ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
アクアさんたちと10階層を突破。
ボスドロップ武器のライオンフィストに対して希望者が二人。
ジャックはどうやったら早く帰れるか頭を悩ませる。
ダンジョンの中、10階層。
俺は今困っていた。
目の前には手を挙げるふたりとひとつの宝箱。
どちらも宝箱の中身を欲しがっている。
「さて、どうしようか」
当然のことながらひとつしかないアイテムはふたつに増えてはくれない。
解決策も無くはないけど……。
「例えばどっちかが優しさを発揮して相手に譲るとか」
「やだ!」
「絶対ない」
「ですよね」
「どうしようか、ジャックくん……」
困った顔をするアクアさん。
「とりあえず譲る気がないならじゃんけんか何かで決めるとかは?」
それで済むなら一番手っ取り早いんだけど。
「えー」
「うーん」
駄目そうですね。
じゃああとはおふたりで話し合ってもらって、って問題を投げ捨てて帰れればいいんだけどそうもいかない。
このライオンフィストはパーティーでの収得品で、その利益は四人全員に分配される必要があるからだ。
まあ俺からしたらその分配される利益はそこまで大きいものでもないし譲ってもいいんだけど、パーティー内でそういうことをするのはあまりよろしくない。
「というかふたりとも、それを買うなら相応の金額を他の三人に払わないといけないんだけど、お金はちゃんとあるの?」
「うっ……」
「うっ……」
学園で買い取ってもらうと確か一個5万オーラム。
一人でそれを貰うなら、代わりに他のメンバーに5万の1/4、1万2500オーラムずつ渡さないといけない。
ひとりが+5万オーラムになるなら、-1万2500✕3で-3万7500オーラムしないと等分にならないからね。
「それくらいなら……」
「出せなくもないかな……」
「まああるならいいけど。とりあえず外に出て査定してもらおうか。他のドロップアイテムも分配しないといけないし」
俺の提案に異論は無し。
ボスを討伐後にエリアに出現した転移陣に全員で乗って、次の階層へと進む。
「転移:11階層」
いつものように、一瞬で視界が切り替わる。
「わぁ……」
転移によって切り替わった光景を見て、アクアさんが感嘆の声を上げた。
目の前に広がるのは青い空と白い雲、そして青い海と白い砂浜。
日差しは強く、潮の香りがする。
11階層から20階層まで続くのは海辺マップ。
この階層では初期地点から左右を海に挟まれて、ラクダの背のように盛り上がった砂浜が一本の道となって北へと続いている。
このおかげでどちらの方向に進めばいいのかは一目瞭然な親切なマップであり、左右の海中も潜って探索できるという意味では文字通り底が深いマップでもある。
「きれーい!」
と砂浜を走り出そうとするフィスさんを制止する。
「アイテム精算しないといけないから探索はまた今度ね」
「そうだったー!」
「それじゃあ外に出ようか」
「うん」
「転移:ダンジョン前」
海辺フィールドを満喫するのは後回しにして、ダンジョンから脱出した俺たちは学校の買取施設に向かう。
ここではダンジョン産のアイテムであればほぼ何でも買取してくれるぞ。
戦闘科の生徒はここでモンスターのドロップアイテムを売るのが基本的な稼ぎだ。
一応アイテムは自分で店を持って販売したり、店舗を持ってる生産科に素材として買取してもらえたりする。
基本的にはそっちの方が高く売れることが多い、んだけど毎回買い取ってくれる店を探すのも手間なので魔石なんかはここで売る生徒が多い。
「こんにちはー」
中に入ると受付の人が出迎えてくれる。
この人も地味に原作キャラだ。
「いらっしゃいませ、本日は買取でよろしいですか?」
「とりあえず査定だけ、お願いします」
「かしこまりました」
ということで今日拾ったパーティーインベントリの中身を全部出す。
今日はあまり探索をしていないのでアイテム自体の数は少なく、査定もあまり時間がかからずに金額が出た。
