ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
ギルドに女の子(裁縫師と彫金師)が増えました。
「全員席につけー。授業始めるぞー」
今日もスカーレット先生が教壇に立つとクラスがシンと静かになる。
「今日はヘイトについて授業するぞ。雑魚戦もだが、ボス戦では特に重要になるのでしっかり聞くように」
「はい」
「よろしい。それではヘイトについてだが、敵視と呼ばれることもあるな。簡単に言ってしまえば敵にどれだけ狙われているかを示す言葉だ。これは通常モンスターに攻撃を加えるなどの行動で上昇する。敵からのヘイトを大きく上げるスキルも存在するぞ。アレックス、なんだか分かるか?」
「はい、挑発です」
「正解だ。この挑発というのは近接職の多くが共通して使用できるスキルで、敵からのヘイトを大きく集めることができる。ただ注意が必要なのはこれを使えば常にヘイト1位になれるわけではないということだな。先にアタッカーが大きくダメージを稼いでいれば一度では自身にターゲットを向けさせることができないこともある」
実際に一発で1位になれたら随分楽になるんだけどね。
仕様だからしょうがない。
「このヘイトを集めて敵の攻撃を受け持つ役割の者のことをタンクと言うぞ。基本的には盾、それも中盾以上の盾を持つものが担うことが多いな。タンクが敵の攻撃を集めることでヒーラーの回復が容易になり、アタッカーが安全に攻撃をできるようになる」
ここが崩れるとパーティー全滅が見えてくるので、タンクの役割は重要だ。
同時に責任も重大なんだけど。
「この時注意が必要なのは、ヘイトを管理するのが必要なのはタンクだけではないということだな。タンクは防御主体になる分、ヘイトの上昇はアタッカーより低くなる。そこで必要なのが挑発なわけだが、当然これも使用するには一手かかる上に、SPと気力もその分消費する。よって理想は味方がタンクのヘイトを追い抜かない程度に維持しながら自身も攻撃を加えることになるが、アタッカーが考えなしに火力を出せばそれを追い抜いてしまうことがある」
まあアタッカーが火力を出せなければ本末転倒ではあるんだけど、それでもSPと気力の消費配分を平坦にして瞬間的に火力を出し過ぎない、みたいな工夫はできる。
もしくは火力出すタイミングをパーティー内で打ち合わせしておくとかね。
「アタッカーはダメージを出した分だけヘイトが上昇するが、ヒーラーはまた少し話が異なる。ヒーラーのヒールはその回復量が一定でも、回復を受ける相手のヘイト値によって自身のヘイト値の上昇量が変わるぞ。具体的に言えば挑発を使ったタンクを回復する方が、攻撃していないアタッカーを回復するより大きくヘイトが上がるという形だな」
要するによりヘイトを多く集めているメンバーを回復すると、ヒーラーのヘイトも比例して大きく上昇する。
ちなみに味方にかける補助魔法も同じ仕組みでヘイトが上がるぞ。
まあ回復と補助だとまたヘイトの計算式は若干異なるんだけど。
「さて、ここまではヘイトが上がる仕組みを説明したが、同時にヘイトが下がっていく要因がある。一番は敵の攻撃のターゲットとなることだな。この時に注意が必要なのは、ターゲットとなることと攻撃を受けることはイコールではないということだ。モンスターに攻撃されてそれを避けることでもヘイトは減少する。なのでパーティーメンバー全員が一切ヘイトが上昇する行動をしていなくとも、攻撃を避け続けたタンクからアタッカーへとヘイト1位が入れ替わり攻撃される、ということもあるので注意しろ」
ただしこのヘイト減少はこちらの攻撃によるヘイト上昇よりも数値の変動が抑えめなので、これ自体を戦闘中にそこまで気にする必要はあまりない。
タンクがちゃんとヘイト取ってる前提だけど。
「せんせー! 自分が今どれくらいヘイトを稼いでいるか分かる方法はないんですか?」
「ない」
「えー」
