ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
ダンジョン21階層からは密林階層。
レベル21からは上位スキルを覚えます。
ジャックの睡眠時間は9時間くらい?


029.学年2位

 ここは付与合成により特に強力な装備を販売する『戦乙女の鎚』を運営するギルド。

 そのギルドハウスに一人の男性が訪れていた。

 腰を下ろすのは表の店舗ではなく、メンバーが過ごしている裏側の応接室。

 

 普段は外部の人間を拒むその門戸に、招かれた正式な客の名前はユリウス。

 黒い髪は男子にしては長く、眼鏡をかけている。

 ギルド『理と知の庭』の代表者だ。

 

 彼は一学年のランキング5位。

 1位から4位までは(正確には1位タイが4名)シズカが率いるパーティーが埋めているので、彼はそれに次ぐ実績の持ち主である。

 戦闘科の一年には四桁近くの生徒が在籍していることを考えれば、エリート中のエリートと言っても過言ではない。

 ただし入学から七月の頭までの三ヶ月のあいだ、一度もその頂点を取れていないという点で本人は満足には程遠い心持ちであった。

 

「ようこそいらっしゃいました。私は『戦乙女の鎚』の責任者、生産科一年、付与術師のクローネです」

「同じく『戦乙女の鎚』のメンバー、生産科一年、彫金師のマリーロールですわ」

「『理と知の庭』の代表、戦闘科一年、ユリウスだ。装備は片手剣。今日は招いてもらって感謝する」

 

 クローネとユリウスはテーブルを挟んで向かい合って座り、マリーロールは来客への対応としてお茶を出してからクローネの隣に腰掛ける。

 

 通常は装備を買う側と売る側では対等な関係の場合が多いが、この場にいる二つのギルドの関係は完全に売る側と売ってもらう側であった。

 それは『戦乙女の鎚』の装備を求める学生は多く、売る相手に困らないという状況に起因する。

 実際に今日ユリウスがこの場にいるのは装備を売ってもらう交渉のためだが、同じような依頼を望む声は複数クローネの元へ届いていた。

 

 ほかのギルドが製作するものとは一線を画す彼女たちのギルドの装備を求めるのは、上を目指す戦闘科ギルドとしては当然の望みだろう。

 しかしその要望の全ては今まで無視されてきた。

 今回ユリウスがここにいるのは初めての例外といえる。

 

「それでは本日は装備の注文、ということでよろしかったですか?」

「それで間違いない。普段そちらのギルドで販売している汎用的な特殊効果のものではなく、当ギルドのメンバーに対して専用の効果を付与したものを販売してほしい」

 

『戦乙女の鎚』で販売しているのは流用できる特殊効果を付与したもので、ランク3武器の例を挙げるなら『攻撃力強化【Ⅳ】』『スキル強化【Ⅳ】』『気力消費軽減【Ⅳ】』といった形のもの。

 これでも他で販売されている同ランクの装備に比べれば十分な性能ではあるが、気力消費軽減を武器に対応した属性強化に差し替えればさらに火力は伸びる。

 

 防具については『防御力強化【Ⅳ】』『HP強化【Ⅳ】』『SP強化【Ⅳ】』。

 こちらは武器よりも最適な選択肢に近い形ではあるが、それでもタンクなどはSP強化よりも気力強化でガードに余裕を持たせたほうが有用であった。

 パーティーのメンバーに合わせて特殊効果を選べるのであれば、火力はもちろんパーティーの生存力や対応力も大きく上げることができる。

 

「まず料金はこちらになりますが、よろしいですか?」

「…………、かなりの金額になるな」

「一式ですから」

 

 そもそも戦乙女の鎚の装備は限られた数の販売であり、それで全身を揃えるには正規の購入だけでは不可能だ。

 逆にいえば、それを揃えるだけで同学年の競争相手に対して明確なアドバンテージとなるともいえた。

 

「それにしても、通常販売よりも高額なようだが」

 

