ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
装備売れまくりでウハウハ。
肉うめえ。


011.ボス戦(ソロ(ソロじゃない))

「さて、今日は10階層の話をするぞ。ランキングを確認しているものなら既知だろうが、学年のトップが10階層に到達した。ここまでは順当にレベルを上げてマップを埋めれば進めてこれただろうが、ここからは話が異なるぞ」

 

 脅すような担任のスカーレット先生の言葉に、クラスメイトの雰囲気が引き締まるのがわかった。

 

「とはいえ既に予習している者もいるだろう。フレイヤ、10階層がそれ以前の階層とどう異なるかわかるか?」

 

 指名されたのはフレイヤ様。

 原作メインヒロインの一人だ。

 なぜ彼女が選ばれたのかといえば、このクラスで一番攻略が進んでるパーティーの一人だからだろう。

 あと貴族出身で成績も良いはずだし。

 

「はい、10階層には通常のフィールドマップの他に、ボスマップが存在します」

「正解。フレイヤの言った通り10の倍数の階層には階層主、通称ボスが存在する。マップの構成は9階層以前と同じ広いフィールドを進むと転移陣があり、その転移陣の先は次の階層ではなくボスマップが待っている」

 

 このボスマップはそこまで広くなく、逃げ場無しの戦闘になるので必然的に避けて進むことは不可能だ。

 

「一度入ったボスマップを出る方法は二つ、ボスを倒すか、全滅による強制脱出を受けるかだ。当然全滅によるペナルティは存在する。こう聞けば難易度の高さがわかるだろう」

 

 要するにアクションゲームの癖に撤退不可能で、失敗したら強制で五日間のダンジョン攻略禁止になるという鬼畜仕様だ。

 

「なおボスマップに入る前に転移陣が設置された空間があり、そこに一度到達すれば直接転移できるぞ。10階層のフィールド攻略からやり直さなくて済む温情設計だな」

 

 正直それで相殺できないほど鬼畜仕様だろ、と思うわけだがその嫌らしさをまだ実感していないクラスメイトたちにはピンときていないようだ。

 というかアクションゲーム激ウマプレイヤー以外は普通に10階層でも死ぬような設計なのに、ゲーム内のキャラのトップ層は普通に一発で抜けるんだから現実になってみるとすげえってなるよね。

 

「先生、10階層の階層主はどういったモンスターなんですか?」

 

 アレックスの質問にスカーレット先生が答える。

 

「名前はゴールドライオン。名前の通りライオンだな。特徴はその大きさ。体高はおよそ2メートル、全長は3メートル。高さで言ったら私より頭一つ分ほどデカいな。実際に目の前にすると想像よりかなりデカく感じるぞ。ビビるなよ」

 

 ゲームのキャラの背後カメラ視点だとそうでもなかったけど、実際に見るとかなりデカいはずなのでちゃんと戦えるか若干不安ではある。

 現実のヒグマよりずっとデカいの常識的に考えてやばいでしょ。

 

「攻撃は正面に噛みつき、突進。横にも体当たり、後ろには尻尾による叩きつけと蹴り、他にもジャンプからの押しつぶしなどの攻撃があるぞ。噛みつき、突進、体当たりは5階層から出てくるライオン・ハンターと同じ攻撃だな。大盾を持っていても正面で受けきるには限度があるからな、適正レベルでもある程度横に躱せないとタンクをやるのは難しいぞ」

「はーい」

 

 このゲームで一番攻撃を受けるのに適している大盾でも突進はノックバック、気力が減っていればそのまま吹き飛ばされることもある。

 小盾ではガードを構えてもそのまま交通事故みたいになるぞ。

 

「そしてもう一つの特徴だが、ゴールドライオンは子分のライオン・ハンターを二匹従えている。こいつらのHPはそこまで高くないが、同時に攻撃してくるから脅威になるぞ」

 

 アクションゲームでも複数ボスは鬼門なのに最初のボス部屋からやるのやめろとネットで何度言われたかわからない仕様である。

 まあボスと雑魚なんだけど、それでもキツイのは変わらない。犬のデーモンは許すな。

 

 まあ原作はソロ攻略じゃなくてNPCとパーティー組めたから分担すれば楽にはなるんだけど、それでも走り回るからなあ、あのライオン。

 

