ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
新聞部に取材を受けて記事を出すことになりました。
同級生には頑張ってほしい。(うちのギルドが装備を売るために)
ハーレムギルド扱いは免れた。


022.ギルドハウスの日常

「ジャック……」

 

 俺がギルドハウスのリビングでゆっくりしていると、作業場から出てきたカッツェが顔を見せた。

 

「カッツェ? どうしたの?」

「これ……置いていい……?」

 

 差し出されたのは彼女が抱いていたサメのぬいぐるみ。

 

「もちろん。まだ置く場所ある?」

「うん」

 

 リビングの一角にある棚に視線を向けると、そこには既に大小様々なぬいぐるみが寄り添うように並んでいる。

 とはいえまだ置けるスペースはあるので、カッツェは新しいぬいぐるみをそこに置いた。

 

 彼女が趣味で作ったぬいぐるみはこれで6個目。

 具体的に言うと猫と犬とライオンと虎と猫とサメ。

 ちなみに猫は黒猫と白猫である。

 

 既に原作で今のギルドハウスに設置できるアイテムの数を超えているがシステムに引っかかる気配はない。

 カッツェのユニークスキルはギルドに設置したぬいぐるみの数で製作速度にボーナスがつくから、無制限だと大分ヤバいことになるんだけど大丈夫かな。

 

 このまま数十個も置けたら原作TierSキャラなんてぶっちぎることになるし……。

 まあいいか! よろしくなあ!

 

 ちなみに本当は小型のやつを無限に並べるのがスペース的にも生産速度的にも最大効率なんだけど、本人にそこまでやらせる気にはならなかったので自由に作っている。

 

「ぬいぐるみかわいいね」

 

 俺が新しく並べられたサメのぬいぐるみを撫でながら言う。

 

「ジャックは……」

「うん?」

「どの子が好き……?」

「そうだなー、やっぱり黒猫のぬいぐるみかな」

「そう……」

 

 言葉は素っ気ないけれど、カッツェの顔は無表情の中に少しだけ嬉しそうな反応が見えた。

 

「棚が足りなくなったら買いに行こうか」

「うん……」

 

 今ぬいぐるみが置いてある棚はそろそろ詰めないと新しい子を置けなくなる。

 カッツェのユニークスキル的に置けば置くだけアドなので、スペースの確保は優先事項だ。

 そんな事を考えていたら、後ろから声が聞こえた。

 

「ジャックはカッツェには相変わらずじゃのう」

 

 現れたシャオは俺とカッツェのやり取りを聞いていたようで軽く笑っている。

 そうかな……、そうかも……。

 個人的にはカッツェにだけ態度を変えているつもりはないんだけどね。

 

「シャオは……、どの子が好き……?」

 

 カッツェの質問にシャオは並んだぬいぐるみへ視線を向けて、その中の一つを手に取った。

 

「そうじゃのう。わしはやはり虎の子かの」

「鷲じゃないんだ」

 

 わしだけに。

 

「鷲はこの中におらんじゃろうが」

「それはそう」

「次は……鷲作る……」

 

 俺の冗談がなにかカッツェのスイッチを入れてしまったようで、彼女の目がやる気に満ちている。

 

「お、おう、期待しておるぞ?」

「うん……」

「カッツェは本当にぬいぐるみが好きだね」

「うん……」

 

 いいことだ。(アド的な意味で)

 

「今度一緒に素材買いに行こうか」

「うん……っ」

 

 ちょっと嬉しそう。

 

「やっぱりジャックはカッツェには過保護じゃのう」

「そんなことないよ」

「シャオも……行く……?」

「そうじゃの、機会があれば一緒に行こうかの」

「うん……」

 

 やっぱり嬉しそう。

 

「ただその前に今日は仕事せんとの」

「うん……、私も……」

 

 レベル上げは実際大事。

 あともうすぐ月末だから販売予定の商品を揃えないといけないし。

 ということで先に鍛冶場に向かうシャオを見送って、同じように作業部屋に向かうカッツェに話しかける。

 

「作業するの見てていい?」

「うん……」

 

 本人の了承も得たので、俺はしばらくのあいだ彼女が作業しているのを後ろで見ていた。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「くふ……くふふ……」

 

