死ねなかった少女   作:那菜 御調

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遺跡群モンスター迎撃特別依頼 Ⅱ

 

「なるほどね、リィン君がこの依頼を受けに来たのはあれかな、装備の試運転だったりするのかな? 凄く見違えてるもんね」

「そう。加速剤のおかげで良い遺物が手に入った。それで必要資金にも達した」

「ふぅん。ま、いいや。今日は緊張してるだろうけど、無理せず多くのモンスターを倒してね。そして、できれば僕を無事に都市まで送り届けてくれ」

 

 はい、じゃあ次の人が来たから乗ってくれとリィンは車両の中へ入るよう誘導された。

 若く、華奢な少女が乗り込んできたことで、先に乗っていたハンター達からこちらを見定めるような視線が飛んでくる。

 

 リィンはその視線を意に介さず、車両両端に設けられた座席の端に座り込んだ。

 背負っていた消耗品を詰めたバッグとA2D突撃銃を抱え込み、周囲のハンターとの関係を拒絶するように目を瞑る。

 

 ハンターオフィスを通して出された依頼であり、都市も関わっている車両の中で盗みをしようという物はいないだろう。

 そうした考えの下、リィンは車両の中で一眠りするつもりだった。

 

 しかし、

 

「──ねぇ、ちょっといい?」

 

 眠ろうとしたリィンを引き止めるように掛けられる声。

 声の方へ視線を向けると、そこには若い二人組のハンターがいた。

 

「……なに?」

「ああ、ごめんね。私は()()()()。そっちのやつは──」

()()()()だ。俺達二人でドラゴンリバーってチームを組んでる。よろしくな。えぇっと」

「リィン」

「おお、リィンっていうのか。いやー、実は俺達クガマヤマ都市からここまで来ててさ」

「──待って、私が話すからあんたは黙ってて。実は私達、この辺りには来たばかりなの。よかったらいろいろ教えてくれないかしら」

 

 利発さを備えたメルシア。活発で恐れを知らない有望そうなタツカワ。

 クガマヤマ都市という言葉を、リィンは詳しくは知らなかった。

 そして今でこそハンターとしても活動を始め、多くの関わりを持つようになったが、リィンの性格はスラムの辺境にいた頃から何一つ変わっていなかった。

 他ハンターとの会話は気乗りしなかった。しかし依頼の中で他ハンターとの連携を求められる場合はある。車両の出発はまだ先だ。軽く話をするぐらいなら問題はない。

 リィンは軽く息を吐いて返答した。

 

「いいよ。でも、わざわざここまで来たってことはそれなりに調べてきたんじゃないの?」

「そうね。けど、私たちはキバヤシっていうクガマヤマ都市職員の伝手でここまで来てるの。勝手にこの馬鹿が依頼を受けちゃって、急いでこの都市まで来たのよ」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。別にこの依頼は悪い依頼じゃないだろ? 報酬も良いし」

「私にその相談をしなかったことが問題だっていってんのよ、この馬鹿! ていうか、あのキバヤシが嬉々として持ってくる依頼にろくなものがあるわけない」

「……大変そうだね」

 

 メルシアの鬼のような剣幕に、タツカワは曖昧な笑みを浮かべながら目を逸らしていた。

 恐らく、二人の間でこのようなやり取りは何回も行われたのだろうことが、知り合ってすぐのリィンにも察せられた。

 メルシアが視線をタツカワからリィンに移す。

 

「そういう事情もあってね、この依頼について少しでも情報を集めておきたいの。なにか知ってることはない?」

 

 メルシアの視線を受け、リィンは表情を変えることなく思案した。

 都市側の情報を除けば、一切の誇張なくこの依頼について現状最も情報を持っているのは私であるという認識はある。

 しかし、その情報を馬鹿正直にそのまま語ることはできない。話してしまえば情報の信頼性を疑われ、出所を疑われ、最終的には私への疑念に変わる。

 下手なことを喋ることはできない。

 リィンは探り探りで情報を出していくことにした。

 

「そうだね……といっても、私もこの依頼を受けたのは初めてだから。期待しているような情報は渡せないと思う」

「それでも良いわ。ファマナリア都市に関する情報は()()()()()()()、そこまで詳細に知れなかったの。あなたはかなりいい装備を身に着けてるから、その辺りの事情にも詳しいと思ったんだけど、初めてだったんだ」

「ああ、かなり場慣れしてそうだから俺も慣れてるもんだと思ってたよ。ちなみに、ハンターランクはいくつなんだ?」

「ちょっと、人にハンターランクを直接尋ねるのはやめて。ごめんねリィン、嫌だったら答えなくてもいいから」

 

 メルシアが急いで口を挟む。

 ハンターランクの話題は人によっては敏感で、諍いの原因になることも少なくない。そのため基本的には軽率に尋ねることはせず、後でハンターオフィスのページを通して調べるのが普通だった。

 しかし、リィンは自身のハンターランクへの関心が誰よりも低い自覚があった。ハンターランクについてはリゲルの契約を達成するための手段としか捉えていない。

 そのため特段気にする様子を見せることなく、素直に教えることにした。

 

「別にそれぐらいならいい。私のハンターランクは10だよ」

「10!?」

 

