ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
イチゴのタルトの甘い匂い。
七月には戦技祭と期末試験があります。
学生の中には既にカップルがいるよ。


028.ジャックの一日(後)

「ところでクローネ、お昼食べた?」

 

 外で昼食を買ってギルドハウスまで来たのがここまでの流れで、当然まだ昼食はとっていない。

 クローネに執務室まで来てもらったところだけど、普通に腹が減ったので食べながら仕事がしたいところであった。

 

「いえ、まだです」

「じゃあせっかくだし一緒に食べよっか」

「はい」

 

 ということで二人で向かい合って座り、テーブルに料理を並べる。

 俺はサンドイッチとイチゴのタルト、クローネはおにぎりと卵焼きとサラダ。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 二人で食事を始め、俺はサンドイッチを摘みながら、書類を取り出して目を通す。

 ちなみに向かいのクローネも箸を握りながらテーブルに広げた書類を見ている。

 

 当然行儀は悪いけど、そんなことよりも作業優先だ。

 まあ世界観中世だしね。

 テーブルマナーなんて貴族か金持ちの中にだけあればいいでしょ。

 

 俺が確認しているのはギルドの収支。

 売上は月一だから目の前の紙に書かれているのは基本は支出だけど。

 かなりの売上があるうちのギルドだけど、そこから一ヶ月は収入がないので支出には気を付けないといけない。

 給料日前にお財布が心配になるのと同じだね。

 

 まあうちはそこまで困るほどの資金繰りではないけど、それでも万が一足りなくなったら素材が仕入れられなくて装備が作れなくなるから予算管理は重要だ。

 錬金の素材に魔石と精霊粉で構成される仕入れだけど、生産職が六人もいるとそれだけで結構な金額になる。

 なら販売回数を増やせばと思われるかもしれないが、そうすると店舗の営業に時間が取られるから微妙なところ。

 

 販売回数を倍にしたら一回の販売数が半分になって営業時間も半分になるかと言われるとそうでもない。

 開店前の列整理等の作業と閉店後の処理で、結局半日仕事になるしね。

 なるべく販売回数は減らした方が効率がいいのだ。

 

 なのでお金の管理は大事、一回の店舗営業でなるべく稼いでおくことも大事。

 まあ書類を見てもお財布の中身は変わらないけど、数字がちゃんと合ってるか確認するのもまた大事だろう。

 

「はい、クローネ。こっちは大丈夫そう」

 

 俺は取り出した確認印を押して、その書類をクローネに返す。

 

「そうですか、ではこれで処理しておきますね」

「うん、よろしく」

 

 言いながらサンドイッチを口に運ぶ。

 ハムとレタスのサンドイッチうまうま。

 

「ああそうだ、これ買っておいてもらえる?」

 

 俺は渡した紙には必要な素材が書いてある。

 

「ずいぶん高額ですが……、製作に使用するものですか?」

 

 彼女が眉を顰めるのも無理はない。

 そこに書かれているのはかなり稼いでるうちのギルドでも雑に出せる金額じゃないから。

 蓄えが無ければ即座に却下されるようなお願いである。

 そもそも俺たちが今攻略しているよりも上のランクのアイテムだからね。

 

「うん、数は七つ。期限は夏休みが終わるまでで」

「七つ……、なるほど、そういうことですか。では他のアイテムも集めますか?」

「うん、これとこれで」

「どちらが一つですか?」

「上に書いた方」

「なるほど……、はい、わかりました」

 

 彼女はメモをまとめてそれをしまう。

 

「バレないように、コッソリとね」

「コッソリと、ですね。ふふっ、それでは他の人には気付かれないように秘密にして集めます」

 

 そう言うとクローネは楽しそうに笑った。

 いや、どの素材を集めてるのかバレないように誤魔化しておいてほしいだけで、ギルドメンバーには知られてもいいんだけどね。

 

 それからしばらくして、俺が作業をしながらサンドイッチを食べ終わるとクローネも同じタイミングで自身の食事を終えた。

 

「そうだクローネ、イチゴのタルト食べる?」

 