 ギルドの廊下を歩いていると、作業部屋の中から怪しい声が聞こえてくる。

 ギルドハウスには複数の部屋があるけれど、ここは作業台があって主にケミーとクローネがよく使っている場所。

 まあ声で中の人はわかっているんだけど、静かに扉を開けて中の様子を探るとそこには長い紫髪と見慣れた猫背の背中が見えた。

 

「くふふ……」

 

 怪しい笑い声を出すケミーはポーションを調合しているところ。

 

「変な声出してどうしたの、ケミー」

「ふえっ、ジャックさぁん!?」

 

 調合に夢中でこちらに気づいていなかったようで、ケミーは驚いた様子でこちらへ振り返る。

 

「ど、どうしたんですかぁ?」

「いや、部屋の中から変な声が聞こえたから」

「変な声なんて出してませんけどぉ……?」

 

(自覚がなかったのか)

 

「なんでそんな目で見るんですかぁ……?」

「いや、なんでもない。ところで今ポーション調合してたとこ?」

「そうですよぉ。ぁ、頼まれてた分出来たので渡しておきますねぇ」

 

 俺が使う用に頼んでおいたポーションをケミーから受け取る。

 彼女のユニークスキルのおかげで渡した素材の数よりも出来上がったポーションの数が多いけれど、自分で使う分には幾らあっても困らないのでありがたい。

 特にSPポーションはあればあるだけスキル連発できて経験値稼ぎの効率が上がるしね。

 

「ありがと、ケミー」

「えへへ、どういたしましてぇ」

 

 嬉しそうに笑うケミーはちょっとレアかも。

 

「ケミーはポーション作るのが好きなの?」

「えっ、どうしてわかったんですかぁ?」

「いや、それは普通に見てればわかるかな」

「そうですかぁ? ちょっと恥ずかしいですよぉ」

 

 恥ずかしいのか……。

 

「ちなみに毒消し薬とかは好き?」

「そうですねぇ、嫌いじゃないですよぉ」

「じゃあエリクサーとかも?」

「いつか作ってみたいですねぇ……」

「そうだね、将来的には作ってもらいたいかな」

 

 エリクサーというのはHPとSPを同時に回復できるようになるアイテム。(ちなみに全回復ではない)

 将来的にはお世話になるだろうアイテムだ。

 なお製作レベルは50〜なので作れるようになるのはだいぶ先の話。

 上位種のハイエリクサーもあるけどそっちはもっとレベル上だし。

 

「なら頑張ってレベル上げないとね」

「はぃ〜」

 

 そんな話をしていると、部屋の扉が開いて人が入ってくる。

 

「あら、こんな所にいましたのね」

「マリーロール? どうしたの?」

 

 姿を現したマリーロールは視線を俺から隣にスライドさせる。

 

「わたくしが用があるのはケミーの方ですわ。ケミー、今日こそ部屋の片付けをしますわよ!」

「えぇ、あたしはこのままでいいですぅ……」

「きちんと整頓されていないとわたくしが気になるんですわ! さあ、やりますわよ!」

「ひえぇ……」

 

 確かに共有のスペースにしてはケミーの私物が多い。

 作業に使う道具や素材もだけど、ローブの予備?なんかも放置されてるし。

 

「ちなみにこれはなに?」

 

 テーブルの上に置いてあるのはくしゃっとなった布。

 

「それは布巾ですよぉ?」

「調合に使うものなら放置せずに清潔にしておくべきですわ!」

 

 それはそう。

 

「さあ、お立ちなさい!」

「ジャックさぁん、助けてくださぁい……」

 

 いやあこれはケミーが悪いと思うな。

 

「そうだ、予算が貯まったら広いギルドハウスに引っ越すから、近いうちに一人一部屋個室が持てるよ」

「それはいいですねぇ」

 

「だから引っ越しのために荷物はすぐに片付けられるようにしておいてね」

「ひぇっ」

「話はまとまりましたわね! ケミー、お立ちなさい!」

「いやですぅぅぅぅぅ」

 

 マリーロールに椅子から持ち上げられるケミーを見ながら俺は部屋を出る。

 その後にはケミーの悲鳴が響いていた。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「ここでいいんですの……?」

「もうちょっと……、下……」

 

