ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
ギルドメンバーの仲は良好。
犯人探しのシャオはシロ。
次のターゲットはシズカかな。
入学してから二ヶ月ほどが経ち、今は六月の第一週。
掲示板でランキングを見るとトップはついに20階層のボスを越え、21階層に到達していた。
そこから視線を落とすと一番下は20階層。
上位50名が20階層or21階層に詰まっているのでボスが団子を作っているのがよくわかる。
実際上位層の中にもボス戦で全滅して5日間のダンジョン出禁を食らっているパーティーもいるようでなかなか大変そうだ。
個人的には自分が攻略できるように早めに倒してほしいんだけど、初見攻略は難しいからしょうがないね。
「こんにちは」
掲示板を眺めていると、横から声をかけられた。
「シズカか」
「はい、私です」
現れた彼女は、ちょうどこのランキングの一番上に名前を乗せる学年一位。
というか入学後からずっとその位置をキープしていて一度も陥落していない。
原作だと主人公が作るギルド以外にもシズカとトップを競り合うギルドがあるんだけど、この世界では今のところ順位が脅かされることはなさそうだ。
俺自身の理想でいうとゴリゴリに競い合って攻略ペースを加熱させてくれたりしたら理想なんだけど、現実はそう思い通りにはいかない様子。
「ボス攻略おめでとう」
浜辺階層の攻略を祝福すると、彼女はこちらを見て薄く笑う。
「ありがとうございます。貴方も早くこちらに来てくださいね」
「そこはボス戦頑張ってねじゃないのか」
「頑張る必要はなさそうですから」
まあうん。
そうなんだけどさ。
「そいや20階層突破者はまだ四人だけどそっちのギルドって何人だっけ?」
「今は10人ですね」
「全員戦闘科?」
「ええ、本当は12人まで揃えたいんですけど基準を満たす希望者がいなくて困っているんです。貴方なら歓迎しますよ?」
「お気持ちだけ」
「そうですか、残念です」
と言いつつシズカの顔は笑顔のまま。
本気で誘えるとも思っていなかったんだろう。
「そういえばシズカは夏期休暇の予定は?」
「実家に帰る予定ですね。デートのお誘いでしょうか?」
「まあシズカがしたいならしてもいいけど」
「あら、あらあらあら。本当ですか?」
「夏期休暇中なら人も減るしな。目立たない場所なら付き合うぞ」
まあデートの意味合いが『恋愛対象とのお出かけの誘い』なら断るけど、シズカが言うデートは『珍しい生き物の観察』くらいの意味合いだろうし。
それにあちらから頼み事をしてくれるなら好都合、一回お願いを聞いて断れない状態にしてからこちらの頼みも聞いてもらおう。(犯罪者スマイル)
「では実家に帰るのはやめておきます」
「それでいいのか……」
「構いませんよ?」
シズカも実家は貴族だったはずだけど……。
「別に夏期休暇の全日程空けろとは言ってないが……」
「構いません」
つよい。(確信)
まあ本人がええって言うならほなええか。
「ちなみにどこに行くつもり?」
「それは当日までの秘密、ということにしておきます」
あっ、ほーん。(何かを察した顔)
「楽しみにしていてくださいね」
「お手柔らかにな」
「それは保証できません」
楽しそうな顔で恐ろしいこと言うなぁ。
「では、次の階層でお待ちしていますね」
浜辺階層を攻略し終えて、先に次のフィールドに進んでいるシズカがそう言った。
☆★☆★☆
「全員席につけ、授業を始めるぞ」
今日もスカーレット先生が教壇に立ち授業を始める。
「今日は20階層の階層主について説明するぞ。まず浜辺階層らしくフィールドは砂浜。陸地は円形になっていてそれより外周部は海で水没している」
外周部は人が溺れるほどの深さはないけれど、それでも膝くらいまではあるので動きが制限される。
当然ボスの行動を避けづらくなるので入るのは非推奨。