 テーブルに置かれているのはホールのイチゴのタルト。

 一人でも食えるけど、半分のもう半分でも十分満足できる量である。

 ならなんでホールで買ってきたのかと言われれば、ノリで。

 

「よろしいんですか?」

「もちろん」

 

 流石にホールを丸々独占したいほど食べたいわけではない。

 それにクローネにはお世話になってるし。

 

「では一切れ……、も少し大きいですね……」

「四分割だからね」

 

 俺はこのサイズで困らないからお店の人に聞かれて四分割にしてもらったけど、クローネには流石に大きかった模様。

 

「じゃあこれで」

 

 インベントリからナイフ(調理用)を取り出して四分割のピースをさらに半分に切った。

 

「はいよ」

「ありがとうございます」

 

 結果的に八分割になったタルトをクローネに渡し、俺も切り分けた残りを口に運ぶ。

 

「美味しいです」

「確かに美味しい」

 

 朝の出来事があったから買ってきてみたけど、クローネも喜んでるみたいだしよかった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「それじゃあ俺はダンジョン行ってくるから、ギルドのことはよろしくね」

「はい。いってらっしゃい、ジャックさん」

「いってきます」

 

 書類仕事を終えてから、配合した今日の分の精霊粉をクローネに渡しギルドを出る。

 時刻は13時。

 当然このあとに向かうのはダンジョンだ。

 

 ギルドから歩いて数分、転移陣の前には人だかりができている。

 といってもこれは日常風景。

 授業後には転移の順番待ちと、転移関係なくダンジョン前で雑談している学生でごった返すことになる。

 

 今日は二学年と三学年の授業終了タイミングがズレているのでこれでもマシな方だ。

 原作には存在しなかった待ち時間ではあるけどね。

 

 ともあれ転移自体は一瞬で終わるので、人の流れはサクサクでさほど待つことなく自分の番が回ってきた。

 パーティーならここで揃って転移陣に乗るんだけど、今日はぼっちなので俺一人。

 ソロ探索してる学生はそう多くはないけれど、ことさら注目を集めるほど珍しいわけでもないかな。

 

「転移:21階層」

 

 やってきたのは21階層。

 20階層でボスを倒して浜辺階層は終わり、ここからは次のフィールドだ。

 

 視界が切り替わり、目に映るのは背の高い木々。

 鬱蒼と生い茂るそれらは日光を遮っている。

 地面にも腰より高い草が生えていて、視界を確保するのが面倒な感じ。

 あと木の枝には蔦が伝ってたりする。(ツタだけに)

 

 転移陣の周辺は一応切り開かれていて、切り株に座って話している同学年なんかもいるけど。

 その広場から続いているのは三本の獣道。

 大半の学生はここを通っていく。

 

 原作開発者が進行を想定して用意したルートなのでその判断は正しい。

 ちなみに獣道を完全に無視して進むこともできるよ。

 原作ならいざ知らず、リアルになったここだと茂みの中を進むのも一苦労だけど。

 

「さて」

 

 俺はその中から、東に続く一本を進む。

 ちなみに装備は列待ちのあいだに着替えておいた片手剣装備だ。

 なお片手剣と小盾でも大半の同級生よりは戦えるのでこのままモンスターに遭遇しても問題はない。

 

 やっぱりつえぇぜ……パリィ!

 でも魔法攻撃は勘弁な!(パリィ不可)

 

 そこから少し進むと、すぐに広場からの視界が切れる。

 浜辺階層ではしばらく歩く必要があったから、密林階層の視界の悪さはありがたい。

 まあその視界の悪さは敵からの奇襲の原因になったりするんだけど。

 

 周囲に人の気配がないのを確認してから、俺は獣道を逸れた。

 茂みが途切れて一応踏み込める、くらいのところに歩を進めると、足元の感触が踏み固められたものから柔らかい土へと変わる。

 掘り返してみたら腐葉土が出てきてカブトムシの幼虫なんかがいるかもしれない、そんな感触。

 

 一応前提知識があればここが隠された道になってるんだなってわかる程度には歩きやすいんだけどね。

 まあ密林の中には似たようなロケーションがたくさんあるので初見で気付くのは無理だろうけど。

 

