草喰みの白兎   作:リヴィドーカリェー

8 / 10
 最初の話の『じつは■■■■がある』の説明会。
 なんでベルくんは彼らを助けたの?の答え的な。
 そもそも、おb・・・『家族』と出会っただけで医療系の道に進むなら、静穏ルートで既に医療系の道の示唆くらいはあるはず。

 一応、今回で連続投稿は終わりです。続きは暇なときに書くので、数カ月後?あるいは数日後?
 私が暇な時間に書き終わることを切に祈るしかありませんね・・・


古傷の膿

 バベルの治療施設。

 清潔な白いベッドに、朝日が差し込む窓、それを遮るカーテン。

 薬品の香るその場所は、本来であれば静謐かつ退屈なひとときを患者へ届ける─────

 

「アナタは・・・・何を考えているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」

 

「ひぃいいいぃぃぃぃぃいいい!!!!???」

 

 ───はず、だった。

 鳴り響く聖女の怒号、続くは白兎の悲鳴。

 もしもこの場に他の人がいれば思わず耳を塞いでしまうほどの声は、隣の病室にいるのであろう者のガタッという音が聞こえる通り、とてもとても、大きい。

 怒りに紫水晶アメジストの瞳を怒りに見開く少女に、深紅ルベライトの瞳に涙を浮かべた少年が震えている。

 いつの間にか正座をしていた少年を、少女が睨みつける。

 

 怒っている少女の髪が白銀であるのに対し,少年のそれが白であるため、見る人によっては姉を怒らせた弟のように映るだろう。

 小兎ペットにお説教をしている少女飼い主のようにも見えるが。

 

「上層に?ミノタウロスが出たから?戦った?────────な、に、を・・・・・・やっているんですか!!!??死にたいんですか!?」

 

「ひぃぃいいい!!?違います違います!?死にたくありません!!??」

 

「なら私が言ってることはわかりますよね?同じ治療師ヒーラーで、同じ医療系ファミリア所属の言葉は!!!??」

 

「はい、わかります!!死んでほしくありませんよね!!!」

 

「自分のやったことを理解しているんですか!!貴方が死者になっていた可能性だってあったのですよ!!!???」

 

「で、でも!あのままだとミノタウロスに襲われていた人たちが・・・・・・」

 

「貴方が戦う理由にはならないでしょう!!?救援を呼ぶことだってできた筈です!!」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「それ以前に!何故一人で11階層まで行っているんですか!!??他にも・・・・・・」

 

 くどくどガミガミゴロゴロピシャーンッ!!!

 尚も落ち続ける雷に、ミノタウロス以上の恐怖を感じる哀れな少年。

 しかし原因は少年自身の招いたこと。

 それも理由がわかる──特に死んでほしくない──が故に、何も言えなくなった少年は少女に反論すらしなくなった。

 

「聞いてますか!クラネルさん!!??」

 

「はい!聞いてます!!!??」

 

「本当にわかっているんですか?それ以前に────」

 

「そこまでにしてやれ、アミッド」

 

 延々と雷を落とし続ける少女に、優しげな声色の男神が仲裁に入る。

 青髪の男神が、病室の扉から入ってきた。

 

「ミアハ様・・・・・・」

 

「ベルももう反省している。後のことは、ファミリアの主神の仕事だ」

 

「・・・・・・わかりました」

 

 ミアハの言葉に納得したのか、アミッドは怒りを飲み込み、いつもの無表情に戻る。

 

「・・・・・・それでは、私は戻ります。何かあればすぐに読んでください」

 

「うむ。すまぬな、アミッド」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 そうして。

 少女が病室を出て、ミアハとベルだけが残った。

 アミッドが出てから一度も声を出さない主神に、ベルは戸惑う。

 心配をかけてしまったことも分かっているため、自分から話しかけることもできず。

 カチ、カチ・・・・・・と秒針が動き続ける音だけが、虚しく響き渡っていた。

 

「聞いたぞ。何でも上層に出現したミノタウロスと戦ったそうではないか」

 