なお自主的に入らなくてもボスに吹き飛ばされたりするので注意だ。
「そしてその中で戦うのがボス、シャークサイクロンだ。こいつは文字通りサメ型のモンスターで基本は空中を泳ぐように動き攻撃してくる」
そもそもどうしてサメが空を飛ぶんですかね……。
まあこの世界だと今更だけど。
小魚もエイもクラゲも飛ぶし。
カニとザリガニは飛ばないけど。
「体高は背ビレ込みで1.5メートル、全長は3メートルほど。今回は取り巻きの雑魚はいないのでその点は安心していい」
ちなみに通常時から数十センチ浮かんでいるので、背ビレを部位破壊したい時は合計2メートルくらいの高さを殴らなきゃいけなくてちょっと大変。
雷属性魔法の『サンダーボルト』が使えると、真上から雷を落とせるからかなり楽なんだけどね。
「基本的な攻撃は体当たり、噛みつき、尻尾により殴打、突進などこのあたりはオーソドックスなものだな。10階層のゴールドライオンを倒せたのなら十分に対応できるだろう」
もちろん固有のモーションに差はあるしダメージも痛くなっているけれど、それでも過去の経験から慣れやすい範囲。
イ◯ンクック先生に慣れたらリ◯レウスとも戦いやすいのと同じような理屈だ。
骨格が違いすぎるだろって?
どっちも物理攻撃のバリエーションは似たようなものだからへーきへーき。
「とはいえシャークサイクロンの攻撃はそれだけではない。具体的には口からのブレスとサイクロンの名前通り発生させる風の攻撃だな」
なお属性は氷に分類されている。
水属性とか風属性とか存在しないからしょうがないね。
一応申し訳程度に氷エフェクトがつけられてたりもするけど。
「これらは魔法属性の攻撃であり、魔法防御力を上げることでダメージを軽減できるぞ。具体的には魔法防御力の数値が高い防具を選ぶ、アクセサリーや特殊効果に精神ステータスの上昇効果をつけるなどだな。当然氷属性耐性を上げるのも効果的だ。ただし物理防御を疎かにするとそちらのダメージがキツイので注意しておけ」
シャークサイクロンに関しては装飾品で氷属性耐性を上げるのは実際有効、まあ俺は全部避けるからいらないけど。
遠距離職はヘイトさえ漏らさなきゃ警戒する必要があるのは魔法攻撃くらいなので、防具は魔防極振りしてもいい。
「なおシャークサイクロンは雷属性が弱点となっている。部位によるが一番通りが悪い背ビレや尻尾でも雷属性は物理攻撃よりも有効、頭や腹などはさらに大きなダメージを与えられるぞ。雷属性の魔法を使うのもいいし、雷武器を持ち込むのもいいぞ。ただし属性武器は活躍する場所が限られるので自分の懐とよく相談して買うか決めるといい」
特にボス階層をクリアしたら装備更新のタイミングなのでそっちの方でも悩ましい。
まあ俺はギルドのメンバーが作ってくれるから関係ない。
背ビレとか尻尾は雷属性だとダメージ倍率120%、腹や頭は140%。
物理だと背ビレは倍率80%とかだったりするので、120%でも実質物理の1.5倍のダメージだ。
「シャークサイクロンは強敵だが、ここまで進めているのなら倒せない相手ではない。各自万全の準備をして挑むように」
「はい!」
………………
…………
……
「では授業はこれで終わりだ。今日の授業は来月の試験にも出るからちゃんと覚えておけ」
シャークサイクロンの解説のあとも授業は続き、チャイムが鳴ったところで先生がチョークを置いた。
この学校は七月後半で前期が終わり、夏期休暇を挟んで九月から後期が始まる。
ということで当然学期終わりには試験があるというのが原作にもあった流れ。
スカーレット先生が受け持っているダンジョン学の授業のほかにこの国の歴史とか算術とかの試験もあるんだけど……、まあどうにかなるでしょ。
ならなかったら補習があるから流石にそれは回避したいところだ。
「あとジャックはこのあと職員室に来るように」
え?
