無事配給に間に合ったリィンは謎の物体を食べていた。
(うん、不味い。苦いだとか辛いだとかの話じゃない。味がない。まさしく餌だな。私は何を食っているんだという気持ちを毎回味わえる)
白く平たい謎の固形物をもそもそと咀嚼し、ひたすら飲み込む。そこに虚無以外の感情は存在していなかった。
──しかし、いつも通りの行動の中にあっても、今日のリィンは普段であれば気にも留めない物に興味を惹かれていた。
「……回復薬か」
リィンが住む、いや正確には勝手に身を寄せているファマナリア都市の強みたる回復薬。
他の都市であれば決して無料では渡さないそれが、ここでは食料と共に数は少ないが配られている。
だがそれを手に取るのはよっぽど追い詰められている者だけだ。
効能も安全性も保障されておらず、ましてや治験という形ですらない為に報酬すら発生しないそれを好き好んで飲みたい者は当然の如くいなかった。
しかしいつも手つかずのまま残っているそれへ、リィンは珍しく目を向けていた。効能が不明である、という点は言い換えれば思わぬ結果を齎す変数として左右してくれる。
今は起床直後へとリィンを戻している死に戻りの力がどう変化していくのか不明な以上、袋小路へと陥った未来に備えた選択肢は多いに越したことはない。
机へ並べられた回復薬の瓶を一つ手に取り、懐へと仕舞う。
手に持った情報端末を横目にそれを見ていた都市の職員らしき男は、回復薬を手に取る者がいたことに意外そうに眉を上げた。
「それを使うのかい? 譲ちゃん。それとも、それが必要な奴でも居るのかな」
声を掛けられるとは思っていなかったリィンは眉をひそめた。そして、ぶっきらぼうに返答した。どうせ興味本位の質問で大した意味がないことなど分かりきっていたからだ。
「ただの備えだ」
「そうかい。ま、そんな事態なんて無い方がいい。あ、でもよく効いた時は教えて欲しいね。少ないけどオーラムをあげるよ」
「……報酬が貰えるなんて聞いたことがないが」
そんなリィンの疑問に良く言えば気さくな、悪く言えば軽薄そうな男は相も変わらず情報端末を弄る手を止めることなく返答した。
「そりゃ、俺が勝手にあげてるだけだからね。今さらこんな得体の知れない回復薬を売らずともファマナリア都市は安泰。けど俺の仕事までそうとは限らない。だからさ、真面目に報告の一つでも上げておこうって話。そこから更なる成果に繋がれば儲けものだしね」
わかった? とでも
別に男の仕事がどうなろうとリィンが関知するところではないが、オーラムを手に入れる手段自体は多ければ多いほど良い。
「気が向いたら来る」
「そ? じゃあ来たらアキヤマって名前を出してね。すっこんでても頑張って出てくるからさ。じゃ、気を付けてね~」
ひらひらと振られる手を無視し、リィンは帰路に着いた。
◆
占めて1000オーラム。それがリィンが殺したモンスターの死体に付けられた値段だった。
そして、そこからスラムに大量に流通している弾薬を10発分購入し、残ったのは僅か100オーラム。
「対人用の弾でもこの値段。モンスター用ともなると、一体いくらになるんだろうね」
まだまだ目的には程遠いと、リィンは嘆息した。
だが、スラムの孤児などこんなものだ。ましてや徒党に所属することなく孤立している自分が拳銃を手に入れられたのは幸運でもある。
故にこの幸運を次の幸運へと繋げるべく、リィンは自らファマナリア都市近郊の遺跡の一つ、ミンタカ工場跡へと来ていた。
ファマナリア都市近郊から新たに見付かった遺跡群ではなく、ファマナリア社創業当時から存在している、最早探索され尽くした遺跡。
発見当初は周辺にうろついていた特異な変異を遂げたモンスターや防衛用の無人兵器は既に多くの時とファマナリア社の膨大な資金投資によって一掃され、偶然入り込んだ野生のモンスターしか見られない。
新たに有用な遺物が手に入る見込みも薄く、足を踏み入れるのはよっぽど落ち目のハンターか命知らずのスラム住人だけ。
つまり、リィンのような者のことである。
今回、リィンがそこに向かったのは住処から一番近かったからだ。その背景には徒歩以外の移動手段を持たないという切実な現実が如実に表れている。
「流石は旧世界製。わざわざ破壊したりしない程度には頑丈ってことか」
広大な荒野の一角を占領している巨大な遺跡、ファマナリア社が過去に行った激しい制圧戦によって荒廃してはいるが、それは未だ工場としての形を残していた。