 それから俺はインベントリを操作して、軽鎧から服防具へ、握っているものも片手剣から刀に持ち替える。

 そのまま歩を進めると、初モンスターに遭遇。

 とはいえそのモンスターは襲いかかってくるわけではなく、じっと身を動かさずに待っている。

 ということで俺は頭上の木に引っ付いて機を見て襲いかかろうとしている蛇へナイフ(攻撃用)を投擲した。

 

『シャッ』

 

 短い鳴き声とともに落ちてくるヘビの名前はポイズンスネーク。

 全長は1メートルで、体の太さはトイレットペーパーの芯くらい。

 周囲の蔦よりはさすがに太いけれど、それでも見た目は似ているので見つけづらくなっている。

 

 現代日本で遭遇したら絶叫するサイズだけど、この世界のダンジョンではむしろ控えめなサイズ感。(爬虫類苦手な人は除く)

 緑と茶と黒の擬態色をしていて、気付かずに下を通ろうとしたキャラクターへ噛みつき名前の通り毒を食らわせるモンスターだ。

 まあ投擲を当てると大ダウンして落ちてくるからわかってれば叩きやすい敵ではあるけど。

 

「『縦一文字・弐』」

 

 レベル20を超えて覚えた縦一文字の上位スキルを放つと、ポイズンスネークは一撃で消滅する。

 さすがは上位スキルと新装備、火力が一気に伸びるタイミングなので20階層の雑魚よりも簡単にHPが削れるわ。

 まあポイズンスネークがギミックモンスターでHPは控え目なのもあるけど。

 

「おっ、レアドロップだ」

 

 地面に落ちているのは通常ドロップの魔石【Ⅲ】と、ポイズンスネークの牙。

 ポイズンスネークの牙は毒装備を作るのに使えるからそこそこ有用だ。

 売ってもいい金額になるしね。

 それから先もちょこちょこポイズンスネークが隠れているのでドロップすればいい稼ぎになる。

 

 それから道なき道を一人で進んでいると、近くからモンスターの気配。

 ガサゴソと茂みが揺れて、鹿が姿を現した。

 鹿といっても日本の小さい種類ではなく、アメリカにいるようなデカいやつ。

 

 具体的にいうと頭頂部までの高さが角抜きで2メートルを超える。

 競走馬をさらに一回りデカくして首を太くした感じだろうか。

 加えて角の長さも数十センチ、扇のように広がった形状の先に複数の突起がついている。

 その見た目は力強く、突き上げられたら大ダメージを受けること間違いなしだ。

 

「『居合』」

 

 いつもの如く弾けるんだけど。

 少し離れた場所から突進をしてきた扇角鹿(モンスターの名前)を居合で弾いてダウンを取る。

 

「『縦一文字・弐』、『縦一文字・弐』、『縦一文字・弐』」

 

 居合からのスキルを三回、そのまま居合を挟んでもうワンセットでトドメ。

 見た目通り扇角鹿はHPが高いので、更新した俺の装備でも倒すのに手数が必要。

 まだ装備更新できてない同級生はさらに苦労するだろう。

 

「おっ、またレアドロップ」

 

 今度落ちたのは扇角鹿の角。

 頭に攻撃したことによる角破壊の部位破壊報酬ドロップだ。

 本当は頭は硬くて斬撃の通りが微妙なんだけど、追加ドロップが美味しいのでガンガン殴っていきたい。

 ちなみに角は薬系の素材に利用できるぞ。

 

 そこからまたしばらく歩いていると、不意につま先で地面を踏みしめる感触が喪失する。

 足元を隠す草を踏み倒すと、その先には見づらい坂があって、さらに下った先はすり鉢状の窪地になっている。

 坂は固めの泥で形成されていて、よく滑るし滑り落ちたら登ってくるのは困難な状態。

 

 ネタバレだけど窪地の先はモンスターの巣があって天然のトラップになっている。(初見プレイ時2敗)

 だが降りる!

 ズサー。

 ヒャッハー!