なにかの聞き間違いかな?と思って視線を先生に向けるが、当の本人は伝えることは以上だといった様子で教室を出ていく。
これで行かなかったらガチで怒られるやつだなぁ……。
「おい、ジャック、スカーレット先生に呼び出されるなんてなにやらかしたんだ?」
近付いてきたクラスメイトのサイモンにそんなふうに絡まれる。
なにをやらかしたのかと聞かれると……、心当たりが多すぎてわからん。
「きっと俺の成績が良すぎるから直接褒めてくれるんだろ」
「んなわけないだろ、到達階層俺と同じじゃねえか」
なんてツッコミを入れてくるサイモンは放っておいて、俺は呼び出された職員室へと向かった。
コンコン。
「失礼します」
「きたか、ジャック」
ノックして入った職員室の中は広く、スカーレット先生以外にもチラホラと教員の姿が見える。
スカーレット先生が原作メインヒロインなので、イベント進める過程でよく来ていた場所なこともあり緊張はしないけど。
「それで、お前はなんで呼び出されたか分かるか?」
椅子に座った先生の前に立たされている俺が答える。
「心当たりが多すぎて分かりません」
「……、本当に心当たりが複数あったとして正直に答える奴は早々いないんだがな」
ふーっと先生がため息をつく。
「すみません」
「まあいい、じゃあその心当たりというのを聞かせてもらおうか」
「それはいいんですけど……、できれば人のいない場所で話したいんですが」
「ここには教員しかいないが?」
「それでもです」
正直に答えた俺の顔を、スカーレット先生がじっと見つめる。
「…………、いいだろう」
「ありがとうございます」
ということで先生に連れられて個人指導室へ。
中には背の低いテーブルを挟んでソファーが置かれている。
「そこに座れ」
「失礼します」
促されて対面に座る。
当然目線の先には先生の顔がある。
改めて見ても美人だなぁ。
「それで、心当たりというのは? わざわざ移動させたんだからふざけた答えを聞く気はないぞ」
先生の目がマジである。
こわい。
「はい、まず一つ目は非効率的なレベル上げをしていること」
「…………、二つ目は?」
「ギルドの代表として付与合成した装備を売っていること」
「三つ目は?」
「同じくギルドで経験値上昇等の特殊効果を付与した装備をオークションに出品したこと」
「四つ目は?」
「新聞にダンジョン攻略に関する記事を書いていること」
「……、あれもお前だったのか」
「それは知らなかったんですね」
「新聞部は教員に対してもそう簡単に情報は出さないからな」
まあ原作知識で知ってたけど、この世界でも利害が一致している限り新聞部の口は固そうなので一安心だ。
やっぱりマスメディアは体制に反抗しないとね。(冗談です)
「他には?」
「以上です」
「そうか」
スカーレット先生が一度頷いて言葉を切る。
「ちなみにどこまで把握していました?」
「まず今日呼び出したのは一つ目が理由だ。二つ目と三つ目は学校側に申請が通っているから、お前が今話題になっているギルドの代表であることは把握していた。だからといってほかの学生にそれを漏らすようなことはないがな」
学生課にギルド結成の書類は提出していたわけだけど、教員はそこを閲覧できる権利があるらしい。
まあ自身の受け持つクラスの生徒だけとかって制限があるかも知らないけれど、どちらにしろ学生に漏らされなければこちらにとって不利益はないかな。
学校側から見ても付与合成と経験値上昇系効果は結構な大事だろうけど、問題が起こるまでは学生を見守る教員として振る舞ってくれるようだ。
これはありがたい。
「先に聞いておくが、私に話してもよかったのか?」
「先生のことは信用してますから」
