死ねなかった少女   作:那菜 御調

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遺跡群モンスター迎撃特別依頼 Ⅰ

 

『では、ファマナリア都市が実施している討伐依頼に明日参加されると』

『そうだね。一応、そちらにとって不都合があっても困るから連絡を入れた。問題はない?』

『ええ、構いませんよ。あれらはファマナリア都市の資金を削る為の余分なリソースに過ぎませんので。(むし)ろ、貴女の成長に活かされるのであれば、より有効な方法を取ることも視野に入れましょう』

 

 リィンはマリアンから譲渡された新居で、リゲルと通話を行っていた。

 明日参加する汎用討伐依頼。それは、統企連が恒常的に出している依頼にプラスして、ファマナリア都市が現在の状況を憂慮(ゆうりょ)して追加の報酬を出している物だった。

 

 周囲に多数の遺跡があり、そこから高頻度で溢れ出すモンスターの進行を食い止めるため、スラムの住人をハンターに転身させる必要経費も兼ねている。

 しかし、その襲撃の多さから、人員の損耗もそれなりに無視できないレベルになりかけていた。

 このままでは遠からずハンターの総数が不足して、戦線の維持ができなくなる。そう判断したファマナリア都市上層部は、大流通を通して各地から人を集める必要があると考えていた。

 

『有効な方法?』

『はい。貴女の成長に繋がり、かつ、ファマナリア都市の被害を更に拡大させる方法です』

『……それ、私死なない?』

『まさか。貴女なら問題ありませんよ。大した敵ではありません』

『……なんで私の周囲には謎に評価をしてくる人しかいないのかな』

 

 拡張視界を通してリィンの元にデータが送られてくる。

 リィンがそれを開くと、拡張視界の中に今回の作戦規模、襲撃に加わるモンスターの個体名、戦闘能力、指揮系統に至るまでの膨大なデータが一瞬で広がった。

 

 流れるように次々と開かれていくそのデータに目を流されるリィン。しかし、首輪型情報端末に搭載されていた簡易人格はリィンの演算能力を考慮し、覚えておくべきデータだけを瞬時に取捨選択し、次々と開かれていくデータと並行して、認識する必要のないデータが閉じられていく。

 

 目まぐるしく移り変わるデータを手持ち無沙汰に眺めるリィン。

 だが、表示されるデータが少なくなり、飛躍的に視認性が向上するにつれ、その表情は次第に険しくなっていく。

 

『リゲル』

『はい、なんでしょう』

『今、私の前に残されたデータは見えてる?』

『ええ。見えていますよ。なにか気になる点でも?』

『無理。この敵は倒せない』

 

 表示されていた敵は、オーラム換算にして億の賞金を懸けられても不思議では無い強力な個体だった。

 少なくとも、まともな訓練も行っておらず、銃の狙いの定め方すらおぼつかないリィンが倒せる敵ではない。

 どう足掻いても無理だと、リィンはリゲルに対して難易度を下げるように要求した。

 しかし、リゲルもまたリィンにこの敵の全てを相手にさせるつもりはなかった。

 

『ふふ、安心してください。貴女が相手をするのは防衛隊によって撃破された後の分裂体です』

『…………既に決定事項か。わかったよ、やればいいんでしょ。今回首を突っ込んだのは私だしね。でも、これが終わったら休憩する。それだけは言っておく』

『では、おもてなしの用意をしておきましょう。旧世界のリラクゼーションなら、貴女の疲労も全て溶けますよ』

『……それ、オーラムに換算すると利用料は幾らになるの?』

『1000億はくだらないと思って頂ければ。やる気は出ましたか?』

『怖いぐらいには。一体私はなにをされるんだろうね』

『それは良かった。では、貴女の成長に期待しています』

 

 リゲルとの通話が終わり、拡張視界を通して広がっていたデータが閉じられた。

 しかし、通話が終わっても、リィンはすぐに眠ることはせず、物思いに(ふけ)っていた。

 

 それは明日の依頼に対する心配であり、不安であり、訪れるであろう死への静かな覚悟を形成する時間だった。

 

 明日、必要となるであろう能力。技術。心構え。全てにおいて不足しているというのが今のリィンの推測であり、それが事実と言って差し支えない程には認識していた。

 リゲルが評価したのは死に戻りによって最適化された自分だ。死を繰り返したことによる極限の集中。拳銃や防護服すら身に着けていないスラムの孤児が出した異様な結果。そして、使い慣れているはずがない加速剤に対する適応力。

 

 きっとリゲルが旧世界の存在であるということも、この異常に高い評価に繋がっている。旧世界の科学力は控えめに言って万能だ。できないことの方が少ない。圧倒的な技術力によって、未知を既知に、不可能を可能に落とし込んできた歴史そのものが、私が持つ死に戻りの能力に辿り着かせることを阻害している。

 

 人と呼べる基準にすら達していないモンスター()しかおらず、大幅に倫理も能力も劣化した存在達の中に、自分の理解を超えるものが潜んでいるとは考えない。考えられるはずがない。

 しかし、現世界の企業の殆どが、旧世界の遺物のリバースエンジニアリングの果てに形成されたのだから、その技術と知識に対する自負を驕りとは言えないだろう。

 

