ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
ハズレキャラに転生したジャックは100階層あるダンジョンの完全攻略を目指す。
入学初日のガイダンスから翌日。
晴天の空の下、クラスで集合したのはダンジョンの前。
目の前の『塔』の形をしたダンジョンは、上空の雲も突き抜けて天高くそびえている。
離れた所からは確認していたけれど、こうして真下から見上げるとその大きさは格別だ。
ついでにモニター越しの視界ではなく、肉眼で見るその迫力も完全に別物。
クラスメイトたちも表情は違えどこれから挑むその塔の高さを望んでいる。
「よし、全員集まったな」
そんな様子を確認しながら担任教師のスカーレット先生(女性)が皆の視線を地面に引き戻す。
「それじゃあ今からダンジョンに入るぞ。全員装備は用意してあるな」
先生の言葉通り、ある者は剣と鎧を、ある者は杖とローブを、またある者は大鎌と目深に被ったフードを纏っている。
まあ大体はゲーム開始時点のレベル1装備なので大抵はそれ相応の簡素な見た目なんだけど、一部のクラスメイトは結構豪華な装備を着ていたりする。
そういうのは貴族や名家の子息・子女が多いかな。
家格があるキャラクターたちは入学当時の15歳より以前から英才教育を受けているという設定で、初期レベルの設定が高かったりもする。
そのせいで、仲間に加入させる条件がゲーム開始時から数か月後のイベント達成後とかって設定されてたりするんだけど。
原作メインヒロインもそういうキャラが多い。
メインヒロインの一人は加入初期レベル34、装備はそのレベルよりワンランク上の性能、加入解禁はゲーム開始から三ヶ月後とかでわりと焦らしプレイをくらったりね。
かくいう自分の転生したキャラも、一応貴族の子息だったりするんだけど。
弱小貴族の六男坊なので初期レベルは1だし、卒業後は実家に帰ってもやることないから外に働きに出ないといけないなんちゃって貴族ですけどね。(半ギレ)
なんて冗談はさておき、担任教師のスカーレット先生がダンジョンの前にある魔法陣に視線を向ける。
「この転移陣で階層を指定すれば、その階層まで移動できるぞ。例えば2階層まで到達した後なら、1階層からやり直す必要はなく直接2階層行けるから覚えておけ。まあ今日は全員1階層からだがな」
「はい!」
「じゃあ転移開始、の前に全員左手を上げろ」
指示をされてクラスメイトが全員それに従う。
装備は人それぞれの集団だが、掲げた左腕の手首には同じデザインの腕輪がはめられている。
アイテム名、救命の腕輪。
「全員腕輪は付けているな? それじゃあアレックス、この腕輪の効果を言ってみろ」
指名されたのは原作主人公のアレックスくん。
原作でもここで選択肢が出て間違えると怒られるんだよなあ、とちょっと懐かしい気持ちになったりならなかったり。
「この腕輪はダンジョンに入るのに必須の装備で、ダンジョン内での非常時に身を守ってくれます」
要するに、ダンジョン内で全滅して戦闘不能になってもゲームオーバーにならないための理由付けだ。
「加えてソロなら本人が、パーティーならメンバー全員が戦闘不能になった場合はダンジョンの外まで強制脱出させる機能があります」
彼の説明通り、この機能のおかげでダンジョン内で全滅してもゲームの進行はそのまま翌日へと進む。
強制オートセーブと全滅した時のペナルティーのせいで何度涙を飲んだのかわからないのもあって、救済と罰を一緒にしたようなシステムだったんだけどさ。
「アレックスの説明通り、この腕輪をつけている間はダンジョン内でも身の安全は確保される。逆にこれを付けずダンジョンに入るのは校則で禁止されているので絶対に忘れるな。ダンジョン外でも基本的にはずっと付けていること推奨だ。もし忘れてダンジョンに入った場合は厳罰、意図的にダンジョン内で外した場合は退学もあるので覚悟しておけ」
そんな脅しの言葉にクラスメイトたちは息をのむ。
まあわざとやらなきゃそんな事態にはならないんだし、理屈としては最悪ダンジョン内で死ぬことになるので処罰としては妥当だろう。
「ということで隣の奴がちゃんと腕輪を付けてるか確認して、もし付けてない奴がいたら申告しろ。……、まあいないか。今日の授業が終われば次からは引率なしでダンジョンに入ることになるが、パーティーを組んで入るときは、事前に全員がつけているか確認するように」
「はい!」
「あと、ダンジョン内で全滅した時の強制脱出を使った生徒は、以後五日間ダンジョン攻略が禁止される。これは無計画に突っ込んでは全滅するような生徒を育成するのを防止するためだな。お前たちが卒業後に騎士になるのか兵士になるのか、それとも冒険者になるのかはわからないが、お外では無謀な突進をするような者に優しくしてくれるほど甘くはない。全滅することには慣れないように」