「・・・・・・はい」

 

 怒られると思ったのだろう。

 肩に力を入れて縮こまる少年に、ミアハはため息をつく。

 

「別に怒る気はないぞ。そなたのおかげで救われた命がある。それがある以上、私からは怒ることができない」

 

 困ったものだ、と。

 男神は困ったような笑みを浮かべる。

 その顔を見て、少年はますます申し訳なくなってしまう。

 なんでこんなことをしたんだ、と。心配をかけただろう。

 どうして一人で突っ走ってしまったのか、と。怒っただろう。

 もしも死んでしまったらどうするのか、と。悲しんだだろう。

 それでも、それをおくびにも出さずに少年の努力を祝う神に、それがわかるからこそ頭が上がらない。

 

「ベル」

 

「・・・・・・はい」

 

「死ぬな」

 

「え?」

 

 唐突に男神から出た言葉に、少年は困惑する。

 男神は今度は笑みを浮かべず、真剣な表情で少年と目を合わせる。

 

「そなたが誰かのために頑張れる男であることは知っている。それゆえに、そなたは"恩恵を得る前に不治の病の治療薬"を作り出せたのだからな」

 

「・・・・・・はい」

 

「だからこそ、そなたが助けた者たちが心配することを──死ぬことを、私は許すことはできない。だから───死ぬなよ、ベル」

 

 真っ直ぐに見つめてくる男神に、少年は言葉につまる。

 ややあって少年か頷くと、男神は元の優しげな笑みを浮かべる。

 

「先も言ったが、そなたのおかげで助かった者たちがいる。だから、そやつらの代わりに私が言おう・・・・・・ありがとう、ベル」

 

 そう言い、ベルの頭をなでる。

 包帯が巻かれた頭からしびれるような小さな痛みに顔をしかめる。

 そして、ややあって少年の瞳から涙がこぼれた。

 

「3人、いたんですけど、あの人たちは・・・・・・大丈夫でしたか?」

 

「ああ。そなたのおかげで、皆無事だ。何でももうダンジョンへと行ったと聞いた」

 

 とても元気だったぞ。

 そう口にする男神の言葉を聞いて。

 少年の口から、嗚咽が漏れ始める。

 ──始まってしまったか。

 そう思った男神は、自身の服が濡れるのも構わずに抱きしめる。

 

「・・・・・・もしかしたら、あの人たちが、死ぬんじゃないか、って思ったとき。お義母さんが、血を吐いたときと重なって・・・・・・」

 

 ──それは、少年にとっての悪夢の日。

 怒ると怖くも、誰よりも少年を気にかけ──愛してくれていた義母が。

 血を吐き、倒れ・・・・・・血溜まりに倒れていた時の記憶。

 少年は叫んだ。

 義母の体を揺すり、何度も呼びかけた。

 ややあって、祖父やおじがきたために大事には至らなかったが。

 ──少年の心に、深い傷跡を刻んだ。

 

「わかってはいるんです。僕が助ける必要はなかったって・・・・・・それでも、あの人たちにも、僕、みたいな・・・・・・待ってくれている人たちがいるって、考えたら・・・・・・身体が、勝手に・・・・・・」

 

「・・・・・・そうか・・・・・・」

 

 背をさする。

 少年の今も傷ついている心を、慰めるかのように。

 ──それでも、すでに残った傷跡あとは、消えない。

 

「頑張って、必死になって。そして、ミノタウロスを倒して。こうして目覚めたら、安心とか、痛みよりも・・・・・・怖くなって」

 

 少年の身体が、震える。

 それは寒さからではなく、今も傷む体に、心に。

 ───トラウマによって。

 

「僕が、あのまま死んでたら。もしかしたら、お義母さん達が、あの、怖さと、悲しさを感じてたと、思うと・・・・・・今更になって・・・・怖くて、怖くて・・・・・・!」

 

「・・・・・・大丈夫だ、今はソナタを含めて、皆無事だ。ソナタが、守ったのだ」

 