「理想はタンクがボスを引き受けている間に他のメンバーで雑魚を倒すことだな。ヒーラーを除いて近接アタッカー2なら雑魚を1体ずつ受け持てば対応しやすいが、遠距離アタッカーや魔法アタッカーがいると雑魚2体の受け持ちが難しくなる。挑むときはちゃんとパーティー内で分担を決めておくように」

 

 担任の言葉に遠距離アタッカー組が嫌そうな声を上げる。

 まあ雑魚さえ抜けたら遠距離アタッカーの方が火力出しやすいんだけどね。

 

「ともあれ、ここを問題なくクリアできるかがその後の分水嶺になる、しっかりと準備をして挑むように。お前たちの成長に期待しているぞ」

「はい!」

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 なんて授業を受けたのが一週間ほど前。

 入学からおよそ四週間が経って、今日は四月の末日。

 俺の攻略階層は10に到達していた。

 

 レベルは刀スキルが10。

 おおよそ階層数=スキルレベルが適正なので、10階層攻略するには問題ない数字。

 とはいえまだボスは未攻略なので、ハードルの一つを越えられてはいない。

 

 同学年の最高到達階層は12、そして学年ランキングも11階層到達者で名前が埋まったところ。

 

「そういうわけでみんなに集まってもらったわけだけど」

 

 ギルドハウスの中、俺の前にはメンバーの三人がテーブルを囲んで座っている。

 

「今日は10階層を攻略しに行くよ」

「がんばってくださぁい」

 

 見送る姿勢のケミーの言葉を訂正する。

 

「いや、三人も一緒に行くよ。なんのために今日の予定入れてないと思ってるの」

「えぇ? 普通に休みだと思ってましたよぉ……」

「10階層ですか? 助っ人を呼んで私たちを一人ずつ攻略させていく形でしょうか?」

 

 そんなクローネの疑問は、常識で考えれば至極真っ当な理屈に基づいた予想ではある。

 客観的には『俺+助っ人二人+クローネたちをひとりずつ』で攻略するのが一番安牌な方法だろう。

 めんどくさいからやらないけどね。

 

「俺がひとりで全部倒すから、三人同時で大丈夫」

 

 もっとシンプルな『俺+クローネ+ケミー+シャオ』という形だ。

 これからボスを倒すのは一回で済むし、経験値もギルドメンバーで分配出来るから効率的。

 

「ボスからは逃げられないと聞いておるが、大丈夫なのかの」

 

 ボスを実質初見ソロ攻略なんて他人以外が言ってるのを聞いたら俺でも正気を疑う。

 そもそも初見ソロなんてリスクを負う必要がないからね、それがリスクにならないくらい安定性が保証されているならともかく。

 

「俺の完璧なデータでは、成功率は99%」

「それ失敗するやつじゃないかのう……」

「大丈夫だって、大船に乗った気で任せて」

「まあ、ジャックさんがそういうのでしたら」

 

「あっ、もし失敗したら5日間はダンジョンに入れなくなるから予定があったら先に教えてね」

 

 もし万が一失敗したとして、他のメンバーにダンジョンに入る予定があるなら普通に困る。

 

「台無しですよぉ……」

 

 なんてケミーの言葉はスルーして、俺たちは全員でギルドハウスを出た。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 以前から定期的にケミーたちの階層更新はしていたので、サクッと全員で10階層に移動。

 10階層はボス前にも転移陣があるのでひとまずそこを目指す。

 

「それじゃあ俺が先導するからついてきて」

 

 そのまま東北東の方角へまっすぐ歩き始める。

 三人は雑魚相手なら一応戦力としても数えられなくはないけれど、わざわざ煮詰めてない連携をするよりは俺が一人で狩ったほうが楽なので今日はワンオペ進行だ。

 

「『居合』」

 

 接敵一発目の攻撃を居合でパリィし、そのまま斬る。

 パリィのカウンターダメージにスキルを重ねると適正レベルの階層でもサクサクだ。

 まあ武器が実質一段上の性能なのと、まだ低階層だからって理由もあるんだけど。

 

 これが後半終盤の階層になると雑魚もどんどんタフになってくるので倒すのに時間がかかるようになってくるのが、ゲームの攻略進行度の鈍化の原因の一つ。

 実質10階層クリアしてボスを倒す一区切りまでが、第二のチュートリアルみたいな感じだからここまでは本当に順調に進むんだよね。

 

「ジャックさんはぁ、動きがすごいですねぇ。ほかの戦闘科の人たちもこんなに速く敵を倒せるんですかぁ?」

「そうだね、戦闘科ならこれくらいみんなできると思うよ」

 