 思わず声を上げるタツカワ。

 しかし、それによって周囲のハンター達からの視線を集めてしまう。

 これからモンスターとの戦闘を控えていることもあり気が立っているものも多く、剣呑な視線を向けてくるものもいた。

 周囲の様子に気付いたメルシアが慌てて対応する。

 

「すいません! ちょっと騒がしいやつなんです、今後は静かにさせますから」

「……チッ」

 

 咄嗟にタツカワの頭を下げさせ、必死の謝罪を行うメルシア。そのおかげでハンター達は溜飲を下げたようだった。

 そして、再びハンター達を刺激しないよう小声でタツカワを叱るメルシア。

 

「気を付けてって言ったよね!? 蹴るよ!?」

「ごめん、ごめんって! ていうか、もう蹴ってる!」

 

 強化服を着用した上での蹴りは流石に堪えるのか、必死に身を捩って避けるタツカワ。

 そして場の流れを戻すと共に自身へのヘイトを逸らすため、急いでリィンのハンターランクについて口に出す。

 

「そ、それよりさ! ランク10ってことは、まだまだ成り立てってことだよな。その強化服にA2D突撃銃とかは、所属してるハンター徒党の貸出品だったりするのか?」

「成り立てなのは間違ってない。登録したのは昨日だから。装備については運が良かっただけだよ。ハンター徒党には所属してない」

「……それにしては、新米ハンターらしからぬ雰囲気よね。これも有望なハンターの素質なのかしら」 

 

 メルシアはリィンから新米ハンター特有の浮ついた空気や、戦闘への高揚などが見られないことを一種の才能であると評価した。

 しかし、同時にリィンからはそれだけではない、幾つもの死線を経験した歴戦のハンター特有の雰囲気も感じている。

 このチグハグさが、メルシアが抱くリィンという少女への人物観を歪めていた。

 メルシアからこちらを訝しむような視線を向けられているのを察したリィン。

 

 今のところは有望なハンター程度で収まっている。タツカワは人が好いのか特に私を探る素振りはない。

 二人の話によれば、キバヤシという都市職員の伝でここまで来たらしいが、気にするべきはここだろうか。

 多分、ファマナリア都市内部にキバヤシを通して助けを求めた者がいる。

 リゲルに報告をしておく必要があると結論づけ、リィンはこの場は彼らにある程度の情報を渡して恩を売っておくことにした。

 

「それより、この依頼について知りたいんでしょ」

「あ、そうだったわ。ごめんなさい、話を逸らしてしまって」

「そういうこともあるよ。……まずこの討伐依頼の死傷率が高いことは知ってる?」

「ええ、詳しい事情は分からないけど知ってるわ。その分、報酬も大分上乗せされてる」

「そうだね。ファマナリア都市も必死にモンスターを外壁に近付けさせまいと殲滅してる。でも、これは都市防衛隊も出撃したうえで、多数の現地ハンターが参加したうえでの結果。永遠に(いたち)ごっこを続けるだけだと、いずれファマナリア社は破綻(はたん)を迎える」

「……なあ、聞いた限りだと、ファマナリア都市は撃退をしているだけでめぼしい成果を上げられていないように思えるんだが」

 

 リィンの話を聞いたタツカワが当然の疑問を口にする。

 ファマナリア都市の事業がいくら利益を上げようと、ここで血を流すことを強いられ、莫大な負債を抱え続ける限りその経営状態を疑問視した社員や富裕層からの支持すら失いかねない。

 そして討伐依頼が自分たちの安全を約束するものだとしても、根底から状況を改善する方法がないならば、最悪の場合(都市陥落)すら想定しなければならない。

 だが、ファマナリア都市も闇雲に撃退を続けているわけではなかった。

 

「いや、成果は上げてる。都市の周囲にモンスターを誘引することで、その大元である遺跡の攻略難易度を引き下げてる。ここで誘引しておけば、自分たちに有利な状況で戦えるうえに、暫くは遺跡内のモンスターも大きく数を減らさざるを得ない。……ていうのが、この討伐依頼の必要性みたいなところなんだけど」

「ありがとう。凄くわかりやすかったわ」

「それは良かった。……他に聞きたいことはない? できれば、依頼が始まるまでに私は一度眠りたい」

「うーん、本当はモンスターの種類や強さを聞いてみたかったんだけど、あなたは初参加だからそういうわけにはいかないわよね」

「……機械系も生物系も色々出てくるけど、基本的には生物系が多いとは聞いたよ。それじゃあ、私は眠るから。できれば、都合がよさそうなタイミングで起こして欲しい」

「わかったわ。それぐらいなら任せて」

「ありがとう。おやすみ」

 

 そういって、目を閉じるリィン。

 周囲には少なからず話をしているハンターも居るため無音というわけではない。更には座席に座り込んでいるために、決して寝やすい場所ではない。

 だが、暫くして二人がリィンの様子を確認すると既に完全に熟睡しているようだった。

 タツカワとメルシアは互いの顔を見合わせ、思わずこの肝が据わりきっているハンターへの感想を零さずにはいられなかった。

 

「……凄え豪胆だな。このリィンってハンター。普通この状況で眠れるか?」

「……これが彼女なりの戦闘への向き合い方なのかもしれないわ。色々あるんでしょう」





 感想、評価ありがとうございます。

 すみません。原作の読み直しであったり、今後の展開について考えていたりで、思っていたよりも執筆が進んでいません。
 気長に待ってくださるとありがたいです。
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