 具体的にいえば通常販売の汎用武器が16万オーラム。

 今回のオーダーメイドの武器が20万。

 額面25%増しは差額としては決して安くない額である。

 

「一律で製作できない品に関しては相応に手間がかかりますから。それでも十分に金額に見合う価値はあると思いますよ」

 

 実際には手間のほかに、気軽にあれこれ頼んでくる客を予防するための追加料金ではあるがそれはそれ。

 性能に対して見れば十分に妥当な金額ではあるし、一式を揃えられる権利も含めればお買い得。

 ユリウスのギルド以外にも同条件で購入を望むギルドは沢山あるだろう。

 

 総額も高額ではあるが、学年のトップ層を走るギルドの稼ぎで出せない金額ではない。

 そもそもユリウスの言葉は確認を含むもので、学年一位を目指すならこの機会を逃す選択肢はなかった。

 とはいえ会話の中に値切れる要素があったのなら当然そうしただろうが、それは組織の代表としては当然の姿勢である。

 

「わかった、この金額で依頼しよう」

 

 金額は同意に至り、通常であれば契約書を交わして資金の確認もするところであったが、今はまだ先にするべきことがあった。

 

「では、事前に約束していたものをよろしいですか」

「ああ、ここに用意してある」

 

 ユリウス側から渡されたのは束になった書類。

 クローネが目を通すと、そこには『理と知の庭』のメンバーの情報が記されている。

 名前から始まり、スキルレベル、ユニークスキルなど、戦闘に関わるステータスが揃ったその書類をクローネがパラパラと視線を通し、そのまま顔を上げた。

 

「この話は辞めにしましょうか」

 

 言いながらクローネは渡された資料をテーブルに置く。

 その態度は明らかに、渡された資料に問題があるという姿勢が見て取れた。

 

「なにか問題が?」

「ええ、正しくない情報を見て考えを巡らすことほど、無駄なことはありませんから」

 

 クローネの言葉の意味を正しく理解したユリウスがわずかに表情を動かす。

 

「貴方がたがギルドメンバーの情報を出したくないのであれば我々はそれを求めません。それも競争を勝ち抜くための戦略の一つと言われれば納得しましょう。なによりも、私たちはそれを強要するつもりはありませんので。ですからこの話はこれでおしまいです」

 

 クローネに渡された情報には、実際にいくつか正しくないものが含まれていた。

 それは装備を選ぶ際には関係ないとユリウス側が判断し、あえて秘匿したユニークスキルなどの詳細だ。

 実際にメンバーの情報を秘匿しておくというのは同学年で踏破順位を競うときにアドバンテージになりうる行為ではある。

 

 そもそも元より秘匿している情報なのだから、それを誤情報と差し替えて渡してもバレるはずのない、そして相手側に不利益もない偽装のはずだった。

 それが一目で看破されたことにユリウスは驚きを覚える。

 

「装備についての先ほどの合意は?」

「そちらはここまでの話通りに、そちらの要求どおりの物をお渡しいたしますよ」

 

 そもそもクローネ側がメンバーの情報を求めたのは最適な特殊効果の構成を考慮するための判断材料として。

 理由はそう説明されているし、事前に情報提供を断ることも選択肢の一つだと伝えていた。

 自身で最適な特殊効果の組み合わせを設定できるならそもそも必要のない助力ではあるが……。

 

「ですがそうですね。生産職に戦闘に関する助言を求める有用性を疑うのは仕方がないことかもしれません。であればこちらも判断材料を提示いたしましょう。マリーロールさん」

「わかりましたわ」

 

 クローネの隣に座っていたマリーロールは、一旦席を立ち棚から資料を取り出してユリウスにそれを差し出す。

 

「これは……?」

「密林階層のモンスターの詳細です」

「…………、目を通しても?」

「もちろん、どうぞ」

 

 ユリウスが資料に目を通すと、そこにはモンスターの詳細が記載されていた。

 モンスターの種類、出現階層、耐久力、各種耐性。

 最近新聞部から発行されている記事と同じ形式。

 