「お待たせしました。こちらのライオンフィストの買取は5万オーラム、他のアイテムはボスドロップ他含めて4000オーラムになりますね」
武器の買取金額は予想通り、他は4人で分けて1000オーラム。
このランクでの30分の稼ぎとしては悪くないけれど、逃亡不可エリアでの戦闘ということを考えるとちょっと微妙。
11階層からはモンスターもアイテムもランクが上がるから稼ぎが一気に増えるしね。
「どうなさいますか?」
「アイテムは買取でお願いします。武器はもう少し考えさせてください」
「かしこまりました。では4000オーラムのお渡しになります」
俺たちはそれを受け取って、先に1000オーラムずつ分配する。
「それで武器の方はどうするの、ジャック」
ルビーさんがこちらを見る。
自然と俺が話を進める係りになっている不思議。
まあ早く帰りたいからこれが一番話の進め方なのは間違いないんだけど。
「ちょっとめんどくさい方法になるけど、それでもいいなら考えがなくもない」
「聞きましょうか」
「生産科の商店に行ってライオンフィストをもう一個買う。んで元々の分配金額をふたりが俺とアクアさんに払う」
「どゆこと?」
「つまり……」
例えばライオンフィストが店で10万で売ってるならそれをルビーさんとフィスさんが5万ずつ出して買う。
んでふたりがライオンフィストを売った時の分け前、1万2500オーラムずつを俺とアクアさんに払う。
これで俺とアクアさんは問題なくライオンフィストの利益が分配を受け取れる。
ルビーさんとフィスさんは互いに6万2500オーラムでライオンフィストを買ったことになる。
店で買えば10万オーラム、買取なら5万オーラムの中間をふたりで折半することになるかな。
10万+5万の中間は7万5000じゃないのかって?
元々のライオンフィストの買取金額の1/4、1万2500は全員に分配されるものだから、+1万2500-7万5000で相殺して所持金は-6万2500だ。
計算合ってる? 合ってるよね?
こんな時にクローネがいてくれたら俺が計算しなくてもやってくれるのに、とちょっと思ってしまう。
助けてクローネえもん!
ちなみにこの場でふたりから1万2500オーラム貰えば俺はもう帰っても問題ないんだけど、ルビーさんとフィスさんの問題を放置して帰るのも人の心がないので流石に却下した。
本当はもう一つ、ボスからドロップするまで周回するっていう選択肢もなくはないんだけど1周30分で2%掘るのは無理すぎるので却下。
自分のためにソロで掘るならやってもいいんだけどね、人のために経験値とアイテム1/4でやるのは流石に虚無すぎるでしょ。
「ふたりとも、それなら払える?」
「うーん、なんとか……」
「多分、いける、はず」
反応は鈍いけど絶対に不可能というわけではなさそう。
「まあ実際にいくらで店で売ってるかは分からないから、まずは実物を探そうか」
「なるほど、じゃああたし探してくるね!」
「あっ、あたしも!」
「あ」
俺の声も聞かずにふたりは商店街の方へと走っていく。
まあ全員で回るよりは別々の方が物探しの効率はいいだろうけどさ。
集合場所を決めないとあとで困るでしょうが。
なんて思っても後の祭り、今更忠告を届けることはできない。
まあしょうがないか。
「アクアさんはこのあと予定とかある?」
「えっ、ううん。私は大丈夫だよ」
「じゃあふたりで探そうか。あのふたりみたいにはぐれたら合流するのめんどくさそうだし」
あとあのふたりほど必死になって探す理由もないから、俺はぼちぼちでいいかなという気持ち。
「うん。それじゃあ行こっか、ジャックくん」
ということで俺とアクアさんは並んで二人の後を追った。
………………
…………
……
「おっ、ここ美味しそう」
訪れたのはギルドハウスの中でも生産科の商店が並ぶ通り。
特に家賃が安いこの辺りは、新入生の店舗が多いので10階層のボスドロップ武器を探すにも適した場所だ。
そんな店舗のひとつに甘味が見本として並べられている。
生産科には調理師という専攻があるのでその人たちが経営している店だろう。