そう、このペナルティーこそが数多の原作プレイヤーを苦しめてきた極悪システムだ。
このゲームはアクション要素のある戦闘システムだけあって、死ぬときは普通に死ぬ。
というかボス戦なんかは死なずに初見突破するのは非常に困難だ。
そのうえで1死毎に五日のペナルティーが入るんだから、制限時間なんて超速で削れていくよね。
オートセーブだからセーブロードでペナルティキャンセルも出来ないし。
慣れれば100階層クリアを見れるゲームでも、初回プレイが50階層で終わるとかいうのはこの辺が原因。
「それじゃあ行くぞー。 転移:1階層」
スカーレット先生が転移陣の中央に立って宣言すると、スッと姿が消える。
それから一旦戻ってきた先生に指示されて、クラスメイトが順番に消えていく。
「次ジャック」
「はい」
「中に入ったら他の奴もいるから、その場から移動するなよ」
「はい」
「よし、行ってよし」
「転移:1階層」
唱えると視界がスライドするように切り替わった。
そして現れたのは青空、そして草原。
見渡す限り広がっているその光景は、とても塔の中にある空間とは思えない広さを有している。
まあ元の塔は巨大建造物とはいえ、ダンジョンとして成立させるほどのスペースではなかったので中が別空間になってるのは納得ではあるけれど。
というか本当に、ここに来たんだなあ。
ある意味で学園の教室よりもずっと見慣れた場所であるダンジョンの中は、実家のような安心感がある。
レベル上げるにも素材集めるにも攻略するにも、ゲームの基本はここだからね。
「よし、全員いるな」
クラスメイトが全員転移した後に、スカーレット先生が全員の姿を確認して言う。
「それじゃあ全員注目。ここに転移陣があるな。これを使えば到達済みの他の階層、もしくはさっきまでいたダンジョンの外へと転移することができるぞ。そしてもう一つ、この階層の一番奥に次の階層へと続く転移陣がある。そっちを使えば2階層へ移動可能だ。お前たちがダンジョンから出るにはここから戻るか先に進むか二つに一つだな。加えて全滅による腕輪での強制脱出もあるがまさか第1階層で使うことになる奴はいないと信じてるぞ」
実際この階層はダンジョンのチュートリアルとして設定されているので、難易度は誰でもクリアできるレベルで低い。
攻略に必要な所要時間も、初日で終わるレベルだし。
「というわけで今日の授業はこの階層の攻略だ。時間は今日の活動時間が終わるまで。具体的には夜九時までだな。強制脱出よりはマシだが、未攻略で終了した場合の成績は覚悟しておけ。逆に2階層に到達したらそのあとは自由行動だ。そのまま先に進むもよし、買い物に出かけるもよし、帰って寮で寝るもよし、好きにしていいぞ」
活動時間というのはダンジョンに潜るのが許可されている時間。
それ以上は授業や学園生活に支障が出るから禁止ってことだね。
まあこれはゲーム時代のプレイ進度と攻略難易度を調整するための設定に理由付けしたものだろうけど。
あとゲームの場合は時間になったら『そろそろ帰る時間だ』というメッセージと共に強制帰還で探索終了だったけど、この世界では九時までに自力で脱出するように探索を進めないといけないとのこと。
そう考えると帰り道のにかかる時間を考慮しないといけない分、ゲームよりも結構大変だろう。
「あとパーティーを組むならここで組んでけ。最大四人までだ」
「先生! 質問です!」
手を上げたのはクラスメイトの一人。
「なんだー、ルカ」
「攻略時間で成績に差は出ますか!」
「それは出ないから安心していいぞ。あくまで成績は攻略を今日中に達成できたかどうかだ」
「えー」
質問した彼女は不満げだが、ちゃんと準備をして探索を開始、終了できるかという点が今日の授業の主旨なんだろう。
まあチュートリアルで競争させられて困るというのもある。
「他に質問はないな? なら授業開始。くれぐれも無茶はするなよー」
ということでスカーレット先生の号令の下、クラスメイトたちが行動を開始する。
すでにパーティーを組むメンバーを決めているのか、集まってさっそく出発するのが一握り。
あとはみんなでワイワイとパーティー編成を始める様子を俺は外側から眺めている。
今日で授業二日目なんだけど、わりとみんなクラスメイト同士で仲良くなってたりするっぽいんだよね。
貴族同士なら入学前からの付き合いが、そうでなくても先に始まっていた寮生活と昨日の授業の後に交流が始まっていたらしい。
俺? 当然ぼっちですけど。(逆ギレ)
まあそれは半分冗談だけど、とりあえず攻略するならソロの方がいいかなって気持ちはあるんだよね。
理由は三つ。
まず一つ目は、これから原作知識をフル活用して最適行動でゲームを進めると、傍目には明らかにおかしい動きになること。