 攻撃モーションやドロップアイテムなど足りない情報もあるがそれでも十二分に有能な情報だ。

 しかもそれだけでなく、モンスターの比較までされている。

 

「ご覧の通り密林階層のモンスターは全部で50種類。その中で氷属性が有効なモンスターは約5割、通常の耐性のモンスターと合わせれば約7割を超えますね。つまり氷属性の武器に氷属性強化を合わせれば、ボスを含めてそれだけの相手に有利に戦えるということになります」

 

 特殊効果の氷属性強化【Ⅳ】はスキル強化【Ⅳ】と同じ20%上昇。

 さらにスキル強化とは異なり常時ダメージが上昇し、ダメージの属性部分だけでなく氷属性の武器やスキルで与えられたダメージの全てが20%上昇する。

 つまりモンスターの耐性が有効であれば、(モンスターの殴る部位や物理耐性によって例外は生まれるが)基本的には付け得のスキルだ。

 

「だが氷属性に耐性を持つモンスターはどうする?」

「そこは物理属性の武器を用いれば良いでしょう。全体の三割ということは三体か四体に一体の割合ですから、パーティーの中で一人が物理属性を持っていれば概ねカバーすることができます」

「確かに全員を氷属性武器で統一する必要はないか……」

「一人は物理属性の武器と氷属性の武器を使い分ける、といった運用も可能でしょう」

 

 もちろんこれには、モンスターの耐性を把握したうえで誰がどのモンスターに対応するかを判断する必要があるが、目の前の資料があればそれも不可能ではない。

 当然全てのモンスターが氷耐性を持つモンスター群に遭遇する可能性もなくはないが、それでも全体の攻略時間を考えれば差し引きで大きくプラスにできると計算できた。

 

「そもそもこの資料はどうやって入手を?」

「それは企業秘密としておきましょうか。私たちにも情報源がある、ということです」

 

 そう話をぼかしながらクローネは意味深に微笑を浮かべる。

 ユリウスはそれを見て、新聞部の記事のことを思い出していた。

 

(情報源は新聞部か、もしくはその新聞部に資料を渡している大元の人間か……)

 

 彼も新聞部の記事については当然把握しており、目の前の資料と情報の出どころが同じだろうと推測を立てていた。

 新聞部の資料はまだ20階層に到達した辺り、30階層までの情報は出ていないが情報元から記事になるよりも先に受け取ることは不可能ではない。

 さらに学年1位の最高到達階層である24階層より先のデータまであるのだから、これを書いているのはおそらく上級生であるということまで自然と推測できる。

 

「ともあれ、これで私たちの選定能力の一部は示せたかと。どうなさいますか?」

 

 確かに今の話だけでも有用な武器選択の方向性であったのは間違いない。

 正しい情報を渡して依頼をすれば、さらに良い提案が出てくる可能性は大いにあった。

 

「重ねてお伝えしておきますが、こちらの提案を断ることにはなにか言う気はこちらもありません。ですが間違った情報を渡されるのはこれで最後にしていただきたいですね」

「それについてはギルドの代表として謝罪する。今後同じことがないように約束しよう」

「わかりました。謝罪は受け取りましょう」

 

 商売において騙し騙されは常である。

 そもそもユリウスにとっては間違いなくバレないし、バレなければそのまま契約してしまえば誰も損をしない取引であるという目算があった。

 明確な詐欺ならともかく交渉におけるブラフの範囲なら問題になることもなく、互いの力関係が対等であればそのまま交渉は進んだだろう。

 今のクローネのように一方的な糾弾をすること、ユリウスのように謝罪することは互いの立場をよく表していた。

 

 そしてそのアドバンテージを最大限活用するのも商売では常道である。

 

「それで、どうなさいますか?」

「……、こちらが正しい情報の資料だ」

 

 ユリウスが取り出した紙束にクローネは目を通す。

 そして目の前のまっさらな用紙へとペンを走らせていく。

 