武器屋に料理を並べるわけにもいかないから、調理師同士で集まって飲食店を経営する所が多いんだよね。
戦闘科のギルドお抱えで専用料理人になる人もいるけど。
「そうだねー」
隣に立つアクアさんも、見本を見ながら同意してくれる。
「ちょっと入ってみようか」
「それは流石にふたりに悪いよ」
「それもそうか」
勝手に走っていったふたりにそこまで気を遣わなくてもいいでしょと思わなくもないけれど、アクアさんは気が咎めるみたいだ。
折角だから入りたかったんだけど、ちょっと残念。
調理師は自分のギルドにはいらないかなと思ってるけど、それはそれとして優秀な人員を探して頼みたい仕事はあるんだよね。
「でも……」
「ん?」
「買い物終わったあとなら……」
アクアさんが遠慮がちに言う。
「そうだね、そうしようか」
「うん」
ということで左右に店舗が並ぶ道を歩きながら、ボス武器を置いていそうな店を探していく。
うちは装備品を一通り作れるメンバーを揃えてるけど(木工師はまだいないけど)、並ぶ店舗にはそうでない所も多くて新鮮だ。
例えば裁縫師が集まって立ち上げたギルドであろうと思われる衣類専門店。
制作するアイテムはアレンジが可能なようで、見たことのある防具がちょっとだけ見たことのない防具になっていたりする。
あとそもそも防具じゃないデザインがおしゃれなただの服も売っているのは目からウロコだった。
アイテム扱いじゃなさそうだけど上位素材使ったら防御力はあるのかな?
あと製作した時の経験値も気になる。
スキル使用のアイテムじゃないし、経験値は入らないんだろうか。
「ジャックくんはこの辺りよく来るの?」
まあ来ると言えば来るけど、客としてじゃなくて店側としてだから店舗に詳しかったりはしない。
装備ならギルドで作るしね。
「いや、あんまり。アクアさんは?」
「私もあんまりかな」
「この時期だとあんまり用事もないもんね」
「そうそう。装備品もアイテムもそんなに頻繁に買わないもんね」
特に光属性使えると自分で回復できるからポーションの消耗も少ないだろうしなあ。
11階層からは装備の基準がワンランク上がるからそこは更新しないといけないけどこれからの話ではある。
全身更新する装備を買うための金も稼がないといけないだろうし。
「アクアさんはアクセサリーとか付けてる?」
「うん、いちおう……」
アクセサリーというのは、頭、胴、腕、脚の防具とは別枠で二つまで装備できる装飾品のこと。
今のアクアさんは外見からはそれらを装備しているように見えないのでネックレスの類を服の中にしまってるのかな。
そんな視線に気付いたのか、アクアさんが逆に聞いてくる。
「私がつけるならどんなアクセサリーがいいかな?」
「そうだなー」
やっぱり後衛職なら魔法攻撃力が上昇するアクセサリーかな。
あとは無難に物理防御力上昇だろうか。
ダンジョン進むと広範囲で避け辛い魔法属性の攻撃が増えるから、魔法防御力上昇系もありだけど。
「うーん」
悩んでいると、正面から声をかけられる。
「ジャックさん?」
そこにいたのは、クローネ。
今日もキリッと雰囲気とクールな表情が魅力のギルドメンバーだ。
「おはよう、クローネ」
「もうお昼すぎですよ」
その日初対面ならおはようでいいんじゃないかな。
ダメカナ?
「ジャックさんは買い物ですか?」
「うん、と言っても俺のじゃないけどね」
「そうでしょうね」
自分の装備はみんなギルドメンバーに作ってもらってるしね。
副代表のクローネはギルド内で誰がいま何を作ってるか一通り把握してるし。
「ところでそちらの方は?」
「戦闘科一年、魔法使いのアクアです。得意属性は氷属性と光属性です」
「生産科一年、付与術専攻のクローネです」
「戦闘科一年、片手剣メインのジャックです、よろしくお願いします」
「ジャックさんまで自己紹介する必要ありましたか?」
「した方がいいかなと思って」
なんて茶番に仕込んだ、『彼女の前では片手剣メインでやってます』というメッセージはちゃんとクローネに伝わったようでアイコンタクトを返してくれる。
有能すぎィ!