「嘘ですよね。騙されてはだめですよ、ケミーさん。話を聞く限り他の戦闘科の生徒はこんな速度でマップ攻略しませんから」

「そ、そうなんですかぁ?」

 

「まあみんなできるはちょっと言い過ぎたかも。でも学年のトップ層はこれくらいできるんじゃないかな」

「つまりジャックは自認学年トップと同レベルなんじゃの」

「そう言うととても恥ずかしい奴みたいに聞こえるからやめてほしいかなあ!?」

 

 なんて話をしつつ、しばらく歩くと転移陣が見えた。

 

「転移:階層主前」

 

 指定するとさっと視界が切り替わり別の空間に飛ばされる。

 移動した先にあるのは狭く区切られた空間と、帰還用の転移陣。

 そして更に先には一方通行の透明な区切りをすり抜けてボスの待つエリアだ。

 

「それじゃボスフロアに入ったら、そのまま打ち合わせ通りによろしく」

 

 後ろを見て確認すると、三人とも真剣な顔で頷いた。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 生産課一年の付与術師、クローネは視線の先で戦っている戦闘科一年、ジャックの姿を離れたところから見ている。

 同じ生産職のケミーとシャオはクローネの隣、ボスエリアの入り口に立っていて、奥で戦っているのはジャック一人だけ。

 

 敵は成人男性を超える体高を持つゴールドライオンと、自分の肩くらいの高さのライオン・ハンターだ。

 前者はおよそ2メートル、後者は1.5メートルほど。

 

 知識としては知っていたが、クローネからみた実物はその数字よりもずっと大きく強そうに見えた。

 そもそも生産科はモンスターと戦う学科ではないので、威圧されるのも無理がない話ではあるが。

 

「『居合』」

 

 階層主とその取り巻きを相手に一人で立ち回るジャックの姿を見て、クローネが思い浮かべる一番の感情はやはり驚きだろう。

 彼女は戦闘科の生徒ではなく、ダンジョン攻略に対して詳しい知識はないが、それでも目の前の光景が異常だということははっきりとわかった。

 

 通常四人パーティーを組んで攻略するべきダンジョンを、ジャックは一対一で攻略している。

 取り巻きを含めれば一対三、通常とは逆転した数的優位を感じさせることなく立ち回る姿は自然に見えるだけになおさらおかしさが際立つ。

 

『居合』はモンスターの攻撃の多くを無効化するが、それが可能なのは一対一の話。

 人数不利によって発生する居合だけでは解決できない状況を、ジャックは当然のように躱していた。

 

 取り巻きのライオン・ハンターの片方の攻撃を一歩下がって躱し、もう一体のライオン・ハンターの攻撃を居合で弾いて追撃を加える。

 ボスのゴールドライオンの巨体の横に入り、ライオン・ハンターの攻撃を防ぐ壁としつつ的確に攻撃を加えていく。

 

 クローネと他の二人には認識できていない事項だが、ジャックは攻撃を躱す前からモンスターとの距離と立ち位置を調整して、自分に都合の良い攻撃を誘っていた。

 これは初見のボスではとても不可能な芸当であったが、彼の原作知識がそれを可能にしている。

 

「こうやって見ていると、本当にすごいのう」

「ええ……」

「まるで攻撃が全部見えてるみたいですぅ」

 

 クローネと、ケミーとシャオ。

 一緒に階層主のいるフィールドに入った三人は最初に立っていた場所から一度も動いていない。

 最初にジャックにそこから動かなくていいと指定されたときは、三人で火力の支援をしたほうが良いのではと合理的な思考をしたクローネだが、今はそんな考えも失せていた。

 

「すごい……」

 

 居合によるカウンター、紙一重の回避、数の不利を感じさせない立ち回り、まるで未来が見えているかのような動きは圧巻のひと言。

 

 クローネはジャックに仕事を依頼され、一緒にギルドへと誘われた時に宣言した言葉を思い出す。

 

『報酬として生産職のレベル80を保証する』。

 

 ただそれだけ聞けば妄言にしか思えない言葉だ。

 戦闘科の生徒が三年生のトップ層でさえ、70階層を越えた辺りで時点で卒業していくように、生産職のレベル80も卒業時点で辿り着ける者が数年、あるいは十数年に一人いるかといった困難な領域。

