ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ(嘘)
ゲーム世界に転生したジャックは、原作知識を活かしてソロ攻略を目指す。


001.授業風景

「それじゃあ授業を始めるぞ」

 

 クラス担任の女性教師が入ってきて、静かになった教室の中で授業を始める。

 生徒は1クラス50人ほど、みんな高そうな制服に身を包んでいる。

 まあそれは俺も同じなんだけど。

 

「まずは皆に、入学おめでとうと言っておこう」

 

 入学式が終わって最初の授業だけあって、クラスメイトの表情はごく一部を除いて自信とやる気に溢れている。

 

「とはいえまだここはスタート地点だ。重要なのはこれから何をして何を成すか。各人それを肝に銘じておくように」

 

 そんな担任教師の説明は、入試合格という一旦のゴールをみた人間の気を引き締めるにはよさそうな言葉だ。

 個人的には『チュートリアル』で何度も聞いた言葉だから、心に響くようなことはないけど。

 

 というのもここは、ゲームの中の世界。

 しかも何十周もしてやりこんだゲームなので、チュートリアルは耳タコなのだ。

 そもそも俺は入学試験よりあとにこの世界に来たので、入学おめでとうという言葉に関係がないせいもある。

 

「さてそれじゃあ今日はこのダンジョン学園のルールを説明していくぞ。学園に入学しているなら当然の知っていることだろうが、知らない、聞いてないは通用しないから心して聞くように」

 

 この学園の正式名称はセンクトアル王立学園。

 国一番の学園という設定なので、そんな常識も知らない生徒はほぼいないという前提で話は進む。

 ゲームを遊ぶプレイヤーには知らん設定だから、やっぱりちゃんと教えてくれるんだけどね。

 

「まずお前たちには卒業まで、学園にあるダンジョンに挑んでもらう。階層は全部で100階。これをどこまで登れたかが成績に直結するから覚悟しておけ」

 

 ダンジョン、という言葉に俺は自然と窓の外に視線を向ける。

 そこにあるのは天高くそびえる『塔』。

 ネットではそのまま塔と呼ばれることが多かった、このゲームのメインコンテンツだ。

 

 ダンジョンと言われると細い通路が地下へと伸びているのを想像するかもしれないが、このゲームではあれがダンジョンということになっている。

 そもそも、外見は塔だけど中身はまた別物なんだけどね。

 

「先生! 卒業までに100階終わったらあとはどうすればいいんですか!」

 

 質問をするのはクラスメイトの男子。

 名前はサイモンくん。

 原作の仲間にできるネームドキャラなので、自己紹介されるまでもなく名前は把握している。

 

 といっても彼が特別なキャラなわけではなく、このゲームが数百人のキャラクターから自由にパーティーメンバーを選べる形式なのであくまで山程いる仲間候補の一人だけど。

 得意武器は短剣、性能は普通。

 

 一番の特徴は主人公のクラスメイトでありチュートリアルで一番最初に発言したプレイアブルキャラなことなので、つまりそういうことだ。

 そんなサイモンくんの質問に、担任教師のスカーレット先生は真面目な顔で答える。

 

「まず言っておくのは、この学園でほとんどの生徒はダンジョンを完全踏破することなく卒業していくことになる。最後に100階を踏破したパーティーが出たのは実に100年前だからな。そのうえで言うが、もしそれが実現できたらあとの学園生活は好きに過ごしていい。授業に出なくてもいいし、就職先もより取り見取り。将来の栄達は保証されたようなものだな」

 

 おおー、とクラスの一部が沸く。

 同時に、別のクラスの一部はその表情を引き締めて話の続きに耳を傾ける。

 

「だが実際には、三年の学生期間を終えても何割かの生徒は完全踏破の半分、50階層にも到達できずに卒業していく。去年の卒業生の最高到達階層は78階層。攻略の進行速度は階層が上がるごとに落ちていくことも加味すれば、残り22階層というのは非常に厚い壁になる」

 

 実際に原作を遊んでいたプレイヤーたちも、初攻略の達成度の平均は50階層程度だった。

 俺も特別ゲームが上手いわけでもないから、初プレイはもうちょっと先の60階を抜けられずに終わったっけ。

 