「これでしたら装備を作るのはユリウス様、バーバラ様、クワトロ様、リズボン様の四人がよろしいかと。バーバラ様は物理と属性の二本を持てば一番広く対応できるでしょう」

 

 ユリウスは片手剣と大盾、バーバラは両手槍、クワトロは片手鎚と中盾、リズボンは氷属性/光属性魔法使い。

 物理属性三つをカバーしつつ、防具もタンク用とアタッカー用重鎧と軽鎧、汎用服防具とほかのメンバーにも一通りカバーして流用できる。

 

「特殊効果はこの辺りでしょうか」

 

 クローネはペンを止めることなく、各人各装備へ付与する特殊効果を書いていく。

 タンクはガードのための気力重視、近接物理はバランス構成、魔法使いは火力とSP重視構成。

 特殊効果のランクと枠が一つずつ増えるだけでも効果は大きいが、タンクなどはHP強化防御力強化と同時に気力強化が盛れるのは立ち回りの安定性にかなりの差が出る。

 

「いかがでしょうか?」

「装備構成に不満はないが……、装備の数には制限があるのだろうか?」

「そうですね、明確に数を決めているわけではありませんがあまり多くの希望にはお答えできません。通常の店舗販売のための装備も製作する必要がありますので。どちらにしても依頼を受けてすぐに装備が揃うわけではありませんので、あまり数を作ってもすぐにお渡しすることはできませんが」

 

 当然装備を作るのには時間がかかるので受注をされてから即納品とはいかない。

 四人分でも全て揃えるには一週間以上かかるだろう。

 そしてランク3の装備は密林階層を終えれば更新することになるので、納期が遅くなれば相対的に金額に対する実用期間の費用対効果が悪くなってしまう。

 

「それに学年一位を望むのでしたら1パーティーに全力を集中するのは自然な流れかと」

 

 もちろんそれ以上の人数に装備を渡した時に攻略の進捗に対するメリットがないとはいわないが、やはり費用対効果としては微妙なところだろう。

 その予算を消耗品に充てたほうが効率は良くなるだろうと推察できた。

 

「理屈でいえばその通りなのだが、感情というのはそう簡単に割り切れるものではないのでな」

「なるほど」

 

 つまり一部のメンバーに強力な装備を固めることに対して、それ以外のメンバーから反発が予想されるという話だろう。

 理と知の庭の構成メンバーは現在で20名を超える。

 こういった問題は分けられたグループの人数差によって反発の度合いが大きくなるので、4:16は無視できない数字なのだろう。

 そこをうまく処理するのが代表者の役割ではあるが、懸念でもあることに間違いはない。

 

「それでしたらこちらの受注制限で装備はまず四名分まで、としても構いませんよ」

「いいのか……?」

「ええ、構いません。どうせですから最初は二名までだったところを交渉で四名まで枠を増やした、という話にしましょうか」

 

 これなら枠の制限自体はギルド『戦乙女の鎚』側の要望なので選ばれないメンバーからの不満もギルド内でなくそちらへ逸らせる。

 その計画がどれほど上手くいくかは、ユリウスの話術、もしくは詐術次第な部分もあるだろうが。

 その不満自体も学年トップという結果が伴えば、自然と解消されていくだろう。

 どちらにしても、この話には互いにデメリットがない。

 

「装備を集中させる理由付けは、可能な限り早く30階層を攻略し、それより先の素材が供給されるようになってほしい、といったところで良いでしょう」

 

 これならば四人分の装備を部位ごとに分けて八人で装備する、なんて話の流れもあらかじめ防ぐ事が出来る。

 

「感謝する」

「こちらも早く階層攻略をしていただきたいのは事実ですから構いませんよ」

 

 これで一通りの話し合いは済み、互いの合意を得た。

 ただしだからといって、ここでそのまま契約を結ぶには事が大きいのでユリウスは慎重に話を進める。

 