 その困難を達成する手段の一つとして提示されたのが付与合成による商売的なアドバンテージ。

 

 制作したものが高値で確実に売れる、それだけで生産職のレベリングとしてはいくらでも作る物に困らないという大きすぎるメリットがある。

 作ればいくらでも売れる、売れるからいくらでも作れる、そのサイクルで無制限にレベルを上げられる生産職はこの学園でもほんの一握り。

 それを可能にするギルドに加入するには十分なメリットだ。

 

 ただそれ以外にもう一つ、レベルを上げるには必要な条件がある。

 それは、『高レベルの装備を生産できる状況である』こと。

 戦闘職が自身より低レベルのモンスターを倒しても十分な経験値を得られないように、生産職も十分なレベリングを求めるなら自身のレベルと等しいランクの装備を生産することが要求される。

 

 そのために必要なのはより高レベルの素材、そしてそこに到達できる戦闘職だ。

 生産職のレベル80を目指すなら、最低でも60階層の素材、可能なら70階層の素材でアイテムを製作するのが望ましく、戦闘職がその階層に到達できなければならない。

 そんな条件ながらも卒業前に到達階層が70階層を超える学生はほんの一握りという前提。

 

 常識的に考えれば非常に困難、ほぼ不可能と言ってもいい。

 目の前で戦う彼は、そんな前提を覆せると行動で示すように、余裕をもって悠然とボスと戦っていた。

 

 既に取り巻きの二体の姿はなく、ゴールドライオンの巨体から繰り出される全ての攻撃を一歩も動くことなく居合で完封していく。

 本来なら獣型のモンスターは、もっと大きく動き回るものなのだが、ジャックは目の前に立ち無効化することで動かない、動かせない。

 傍から見れば子供を相手に遊んでいるかのような余裕さは、逆におかしさを際立たせる。

 

 もしかしたら本当にレベル80は『下限として保証するライン』であり、ジャック自身はそれ以上を当然見据えているのかもしれないと、クローネがそんなことまで考えてしまう戦いぶりだった。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

「『縦一文字』」

 

 ジャックが最後にスキルを放つと、ゴールドライオンはバタンと倒れ伏して消滅する。

 残ったのはドロップアイテム。

 結局ジャックがダメージを受けることは一度もなく、討伐は終了した。

 

「倒すまで20分かー」

 

 その結果に満足していないように彼が呟く。

 

「実質ソロなことを考えれば相当な速度でしょう?」

「そうだね」

 

 噛み付きを避けずに弾いてそのまま攻撃、突進で走り回るのを初動で弾いて時短して攻撃、回復する必要もなく攻撃。

 20分という時間は居合で相手の攻撃を封殺して、モンスターと攻撃のターンを交互に交代していくという前提を拒否して一方的に攻撃し続けた結果だ。

 ソロでこの時間というのは驚異的、既に四人パーティーで攻略済みの同級生たちは沢山いるが、その大半より戦闘時間は短いだろう。

 

「あ、あたしレベル上がりましたぁ」

「ジャックー、落ちたアイテムで装備作ってもいいかのー?」

「いいよー」

 

 そんな掛け合いからドロップアイテムを確認しに行くケミーとシャオの背中を見ながら、クローネはジャックに話しかける。

 

「ジャックさんは凄いですね」

「そうかな、そうでもないと思うけど」

 

 彼女の素直な称賛に、返ってきたのは無味乾燥な返事。

 照れでも謙遜でもなく、事実を確認しただけの反応はクローネの予想外のものだった。

 

(嫌というわけではなさそうですが、それでも喜んでいるというわけでもなさそうですね……)

 

 少なくとも、ボス初討伐を成し遂げたといった反応ではない。

 まるで出来て当たり前というような反応。

 

 付与合成に今回の戦闘、おそらくジャックには常識では測れない何かが存在するのだろうということは明らかだ。

 とはいえそれは詮索されたくない事情だろという空気は感じていたし、わざわざ聞く必要のないことを知ろうとするほど好奇心に囚われてはいない。

 

(少なくとも今は、ジャックさんが信用に値する人というだけで十分でしょう)

 

 これまでの実績に加えて、実証を提示して予定を立てていく姿勢はクローネにとって好ましいものだった。

 ともあれ今回のボス討伐は、これ以上何が出てきても驚かないのではないか、と思えるくらいには驚きを生む体験だ。

 