 それでもゲーム進捗とNPCキャラクターの好感度で各種エンディングが見れるのが救いであり沼でもあったんだけど。

 仲間と絆を育むこともできるし、ヒロインと恋愛をすることもできる。

 在学中に金を稼いで大富豪になるエンディングや、変わったところではダンジョンの攻略ではなく生産職としてのスキルレベルを上げて職人エンドを見ることもできる。

 

 そんなふうに様々な遊び方を許容してくれるのが原作のダンジョン学園だった。

 とはいえもちろんベストエンドは100階層攻略エンドだ。

 実際かなり大変だけどね。

 

「とはいえそう言われても、じゃあ諦めますなんて言うやつはこの中には一人もいないだろう。だから私からは一つだ。お前たちが3年後、100階層を完全攻略していることを期待する。わかったか」

「はい!」

「よし。それじゃああとは細かい説明をしたら今日の授業は終わりだ。明日からは実際にダンジョンに入るから、各自準備をしておくように」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「では授業は以上。解散」

 

 初日の授業というかガイダンスが終わり、クラスメイトは席を立ち始める。

 隣の席と話し始める人、既に知り合いがいて集まっている人、そのまま帰ろうとする人、行動は様々だ。

 

 クラスを観察すると半分くらいは原作キャラなので、当然彼ら彼女らの性格はわかるし行動も予想できる。

 目の前でゲームのキャラが動いているっているのも不思議な感じだけどそのうち慣れるかな。

 あと原作で好きだったキャラに会えるっていうのは楽しみではある。

 

 もう半分は非原作キャラである意味こっちの方が今は観察のし甲斐があるけど。

 なんと言っても前提知識がない分、攻略の力強い味方になるかもしれないし手強いライバルになるかもしれない。

 ああでも、クラスメイトが味方になることはないかな。

 

 ともあれ、ずっとここで一人でいてもしょうがない。

 学校内の施設見学でもしてこようかな、と考えながら席を立つ。

 そういえば、原作だとここでメインヒロインとのイベントが起こるんだよなあ。

 なんて思うと同時に、声が響く。

 

「いったあ、なにするのよ!」

「わっ、ごめん!」

 

 声が聞こえた方に視線を向けると、尻もちをついた女生徒が一人。

 ぶつかられた男子が視線を向けると、そこには女生徒の下着が……。

 

「なに見てるのよ!」

 

 そんなお約束を見ながら、何度も繰り返した原作と視点が違うことに少しだけ違和感を覚える。

 

 ぶつかった赤い髪の女子がメインヒロインの一人。

 そして男の方がこのゲームの主人公だ。

 

 俺? 俺はサブキャラだよ。

 

 

 

 ジャック。

 今の自分の名前で、原作ゲームでは数百いる仲間キャラクターの一人だ。

 得意な武器は特に無し。

 苦手な武器も特に無し。

 

 なんなら魔法や生産職にも得意や苦手を持たないという、全キャラクターの中でも唯一の特徴を持つ。

 苦手がないと言えば聞こえはいいかもしれないが、このゲームの中ではそこはほとんどメリットにはならない。

 

 想像してみてほしい。

 数百のキャラクターから好きなキャラクターを選んで仲間にできるとき、剣キャラが欲しければ剣が得意なキャラクターを選んで仲間にするだろう。

 魔法アタッカーやタンク、ヒーラーを選ぶときでもその理屈は同じだ。

 

 なんなら最初の質問者・サイモンくんのような一応得意武器を持つキャラでも、短剣適正持ちでの採用順位は片手の指の数からはこぼれ落ちる。

 そして1パーティーが4人編成のこのゲームでは、そのランクのキャラにお呼びがかかることはほとんどない。

 

 ジャックというこのキャラクターには苦手がないという一応のメリットよりも、得意がないという強烈なデメリットの方がのしかかるのだ。

 なので原作プレイヤーからの通称は『無能貧乏』。

 一周まわってその特徴の無さがネタにされるくらいのキャラ。

 

 まあ個人的には、自キャラにしろと言われたら優先ではないけど論外でもないかな、くらいの立ち位置ではあるんだけど。

 ちなみに誰でも選べるなら一番選びたいのは女キャラになるから、ある意味ではよかったかもしれない。

 

 でも転生させられるなら事情の説明くらいは欲しかったなあ!と言いたかった。

 言う相手もいないんだけどね。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 授業が終わり放課後、寮の自室にて一人考える。