 スノーボードで滑り落ちるように斜面を降りて下に着地。

 

 坂は傾斜角度で70度、高さで5メートルくらいだろうか。

 振り返って見上げると戻るのは諦めたほうが早いのがよく分かる。

 もしできても泥まみれになるだろうからやらないけど。

 

 窪地は通路のようになっていて、少し進むと左に曲がり視界が切れている。

 その曲がり角を頭だけ出して覗き込むと、奥にはコドモ土竜が8匹。

 竜といってもドラゴンではなく、土竜といってもモグラではない。

 

 その姿は概ね大きなトカゲで全長は2メートルほど。

 当然このまま突っ込んだら8匹にガブガブされて死ぬので、俺は拾った石を投げた。

 

『ギャッ』

 

 その投石が当たった一匹がこちらにノシノシと歩いてくるので、曲がり角の前で待ち受けてスキルを放つ。

 

「『居合』」

 

 噛みついてきたコドモ土竜を居合で転がす。

 角をこえて奥の7匹に見つからないようにしながら、まず一匹目を斬り倒した。

 

「あと七回」

 

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 シュッ。

『ギャッ』

 

 ということで討伐完了。

 曲がり角から不用意に身体を出して全滅した過去がもはや懐かしい。

 そして討伐したあとはボーナスタイム。

 なにも暇つぶしにこんな場所まで来たわけではないのだ。

 

「あったあった」

 

 コドモ土竜の巣を漁ると、コドモ土竜の卵が合計18個。

 この卵は巣にランダムで1〜20個存在し、1個1万オーラムで売ることができるガチャ仕様である。

 今回は上限近くなので大当たりだ。

 

 期待値10万なら別に来なくてよかったのでは?とか言ってはいけない。

 ガチャは悪い文明だが当たると楽しいからね、しょうがないね。(なお当たらなかった時のことは考えないものとする)

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「到、着ッ」

 

 俺が21階層を抜け、次の階層に繋がる転移陣前まで到着したのが18時前。

 所要時間にして5時間での攻略だけど、これは原作のマップ知識と居合ゴリ押しの結果である。

 密林階層は次の階層に繋がる転移陣を探すのが草原や浜辺階層よりも大変だから、同級生はまずマップ埋めから苦労するだろう。

 

 なお俺はソロ進行のおかげもあって、刀レベルは23に上がっていた。

 やっぱ経験値四倍(頭割り比)は美味いわ。

 平均的な同級生パーティーだと1レベル上げるのに数日から一週間くらいかかるから、これでまたしばらくは別の作業ができるね。

 

 まあ俺も今日は0%から100%まで一日で経験値貯めたわけじゃないから、一週間と単純比較で最大効率七倍、とはならないけど。

 なにはともあれ、俺は転移陣の上に立って22階層へと進む。

 

「転移:22階層」

 

 視界が切り替わるとやっぱりジャングルが広がっているけれど、前の階層と違って目の前に小川が一本流れている。

 この川を下っていくと釣りスポットに辿り着けるよ。

 

 ちなみに装備は片手剣に戻してるので安心。

 階層の入口だけあって周囲には数人の同級生。

 とはいえもういい時間なので、これから探索開始ではなく撤収前の様子だ。

 

 一応探索時間は21時までなんだけど、平日からギリギリまで探索している生徒はそこまで多くない。

 そのあと夕食済ませて風呂入ったら結構な時間になるしね。

 あとシンプルに疲れるし、せめて限界まで頑張るのは翌日休みの日くらいにしておきたい。

 

 ギリギリ狙いすぎて時間に遅れると怒られるしね。

 この世界限定のルールだけどあんまり探索時間を超過するとペナルティもあるよ。

 原作だと時間になったら強制帰還だから毎日限界まで潜るのが当たり前だったんだけどね、これもリアルになった変化の一つかな。

 

「転移:ダンジョン前」

 

 転移陣に乗ってダンジョンの外に出ると、外は日が傾いていた。

 夏前だから夕焼け空はまだみたいだけど。

 そのまま俺は寮、ではなくギルドに向かう。

 

 

「ただいまー」

「あっ、ジャック! おかえり!」

 