「とはいえ戦闘に慣れてくれば、ある程度はこれ以上攻撃をすれば自分に攻撃が来るかもしれないと感覚で分かるようになるだろう。加えて言えば、自身に攻撃が来ても問題なく対応できる場合ならヘイト1位を取ったとしても問題にはならない場合もある。逆に自分がもし攻撃を食らったらパーティーが危険になる、といった場面なら攻撃の手を止めることも有効だ」
とはいえヘイト1位が入れ替わってモンスターの向いてる方向がくるくるするとアタッカーとしても殴りづらかったりするので可能ならタンクが固定できるならそれに越したことはない。
逆にタンクのHPが危ない時にわざとヘイトをアタッカーが溢れさせて回復する時間を稼ぐ、なんて技術もあるけど。
「今すぐ全てを理解するのは難しいだろう。ただこれまでにパーティーを組んで感覚として理解しているものは多いはずだ。今回の授業で説明した内容を思い出せば、その感覚に理屈が伴いより実践的な立ち回りができるぞ。全員、今日の話を忘れずに探索に励むように」
「はい!」
☆★☆★☆
今日は五月の第一週。
学年一位の到達階層が14、俺も11まで攻略を進めている。
「ジャックくん」
教室で、話しかけてきたのはアクアさん。
「おはよう、アクアさん」
「もう放課後だよ?」
放課後といってもまだ昼過ぎだからおはようでいいと思う。(元夜行性脳)
健康的な生活を送っている今でも、夜になると心が落ち着くから不思議だね。
「それでね、ジャックくん。よかったら今日も一緒に探索行かない?」
「大丈夫だよ。今日も10階層でレベル上げする?」
「ううん。今日はボスに行きたいんだけど、どうかな……?」
ふむ。
俺はもう10階層を越えているんだけど、それは彼女には秘密にしている。
アクアさんに隠し事を増やすのは心苦しい気持ちはあるけど、誰と攻略したのか聞かれたら困るからね。
幸い個人の到達階層は学年ランキング以外では他の学生にはバレないようになっているし。
ということで俺はソロでもボスを倒せるから全然問題ないんだけど、流石に動きを自重するならもう一人はメンバーが欲しいな。
「それなら誰か誘おうか。タンクかアタッカーでもう一人くらいほしいかな」
「じゃあルビーちゃんに聞いてみるね」
ということでまだ教室に残っていたルビーさんと合流。
「ジャックは10階層まだ攻略してないの?」
「まだだね」
嘘だけど。
「そういうルビーさんは?」
「あたしもまだ。でもレベルは10になったし丁度いいかな」
「じゃあそういうことで。アクアさんもいい?」
「うん」
「ちなみにもう一人誘う?」
「どうしよっか」
三人の合意が取れたところで面子は揃ったので早速ダンジョンに向かう前にもう一人誘うか確認。
ボスは素早く倒せればそれだけ全滅の危険性が減るので、基本的に人数が増えるのはメリットだ。
一応人が増えるデメリットがないわけでもないんだけど……、なんて考えていると後ろから声をかけられる。
「ねえ、あたしも一緒に行っていい?」
話しかけられたのは三人の輪の外側から。
そちらに視線を向けると、クラスメイトの一人が笑顔でこちらを見ていた。
「フィスちゃん?」
「フィスってまだ10階層クリアしてなかったんだ」
彼女の名前はフィス。
前述の通りクラスメイトだ。
メイン適性は拳武器。
性能はかなり優秀なので、そういう点ではパーティーメンバーに加えても問題はないと思われる。
なお俺は彼女とは話したことはない。
クラスメイトなのにって?
違うんですよ、これにはふかーい理由があるんですよ。
「ジャックくんは、どう?」
「ふたりがいいなら俺も問題ないよ」
ふかーーーーーい理由はあるんだけど、それでもこの流れで断るほどの理由ではないので了承。
他に異論もなく、この四人でボスに挑戦することが決まった。
「ありがとー! 今日はよろしくね!」
天真爛漫な笑顔でフィスさんに両手を握られる。
普段からモンスターを殴り倒しているとは思えないほどその手は柔らかかった。
「フィスちゃんっ」
「どうしたの、アクアちゃん?」
当の本人は分かってないような表情を浮かべるけれど、俺も男子の手を急に握るのはどうかと思うな。
嫌ではないけど。
嫌ではないけど……!