「クローネさんは、ジャックくんのお友達ですか……?」
「ええ、ジャックさんにはいつもお世話になっています」
ギルドのことも隠してくれてるし。
「そうだ、クローネ。いまライオンフィスト売ってる店を探してるんだけど心当たりない?」
「ライオンフィスト、ゴールドライオンのドロップ武器ですか。それならあそこの赤い看板の店が武器をメインに扱っていますよ」
「おっ、ほんとに? それじゃあちょっと行ってみるわ。ありがと」
「どういたしまして」
「それじゃあ行こうか、アクアさん」
「うん」
「またね、クローネ」
「ええ、またあとで」
クローネにお礼を言って教えてもらった店に向かう。
店は確かに武器がメインで並べてあって、品揃えがランク1のものなので一年生の経営するギルドだろう。
「すいませーん」
「いらっしゃい、どうしました?」
中に入ると店員さんが出迎えてくれる。
店員さんといっても同級生だけど。
「ライオンフィストを探してるんですけど、置いてあったりしません?」
「ライオンフィスト……、ってなに?」
「ゴールドライオン、10階層のボスのドロップ装備です」
「あー、ごめんうちには置いてないわ。代わりに金獅子大弓ならこの前買い取ったからあるけどどう?」
「大弓は使わないので、お気持ちだけ」
「だよねー。ドロップ武器って強いんだけど使用者が限られるからあんまり売れなくて大変」
「大弓使ってるクラスメイトに今度声掛けておきますよ」
「ほんと!? ありがとー! ぜひよろしくねー!」
「ところでこの辺でボス武器売ってそうなところってあります?」
「んー、隣はアクセサリーショップとアイテムショップだからなー。ああでも通り向かいの数軒先の鷲の看板の店なら武器も置いてたかも」
「ありがとうございます。行ってみます」
「どういたしましてー、宣伝よろしくね!」
この店には置いてなかったけど次の候補を教えてもらえたのでそのまま店を出る。
「じゃあ行ってみようか」
「うん、ジャックくん」
そのままアクアさんと一緒に教えられた店を訪ねてみるけどこれはハズレ。
それからもいくつか店を回ってみたけど全部ライオンフィストを置いてはいなかった。
ボス武器自体がレアだからしょうがないんだけど。
「アクアー! ジャックー!」
「ルビーちゃん?」
さてどうしようかなと思っていると、通りの先から走ってきたのはルビーさん。
「あったよ、ライオンフィスト!」
でかした!
急かすルビーさんに連れられて訪れた武器屋には既にフィスさんの姿もあり、店員と何やら交渉をしている。
「そこをなんとか!」
「だから駄目や言うとるやろ!」
中では押し問答になっていたようなので、フィスさんに話を聞く。
「どうしたの?」
「あっ、ジャックくん! ちょうどいい所に!」
ちょうどいい所というか連れてこられたんですけどね。
「15万?」
事情を説明されると、この店でライオンフィストが売っているのを見つけたけれど、その販売価格が思ったより高かったという話。
「そうなんだよー、それ以上安くしてくれないって言うの」
「ちょっと高くない?」
「そんなことないで! これ自体6万で買った商品やからな、原価4割なら妥当な線やろ」
「んー」
そう言われるとぼったくりというほどの金額ではないか。
「もうちょっと安くならない?」
「これで限界ギリギリやな。これ以上は1オーラムも安くはならん」
絶対嘘でしょ、と思うけど実際に商売するならこういう交渉術も手段のひとつか。
多分頑張ればもうちょっと値切れそうだけど……。
「そもそもふたりは予算どれくらいまで出せるの?」
「えーっと……、5万くらいなら……」
「あたしも、それくらい……」
「ふたりで10万かー。……なんとか10万になりません?」
「なるわけないやろー!」
ですよねー。
「どうしようか、ジャックくん」
「んー、どっちにしろここで買うのは難しそうだし他の店探すしかないんじゃないかな」
「えー」
「文句があるなら自分でどうにかしてもいいんだよ、ルビーさん」
「あはは、嘘だってー。それじゃあ探してくるね!」
「あたしも! 行ってくる!」
逃げるように駆け出したルビーさんの背中を追って、フィスさんも店から出ていく。
また止める間もなく駆け出したふたりの背中を俺とアクアさんは見送った。
拳武器使用者ってみんなあんな感じなのかな?