 廊下を通りかかると、わずかに開いた扉の隙間から聞こえてきたのはふたつの声。

 ひとつはマリーロールで、もうひとつはカッツェ。

 

「ここ、ですの?」

「うん……、そこ……、ぁっ……」

 

 なーにやってるんですかね。

 訝しみながらコンコンとノックをするとすぐに返事が返ってくる。

 

「開いていますわ」

「おじゃまー」

 

 遠慮なく扉を開けて中に入ると二人は作業机に向かっていた。

 具体的に言うとマリーロールが型紙を押さえて、カッツェが目印をつけている。

 普通に裁縫師の作業中でしたね。

 

「どうしましたの?」

「いや、声が聞こえたからなにしてるのかなと思って。二人で作業してたんだ」

「マリーロール……、よく手伝ってくれる……」

「これくらい当然ですわ! 人の前に立つのがわたくしですもの! オーホッホッホ!」

 

 個人的に若干相性不安かなと思っていた二人だけどこの感じだと問題はなさそう。

 というかマリーロールの器がデカいんだろうな。

 

「ちょっと作業するの見てていい?」

「平気……」

「カッツェがそう言うなら構いませんわ」

「じゃあお邪魔して」

 

 許可が出たので近くの椅子を引いて腰掛ける。

 そのまま見ていると、当たり前だけど二人での作業は一人の時よりも速度が速い。

 カッツェのユニークスキルを計測するために定期的に作業時間を計ってるんだけど、前回ぬいぐるみを増やしたあとのペースより作業は順調だ。

 

 マリーロールのユニークスキルはギルドメンバーの経験値を上昇させるというものだけど、こうやって作業を手伝っているのが解釈されているのかもしれない。

 

「ここ……」

「わかりましたわ」

「次……そっち……」

「もう押さえてましたよ」

「ありがと……」

 

 しかし息合ってるなぁこの二人。

 この二人が仲が良いのは新たな発見だったかもしれない。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 ギルドハウスでメンバー全員がテーブルを囲んで座る。

 

「今日は店舗営業の話をするよ。クローネたち三人はもう先月やったから流れは把握してるだろうけど、カッツェとマリーロールは初めてだから説明するね」

 

 先に用意していた資料を全員に配る。

 

「まず販売する装備の種類が一枚目の用紙。武器はランク2武器各種に攻撃力強化【Ⅲ】とスキル強化【Ⅲ】。弓はないから注意ね」

 

 弓は木工師の担当なので今のうちだと作れないんだよね。

 

「やはり木工師のメンバーも欲しいですわね」

「そうだね。知り合いに木工師がいたら紹介は大歓迎だよ」

「ギルド自体が有名になりすぎてそれもちと難しいからのう……」

 

「先月末の時点で有名ではありましたけど、オークションに関する新聞部の記事で段違いに知名度は上がりましたから」

「ギルドに入れてほしいって人が多くて大変ですよぉ……」

 

 木工師以外募集してないのもあるけど、木工師も利益目当てすぎるとちょっとねと言う気持ちはわかる。

 あんまりそういう気持ちが強すぎるとトラブルの種になりそうだし。

 ならもっと早く勧誘しておけばよかったって?

 はい。

 

 でも……、めんどくさかったから……。

 まあ最悪俺が原作キャラから信用できそうな相手を勧誘することにするよ。

 

「カッツェは平気?」

「うん……」

 

 無表情で頷く。

 

「カッツェはそもそもクラスでもあまり話さないからの」

「困ったら……、シャオが助けてくれる……」

「ギルドの仲間じゃからの」

 

 やだシャオイケメン。

 カッツェはシャオが連れてきただけあって、クラスでも仲が良いみたいで大変良いですね。

 

「勧誘の話は一旦置いておいて、今回は武器だけじゃなくて防具も売るよ。軽鎧、重鎧、軽装に防御力強化【Ⅲ】とHP強化【Ⅲ】。あと装飾品も各種に体力強化【Ⅲ】と精神強化【Ⅲ】」

 

 体力は物理防御力、精神は魔法防御力に影響するステータス。

 本当はこれも装備に適した特殊効果をつけたほうが使い勝手は良いんだけど、やっぱりめんどくさかったのでパス。

 筋力強化とか魔力強化みたいな攻撃力が上がる特殊効果の方が有用なんだけどね、攻撃ステータスは物理職と魔法職で需要が二分されちゃうので良し悪しだ。

 