 (むし)ろ、異物は私の方なのだから。

 だからこそ、私の結果は全て、純粋な私自身の能力であるとされた。

 

「…………ま、やるしかないよね」

 

 A2D突撃銃の弾倉の交換。そして基本的な銃の構え方。戦闘時の強化服の出力調整。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はなくとも、旧世界製の情報端末である以上、簡単な動きであれば強化服を通してリィンの体に適用することはできた。

 

 そして、眠るギリギリまで、リィンは体にその動きを落とし込み続けた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 余裕を持って下位区画の新居を出たリィンは依頼内容に従って、集合場所に移動した。武装したハンター達が醸し出す空気によって、この場には物々しい雰囲気が満ちていた。

 何台もの大型の荒野専用車両が並べられており、次々と案内に従ったハンターが車両へと乗り込んでいく。

 

 そして、リィンもまたその他大勢のハンターと同様に案内担当の職員に自らの情報端末を提示した。

 提示された情報を見た男性職員が、意外そうな顔をする。

 

「アキヤマに用がある奴が参加してると聞いてたが、意外だな。想像よりも若い。用ってのはあれか、加速剤についての文句か?」

「そんなものだよ」

「ふっ、そうか。思いっきり言ってやれ。アイツはまだまだ痛い目を見た方が良いからな」

「……なに、アキヤマって嫌われてるの?」

「あー、いや嫌われてるってよりかは、能力だけはあるんだからやる気を出せって感じだな。愛の鞭って奴さ。今はファマナリア都市も色々と忙しいからな、有能な奴を遊ばせておく余裕はないんだよ。アイツの車両は4番だ。じゃ、頑張れよ」

「どうも」

 

 提示された番号に従いリィンは車両に向かった。

 そして、外で面倒くさそうに立っている軽薄そうな男を見つけた。

 

 立ち姿一つとっても力が籠められておらず、ひたすら時間が過ぎ去ることだけを祈っているようなやる気の感じられない表情。しかし、流石にそんな男であっても配給所のように職務中に常に情報端末を弄ることはやめたようだった。

 そのある意味で変わらない姿に、緊張が解けていくのを感じながら、リィンは一切の遠慮なく声をかけた。

 

「暇そうだね、アキヤマ。職務中に情報端末を弄らなくなったんだ。成長したね」

「む、この僕に対する遠慮のない言葉。

 ──おっ、おおお!? やあやあやあ!! あれからどうだい、スラムの少女! もしかして、僕がお願いしたデータの提供を果たしに来てくれたって所かな!?」

「それもあるけど、一番は文句だ。適当な仕事しやがってこの野郎」

「おっと、思ったよりも辛辣な言葉だった!

 いやー、つらいね。僕の心は昨日から続く叱責によってもうボロボロだ。なのに、まさかスラムの少女からも飛んでくるとは。世知辛い世の中だよ」

「仕事してないからだろ。仕事しろアキヤマ」

「いやいや、これでも頑張ってるんだぜ僕は。ほら、僕は潤滑油のようなものだから。人間関係を調整してあげているのさ。ま、僕の仕事のことなんてどうでもいいだろ? 肝心の効果について教えてくれよ」

 

 リィンは自分が使った回復薬(加速剤)の効果を簡潔に話し出した。

 二分遅れで齎される加速剤。ただし、驚異的な速度で放たれた旧世界の弾丸を認識できるほどには効果の質は高い。副作用は尋常でない虚脱感と、思考の分散。ただし他の加速剤を使用した経験がないため、これが普通かどうかはわからない。

 リィンはできる限り当時の状況を思い出しながら、情報を補足していく。

 そして、それを聞いたアキヤマは興味深そうな顔をしていた。

 

「へぇ、二分遅れ。それは致命的だね。それに、副作用も聞いた感じだと通常よりも多そうだ。ふむ、これを商品にするのは相当手間だろうねー」

他人事(ひとごと)だ」

「そりゃそうさ。開発は僕の仕事じゃない。そういうのはちょっと趣味じゃないんだ。さて、約束の報酬を渡してあげたいところだけど……そうだな、依頼の後でもいいかな?」

「いつでもいいよ。ついでに報告しに来ただけだから」

「助かるよ。実は私用の情報端末を没収されていてね。おかげで暇で暇で。もう退屈で死んじゃいそうだよ」

「いや、使うのをやめなよ。あと一ヶ月ぐらいは没収してもらえばいいんじゃない?」

「──やめてくれ。僕のような人種はまともに端末を弄れなくなると、仕事に集中できなくなっちゃうんだ」

 

 アキヤマの最後の言葉にはここ最近話をした中で最も覇気が籠められていた。

 彼にとって職務中に端末を弄れないことは本当に死活問題なのだろう。それはリィンにも如実に伝わってきた。

 

 しかしだ。端末がないと集中できないと言うアキヤマの話には、既に決定的な矛盾が生じていることに、リィンは気付いてしまっていた。

 ポツリと、リィンはその矛盾を呟いた。

 

 

「──それ、どの道仕事してないじゃん」





 感想、評価ありがとうございます。

 この小説には多分出てこないとは思いますが、私は原作キャラの中ではヒカルが一番好きです。胃が超人化しても可笑しくないほどの不憫さを見ていると、凄く心が豊かになります。
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