相手は原作メインヒロインで、俺は仮にもヒロインイベントを一通り見た身である。
信じるにはそれで十分だ。
「そうか、まあいい。それでまず一つ目の話だが、これに間違いはないな?」
テーブルの上に置かれた資料を目に落とす。
そこに書かれているのは俺のスキルレベル一覧。
「これってわかるんですね」
学生間だと他人のスキルレベルを調べる手段はないんだけど、やっぱり教職員側だと把握できるんだ。
「ダンジョンに関する情報は学園側で調べることができる、詳細は秘密だがな」
「やっぱり、これが関係しているんですか?」
俺が見せたのは左手につけた『救命の腕輪』。
ダンジョンで全滅した時に脱出させてくれる効果があるということで学生全員に着用が義務付けられている腕輪だけど、それに学生個人の情報を集めるような効果があっても驚かない。
まあダンジョン自体が情報を収集する機能があって、そちらから参照しているのかもしれないけど。
「ノーコメントだ。一応言っておくが、腕輪を外してダンジョンに入ろうなどと考えるなよ」
「それは大丈夫です、知られて困るようなことはしてませんし」
ダンジョンの入出履歴、到達階層、各生徒のスキルレベルあたりは記録を取られているかもしれないけど、教員に見られて困るようなことは特にない。
流石に盗聴機能とか付いてたら嫌だけど、王族貴族もいる学校でそれはないでしょ。
「では話を戻すが、私が何を言いたいかはわかるな?」
「はい」
用紙に記されているスキルレベルは刀と服防具の軽装が18、片手剣と小盾と軽鎧が16、ほかにも蹴りとかメインサブ共にいくつかレベルが上がっている。
先生が問題にしているのは特にメインスキルの部分。
刀のレベル18と片手剣のレベル16は経験値をどちらかに一本化していれば20中盤まで上がっている数字。
例えば25なら学年1位を追い抜いて余裕でトップになっているという値だ。
客観的に見ればなんて無駄なことをしているんだと言いたくもなるだろう。
もちろん両方並行して上げているのにも理由はあるんだけどね。
「その顔を見ると、勘違いで非効率な方法を取っているわけではないようだな」
「はい」
同級生には複数のスキルを並行してあげたら最強じゃんって勘違いしてる原作キャラもいるけれど、俺はそうではない。
レベルを上げるメインスキルは基本一つ。
というか普通の学生の攻略速度だと一本に絞っても、卒業までに100階層攻略の目安であるレベル100に到達できない。
去年の卒業生の最高到達階層が78って言ってたから、大体レベルも80くらいまでしか上がってないだろうし。
おそらく今年の卒業生も同じくらいだろう。
三年間という制限時間がキツイのは原作プレイヤーでも話は同じ。
例えば原作の廃プレイヤーが最高率のスケジュールを立ててジャックというキャラクターを育成したとしても、卒業までにカンストさせられるメインスキルは二つがせいぜいだろう。
まあそれなら育てたい二つのスキル適正が160%/140%とかのキャラ育てれば良いんだけど。
100%/100%のジャックより単純計算で育成効率1.5倍だしね。
そっちのキャラならメインスキル三つカンストも視野にはいるんじゃないかな。
話をまとめると、メインで使うスキルは一つ。
それがこの世界の常識だ。
「理由は何だ?」
「そうですね、強いて言うならあまり目立ちたくないので」
「目立ちたくない?」
「はい。好成績を残して実家に呼び出されたりしたら時間がもったいないですし」
別にジャックの実家を悪く言うつもりはないんだけど、試験成績も並以下だった弱小地方貴族の六男が王族や部門の名家を差し置いて学年一位になったらお祝いしようという話になるのは自然な流れだろう。