 その点物理防御と魔法防御は誰が使っても腐らないから汎用性が高い。

 体力【Ⅲ】×精神【Ⅲ】のステータス補正だけで同ランクの装飾品の中では一級品だし、まあ問題なく売れるだろう。

 

「あとポーション類は回復強化【Ⅲ】と品質向上【Ⅲ】。んで販売形式なんだけど、事前に告知しているように店の前に並んでもらって先に注文を取っていく先月と同じ形式だよ。販売制限は武器と防具と装飾品と消費アイテムが各1まで」

「防具は一式買えないのかの」

「そうだね。数の関係で一式買えるようにするとすぐ売り切れちゃうから」

 

 一式揃えられないと気持ち悪いという意見もあるだろうけど諦めてもらう方向で。

 

「当日の配置は店外対応がシャオとマリーロール、店内がケミーとカッツェ、精算がクローネ。三人は前回販売と同じ配置だからマリーロールとカッツェはそのサポートで」

「ジャックは働きませんの?」

「俺はこのギルドにいることを隠してるから外には出ないよ」

 

 別にサボっているわけではない。

 

「流石にトラブルがあったら呼んでもらっていいけどね。前回よりお客さんは増えるだろうし商品も増えてるから大変だろうけどよろしく」

「確認なんですが、経験値上昇系の特殊効果をつけた装飾品は販売しない、でいいんですよね?」

 

「うん、あれはオークション専用。もし客に聞かれても店で販売する予定は無いって言っちゃっていいよ」

「わかりました」

「あとカッツェが専用の衣装を用意してくれたよ」

 

 先月も接客用の服は買ってきて用意したけど、今回はカッツェが縫ってくれた専用品だ。

 見ると統一感を出しつつもそれぞれにアレンジが加えられている。

 

「あたしのヘッドドレスだけヘアバンドみたいになってますぅ……」

「ケミーは前髪が長いから……、それで目を出して……」

「は、恥ずかしいですぅ……」

 

 まあ接客だからその辺は慣れてもらって。

 

「わしのは後ろ髪が上げられるように髪留めがついておるの」

「それは……、マリーロールに手伝ってもらった……」

 

 その髪留めでシャオの長い後ろ髪をU字に折り返してコンパクトにまとめられる、というコンセプトだろう。

 確かに人の間を歩き回るからあんまり長いと人に引っかかったりするかもしれない。

 

「わたくしの衣装だけ胸が別の布になっていますわね」

 

 他のメンバーと違ってマリーロールだけシャツが二枚になっていて、胸を覆うシャツを着てから胸の部分だけ切り抜いたシャツを上からもう一枚重ねて着る形になっている。

 

「マリーロールは……、胸が大きすぎる……」

 

 直球で草。

 

「それはわたくしのせいではありませんわ!」

 

 まあ実際あれを収める形に立体裁縫するよりは二枚に分けたほうがデザインしやすいのはありそう。

 

「なに見てますの」

「よく考えてデザインされてるなぁと思って」

 

 嘘ではないよ。

 

「まあともかく、月末の営業はよろしくね。オークションの売上も含めて給料が出るから期待してていいよ」

「それは楽しみじゃのう」

 

 シャオの言葉にみんなが頷いた。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「ん?」

 

 今日も授業が終わりギルドに向かうと、ギルドハウスの裏口を観察する学生の姿があった。

 一応物陰に身を隠しているけれど、探知スキルに引っかかったので事前に気付くことができた。

 このまま中に入るところを見られると面倒なので、俺はそのまま脇の道を通り過ぎる。

 上げててよかった、探知スキル。

 

 隠密ってあんまり集中して上げてる学生は少ないし、路地みたいなわかりやすい場所で事前に警戒していれば見逃すことは早々ない。

 見た限り同級生だったけど、加入希望か付与合成の秘密を知りたいのかのどちらかだろうか。

 ギルドメンバーの誰かの追っかけって可能性も……、流石にないか。

 

 まあどっちにしても監視されているのに馬鹿正直に姿を見せる理由もないので、予定を変更して先に買い物をしておくことにする。

 