二つ目は、三年間を通しての攻略計画を立てる上で、ソロの方が分かりやすいし修整も容易なこと。
三つ目は、パーティーメンバーを自分の進行に付いてこられるように育てるよりソロの方が楽で速いと予想されること。
そもそも100階層攻略ってハードルは過去100年間で達成されたことがないくらい高いから、同級生にそれについて来いって言うのも大変な訳で。
ゲーム時代ならパーティー組んでレベル上げれば普通に問題なかったんだけど、それがリアルになったこの世界では個人個人に予定と事情があって、そう単純に話は進まないのが予想できる。
原作とか学校内にいる仲間メンバーに話しかけて「パーティーに加えますか? [YES/NO]」でいつでも自由に入れ替えられたけど、現実になったこっちでは当然そんなことできないからね。
ならソロでいいじゃん。(名推理)。
実際には操作キャラの主人公を含む4人パーティーで、『タンク(盾役)・物理攻撃・魔法攻撃・ヒーラー』で編成するのが推奨だったから、それをソロで済ませようとするなら相応に大変ではあるんだけど……。
まあなんとかなるっしょ。
もし無理そうだったら改めてパーティー組む方向に計画変更もできるしね。
なのでこの場での正解は『待ち』一択。
流石にさっさとソロで出発すると色んな意味で目立ちすぎるので、人が減ってからこっそり攻略を始めようという計画だ。
まあみんなでパーティー組んだり相談したりしてるから、もうちょっと時間かかりそうだけど。
「スカーレット先生」
それまで暇なので、俺はクラスメイトの様子を見守っている先生に話しかける。
「どうした、ジャック」
「今からダンジョンを出て、学園に戻ってもいいですか?」
「一応聞くが理由はなんだ? 諦めて帰って寝るとか言い出したら殴るぞ」
「いえ、回復アイテムを追加で買ってこようかと思ったんですけど」
「あー、なるほどな」
ちなみにこのゲームはHP(ダメージを受けたら減る。0になったら戦闘不能)もSP(スキルを使うのに必要)も非戦闘時なら時間経過で自然回復するので、回復手段を持たない編成でも時間をかければ進行は可能だ。
ただまあそればっかりだと待つのに時間がかかって効率が悪いので、やっぱり回復手段はあったほうがいい。
そしてソロなら特に、という部分まで先生は察したらしい。
「ソロで進むのが悪いとは言わないがな、パーティー組むのを最初から諦めてたら後々苦労することになると思うぞ。ほら、だからもうちょっと頑張ってみろ」
別に話しかけられないボッチだからソロで進もうとしてるわけじゃないんですけど。(半ギレ)
とはいえ客観的には言ってることが正論なので大人しく引き下がっておく。
まあいいのだ。
担任に話しかけた目的は人が減るまでの時間潰しと、仕様の確認だから。
というのもゲーム時代はチュートリアルで外に出ようとすると、『(今は先に進もう……)』というメッセージと共にキャンセルされて不可能だったんだよね。
予想はしていたけど、ゲームからリアルになって出来ることが増えているらしい。
逆に現実に落とし込んだことでできなくなってることもあるだろうし、これは検証することが沢山ありそうだ。
・ダンジョン(塔)
学園に併設されている塔状の巨大建造物。
合計100階層からなる構成で、ダンジョン学園の学生は三年間を通してこのダンジョンを攻略するのが目的。
内部は外見とは異なり、空が存在する広大な空間が広がっている。
一度到達した階層までは直接転移することが可能。
第1階層からは草原フィールドが広がっており、それが10階層まで続く。
最初の1階層は数時間で攻略できる程度の広さだが、2階層からは格段に広くなり階層ごとに通常数日以上の攻略が必要。
10階層には専用フィールドに階層主(ボス)が存在し、脱出不可能の戦闘が発生する。
【キャラクター図鑑/No.011】
キャラネーム:スカーレット
性別:女
身長:高
胸:大
髪色:黒
髪型:ショート
瞳色:赤
年齢:27歳(ゲーム開始時)
誕生日:8月30日
呼称:私(仕事中)/アタシ(プライベート)
カテゴリー:原作キャラ/メインヒロイン/教師
パーティー加入:不可
武器適正:片手剣
公式人気投票:【9位】
備考:主人公のクラスを受け持つ担任教師。
メインヒロイン中唯一のパーティー加入不可キャラ。
仲間にすることはできないが、作中イベントで対戦することはできる。
その時の武器は片手剣、レベルは86。
恋人エンドを迎えるには対決で勝つ必要があるので攻略難易度は高目だが、イベントフラグ自体はシンプルなのでレベルさえ足りていれば問題なく攻略できるだろう。
性格は強気。
学園の卒業生で、昔はヤンチャしてたことがNPCから聞くことができる。
担任教師を持つようになってから酒を控えているらしい。
好きな動物はうさぎ。