「じゃあ一回外に出たら、またボスを倒そうか」

「え?」

「夕食までにまだ時間あるし、今から10周くらいしたら全員レベル上がるんじゃないかな」

「えぇ……?」

 

 そんな想像は早々に覆されることになるのだが。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 夕食を終えて、男子寮に戻る。

 結局ボスは9周して全員のレベルが11まで上がった所で満足した。

 

「流石に疲れたかなー」

 

 生産職はレベル11になると11階層以降の素材を使ったランク2装備を製作できるようになるのでまた効率的な生産計画が立てられる。

 ランク2刀装備の上鉄刀に付与合成した特殊効果【Ⅲ】を揃えると、今の武器より2割以上火力が上がるから世界が変わるぞ。

 

 戦闘面は今のところ順調だし、ランク2装備への付与も成功すればこの先の不安はひとまず無くなるだろう。

 まあそもそも100階層を目指すのが正解とは確定していないんどけど……。

 

 今のところそれ以外に思いつくことがないし、やらない理由もないからやるんだけどさ。

 あとシンプルに好きなゲームの中で自由に遊べるっていうのも悪くないんだけど。

 

 なんて思いながら、世界観に合ったアナログな鍵を取り出して自室の扉を開ける。

 

 そのまま部屋の明かりをつける前に……、机の上に封筒が置かれているのに気付いた。

 

 普段は学習やこれからの予定をまとめるために使っているその机は、出かける前に綺麗に片づけておいたのを覚えている。

 メモ書きの中には原作知識に寄るものもあるので、紙の扱いには気を付けているから間違えようがない。

 

 そもそも、置かれた封筒自体が見覚えのないものだし。

 学外から届いた郵便が部屋に配達された、なんてことも当然ありえない。

 

 郵便物は寮の管理人のところで止まるし、施錠済みの自室に人が勝手に入るようなこともないからだ。

 もし鍵を開けずに封筒をドアの下の隙間から部屋に滑り込ませたのなら、それは机の上ではなく床に落ちているはずだけど……。

 

 部屋が施錠されていたのはさっき自分自身で解錠して確認したのだから間違いない。

 つまりこの封筒の差出人は、俺の部屋の鍵を持っている人間か、部屋の鍵をピッキングして入るような人間か、そもそも鍵など無視できるような『存在』か。

 

「どっちにしろか」

 

 どれも心当たりはない。

 ならこのまま立ち尽くしていても話は進まないので、諦めて封筒を手に取る。

 軽く曲げてみるが中にカミソリが入っている様子もなく、普通の紙以外は何もなさそうな手ごたえ。

 

 裏を確認すると封筒は封がされておらず、そのまま中の手紙を取り出せた。

 便箋は結構しっかりした紙で、二つ折りにされているそれを開く。

 

 

 

 

 

『お前を見ているぞ』

 

 

 

 

 

 書かれているのは短くその一文だけ。

 それに添えられて、墨で捺された右手の手形がクッキリと写っている。

 

「……………………、ふっ、ふふふっ……」

 

 思わずこぼれた笑いが一人だけの部屋に響く。

 

 これだけ見たら完全にホラーな演出だけど、前提知識があると話が変わってくるからだ。

 まずこの手紙がそのまま21世紀の日本で販売されていたゲームのオマージュ。

 

 ついでに言えば元ネタの正しい文は『お前を見ている』であって『ぞ』は余計。

『お前を見ているぞ』また別のノベルゲームで使われていた文章だ。

 

 つまりこれの差出人は元ネタをうろ覚えでそのまま書くおっちょこちょいか、RPGオタク兼ノベルゲームのネタを混ぜる愉快なオタクという生き物になる。

 

 ならこの手紙を送ってきたのはどういう人物だろうか。

 こちらを一方的に認知している、同じ日本からの転生者?