「はいはい、フィスはジャックの手を離して。早くダンジョンに行きましょ」
「そうだね! ボスを倒せるようにみんなでがんばろー!」
「おー」
アクアさんが若干納得のいかない顔をしている気がしつつも、なんだかんだで話はまとまってみんなでダンジョンへ向かう。
奔放に振る舞いながらも丸く収まるのは、フィスさんの人柄のおかげだろうか。
その明るさでクラスメイトからも人気があるし。
顔が良くてプロポーションもいいのも相まって、原作ファンからも非常に人気があるし。
俺も原作を遊んでた頃は嫌いじゃなかった。
今も嫌いじゃないけれど……。
唯一問題は、彼女は原作メインヒロインの一人だってことだ。
………………
…………
……
「んじゃボスに行く前にちょっと練習して行こうか」
「わかったー!」
流石に初めて組んだメンバーで直ボスは連携とかも含めて不安なので、雑魚で試していくことにする。
俺は多分初見でも合わせられるけど、初見で完璧に動き合わせてたらそれはそれで怪しいしね。
ということで降り立ったのは10階層の入り口。
ボス戦前の慣らしとしては適切な場所だ。
「とりあえずタンクは俺かな。唯一盾持ちだし」
「あたしは拳武器だからアタッカー」
「あたしも! 拳武器だからアタッカーやるね!」
「私は氷属性魔法と光属性魔法だから、回復しつつ余裕を見て攻撃するね」
ルビーさんとフィスさんで拳武器が被ってしまった。
近接三人だとボスを囲むときもわりと立ち位置がめんどくさかったりするんだけど、タンクの俺は正面固定だし二人にはうまく工夫してもらおう。
というかまたタンクかぁ。
タンクは戦線維持の要であり役割が重いのと、その上で完璧な動きをしすぎないように気を付けないといけないのがちょっとめんどくさいんだよね。
たまには気楽なアタッカーでもやりたいなぁ。
なんて考えながらも進んでいると、モンスターが現れる。
数は五体。
「モンスター発見。アクアさん、フィスさんにヒールしてくれる?」
「うん、ジャックくん。『ヒール』」
アクアさんがヒールをかけると、フィスさんのHPが上限を超えて回復する。
これは彼女のユニークスキルの効果。
パーティーを組むに際して全員自己紹介でユニークスキルは説明しているので、それを活かすための前準備だ。
「『挑発』。ふたりとも、別々の敵を狙ってね。アクアさんは一先ずSP温存で」
「了解!」
「わかった」
「わかった!」
俺がモンスターのヘイトを集めるとルビーさんとフィスさんが左右に分かれて回り込んでいく。
アクアさんは待機で俺の後ろ。
モンスターの種類は大きなカエルと泥の人形の二種類。
近接の二人が一体ずつ攻撃してヘイトを取るので残りは三体。
三人に勝つのは大変だけど、パーティーを組んでいるならアタッカーが処理してくれるまでひたすら防御に徹していればいいので難易度は下がる。
アクアさんも回復してくれるしね。
「『パリィ』」
もうこのエリアの雑魚も(こっちの世界に来てからという基準でも)見慣れたので、見切りやすい攻撃にはパリィを決めていく。
とはいえ追撃すると横から距離を詰めた他のモンスターに殴られるので後ろステップでそのまま距離を取る。
タンクの役割はヘイトを取ることと死なないことなので、味方アタッカーが健在のときはそちらに殴るのは任せたらいい。
タンクもヒーラーも等しくDPS出さなきゃいけない特定のネトゲみたいなゲームもあるけれど、少なくともこの場ではこれで問題無い。
いやあ、仲間って素晴らしいですね。(普段ソロぼっち感)
そんなこと思いながら、チラリとアタッカーふたりの方を見る。
順調に殴りながら削っている両人だが、その速度はフィスさんの方が優勢だ。
これは彼女のユニークスキルの効果、自身のHPが最大時、攻撃力が50%上昇するというもの。
このゲームのメインヒロインは基本的にユニークスキルが優遇されているので、彼女もその例に漏れず狂った倍率である。
ユニークスキルの火力上昇は20%とか30%が普通だからね。
わりと格差に厳しい世界だ。
まあメインヒロインじゃないけどユニークスキル狂ってるキャラもいるけど、シズカとか。
ともあれ、ルビーさんとフィスさんを並べたのはちょっと良くなかったかなと少し反省。
当人同士は気にしていないようだから良かったけど、同学年同武器種同レベルで火力差見えるのは人によってはかなり辛いだろう。
ルビーさんのユニークスキルは一定時間以内に敵を殴ると一発につき3%ずつ火力が上昇するというもの。
弱くはないけど強いと言えるまで使いこなすにはかなりの技量が必要になる。
やり込み激上手プレイヤーが殴り続けると青天井でダメージが上がるからワンパンが馬鹿みたいな数字になったりするんだけどね。
とはいえ単純計算で彼女がフィスさんに与ダメージで追いつくのは33発殴ってから。
0から等速でカウントアップして合計50%に追いつくのは自分が100%になった時だからね。
雑魚相手ならそこまで殴る前に戦闘が終わるし、ボス相手でもそこまで連続して殴り続けるには非常に高い技量が求められる。
これからの彼女のプレイヤースキルに期待したいところだ。
まあそもそもメインヒロインに勝てる余地があるだけ凄いんだけどさ。
なんて考えている間にも雑魚二匹が倒されて、アタッカーの二人がそれぞれ一匹ずつ殴り始める。
おかげで俺の受け持ちも一匹となったので、安全優先の立ち回りを切り替えて殴り始めた。
「『スマッシュ』!」
「『ピアス』」
最後はフィスさんが打ち上げた雑魚を俺がトドメを刺して終了。
「ジャックくん、やったね!」
「フィスさんも、良い動きだったよ」
ラストは協力コンボみたいになったので、そのままふたりで称え合う。
パーティープレイにおいてモチベーションを上げるのは実際大事だ。
「とっても戦いやすかったよ!」
「それならよかった」
俺自身は基本的なことしかしてないんだけど、入学して一ヶ月とちょっとでみんながみんな基礎をしっかりできてる訳じゃないだろうしね。
特にタンクは周りの動きに合わせるのを求められる部分もあるし。
「ほらほらふたりとも、話してないでアイテム拾いなさいよ」
「そうだね!」
ルビーさんの言葉に頷いてアイテムを拾うためにしゃがみ込むフィスさん。
「んー」
「はい、フィスさん」
「ありがとう、ジャックくん!」
彼女が地面に落ちたアイテムを拾いづらそうにしていたので代わりに拾ってあげる。
なんで拾いづらそうかって?