「こんにちはー、実は今路地裏に怪しい人影があったんですけど……」

 

 ついでなので、見かけた風紀委員に通報しておく。

 この学校の風紀委員は不正を行う生徒を取り締まるために結構な権力があるので、問題なく追い払ってくれるだろう。

 

 それからしばらくしてギルドに戻ってくると、予想通り不審者は無事に退治されていた。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい、ジャックさん。今少しよろしいですか?」

「クローネ、どうしたの?」

 

 俺がギルドハウスに入ると、ちょうどいたクローネに声をかけられる。

 

「今回のオークション、参加なさいますか?」

「あー……」

 

 月末のオークションにギルドから出品するのは既に手続きが済んでいるので、確認されているのは落札者側の話だろう。

 

「俺はいいかな」

「そうですか?」

「うん、今のところは欲しいものもないしね」

 

 出品リストは目録として確認できるけど、欲しいものは特にない。

 正確には予算に限度がなければ欲しいものもあるんだけど、今の時期じゃ買えるものも限られる。

 出品された品の落札金額が原作とどれくらい差があるかは気になるところだけど、そのへんはわざわざ参加しなくてもあとで確認すればいいしね。

 

「でもクローネが行きたいなら行ってみてもいいと思うよ。ギルドのみんなを誘ってもいいだろうし」

 

 俺は既に原作知識で既知だからさほど興味もわかないけれど、初見ならエンタメとしても楽しめるだろう。

 

「そうですか、わかりました。皆さんに確認してみます」

「うん、楽しんできて」

 

 この時クローネに誘われた意図に気付くのは、少し時が経ってからのことだった。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「ふー、疲れた」

 

 俺が書類仕事をやっと片付けて机に倒れ込む。

 月末は仕事が増えてダルいね。

 売った装備の計算とみんなに賃金を渡すための精算が必要だからしょうがないけど。

 お金は大事。

 

 なんて思っていると、その時ちょうど現れたシャオがこちらに視線を向けた。

 

「お疲れさまじゃの、ジャック」

「珍しくまじめに作業して疲れたー」

「頑張っている我らがギルドマスターの労いに肩でも揉んでやろうかの」

「えっ、ほんと。ならよろしく」

 

 折角の申し出なので背筋を伸ばすと、椅子の後ろに立ったシャオが肩を揉んでくれる。

 

「あー、きもちいいー」

「これは結構肩が凝ってるのう」

「ダンジョン潜ってる時より数字とにらめっこしてる時の方が疲れるまである」

「それは気持ちはわかるのう。わしも授業中よりも鎚を握っているあいだの方が疲れないからの」

「シャオは力持ちだもんねえ」

 

 身体が小柄で腕も細いのに、肩を揉まれる感触は力強い。

 

「手も小さいのにね」

「そうかの?」

「そうだよ。だってほら」

 

 シャオの手を取って自分の手の平と重ねる。

 俺の手と比べるとシャオの手はふたまわりくらい小さい。

 同年代の女子でもここまで小さいのは珍しいくらいだろう。

 

「それはジャックの手が大きすぎるんじゃないかのう」

「いやいや、俺は男子の中じゃ平均的だよ」

 

 むしろ低身長男子が少ないこの学園だと、偏差値45くらいかもしれない。

 

「んんっ」

 

 そんなシャオの小さな手が指に力を入れて押してくるので対抗する。

 流石生産職で一番筋力が伸びる鍛冶師といったパワーではあるけど、こちらは普段から武器を振っているので負けはしない。

 

「やっぱり勝てないのう」

「一応戦闘職だしね」

 

 生産ギルドの代表やってるけど。

 ステータス的にもこっちの方が数字は上だしね。

 

「貴方たち、なにをしていますの?」

 

 ちょうどそこに通りかかったマリーロールがこちらを怪訝な目で見る。

 

「シャオに肩揉んでもらってた」

「どう見ても肩を揉んでいる様子には見えませんけれど」

 

 俺とシャオが指をぐにぐにしている様子は確かに見えないでしょうね。

 

「それはシャオの手が小さかったから流れで」

「ジャックの手が大きいんじゃよー」

「いや、シャオの手が小さいんだって。肩揉むのは上手かったけど」

「まあそれほどでもあるかの」

 

 ふんすと彼女が胸を張る。

 