「一度持ち帰って話し合いたいのだがよいだろうか?」

 

 少なくともギルド内での同意と合意は必要だろう。

 

「もちろんです。ここに書いてあることは全て無視しても構いませんし、次回契約の前に相談があればお受けしますよ」

「おそらくここに書かれている構成で議題は通るだろうが、もし変更があったらお願いしよう」

「お任せください」

「ちなみにこちらの資料は持ち帰っても?」

 

 ユリウスが見たのは密林階層について記された用紙。

 

「そうですね……。そちらの資料は我々としても大切なものなのですが、情報を漏らさないと約束していただけるのでしたらお持ち頂いて構いませんよ」

 

 前提として属性武器を十全に運用するには必要な資料ではあるのだが、それでもユリウスは約束という言葉に内心で緊張を示す。

 違約に対する罰が明示されていない口約束ではあるが、だからこそもし約束を破った場合には二度目はないと予感させるそれは、この先の攻略を見据えた時に罰金罰則が科されるよりもよほど大きなデメリットであった。

 

「わかった、資料の管理は徹底しよう」

「それは重畳です。ところでもう一つ、提案があるのですがよろしいですか?」

「提案?」

「ええ。学年トップを目指すならこれも必要かと」

 

 今日一番の笑顔と共にクローネが差し出したのは一枚の契約書。

 題は『理と知の庭に対する装備販売に伴う、花天月地への対応に関する契約書』。

 花天月地とは学年一位、つまりシズカの運営するギルドだ。

 

 契約書の文面は『ギルド『理と知の庭』が30階層ボスを討伐する、もしくは八月末日までのどちらかを満たすまでの間、ギルド『花天月地』への装備の提供を行わないことをここに約束する』というもの。

 つまりユリウスたちが密林階層を突破するまでシズカのギルドに装備を売らないという約束である。

 

 逆にこれがない場合、クローネたちはシズカのギルドに装備を売る可能性があることを示唆していた。

 もちろんそうなった場合は、ユリウスたちの学年一位奪取は非常に困難なものになると予想できる。

 実際にそれが起こるかは別として、保証としてはあって困るものではないだろう。

 もちろん、対価次第だが。

 

「条件は?」

 

 契約書の文面には約束の対価としてユリウス側がなにを支払うのかが書いていない。

 もちろん販売契約は既に合意を見ているので、おまけでこれをつけてくれるという訳でもないだろう。

 

「そう大したことではありませんよ。ただ当ギルドで仕事を依頼している採集科の学生を数名、20階層から上げてほしいのです。もちろんこれは、こちらの装備をお渡ししてからで構いません」

「ふむ……」

 

 採集科を21階層に連れてくるには、20階層のシャークサイクロンを最大三名の戦力で倒さなくてはならない。

 とはいえユリウスたちは既にレベル24を超え、学年2番手の実力を元より有している。

 そこにクローネたちの装備が加わればそう難しい話ではないだろう。

 

 もちろん全滅のリスクが皆無ではないし、断ることもできる。

 クローネたちも既に装備製作の素材を調達できているのだから必須の案件ではないのだろう。

 そもそもの話でいえば、シズカたちのギルドに装備を売る可能性は高くないとユリウスは読んでいた。

 それでも今後のことを考えれば、受けるメリットはあると判断して彼は頷く。

 

「わかった、そちらも確約は出来ないが議題が通るように呼びかけてみよう」

「はい、お願いします」

 

 本当であればこの契約にはもう一つ、クローネ側が約束を破った場合の罰則が必要なことをユリウスは理解していた。

 しかし理解したうえで、今この場ではそれを確認しないことを彼は選んだ。

 

「最後に一つ聞きたい」

「なんでしょうか?」

「どうして我々の依頼を受ける気に?」

 

 もちろん受けてもらえるのはありがたいところではあるが、それでも今まで他のギルドからの依頼を断り続けてきた姿勢から転換した理由は何があるのかと彼は問う。

 