 ギルドハウスに入るとリビングにいたグレイが出迎えてくれた。

 

「ただいま、グレイ。まだみんないる?」

「マリーロールは先に帰ったけど、ほかのみんなはいるよ!」

「わかった。グレイは今日の作業は終わった?」

「うん!」

 

 ならみんなが集まるまで付き合おうかと思ったけど、俺もやることがあったわ。

 

「じゃあ俺も仕事してくる。なにかあったら呼んで」

「わかった! なにか手伝うことある?」

「いや、大丈夫。ありがとね」

 

 グレイの申し出に感謝しつつ、特に手伝ってもらうことはないのでそのままリビングのチェストに手を触れる。

 それはギルド共有のインベントリで、お金とアイテムをまとめて管理ができる。

 加えてインベントリにはアクセス権限を分けることができ、貴重品や一定以上のオーラムは許可された者しか取り出せない、なんて仕様にもできるぞ。

 

 あともう一つ重要な機能があって、それがアイテムの出し入れ履歴。

 システムウィンドウでこれを確認すれば、メンバーがどこまで作業が終わってるかがひと目でわかる。

 

 うん、とりあえず進捗は予定通り。

 マリーロールなんかは数日先の予定品まで先に納品してあるのが見て取れた。

 月末の営業で販売予定の品も全て揃っているので心配はないかな。

 

「よいしょ」

 

 確認を終えた俺は、そのまま今日集めてきたアイテムをチェストに突っ込む。

 こうしてまとめられたアイテムはみんなの製作に使えるものもあるし、クローネが高く売れそうなものは他の店に売ってくれたりしている。

 学園の買取に出すのはいつでもできるからね、有効活用できるならそれに越したことはない。

 

「よし」

 

 それから俺は執務室に入り、新聞部に渡す資料をまとめていると一時間ほどが経過していた。

 時刻は19時過ぎ。

 そろそろみんなも帰る頃合いかなとリビングに戻ると、予想通りにだいたいのメンバーが揃っている。

 

「おつかれさまじゃの、ジャック」

「シャオもおつかれさま。まだ終わってないのはケミーだけ?」

 

 テーブルを囲うメンバーは、クローネ、シャオ、カッツェ、グレイの四人。

 マリーロールは用事があって先に帰ったからあとはケミーだけだ。

 

「そうですね」

「もしあれだったら俺がギルド閉めとくから、みんな先に帰ってもいいよ?」

 

 誰かがギルドハウスの鍵を閉めなきゃいけないんだけど、全員で待っている必要は特にない。

 用事があるなら先に帰っても大丈夫という提案だったんだけど、腰を上げるメンバーは一人もいなかった。

 

「ボクはケミーが終わるまで待ってるよ!」

「わしも特に予定があるわけじゃないからの」

「…………(こくり)」

 

 グレイとシャオの言葉にほかの二人も同意する様子を見せる。

 

「何か用事があるのでしたら、ジャックさんは先に帰っても大丈夫ですよ」

「んー、用事は特にないから大丈夫かな」

 

 なにかしなきゃいけないことがあったらありがたく帰らせてもらっていただろうけど、今日は特に予定はなかったのでそのまま俺も一緒に残ることにする。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「お待たせしましたぁ……」

 

 全員でギルドのことについて話していると、作業部屋の扉が開きそこからケミーが顔を見せた。

 

「お疲れ様です、ケミーさん」

「クローネさん、これ今日の分ですぅ……」

「はい、確かにお預かりしました」

 

 疲れたように椅子に座るケミーを、グレイが背後に回って肩を揉み始める。

 

「それじゃあケミーが回復したらギルドを閉めて帰ろうか」

「はぁい……」

 

 それから少しして、グレイが肩を揉むのをやめてからケミーも椅子から立ち上がり、全員でギルドを出た。

 

「みんな、忘れ物はない?」

 

 俺の確認に全員が各々返事をするので、俺は鍵を施錠して戸締まりを済ませる。

 外は日が沈みかけていて、西の空がオレンジ色に染まっていた。

 

「じゃあ俺はここで。みんな今日も一日お疲れ様」

「あれ、ジャックは一緒に帰らないの?」

「うん。寮も別だし、目立つしね」

 

 俺の男子寮とみんなが生活している女子寮までの道は途中まで一緒ではあるけれど、流石にこのメンバーと一緒に歩いていたら目立ちすぎるので一人で帰ることにする。

 じゃあ残ってる必要もなかっただろって?