「たぶんマリーロールより上手いんじゃないかな」

「いまなんとおっしゃいまして? それは聞き捨てなりませんわね」

「ならシャオに揉んでもらって確かめてみれば?」

 

「それでは勝負になりませんわ! ここはわたくしがジャックの肩を揉んで実際に判定してもらいますわよ!」

「まあいいけど。じゃあ俺はシャオの肩でも揉もうか」

「これはありがたいの」

 

 まず先頭のシャオが椅子に座り、その後に同じく椅子に座った俺、そして最後尾が立ったままのマリーロール。

 はたから見たら変な光景だろうなあ。

 別にマリーロールだけ立たせているわけではなく、身長差の関係でこうなっただけだけど。

 

「おぉ……、ジャックも結構揉むの上手いのう……」

「気持ちいい?」

「極楽じゃよー」

「ならよかった」

 

 シャオの肩は金鎚を振るっているだけあって凝っているけれど、それでも触れた感触は男のものと明らかに異なっている。

 筋肉の質が違うのかな、あと肌の感触もスベスベだし。

 

「わたくしの指捌きはいかがですの!」

「うん、気持ちいいよ」

「そういう玉虫色の答えは求めていませんわ! どちらが気持ちいいかと聞いているんですのよ!」

 

「それはシャオ」

「なんでですのー!?」

「だってシャオに揉んでもらった時の方が肩凝ってたし」

 

 必然そちらの方がマッサージもよく効くのは道理だ。

 

「なら再戦を希望しますわ! ジャック、今すぐ肩を凝らせなさい!」

「いや無理でしょ。また今度ね」

 

 流石に今から疲れるのは不毛すぎるのでパス。

 とはいえマリーロールのマッサージも決して下手なわけではなく気持ちよくはあるけど。

 

「マリーロールも揉む?」

「わたくしは必要ありませんわ。殿方に気安く肌を許すわけにはいきませんもの」

 

 自分で揉むのはいいのに揉まれるのは駄目なのかとかそもそも服越しで肌ではないでしょとか思ったけれど、まあ彼女の中の基準があるなら尊重しよう。

 

「ならわしが揉んでやろうかのう」

「それならまあ、かまいませんわ」

 

 ということでマリーロールが椅子に座り、そのうしろに立ったシャオが肩を揉む。

 

「あふんっ」

「マリーロールも結構肩凝っとるのー」

「マリーロールはいつも姿勢がいいから、その分肩も凝るんじゃない」

 

 背筋を伸ばした綺麗な姿勢って疲れるからね。

 

「そうですわ! 高貴な者は常に誰に見られても恥ずかしくない姿でいる必要がありますのよ! あひんっ」

「この前トーナ様と知り合いになったんだけど本当か聞いてみてもいい?」

「諸説ありますわ!」

 

 手の平ドリルじゃん。

 

「みなさん、なにしてるんですか?」

 

 次に現れたのはクローネ。

 肩を揉んでいるシャオと揉まれているマリーロールの代わりに俺が答える。

 

「シャオに肩揉んでもらってたかな。かなり上手だったよ」

「そうですわね、この指遣いはわたくしも認めざるをえませんわ。ひゃんっ」

「クローネもやるかの?」

 

 マッサージをしながら聞いたシャオにクローネが笑顔を返す。

 

「そうですね、私もまた今度お願いします」

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 夕食を終えて、部屋に戻ってきた俺は机の前に腰掛ける。

 今月の装備販売も無事終わり、オークションの売上も満足のいく結果だった。

 

 特に出品した三つの指輪は、合計で300万オーラム近い金額で売れたのでかなりの儲け。

 ギルドでの装備販売の売上も合わせれば、総計は1000万オーラムを超える。

 これは同学年のギルドと比べれば圧倒的な数字だろう。

 

 アイテムドロップ率アップだけ相対的にはちょっと安かったけど、それでも単品で見れば十分な金額だったし。

 現状でも資産に困ってはいないけど、金があればできることも増えるのであって困るものでもない。

 SPポーションがぶ飲みでレベリングとかもできるしね、今はやらんけど。

 

 ともあれ、ギルドの運営は今のところ順調だ。

 

「ふう」

 