「・・・はい・・・はい・・・っ!」

 

 嗚咽を堪えきれなくなったのか、しゃくり上げる少年。

 その背を、男神は少年が眠りにつくまでさすり続けた。

 少年の、トラウマ。

 それは今よりも子どもだった少年にとって、衝撃の事実だったがゆえに。

 義母が助かった今も、夢に見るそれに。

 少年の心は。今も尚、傷ついたままだった。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「ふぅ・・・」

 

 あの後。

 泣きつかれた少年が眠り。

 安らかな寝顔を見ることで、ようやく安堵のため息をこぼす。

 そして、彼の義祖父なる者から聞いた話を思い出す。

 

『あの子はちょっと重傷でな・・・・・・アル、おっと・・・義母のことが、よほどトラウマだったのだろう』

 

 その時のことをみたのか、あるいは聞いたのか。

 顰め面を浮かべる小さなお爺さんに、ミアハは真剣に聞いていた。

 

『オラリオに来るまで、あの子は片時も義母のそばを離れなかった。もう義母を蝕む病魔も,おじを苛む毒は消えて・・・ベルが治したことで、健康体そのものになっても、なお』

 

 端正な顔を顰め面のまま、とても苦しそうな表情を浮かべる。

 ──あるいは、怒りの表情。

 原因も経緯も分かっているのに、手出しができない自分自身への。

 少なくても、ミアハにはそう見えた。

 

『あの子はもろい。いつの日か、そのまま篝火と果ててしまいそうなほど。表面上は取り繕えている。──取り繕えてしまうんだ』

 

 今度は悲嘆に暮れている。

 ここまでコロコロと表情を変えるのは、やはり彼がベルのことを愛しているからだろう。

 

『ア・・・義母が聡い子でな。すぐにベルの異変や違和感に気づくものだからそれを騙して、気づかれてと繰り返していたら、慣れてしまって・・・今では、古傷・・・トラウマなんてないかのように過ごせるようになってしまった』

 

『・・・・・・』

 

『義母は駄目だった。おじもだめだった。祖父も・・・私も。多分、近すぎるからだろう、な』

 

『・・・』

 

『どうか、あの子から目を離さないでくれ。あの子は、傷つく誰かを見捨てることができない。それが、物理的でも・・・精神的でも』

 

 どこか懇願するかのような様子の彼に、男神はなんと言っただろうか。

 ──ミアハは分かっている。

 その傷が癒えることはなくても、それを慰めることができる存在が、少年に現れることが。

 ──ミアハはわからない。

 その存在が、いつ現れるのか。

 それが数日後か,数カ月後か,はたまた数年後か・・・数十年後か。

 自身が神だというのに、神頼みをしたくなる男神。

 ──願わくば。その出会いがベルの心が壊れるよりも早いことを祈るばかりだ。




〜人物紹介〜

◯お義母さん
・みんな大好きお義母さん。じつはベル君の最初のヒロイン扱いしてます
・でも、あなたのおかげでベルくんは自分の『闇』を隠せるようになってしまいました・・・悔しいでしょうねぇ・・・
・ベルに何か心の傷を負わせてしまった事自体は察していますが、自身の病気の症状が周囲にはどう見えているのかの視点が抜けています
──やはり出会わなければ・・・しかし、それももはや後の祭り

◯おじさん
・みんな大好き苦労人の料理番
・アルフィアから離れないベル・・・というよりかは、一部始終をみた彼曰く「そりゃそうだろ・・・なんで分かんないって面してんだこいつ(義母)・・・」
・ベル君に料理をするのが好きだが、静穏以上にベルがベッタリなせいで、それに慣れたアルフィアが「おじさん好き!」と口にするたびに嫉妬して福音している

◯おじいちゃん
・みんな関わりたくないとある神
・英雄譚を読み聞かせ、義母とおじさんと平和に暮らしていた、が・・・普通に姿をくらました。具体的に言えばベルのトラウマの時
・現在、孫に何もしてやれない無力感と、とある女神への恐怖で走り回っている
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