 そこは一応これでも責任者なんでね。

 

「じゃあねー」

 

 手を振るグレイと並んで見送るみんなと別れて、俺は別の道を帰った。

 

 

 そのまま寮に戻って19時30分過ぎ。

 一旦部屋に戻り、荷物を置いて学食へ。

 注文したとんこつラーメン大盛りを盆に載せて空いてる席を探すと既に食事をしているアレックスと目が合った。

 ここでスルーするのも不自然なので、その隣へ。

 

「おじゃまー」

「いらっしゃい」

 

 オムライスを掬っていたスプーンを止めたアレックスに一言入れてそこに座る。

 対面にはアレックスの相棒のルーク(寿司)と、クラスメイトのスミス(タコス)が座っていた。

 寿司美味そう。

 明日の朝食は決まったな。

 

「いただきます」

 

 俺が一口スープを口に運んでから、ズルズルと麺をすすり始めるとほかのメンツも食事を続ける。

 うーん、やっぱり脂の暴力は美味いわ。

 こっちに来てからはスープを飲み干しても気にならないので心行くまでラーメンを堪能することができる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 そのまま完食すると、既に食事を終えて雑談をしていた三人から話を振られた。

 

「ジャックは戦技祭、どの競技に出るか決めた?」

「んー、とりあえずサブスキルのなんかに出るのは決めてる」

 

 索敵とか隠密とかのサブスキルは全員が力を入れて上げているわけではないのでそこそこのレベルでも酷いことにはならない。

 これがメインスキルだとシンプルに探索進んでる奴が有利だからね。

 別に一番を取りたいわけでもないので丁度いい種目でクラスの足を引っ張らない程度に済ませたいところだ。

 

「パリィか?」

 

 ルークに聞かれたパリィというのはそのまま攻撃を弾く回数を競う種目。

 俺がみんなの前で使っている小盾で出るには最適な競技だ。

 

 なお刀でも出場はできるけど、パリィしやすさの関係で小盾のほうが有利。

 受付フレームが広いからね。

 正直見た目が地味すぎる競技だけど、原作だと戦技祭の種目の多くはミニゲームみたいなものなので派手さは期待されていない。

 

「あー、いや、パリィはいいかな」

「そうか。ジャックならいい線行くかと思ったんだが」

 

 いい線というか全力出したら全学年トップ狙えるんじゃないかな。

 やらないけど。

 クラスのために頑張れって?

 

 俺の元のキャラは性能的に最底辺だから、平均くらいの順位取るだけで本来の姿よりアドだからいいでしょ。

 必要なら目立つことも受け入れるけど、今回は俺にとっては必須なことではないからね。

 あとまあ、原作をたくさん遊んでいた成果ってだけなのでことさら自慢する気にもならないっていうのもあるけど。

 

「アレックスは?」

「僕はサブスキルはあんまり育ててないしメインスキルの方かなあ」

「いいじゃん、アレックスに似合いそうだし」

「そうかな?」

 

 メインスキルで競う種目は高レベルの人間が集まりやすく、花形の競技として使われる物が多い。

 アレックス自身レベルは平均より上だし、何よりも原作主人公に相応しい場所だろう。

 

「ルークはアレックスと一緒?」

「そうだな、アレックスと同じ種目に出れるならそれが一番だろう」

 

 よく組んでる相手なら連携面でも有利だし、複数人で組む競技ならより活躍できるというアドバンテージはあると思われる。

 タブンネ。

 

「スミスは?」

「俺か? 俺はガード種目だな。まあ希望が通ればだが」

 

 ガード種目というのは文字通り攻撃を防ぐ種目。

 ちゃんとガードするのも必要だけど、スタミナが割れないように回復を挟む技術なんかも求められる。

 スミスは大盾を使うので確かに向いているかな。

 

「みんな、俺の分まで頑張ってくれ……っ!」

「お前も頑張るんだよ」

「アッハイ」

 

 スミスにツッコまれてしまった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 それから風呂に入り自室に戻ってきたのが20時30分。

 この世界にはネットもゲームもないので自室に戻ると暇だし静かだ。

 勉強しろって?