 一息ついて机の棚を開ける。

 そこから取り出したのは、手形を押された一枚の手紙。

『お前を見ているぞ』という文面と共に送られてきたこれは、ある種の挑戦状。

 それを見て、手形の指紋部分を改めて確認する。

 

「…………、うん。シャオじゃないな」

 

 シャオと手を重ねた際に確認した手のサイズは、明らかにここに写されたものとは別物だ。

 見える範囲で確認した指紋も、ここに残されたものとは一致しないように見えた。

 

「まず一人目かぁ」

 

 俺は脳内でこの手紙の犯人探しの容疑者リストから彼女を除外する。

 

 次は誰かなぁ。

 考えながら周囲の女性陣を思い浮かべる。

 

 正直シャオと特別仲が良くなったというよりは、シャオ自身が特に異性との距離が近くて触れるのに心理的な抵抗が少ないだけだったという感じだから、このまま他の女子たちにも同じようにとはいかないだろう。

 

 個人的な感覚で言えば、おそらくシズカは普通に見せてくれる。

 ただし、代わりになにか要求されるかもしれないから安易に頼むのは危険かな。

 理想は自然な流れで確認することだけど、女子の手をそこまで確認できる状況になること自体が難しい。

 どちらかといえばなにか軽い頼みを聞いて、その見返りに見せてもらう流れが理想だろうか。

 

 カッツェも問題なさそうだけど、その場面を他のギルドメンバーに見られたら問題になりそう。

 ケミーは五分五分といったところかな?

 クローネとマリーロールは他のメンバーより距離があるというわけではないけれど、本人の性格的にまだ怪しいかもしれない。

 

 アクアさんは、頼んだら恥ずかしがりそうで結局見せてくれるかは怪しいかも。

 ルビーさんは……、『何? 別にいいけど』って普通に見せてくれそうな気もするけど『は? 何言ってんの?』って素で言われそうな気もする。

 

「うーん……」

 

 こう考えると手をまじまじと見せてもらうというのはわりとハードルが高い。

 シャオは特に身体が小さいから、手の大きさを比べただけで違うって判別できたけど他の女子はそうもいかなそうだし。

 あとギルドメンバーは利害を伴う協力関係だから、手を見せてもらおうとして不審がられたら困るって事情もある。

 

 それこそシャオのように髪に触れられるくらいか、逆に肩を揉んでもらえるくらいの距離感にならないと。

 逆にどう考えても拒否されないだろうってくらい親しくなった上で断られたら、実際に指紋を確認できなくても犯人の疑いが濃厚と判断できるかな。

 

 この紙を見た時点で思ったことなんだけど、わざと指紋を残したことに自分を見つけてみろという挑発の意図があるなら、犯人はあっちから近付いてきそうな気がするんだよね。

 だから俺も新メンバーの勧誘をクローネたちに頼んで、彼女たちを通して推定女子の犯人が接触しやすいようにしたって思惑もあったし。

 

 学園には戦闘科・生産科・採集科の同級生上級生に教師や事務員など合計で数千人が日常的に存在しているし、隠れて逃げ切ろうと思ったらあっちの方が有利すぎるから。

 見つからなくて当たり前の状況なら、逆にこの手紙の差出人はある程度こちらと接点を作っておいて『近くにいるのに気付かなかったのー? プークスクス』ってしてきそうな気がする。

 

 っていうか無理だよ指紋以外ノーヒントで探すの。

 ということで、今後は知り合いから順に指紋を確認していくのが妥当な線だろう。

 これから知り合う相手が目当ての人物の可能性もあるしね。

 

 なにはともあれまず一人目。

 

 最初の一人は俺の予想よりだいぶ早かったから二人目はしばらく埋まらないかもしれないけど、学園生活は二年と十ヶ月もあるからまだ慌てるような時間じゃないのでぼちぼちやっていこう。

 

 そんなことを考えながら、俺は寝る準備を済ませて布団に潜った。

 それじゃあおやすみなさい。

 

 

 スヤァ……。

 




・ここまでの進捗まとめ的ななにか
↓ここから下には本編でまだ提示されていない情報が記載されています。↓
↓知りたくない方はスルー推奨です。(読まなくても本編を楽しむのに支障はありません)↓