いや、あのふたりがあんな感じなだけか。
「アクアさん、悪いんだけどふたりを追いかけてもらえる?」
「ジャックくんは?」
「俺はちょっと探したい所があるから行ってくる。1時間したらまたこの店に集合って伝えてもらっていい?」
俺のお願いに彼女は頷いてくれる。
「うん、わかった。それじゃあまた1時間後にこのお店で」
「うん、よろしくね」
小走りで駆け出すアクアさんも見送って、店に残ったのは俺と店員さんのみ。
「んじゃ、帰るか」
そのまま俺は自分のギルドに帰った。
………………
…………
……
「おかえりなさい、ジャックさん」
「ただいま、クローネ」
ギルドに戻ると丁度良く、クローネが出迎えてくれた。
「デートはもういいんですか?」
「デートじゃないけどね。用事があってちょっと帰ってきたとこ」
「用事?」
「うん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
事情を説明すると、俺の願いを聞いたクローネは少しだけ悩む表情を見せた。
………………
…………
……
「こんにちはー」
それからしばらくの後、俺はまた例の店に戻ってくる。
「なんや、アンタか。金は用意できたんかいな?」
「いや、金は無い」
「それは堂々と言う事ちゃうで」
ごもっともで。
「けど代わりにこれを持ってきた」
俺がアイテムインベントリから取り出したのは金獅子の盾。
同じゴールドライオンのドロップ装備だ。
「これとライオンフィストを交換してほしい」
名付けて『買うのが高いなら交換してもらえばいいじゃない』作戦だ。
ちなみにこの盾自体はギルドでゴールドライオンを乱獲した時に落ちたものなので原価はタダ。
ついでに交換したライオンフィストをふたりに売って、その代金をギルドに戻せば誰も損をしないという完璧な作戦である。
「なるほど、同じボスのドロップ品同士で交換ってことやな。これなら価値的には等価や。でもな兄さん、うちは別にその盾が欲しいわけじゃないんや。ならこの拳武器が欲しい兄さんたちはもうちょっと色付けてもいいと思うで?」
なるほど、そう来たか。
「それを言うならそもそも、この品自体が売り物として等価じゃないだろ?」
「どういうことや?」
「拳武器は所詮拳武器の利用者にしか売れない武器。それに対してこの中盾は片手武器利用者の全員が顧客対象だ。まあ実際には小盾、中盾、大盾で需要が三分割されても単独武器種よりは数倍以上の需要がある。片手武器はそれだけ種類が多いからな。単品の価格は同じでも、顧客の多さとそれに起因する売れやすさはこっちの盾の方がずっと上だろ」
それに武器は持っていても武器にしかならないが、売って得たオーラムはまた別の商売に利用してさらにオーラムを増やせる余地がある。
そういう点では早く売れる可能性が高い方が商品としての価値は高い。
「つまり交換して得するのはむしろそっちの方」
「むむむ……」
「まあ、嫌なら無理にとは言わないよ。他の店でライオンフィストが見つかったらそっちで交換してもらうことにする」
諦めた様子を見せながら金獅子の盾をしまおうとする。
「ちょーっと待った! 別に嫌とは言ってないやろ! ええで、そっちとこっちで交換したるわ!」
「いやー、別に無理にとは言わないし、嫌ならいいんだよ?」
「アンタ、性格悪いなぁ」
そんなことないよ。
「まあいいや、それじゃあ交渉成立ってことで」
「まいどおーきに!」
互いにアイテムを交換して、アイテムの所有権が相手に渡ったのを確認する。
「ところでちょっと話があるんだけど」
「なんや? 儲け話なら聞くで」
「まあそんなところ」
そのまま俺は店員さんと話し始めた。
………………
…………
……
「ただいまー」
俺が店員さんと店内でお茶していると、がっかりした様子の三人が帰ってくる。
「おかえりー」
「ってジャック、なに一人だけサボってるのよ!」
「いや、サボってないが。むしろ一番働いたまである」
見た感じあっちは空振りだったみたいだし。
「ほら」
俺はお茶を飲んでいた机の上に、ライオンフィストをふたつ並べる。