 はい……。

 

 流石に試験赤点で補習はまずい。

 いやまあスケジュール的には困らないんだけどギルド代表としての面子というものが一応あるしね。

 ということで机に向かいノートを開く。

 

 あっ、そうだ、シズカに頼まれた(頼まれてない)ことの準備をしておこう。

 ということで俺は別のノートを開いてペンを取った。

 勉強しろって?

 またあとでね!

 

「んー」

 

 書き物をしたり今日の授業の復習をしたりして(本当にした)、気付けば時刻は22時。

 まあ時間の比率としては前者の方が大きいけど。

 原作知識で悪巧みするの楽しいからね、仕方ないね。

 攻略サイトを見てチャートをちゃーんと組んでいる時のような楽しさがある。

 

 とはいえもういい時間なので明日に備えて寝ることにする。

 ノートを閉じて明日の準備を済ませ、部屋の明かりを落としてそのままベッドにイン。

 布団の中は心地よく、すぐに眠気が訪れた。

 

 

 おやすみなさーい。

 スヤァ……。




・ポイズンスネーク
密林階層で登場するモンスター。
気付かずに近くを通りかかったキャラクターへ噛みついてきて毒を与えるギミックモンスター。
毒は光属性魔法か毒消しアイテムで回復可能。
魔法で治療して消耗したSPをポーションで回復するよりは毒消しを使ったほうがコスパは良好。
ただし、SPが自動回復で賄える範囲なら魔法での治療はタダなのでその辺はケースバイケース。
密林階層では頻繁に見かけるモンスターではあるがHPは低め。
攻撃で落とすと大ダウンするのも相まって倒すのは難しくない。
叩き落とすのに投擲アイテムのほか、サブで弓を持つプレイヤーもいる。
稀に頭上ではなく岩の下や物陰に隠れていることもあるが、大鎚のスタンプで巻き込んで姿を見せる前に倒すことができたりする。
ドロップアイテムであるポイズンスネークの牙は毒属性武器の素材として利用可能。
なお一部女子は爬虫類が無理で地獄な模様。

・扇角鹿
密林階層で登場するモンスター。
種族は獣種。
角が立派なクソデカ鹿。
扇角鹿自体が同じ階層で出てくるモンスターよりも強め。(ただしその代わりに出現率は低め)
角で突き上げられると人が3メートルくらい垂直に飛ぶ。
角を用いた突進も強力で、轢かれると3メートルくらい水平に飛ぶ。
なお真後ろに立つと発生の早い後ろ蹴りが滅茶苦茶痛いのでここが一番危険。
部位破壊は頭部の角。
斬撃の通りが悪い角だが打撃はよく通るので、パーティーメンバーに打撃武器持ちがいるならそのメンバーに任せると効率がいい。
扇角鹿の角は戦闘不能回復のランク3アイテムが製作できる。

・コドモ土竜
密林階層で登場するモンスター。
土竜の読み方は『ドリュウ』。
見た目はトカゲだが分類は竜種。(翼はなし)
名前の通り土竜の小型種であり、大型種も存在する。
単体での強さはそこまででもないが、複数に囲まれると当然厄介。
特に突進は速度遅めだが、のそのそと当たり判定を発生させて向かってくるので複数体でやられると対処が難しい。
こちらの世界でもその厄介さは健在で、ほかのコドモ土竜を乗り越えながらも突進してくるので気をつけよう。
コドモ土竜の卵は換金のほかに調理アイテムとしても使用できる。
製作できるアイテムの『コドモ土竜の卵のオムライス』(アイテムランク3)は物理攻撃力+5%。
この辺りになるとアイテム効果が無視できないレベルになってくる。
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