なんだけど俺からしたらそんな話のために往復数週間のロスは遠慮願いたい。
ついでに俺が不在になると精霊粉の調合が出来ないからギルドの製作作業も滞るしね。
ギルド代表としてメンバーに迷惑かけるようなこともなるべく避けたいところではある。
「私としてはどちらかに一本化して攻略を進めろと言いたいところだが……、その気はなさそうだな」
「すみません」
先生には申し訳ないが俺にその気はない。
というか今の学年1位が21階層で俺が18階層なんだけど、追い抜こうと思ったら一週間もかからずに追い抜けるんだよね。
今のレベルでも20階層のボスは問題なく倒せるし、ボスソロ無限周回の経験値はそれだけ高効率。
居合で相手を封殺したうえで4人パーティーよりも経験値4倍のソロ攻略はそれだけレベリングとして優秀だ。
ボス部屋は隔離空間だからほかの同級生たちに目撃されるような心配もないし安心して周回できる。
やらないけどね、必要ないし。
学年トップに追い付き追い越す必要があるのは100階層だけなので、レベルを集中的に上げるのは終盤だけで十分。
それをやるくらいならギルドメンバーのレベリングをしたい。
俺のレベルはどうとでもなるけど、装備を用意するにはみんなのレベル上げは常に重要だ。
俺個人ではどうにもならないところなので、優先順位は最上位。
といってもギルドメンバーがめっちゃレベル上げても作った装備を買える人がいないと意味がない。
装備を売って新しい素材を買わないとレベル上げができないし。
だから同級生にがんばってほしいんだよね。
みんな、新聞の攻略記事を読んで頑張ってくれ。
もしみんながシズカのギルドと同じくらいの攻略速度になったとしても現状であれば十分抜き返せるからガンガン攻略してほしい。
最終的には少なくとも80階層に同級生が数十人は居るのが理想。
なお去年の学年トップが78階層だったと前述した通り、普通にやったら到底達成できない前提である。
なので今から新聞記事で同級生の全力サポートを始めても早すぎるということは全くない。
まあ本当にヤバいネタは表に出さないけど。
あと将来的にはそんなに簡単に抜きかえせないくらい進まれても困るから攻略をリークする速度もこっちで調整させてもらうけど。
「わかった。ひとまず付与合成と経験値上昇系付与に関しては情報が漏れないようにだけ気をつけなさい。その情報にはそれだけの価値がある」
「そこは大丈夫です」
付与合成はギルドの中で完結しているので、ギルドメンバーが漏らさなければ詳細が外に伝わることはない。
もし俺がギルドマスターだと調べがついたとしても、中で何やってるかなんて分かるわけないからね。
だから極論『付与合成の実際の仕組み』だけ隠し通せれば攻略計画に支障はない。
じゃあなんで俺が所属してることを隠しているかって?
そりゃまわりから『ジャックってあのギルドの代表なんだろ? ちょっと俺に装備作ってくれよ』なんて言ってくる知り合い(知り合いじゃない)が増えたらめんどいから……。
いやまあ流石に理由はそれだけじゃないけど。
とはいえ優先順位は【ギルドメンバーのレベル上げとその環境作り】>【俺のレベリング】>【なるべく目立たないこと】って感じなので、本当に必要なら身バレのリスクは背負ってもいい。
ギルドメンバーのことも信用しているしね。
少なくとも、付与合成で完売御礼する前提に支えられているレベリングと、経験値上昇+生産速度上昇のアクセサリーの上位互換を将来的に受け取れる権利を捨てて情報を漏らすような愚者はうちのギルドにはいない。
そこは仲間を信用しているの一言でいいだろって?
