呆然とした。

 ───当然だろう。

 ───その袋の大きさが、腕で抱えなければならない(・・・・・・・・・・・・)程に大きいのだから。

 

「・・・・・・これは・・・いくら入っているんだ?」

 

「?そうさな・・・・・・・・・ざっと500万ヴァリス程度(・・)だな」

 

 具体的な金額を提示された女神は目眩を覚えた。

 凡そこれまでの神生じんせいで持ったことがない──ファミリアが健在の頃も金品を村へと寄付したりしていたので、本当に初めて──彼女としては、このような金額を持つ、というのは妙に緊張してしまう。

 何より、『御駄賃』と称していたが、彼女の中ではこれほどまでの金額を受けとるような仕事をした覚えがない。

 ならば───やはり、受け取るわけにはいかない。

 

「フォス。私はこれ程までの大金を受け取るような仕事をした覚えがない。やはり何かの間違いではないのか?」

 

「?おかしなことを言うな。適正価格なはずだ」

 

 なんてこと無い無表情──そもそもベルやフィルヴィス関係以外で表情を動かしている所をあまり見ない──で女神を見る彼は首を傾げ、アルテミスより差し出されている布袋を拒否した。

 そんなわけがないだろう、と器用に布袋を抱えながら額を抑えた彼女は、やはり受け取れない、と袋を押し付けてでも返そうとし───帰宅を告げる鈴の音色が、静かに鳴り響いた。

 

「ただいま」

 

「・・・・ああ、おかえり」

 

 木製の扉が開き、『ベル』が顔を覗かせた。

 少年は朗らかな笑みを浮かべていて、特に問題が無かったのだろう、と一目で分かる彼の様子は、二人の内心に安堵の念を浮かべさせる。

 ベルが帰ってきた事実に嬉しさがこみ上げたことで、腕に抱える布袋のことを忘れているアルテミスは、誰よりも早く帰宅の挨拶を告げたフォスに謎の敗北感を感じつつ、自身も返事を返した。

 

「おかえり、ベル」

 

「・・・・・・はい。ただいま、です・・・アルテミス様」

 

 女神より挨拶を返される事実が嬉しいのだろう。

 彼女がこうして声をかけるたびに、今回のように少年は噛みしめるように笑みをはにかみさせ、優しい顔をすることがある。

 それを見るたびに心臓が高鳴るアルテミスとしては、まさに目に毒なのだが・・・・・・それでも見つめてしまうのは、好奇心や惚れた弱み、というものか。

 

 ほわほわと柔らかい空気を作り出す二人を置いて、フォスはその腕に『布袋』を抱え、ベルに歩み寄る。

 その大きさはアルテミスに送った物よりも膨らんでいて、よほど詰め込んだのだろう、とわかるほどに表面が凸凹していた。

 

「ベル。お小遣いだ」

 

「・・・・・・・・・うん。ありがとう、お義祖父ちゃん」

 

「ああ」

 

 身長差の影響で少々屈みながら袋を受け取ったベルは、慣れた手つきで抱え込んだ。

 ふんすっ、と何処か満足そうに胸を張っているエルフとは異なり、布袋を持っている少年の顔は若干死んでいた。

 「コレどうしよう」と顔に書いている程の死に様は、初めて受け取ったときの動揺が全くなく、コレが初めてのことではないと読み取れる。

 

「・・・・・・ベル。もしや、コレが貴方達にとっての『普通』・・・なのか?」

 

「・・・・・・僕達・・・・・・というより、お義祖父ちゃんの『普通』・・・ですかね?」

 

 あははは、と苦い顔をしながら、ベルが少しずつ説明してくれる。

 曰く、義祖父は月に一度お小遣いとしてお金を渡してくるのだが、その金額がこのように莫大でいつも扱いに困ること。

 一度「困る」と口にしたときは涙こそ見せなかったものの、眉を八の字にしてやるせないような、あるいは悲しそうな顔をしながら布袋をギュッ、と抱きしめていたので、以降は断りづらくなったこと。

 何より、アルフィアやザルドにもお小遣いを渡していたため、もう断りようがなくなったこと。等々。

 