そんな遺跡の中を、リィンは他のハンターからすれば驚異的な速度で移動していた。姿を消したモンスターや死角に潜んだモンスターがいるのではないか。普通はこのように警戒する必要がある。
このまま無警戒で進んでしまえば遠からず不意打ちで命を落とすだろう。
しかし、私には次がある。そのような思考のもとリィンは一切の危険性を省みることなく突き進んでいた。
遺跡に足を踏み入れてしばらくすると、物資運搬用と思われる通路の上に野晒しにされた警備機械があった。激しく損壊しているようであり、動く様子は見受けられない。
それを見て、暫し考え込むリィン。持ち帰れば多少のオーラムにはなるが、今すぐに回収すれば移動の邪魔になる。なら余裕があれば持ち帰ればいいと判断し、引き続き先へ進んでいく。
やがて特にめぼしい物を見つけることも無く、工場の中央部へと差し掛かった時──リィンは上半身を喪失したハンターの遺体を見つけた。
瞬時に通路の壁面に身を隠し、部屋の真ん中に転がる遺体を観察する。
血は固まっていない。周囲に落ちている銃は突撃銃だろうか。周囲を観察するが、モンスターは見える範囲にはいない。天井に潜んでいる可能性も考慮し確認するが、配管が蜘蛛の巣のように張り巡らされているだけであり、ハンターを殺せそうな物はない。
部屋の内部は破損した培養槽やタンクが機能的に並べられており、何かを生産していたか研究していたと考えられる。
しばらくじっと見ていたが、モンスターが現れる様子は無い。
(……このまま見ていても埒が明かない。一旦近付いてみよう)
ゆっくりと、音を立てないよう部屋へ侵入し、ハンターの遺体へと近づくリィン。
(どこだ、どこから来る。決して見逃ちゃ駄目だ。次に活かすことだけ考えろ)
一歩、二歩。変化を見落とさないよう周囲に意識を張り巡らせ、慎重に近付く。
短くなる遺体との距離。
そしてそれに伴い、はっきりとは見えなかった遺体の解像度が高まる。
肉付きや骨格からして性別は男。派手に散らばった血と臓物からして、拳銃では到底不可能な威力の攻撃を受けている。
転がる
強まる警戒。
やがて、遺体が転がる場所。
両隣に広がる二つのタンクの隙間に差し掛かり、リィンが男の突撃銃へ手を伸ばした時、
──響く銃声。
「──」
衝撃。掻き消える意識──。
◆
「……まあ、だろうね」
配給から戻り、一度仮眠を取ることで死に戻りの地点を更新することを目的としていたが、周囲の様子からして成功したようだった。
そして予想通りと言えばそうであるし、まあ死ぬとすればあそこかなと若干察してはいたが、ひとまず近付いてみると案の定死亡したリィン。
だが、それ自体は大して問題ではなかった。重要なのは、自分を殺した原因が分からなかったことだ。
(情報収集機器も無いし、肉眼だけで敵を特定するってのはまあ無理か。となると、私にできる選択肢は何とか通れる場所を見つけるか、部屋を迂回するかのどちらかか)
死に戻りによって無数の選択肢を取れるリィンだからこそ生まれる悩み。
どちらから取り掛かろうか。いや、そもそも奥に行けたからと行って遺物が存在しているとも限らない。
前評判通り遺物の数もそこまでなかった以上、今回は外周部で見つけた警備機械を持ち帰るという選択肢もある。
リィンが死を
そうして頭を悩ませていると、ふとリィンの中には一つの疑問が浮かんだ。
(ミンタカ工場跡はファマナリア社が徹底的に制圧した筈なのに、なんであの威力の攻撃が出来る兵器が残ってる?)
完全に稼働していたミンタカ工場跡を停止に追い込むほど制圧したならば、新たに無人兵器が補充される筈がない。
「遺跡の異常…………もしかして、
──
感想、評価ありがとうございます。
パーマデスという言葉については初めて目にしました。調べてみると確かにアルファが行っている試行そのものですね。面白い用語を知ることができました。
今回この小説を書くに当たって多くの先駆者様の小説を読ませていただいたのですが、皆さん1話当たりの文字数が非常に多いので超人を見ているかのようでした。
今後の展開についてはなるべく速くなるように心がけています。理由としては、余りにゆっくり進めてしまうと私が限界を迎える方が早いと思ったからです。
何話か書き溜めて余裕は持たせているので、なるべく止まらないようにはします。
それと、私はネーミングセンスがないので銃火器や強化服などの良い命名方法があれば教えていただけると大変助かります。思い付かなかったら、多分原作に登場した名前をそのまま流用します。
長文、失礼いたしました。