いや……そうなんスけど……違くて……もちろん仲間は信用してるんスけど……組織の代表としてメンバーの将来を預かる身として最低限の保険っていうか……。
なんて冗談は置いておいて。
新聞部もギルドの中でやっているからあちらが漏らす以外のルートで情報が漏洩することはないだろうし。
現状好評の攻略記事の続きを捨ててまでそれをやる理由もない。
定期的に新聞部がギルドに来るのが把握されても、店の記事を定期的に出せばただの取材だと判断されるだろう。
あとそもそも、全員原作のキャラエピソード全部見てるから信用できる相手だって知ってるしね。
前提として原作が緩い世界観で悪意のあるネタはあんまり無いのもある。
この世界が原作と全く同じとは言わないけど、世界観をベースにしているのは間違いないのでそう心配はしていない。
「ちなみに攻略記事のことは大丈夫ですか?」
「そちらは……、私の管轄じゃないからな」
あ、問題放り投げた。
「基本的に教師や上級生が下級生にダンジョン攻略に対して過度に手を貸すのは推奨されない。パワーレベリングなどがその一例だな」
例えば50階層まで攻略してる上級生が一年を引き上げれば簡単にそれに近い階層まで進むことができるがそういった事例は確認されていない。
まあ同級生に王族貴族がいるのに身内を引き上げてヒャッハーするのもチャレンジャーすぎるだろうけど。
逆に王族貴族本人様がやらないのもそういう不文律があるんだろうね、知らんけど。
ぶっちゃけると原作でそれやられるとゲームにならないからそういうのがなかったって前提もありそう。
ランキングがあるのに同級生がパワーレベリングで独走するのも、主人公がパワーレベリングでゴリゴリレベル上がるのもゲーム体験としてつまんないし。
こういう辻褄合わせはこの世界の色んなところで見て取れたりする。
「過度な情報提供もそうだな。とはいえモンスターの情報や戦闘の基本などは授業でやっている。その辺りの匙加減は校長や学年主任の判断次第だな」
スカーレット先生が言うにはマップ詳細は引っかかるかもしれないとのこと。
「とはいえ情報を出しているのが同じ一年ということになると前例がないのでどうなるかはわからん。あまり情報を出しすぎると学生が自分で攻略する力が育たないという意見もあるが、結局戦闘面では実力次第だからな。問題があるとしてもまず新聞部に話が行くだろう」
ほなええか。
いやよくないけど、あとでペス先輩たちと話し合えばいいや。
「ともかく話はわかった。今日確認することはこれだけだ」
「はい、失礼します」
席を立って部屋を出る前に、思い出したことをスカーレット先生に伝えておく。
「そうだ、俺は今すぐ学年一位になるつもりはないですけど、卒業前には100階層を攻略するつもりなので安心していいですよ」
実は未だに誰にも言ってないことだけど、先生になら伝えちゃってもいいだろう。
今日呼び出されたのも担任の持っているクラスの生徒を心配してのことだろうし。
善意には誠意で報いたい。
「そういうのは言葉じゃなく行動で示せ」
「はーい」
塩対応だけど、まあ今のこの時期にそんなこと言ってても信じてもらえないのはしょうがないね。
「100階層攻略するダンジョン王に俺はなる!」なんて言っても妄想以外の何物でもないし。
なら結果は実際に見てもらうことにしよう。
………………
…………
……
「おかえり、ジャックくん」
俺が昼食時の教室に戻ると、人が減ったそこにはアクアさんたちの姿があった。
「ただいま、アクアさん。待っててくれたんだ」
「アタシは先に行こうって言ったのにアクアが待ってるって言って聞かないから」
「ルビーちゃんっ」
今日も二人は仲がいいなあ。
「それじゃあご飯食べに行こうか」
今日の授業は午前中まで、この学園では多くの生徒が食堂で昼食を取っている。
オシャレに生産科の料理店で昼食、なんてこともできるけど今の時期の一年でやってるのはあんまりいないかな。
なお食堂は学園に複数あり、立地によって一年が多いところ、戦闘科が多いところ、男子が多いところ、など様々なバリエーションの場所がある。
実質的な男子禁制みたいなところもあるし。
大体傾向は近くの校舎に入ってる学年とか、男子寮備え付けだからとかそんな感じ。
学生数が多いからね、食堂もだけど寮も校舎も数千人は一つの場所には収まらないのだ。
「そういえば二人とも、夏休みの予定は決まってる?」
「私はずっと寮にいるよ」
「アタシも、ジャックは?」
「俺も実家には帰らないかな」
「ならダンジョン行くメンツの心配はしなくてよさそうね」
まあ俺とアクアさんたちも毎日パーティーを組んでいるわけじゃないし他のメンバーとも探索はするんだけど、それでも候補が全滅しないというのは大きいだろう。
もしパーティーメンバーを固定で組んでいた場合、そのメンバーが帰省すると困ったことになる可能性がある。
四人が三人になってもヒーラーが抜けたら結構な問題だし、三人が二人になったらそのまま探索するのは諦めたほうがいい。
全滅した時のペナルティである五日間のダンジョン出禁を考えたら慎重になるくらいでちょうどいいくらいだし。
お前はこの前アタッカー四人で探索してただろって?