・メインキャラ関係値表
Q.関係値とは?
A.ジャックに対する各キャラからの関係の強さ(気持ちの強さ)です。(好感度ではありません)

・ケミー
関係:【信頼】
関係値:【☆☆☆☆】
解説:ケミーは自身が優秀な学生でないことを自覚しており、そんな自分を勧誘してレベル上げの機会をくれたジャックに対して【信頼】を示している。
彼女はあまり表には出さないが自身のスキルレベルを上げることに強い思いがあるので、このままレベルを上げていけば関係値は上がっていくだろう。

・クローネ
関係:【信用】
関係値:【☆☆☆☆】
解説:クローネとってギルドの代表であるジャックは【信用】に値する人物だ。
彼女にとってジャックの知識以上に、彼の判断と対応に好ましいものを感じている。
互いにある意味ではギルドメンバーの中で一番相性の良い相手である。

・シャオ
関係:【仲間】
関係値:【☆☆☆】
解説:シャオにとってジャックは信頼できる【仲間】だ。
異性ながら気安い距離感のシャオはジャックにとっても一緒にいて一番楽な相手であるかもしれない。

・カッツェ
関係:【親愛】
関係値:【☆☆☆】
解説:口数少なくで表情に乏しい彼女は他人とコミュニケーションをとることに苦労することもあり、そのままの自分でも意思が伝わるジャックに対して自然に接することのできる相手だと【親愛】を感じている。
それは例えるならカッツェが自身の作ったぬいぐるみに対して持っている感情に近いかもしれない。

・マリーロール
関係:【承認】
関係値:【☆☆】
解説:マリーロールはジャックのことをギルドの代表であり欠かせない人物であると【承認】している。
彼女は誰にでも分け隔てなく接し、困っていれば手を差し伸べるが、自身より上の立場と認めている同年代の相手はほとんどいない。

・アクア
関係:【不明】
関係値:【☆☆☆☆☆】
解説:よくパーティーを組み、異性の中にでは一番親しく、同性の友人とは少し違った感情を、彼女自身がまだ自覚できていないことから【不明】と書くのが一番適切だろう。
また彼女の気持ちには複数の要素が絡み合っており、ひと言で説明するのも難しい。
その気持ちに彼女自身が適切な名前をつけられるのはまだ先の話。

・ルビー
関係:【仲間】
関係値:【☆☆】
解説:ルビーはジャックに対してその戦闘スキルを認めており、肩を並べて戦うに足る【仲間】であると認識している。
ただしルビーからの距離感はジャックよりアクアの方が近いので、友達のアクアの親しい異性の友人という方が適切かもしれない。(ただしこれは相対的な距離の話であって、仲間として認識していることもまた事実である)

・シズカ
関係:【興味】
関係値:【☆☆☆☆☆☆☆☆】
解説:シズカにとって学園でのダンジョン攻略は『自分の意思でやりたいこと』というよりは『自身に課されたやるべきこと』という意味合いが強い。
とはいえダンジョン攻略が苦痛なわけでなく、それを問題なくこなしているが、自身で見つけた未知であるジャックには義務であるダンジョン攻略よりも強い【興味】を示している。
ただし、彼女の【興味】は未知に対するものであり、それがなくなった場合に失われる可能性もあるかもしれない。

・アレックス
関係:【友情】
関係値:【☆☆☆】
解説:アレックスは自身が悩んでいる時に相談に乗ってもらったこともあって、ジャックへ【友情】を感じている。
とはいえアレックス自身が情に厚い性格をしているので、友人の中で特に関係性が深い、というわけでもない。
彼にとってクラスメイトや複数回話したことのある相手の多くは意識せずとも同じカテゴリーに分類されているだろう。
原作主人公で交友が広いこともあり、その総数は現状で100を超えるかもしれない。

・ルーク
関係:【興味】
関係値:【☆☆】
解説:ルークはジャックが稀に話す珍しい知識に対して【興味】を持っているようだ。
とはいえこれは疑念というよりは、彼自身の向上心と知的好奇心による物で、まだ見知らぬ知識があればそれを聞きたいと考えている。
彼自身も貴族であり、この学園の卒業生である姉を持っているので、授業で習ってないような細かい知識をいくつか姉に聞いていることもある。(正確には稽古でボコられながら姉が一方的に話していた)
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