 通常の金額とは言えないお小遣いの理由こそ分からなかったものの、これがフォスにとっての『普通』なのだろう、と理解したアルテミスは頭を抱えた。

 

 少年が目を殺し、女神がもともと使い所のないお金の行方をどうするのかに頭を抱えていると。

 この家に住まうもう一つの『白』が帰宅した。

 少女──フィルヴィスは平常とは言い辛い二人の姿に怪訝な顔を浮かべていると───再びフォスが布袋を抱えて現れた。

 

「おかえり、シャリア。これはお小遣いだ」

 

 笑みを浮かべながら布袋を差し出すフォスの姿に困惑したフィルヴィスが、反射的に受け取ると───やはり、その重さや入っているだろう金額に顔を顰める。

 

「・・・・・・・・・多すぎないか?そもそも、お小遣いなど必要ないのだが・・・・・・」

 

 返そう、と少女より差し出された布袋を受け取らず、黒紫色の髪のエルフは手を上げて首を横に振り、布袋を押しつけた。

 ああ、これは押し切られるやつだな、と理解したベルとアルテミスは、それぞれの自室へと布袋を抱えて向かっていった。

 ───まるで見慣れた景色だ、と言わんばかりに。

 

「何時ものプレゼントだと思ってくれればいい。お前はただでさえ何が起こるか分からない冒険者稼業をしているんだ。ポーションや装備にこれを使って、少しでも生き残る確率を上げて欲しい。何より───」

 

 彼女の布袋を抱えるバランス感覚を信じながら、彼はフィルヴィスの左手を包みこんだ。

 かつての時にお願いをする際にも行った懐かしい仕草に少女が目を見開く中。

 フォスは、やはり以前と同じような言葉を紡いだ。

 

 

「私は、やはり君に死んでほしくないんだ」

 

 目を見ながらそんな言葉を言い終えると、可笑しなことを言っていることを自覚したのか、もしくは恥ずかしくなったのか。

 かの義祖父は顔を下に向けながら、小走りでキッチンへと向かった。

 何かを包丁で切る音が聞こえ始め、トントントン、と心を落ち着けるようとしているかのように何時もより速めに、けれどリズムよく響くその音に導かれるようにベルとアルテミスが上階から降りて来る中。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

 フィルヴィスは夜ご飯が運ばれてくるその時まで、先程の言葉を噛み締め続けていた。

 

 

 

 〜お金押し付けられend〜

 

 

 

〜作者のコメント〜

 フォスお義祖父ちゃんのトラウマは『大切な人や家族、ファミリアのメンバーが死ぬ』こと。

 でもそういった人物ほど『家族全肯定マン』の精神によって行動を肯定したくなり、ダンジョンに潜ること等を否定できなくなって・・・・・・という『迷い』を、お金を大量に渡すことで解消しているそうなんです。

 変な生態だね。

 

 〜義祖父の心〜

 シャリアは左手を握ると結構お願いを聞いてくれるな・・・・・・大丈夫か?いつか、誰かに騙されるようなことがあるんじゃないか?このままだと、騙されまくるチョロチョロのチョロ娘じゃないか?(心の底から心配)(でも本当に一番チョロいのはコイツ)






●攫われた兎
・ベル君はこの後回収されました
・アイズさんは、この後罰としてダンジョンに潜ることを禁止・・・どころか、白兎に会うこと、接触することをしばらくの間禁止されました

●白巫女、白兎、山吹
・義祖母と義孫と義孫(?)という関係
・白巫女とその推しカプという関係でもある
・白巫女さんと褒め上手×2

●貢ぎ癖
・アルテミス様←まだ来たばかりだからちょっと少なめ。死なないでくれ
・ベル君←何時もの量。死なないでくれ
・フィルヴィスさん←再会した時の喜びの分も含めて多め。死なないでくれ
・フォス→コイツが他者を『君』呼びする時は、だいたいお願いをゴリ押ししようとする時。他にはファミリアの仲間やベルには使ったことがある。
 ちなみにまだまだ貯金は余裕があり、今回のお小遣いでも、雀の涙程度しか減ってない。
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