 それならわざわざこんな脅迫に見える文面で手紙を送ってくる理由がないし、もし敵対するつもりならそもそも存在を知らせてくる時点でアドバンテージを自ら捨てているので考えづらい。

 

 寮の部屋に忍び込んでわざわざ机の上に手紙を置くのも不要なリスクだしな。

 

 だからこれは別の可能性。

『そもそもこの世界に俺を連れてきた何者かが、悪ふざけと戯れで置いていったもの』だ。

 俺がこの文面を見て笑い出すところまで予想していたなら、随分俺のことをよく見てくれているらしい。

 

 随分オタク文化に明るい神様(仮)じゃねーの。

 と思ったけどそもそもゲームの世界に人のことぶち込む奴だもんな。

 しかも原作自体人気はあるしそこそこは売れたけど、トップのメジャータイトルと比べると一段も二段も下がるような売り上げの作品だし。

 

 なんかそう考えるとちょっと親近感すら湧いてきた。

 本人の了承なくこの世界にポイ捨てしたのは絶対に許さないけどね。

 わりとゲーム世界で攻略するの楽しんでるけどそれはそれ、これはこれ。

 

 何が目的かは知らないけれど、世界観的に俺がいなきゃ困るようなシナリオが発生するようなゲームでもないし。

 どうせ暇つぶしにこっちを眺めて楽しんでるとかそんなしょーもない理由だろう。

 どちらにしても、なんで俺がこの世界に連れてこられて、どうすれば元の世界に戻れるかを問いただせるチャンスだ。

 

 改めて手紙を観察して、手形を自分の右手と比べてみると関節一個分くらい手が小さい。

 これはおそらく女子のもの。

 指先の指紋までしっかりと確認でき、実際に人の手を見ればこれと同じかどうか答え合わせができるだろう。

 

 つまりこの手形、この指紋と一致する人物を探し出せば、そいつが高確率で元の世界に帰る有力な手掛かりだ。

 ていうか、探してみろってわざと指紋付きで残してったんだろうな。

 ある意味で挑戦状だ。

 

「やることが増えたなあ」

 

 まあでも100階層を攻略するという目的と、この手紙の差出人を探すっていう目的は両方並行して進められるし問題はない。

 むしろこの、ヒントを出して捕まえてみろと言わんばかりの『犯人』を、探すのはちょっと楽しい気分になってきた。

 

 この世界にそこまで不満があるわけではないけれど、それでもここに連れて来られた事情は問いただしたいし、元の世界に即戻るかどうかはともかく、戻れるのかどうかは知っておきたい。

 どちらにしても、明日からまた忙しくなりそうだ。

 

 それじゃあまあそういうことで、明日からの活動に備えて今は寝ます。

 おやすみ。

 

 

 スヤァ……。

 




*ここまで読んでいただきありがとうございます。
評価、感想、誤字報告、とても感謝しています。
011話で第一章は終わりですが、これからもお話は続いていきますのでよければお楽しみください。
あとストックが尽きたので少し連載ペースが落ちますがお許しください。


・モンスター図鑑
名前:ゴールドライオン
種族:獣種
HP:10400
物理属性:斬撃〇・打撃〇・刺突〇
魔法属性:火属性◎・氷属性△・雷属性〇・光属性△・闇属性〇
状態異常:火傷〇・凍傷△・感電〇・毒〇・睡眠◎・麻痺〇・沈黙×・混乱〇・石化×・即死△
攻撃:噛みつき・体当たり・引っかき・尻尾攻撃・後ろ蹴り・突進・咆哮・踏みつけ
弱点部位:頭部
部位破壊:爪・たてがみ
ドロップアイテム:大魔石【Ⅰ】(100%)・金獅子の皮(25%)・金獅子の骨(15%)・金獅子の牙(10%)・金獅子の爪(部位破壊/爪)(20%)黄金のたてがみ(部位破壊/たてがみ)(10%)
宝箱(装備品):ライオンハート(2%)・金獅子の斧(2%)・ライオンフィスト(2%)・ライオンテール(2%)・金獅子大弓(2%)・金獅子の盾(2%)
解説:スタンダードな獣系モンスター。
近距離全方向に向けた攻撃を持ちしっかりとしたガード、回避が必要。
突進は一定距離を駆け抜けるので、後衛が轢かれないようにタンクは立ち位置を気をつけよう。
真後ろに回ると高確率で後ろ蹴りを行うので注意、逆にアタッカーがそれを誘発させて避けるとタンクは受けに余裕が出る。
咆哮で防御力ダウンを付与されると、後衛はレベルによって突進で即死するようになるので注意。
属性は火属性が有効。
状態異常は沈黙と石化以外は通るが、ボス補正で成功率は下がるので現実的に有効なのは睡眠のみで他はイマイチ。
即死はHP25%までは無効、25%未満にしても低確率なので狙うのは難しい。
ドロップアイテムは各種装備製作に使用できる。
直ドロップ装備はこれにしか付かない固有の特殊効果があり優秀なので装備できるならぜひ手に入れたいところ。
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