彼女のね……身体の一部がね……下を見るのに邪魔になっててね……。
「ジャックー」
「どうしたの、ルビーさん」
「今どこ見てたの?」
「どこって、アイテムだけど?」
「ふーん」
ふう、なんとか誤魔化せたな。
いや別にジロジロ見てたわけでもないしいやらしい視線を向けてたわけでもないから本当に冤罪なんですよ、信じてくださいお願いしますなんでもしますから。
「それじゃ、次行こうぜ」
「うん!」
「まあいいけど」
ということで移動から数回の戦闘を挟み、各自の動きに問題はなさそうなのでそのままボス部屋の前まで移動する。
「んじゃアクアさんはフィスさんにヒール。そのあとは俺に防御力上昇の魔法、ふたりに攻撃力上昇の魔法をかけてSPポーションを飲んでSP全快にして」
「わかった」
ボス前に回復するのは大事。
SPは自然回復もするけど時間がかかるから今回はアイテムを使ってもらった。
なおSPポーションは経費として割り勘だ。
「中に入ったらボスと取り巻きが二体いるからふたりはそれぞれ一体ずつ受け持って。急がなくていいから安全優先でね」
「うん!」
「任せといて」
「アクアさんは回復優先で余裕があれば氷魔法でふたりの援護、両方倒したらボスを囲むけどヘイト取りすぎないように気をつけて」
俺の言葉に全員が頷く。
今更だけど俺がパーティーのリーダーみたいになってるなー。
代わりをやってくれる人がいれば喜んで変わるんだけど、今はこの形が一番効率がいいのでやむなしだ。
「んじゃ、アクアさん、よろしく」
「うん。『ヒール』『ディフェンスブースト』『アタックブースト』『アタックブースト』。できたよ、ジャックくん」
「ありがと、アクアさん。それじゃあ中に入るよ」
のりこめー!ということで全員で一方通行の境目を越えて、ボスエリアに入る。
その奥で待ち受けていたゴールドライオンはすっと身を起こし、そしてこちらに大きく吠えた。
『ガオオオォ!!!』
威圧するような咆哮は鼓膜を震わせ、本能的に闘争を予感させる。
戦闘開始。
ボス戦まで長くなったので分割しました。
【キャラクター図鑑/No.006】
キャラネーム:フィス
性別:女
身長:普通
胸:巨
髪色:橙
髪型:セミロング
瞳色:緑
年齢:15歳(ゲーム開始時)
誕生日:8月20日
呼称:あたし/ジャックくん
カテゴリー:原作キャラ/メインヒロイン/クラスメイト
パーティー加入:無制限
武器適正:拳武器(175%)/蹴り(175%)/斧槍(150%)
ユニークスキル:『元気いっぱい』(自身のHPが最大値の時、攻撃力+50%。自身のHPの20%分まで、上限を超えて回復する。この効果は重複しない)
キャラtier:【S】
公式人気投票:【7位】
備考:DLCを抜いた場合、ゲーム開始時から無条件で仲間にできる唯一のメインヒロイン。
ユニークスキルの攻撃力上昇は非常に強力。
HPがMAX時という条件があるが、HP上限を超えて回復した時に発生するバリアによって小さなダメージではバフが切れないのも強み。
更にバリア自体がHPに+20%上乗せなので耐久力も通常より上がっている。
ただし、HP80%+バリア20%では攻撃が上がらないので注意が必要。
バリアがあるとはいえ、まともに攻撃を食らった場合は大抵バリアが割れてバフも剥がれる。
攻撃力が上がっていない状態での火力は他のユニーク発動中のキャラに劣るので、可能な限りバフは維持したい。
性格は元気でちょっと天然。
太もものサイズがメインヒロイン中最大値。
好きな食べ物はお肉。