ちなみにふたつというのは右手左手ひとつずつという意味ではなく、ちゃんと左右セットがふたつだ。
間違わないって? はい、すみません。
「ジャックくん、すごい!」
「ありがと、フィスさん」
まあ大したことはしてないけどね。
アイテムを人から人に動かして目的のアイテムを手に入れるのは昔やってたネトゲを思い出してちょっと楽しかったけど。
「これは俺が個人的に用意してきたものだから、ひとり5万オーラムずつでいいよ」
学校の買い取りの倍額だけど、ここまでの流れを考えたら良心的な価格だろう、たぶん。
「まあそれで済むならありがたいけど、これどうしたのジャック」
「それは企業秘密。ちなみに買うならふたつめのライオンフィスト5万の他に、ひとつめのライオンフィスト1万2500オーラムも必要だけど大丈夫?」
5万はあくまでふたつ目の代金で、ひとつ目はまた別にかかるというのをルビーさんは忘れていた様子。
「うっ……、ちょっと待って」
「あたしは大丈夫だよ! はい、ジャックくん!」
「どういたしまして。1万2500オーラムの方は俺とアクアさんで貰う分だから、そっちは先にアクアさんに渡しておくね」
「ありがとう、ジャックくん」
さて、これであとはルビーさんが俺に6万2500オーラム払えば全て解決するんだけど。
「ジャック、相談があるんだけど……」
「なに、ルビーさん」
「ちょっと支払い待ってくれない?」
「だめ」
お金のことはちゃんとしておかないと面倒くさいし、あと貸し自体を覚えておくのが面倒くさいからやっぱり答えはノー。
「そこをなんとか!」
「まあ無いものはしょうがないか」
「じゃあ……」
「だから代わりにアイテムを足りない分だけ貰ってあげる。とりあえず高そうなのから出してみて」
「えぇー……」
ルビーさんは嫌そうな顔をするけれど、代案がないならしょうがないということでそのまま取り出されたアイテムを俺が値段をつけていく。
「まあこんなもんかな」
学校の買い取りよりちょっとだけ色を付けて、ギリギリ必要金額に届いたアイテムを受け取ったのでこれで契約成立。
「もうお財布空っぽだよー」
「ライオンフィスト手に入ったんだからいいじゃん」
「それはそうなんだけどー」
まあ財布空っぽだと実際に困ることもあるだろうけど、そのへんは当人が頑張ってもらう方向で。
「ところでこのあとのアクアさんと甘いもの食べに行くんだけど行く?」
「ジャックの奢りね!」
「まあそれくらいなら」
大した金額にもならないだろうし、今有り金全部搾り取ったから物理的に払えないだろうしね。
「フィスさんも一緒にどう?」
「いく!」
「じゃあ四人で行こっか。アクアさんも大丈夫?」
「うん」
頷くアクアさんを見てから四人で店を出て並んで歩き出す。
俺が女子の甘味に対する食欲の恐ろしさを知るのは、このあとのすぐのことだった。
・金獅子の盾
専用特殊効果:『獅子の威風』(この盾を構えている時、中型以下のモンスターを威圧し攻撃を抑制する)
ゴールドライオンの顔を模した中盾。
中盾の中でも優秀な氷属性耐性を持つ。
専用特殊効果は獅子の威風。
自身がヘイトを取っている状態でも、この盾を構えていればモンスターの攻撃頻度が減るので気力管理に余裕が生まれる。
中盾では複数の敵の攻撃を全て受けきるのは難しいため、タンクをする際にはこの盾が活躍するだろう。
・調理師
生産科の専攻のひとつ。
文字通り料理を作る職。
スキルで作った料理にはステータス上昇効果が設定されているので、特に高レベルの階層を攻略する際に役に立つ。
なお料理アイテムの効果は重複せずに後から使用したものに上書きされるので注意が必要。
効果時間は数時間なので探索の前に食べるのが効率的、なのだがリアルになった弊害で食事アイテムを使用するというワンアクションが一食完食するという作業となっており手間が増大している。
単純に毎日の献立が効果に支配されるのが不評な部分もあり、料理効果は気にしていない生徒が多い。
代わりにこの世界では効果ではなく味で商売をする料理店が成立している。