 ここは21世紀の日本で遊んだゲームの世界。

 世界観は中世ファンタジーで、剣と魔法がある世界。

 当然スマホやネットはないよ、悲しいね。

 

 前世ではコントローラーを握りながら、テレビに向かって何百時間も遊んだゲームの中だ。

 と言っても自分はオンライン対人で連勝を重ねたりRTAで記録を出したりするようなゲーム激上手プレイヤーではなく、ただ好きで遊んでた平凡プレイヤー。

 なんでそんな俺がこの世界に引っ張り込まれたのかといえば……、なんでだろうね?

 

 というか死んだ記憶もなく、目が覚めたら入学目前のこの世界だったんだけど本当になんなんですかね?

 頬を叩いてみても目が覚める気配はないので、受け入れるしかないんだけれど。

 

 ゲームの内容は授業でも習ったように、ダンジョンを攻略して三年間を過ごすこと。

 その内容によってエンディングが分岐する。

 目指すのはやっぱりベストエンドかな。

 

 ベストエンディング中にあるイベントで、もしかしたらっていうのがあるんだよね。

 誰が俺をこの世界に呼んだのかは知らないけれど、原作のようにゲームを攻略することを望んでいると推定して今は動く。

 ゲーム内容が三年間なんだし、それが終われば何が起こるんじゃないかと予想して今はその流れに沿っていく予定だ。

 

 もし卒業しても何も起こらなかったら……、それはその時考えよう。

 まあこれも授業で聞いた通り、学校で好成績を残せば卒業後の生活の心配もないらしいしね。

 主人公の頑張り次第で世界の危機、なんてことになったりもしないからそういう点では安心ではある。

 

 あと原作メインヒロインとは基本的にそういう関係にはならない方針というのは決めておきたいかな。

 DLC込みで15人のヒロインがいるんだけど、主人公じゃないのにその娘たちと好い仲になるのは心苦しい。

 原作を好きで遊んでいた身としては、原作ヒロインが主人公以外とくっついているのをあまり見たくないという気持ちがあります。

 結局主人公と個別エンディングを迎えられるヒロインは一人しかいないという事実は……、他人の人生なので傍観しよう。

 

 今わかってる範囲で決められる行動方針はこんなものかな。

 やるべきことも調べるも沢山あるけれど、それはまた明日以降。

 

 それじゃあまあそういうことで、明日の実習に備えて今は寝ます。

 おやすみ。

 

 スヤァ……。

 




≪以下読まなくても問題ない設定集≫

ダンジョン学園(ゲーム)
2015年に発売されたシングルプレイ用(※1)アクションRPG。
売上は29万本(国内)。対象年齢15歳以上対象。
剣と魔法の世界を舞台とした学園に15歳で入学した主人公が、365日×三年の学園生活を通してダンジョン100階層の完全踏破を目指す青春ファンタジー。
数百人の仲間キャラクターから最小1人〜最大4人のパーティーを組む事ができる。
そのキャラクター数の多さから、個々のキャラ付けの濃さと性能には結構な格差あり。
メインヒロインは10人+DLC追加5人。最大15股可能。
メインエンディングは22種類。100階層踏破でベストエンディング。
サブエンディングは56種類。メインヒロインと好感度を上げると見れる恋愛エンドはこちら。
他に各仲間キャラクターの条件を達成すると見れる卒業後のキャラエピソードがある。
メインエンディング1種類と各サブエンディング、キャラエピソードはそれぞれ同時に達成可能。(ただしメインヒロインエンド同士は同時達成不可)

ダンジョンの各階層は一つのフィールドとしてシームレスで広がっており、モンスターを倒しながら進んでいく。
戦闘システムは通常攻撃とスキル攻撃、ガードと回避で戦う。
武器の選択で、敵の攻撃を集めるタンク、攻撃をするアタッカー、回復を担うヒーラーのそれぞれに向いたスキル構成がある。
各ロールを揃えてパーティーを組むとバランスが良いが、いなくても攻略は可能。
原作はキャラクターの背後にカメラがあるTPS視点で、壁を背にすると荒ぶるクソカメラとして有名。

※1.アップデートで他のプレイヤーと対戦できる闘技場が追加された。
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