俺は死なないからいいんだよ。(暴論)
トーナ様たちは二人で探索してただろって?
あれは例外中の例外だから……。
まあ男四人はそもそもあの時のメンツが優秀だったって話もあるんだけど。
レベルもそうだけど、ヘイトを理解してタンクとアタッカーの役割をこなす、っていうのも満足にこなせない同級生も中にはいるのだ。
授業でやってるはずなのに、不思議だね。
なんて言うと物理や化学で苦しんだ過去を思い出すので申し訳ないがNG。
んでなんの話だっけ?
ああそうそう、夏休みのパーティーの話ね。
「夏休みは探索頑張りたいね」
午前の授業がないだけでも三時間は時間が浮くことになるから、その分探索に時間を割けるようになる。
「うん、レベル上げも頑張らなくちゃ」
「帰省組と差を縮めるチャンスだしねー」
帰省組の多くは貴族であり、特に高位の貴族はその期間が長い。
なんでも社交界とかあるらしいよ、知らんけど。
付き合いが多くて面倒くさいってマリーロールが言ってた。
流石は伯爵令嬢様である、ギルドの中ではあんなんだけど。
加えて言うと高位貴族ほどスタートダッシュ組が多いので、平民的には追い付け追い越せ引っこ抜けといったイベントの様相を呈しているらしい。
シズカは帰らないって?
あれは彼女が自分で決めたことなので当方は一切の責任を負いかねます。
「頑張ろうね、二人ともっ」
アクアさんの気合いの入った言葉に俺も頷く。
「そうだね、夏期休暇終わるまでに30階層攻略できるくらいには進むといいね」
「それはちょっとキツくない?」
夏休み終了までに30階層攻略というのは学年平均よりも上。
なんなら最下層は一年目が終わる頃でもまだ終わっていないくらいのハードルだ。
20階層くらいから難易度が上がってきて、全滅ペナルティをくらう学生も増えてくる関係でトップとその下との差が大きくなっていく頃合いでもある。
「でも新聞部が出してる記事を見れば私たちにもできるかもしれないよ」
「あー、あれねー。でもあれ信用できるの?」
まあ確かに新聞部監修というだけでは生徒の信用を得るには弱いかもしれない。
正しい記事を提供し続ければそのうち信用も上がっていくだろうけど。
「ジャックはあの記事知ってる?」
「俺も見たけど役に立ちそうな記事だったよ」
こいつ自作自演で自画自賛してやがるって思った奴は今からグーで殴るからそこに並びなさい。
しょうがないでしょ! 秘密にしてるんだから!
「へー、ジャックがそう言うなら見てみようかな」
「まだ20階層より前の記事しか出てないけどね。夏休み中には30階層記事も出るんじゃないかな」
とりあえず学年平均よりも上くらいの階層の記事は出していきたいところ。
それを読んでみんなに早く上に行ってほしい。
そしてうちの装備を買ってほしい。
いやまあ現状は完売御礼なんだけどね。
将来的には同じランクの階層に数ヶ月留まることになるからそういう時に装備を買える層を増やしておくのは大切だ。
三ヶ月あったらシャオとかざっくり100本くらい武器を打てるからね。
それをちゃんと売れるように考えておくのは結構大変だ。
「今度みんなで新聞の記事読もうか。ルビーさんは一人じゃ読まなそうだし」
「そんなことないですけど?」
「たしかに、ルビーちゃんは一人じゃ読まなそうかも」
「アクアまで!」
「あはは、ごめんね。でもみんなで記事を見るっていうのはいいと思うな」
「確かにアクアは嬉しいかもしれないけどー?」
「もー、ルビーちゃんっ」
「アクアが怒った、逃げろーっ」
ルビーさんは笑いながら一人で先に走っていく。
まあ行く先は食堂だから追いかける必要もないけど。
「俺たちも行こうか」
結果的に二人きりになったアクアさんと廊下を歩く。
さてまあ少し騒がしい話し合いにはなったけど、攻略については首尾よく話が進みそうかな。
隣を見ると、アクアさんが嬉しそうに笑う。
「夏休み、楽しみだね」
「そうだね」
まあその前にやることはたくさんあるんだけど。
☆★☆★☆
「それじゃあ今日は20階層を攻略するよ」
先生に呼び出されてから更に一週間後の六月第二週。
今日はギルドハウスに全員で集まってもらっていた。
一旦みんなの顔を見回してから話を続ける。
「まずここにいる全員で一度に攻略することはできないから組を二つに分けるよ。まず第一がクローネ、ケミー、カッツェね」
「はい」
「わかりましたぁ」
「うん……」
「んでクリアしたら次はシャオとマリーロール」
「了解なんじゃよー」
「ボスなどわたくしが全て粉砕して差し上げますわ!」
「うん、期待してる。んでその後は全員スキルレベル21までボス周回ね」
ちなみにチームAのレベリングを終わらせてからチームBに切り替える方式にしないのは、万が一に攻略をミスって全滅した時を考えての措置。
先に全員で20階層クリアしてれば、その後全滅しても未達成者は残らないからね。
タイムスケジュール考えると入れ替えなしでまとめてやった方が早いんだけどまあリスクが少ない方でいいだろう。
「ちなみに、この組み合わせには何か意味が?」
「うん、その辺は現地で説明しようか」
ということで、俺たちはダンジョンへと出発した。
*長くなったので分割しました。
次回に続きます。
・モンスター図鑑
名前:シャークサイクロン
種族:魚種
HP:19600
物理属性:斬撃〇・打撃△・刺突〇
魔法属性:火属性△・氷属性△・雷属性◎・光属性◯・闇属性◯
状態異常:火傷△・凍傷◯・感電◯・毒◯・呪い◯・睡眠△・麻痺◯・沈黙△・暗闇◯・混乱◯・石化△・即死✕・気絶◯
攻撃:噛みつき・体当たり・尻尾攻撃・突進・ブレス(横)・ブレス(縦)・竜巻(右)・竜巻(左)
弱点部位:頭・腹
部位破壊:頭・背ビレ
ドロップアイテム:大魔石【Ⅱ】(100%)・暴風鮫の皮(30%)・暴風鮫の骨(20%)・暴風鮫の頭(5%)・暴風鮫の棘ビレ(部位破壊/背ビレ)(20%)・暴風鮫の牙(部位破壊/頭)(10%)
宝箱(装備品):冷凍シャーク(2%)・シャークファング(2%)・シャークヘッド(2%)・レインボウシャーク(2%)・暴風鮫の竪琴(2%)・サイクロンロッド(2%)
解説:空飛ぶ鮫のモンスター。
基本的な物理攻撃のほかに、遠距離への魔法属性攻撃を使いこなす。
突進は事前モーションが小さく出が早いので注意が必要。
噛みつきは使用頻度と威力が高く、後衛であれば即死もあり得る。
尻尾攻撃は範囲は狭めだが左右両方に使ってくるので後ろに立つのはガードできる職がいいだろう。
耐性は雷が通りやすいので属性武器を使うと有利に戦える。
打撃は若干ダメージの通りが悪いが、頭だけは倍率◯。逆に刺突は他の部位は◯だが頭は△。
打撃武器と刺突武器がいる場合は殴る部位を分担するといいだろう。
石化は完全耐性ではないが高耐性なので、稀にしか通らないが通った時の見た目が愉快。
レベルを上げると成功率も上がるので、高レベルになってから戻ってくると見やすい。
ドロップ装備は見た目が愉快なものが多くネタ的に人気だが、性能も一級品。