「そうですね、装備を売るには買う相手が必要ですから。戦闘科の皆様を当ギルドでは応援していますよ」

「なるほど」

 

 その答えは納得のいくものであると同時に、理由の全てではないだろうとユリウスは察していた。

 だからといって、交渉内容に変化があるわけではないのだが。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「二人ともおつかれさま」

 

 ユリウスとの交渉を終えた二人を執務室で出迎える。

 俺が作業机ではなくテーブルに向かって座っているので、二人とも自然とその向かいへ腰を下ろした。

 

「交渉は事前の予定通りに進みました」

「それは何より」

 

 ユリウスは原作TierSキャラかつ成績優秀者なので相手にするのも苦労しただろう。

 この学園では明確に、シズカと同じような持つ側の者である。

 シンプルに言うと強キャラだね。

 まあ原作の強キャラが全員頭脳明晰で成績優秀な訳でもないけど。(フィスさんとか)

 

「クローネは色々任せて悪いね」

 

 俺がギルドのメンバーとして顔を出すのはあまりよくないので、今回はクローネに代わってもらったという話。

 新聞部なんかは記事の資料提供を通して継続的な利害関係にあるから情報を漏らさないだろうって信用が成り立つんだけどね、今回は一回の取引だからね。

 

 まああっちは階層が更新されるたびに装備を売って欲しいだろうから、こちらの不評を買うようなことはしないだろうけど。

 それでも取引相手が生産科ではなく戦闘科である場合は不要な警戒を生む可能性があるのでやっぱりこっちの方が対応としては丸いかな。

 

「これもギルドのためですから。それに私は付与術師ですから、実際の運用を覚えることも役に立ちますので」

 

 特殊効果の構成の提案をあの場でクローネができるように、結構な量の知識を覚えてもらったから、そういう点でも苦労をかけた。

 あとで何か労いをしておこう。

 

「マリーロールも助かったよ」

 

 彼女にはクローネが代表者に見えるように、そのサポートを頼んでいた。

 この二人の並びと対応を見て、クローネが代表、マリーロールが副代表だと認識してくれたらいいなという狙いだね。

 

「構いませんわ! このまま責任者を任せてもらってもよろしくってよ!」

 

 責任者というのは表の店舗、『戦乙女の鎚』に対する肩書で今はクローネに任せている。

 まあ要するに俺が表に出ないための隠れ蓑であり、俺がいなくても対応できる権限を任命しているという証明でもある。

 

 これで「代表者を出せ!」って客が来ても「私が責任者です」ってできる訳だね。

 代表者と責任者で役職がすり替わってるって?

 客はそんな細かいことは気にしないなら平気平気。

 その役割はマリーロールに任せても実際問題は起きないだろうけど、結局クローネに話が行くことになりそうだからやっぱり彼女が適任かな。

 

「マリーロールの話は置いておいて」

「置いておかれましたわ!?」

「二人ともお疲れだろうし肩でも揉もうか」

「お気持ちだけ、いただいておきますね」

「それは私も遠慮しておきますわ」

 

 シャオとかグレイなら喜んでくれるんだけど、二人にこの労いは不適切だったみたいだ。

 残念。

 

「ところで、対応はあれでよろしかったんですの?」

 

 対応というのはユリウスのギルドに対する装備販売の話だろう。

 今までこの手の話は全部断ってたからね。

 

「みんなには手間をかけるけど、今後のことを考えたら必要な話だからね。装備を売るためって理由も半分は本当だし」

「半分ですの?」

「うん」

 

 当人たちには語らなかったもう半分は、トップが圧倒的すぎて他の生徒のやる気をなくしてしまうのを防ぐため。

 シズカたちのギルドには誰も勝てないと諦めが同学年の中に生まれてしまうと、モチベーションの維持が難しいだろうから。

 やっぱり競争はギリギリで競り合ってるのが一番盛り上がるでしょ。

 

 大本命が圧倒的大勝するのも、面白い?

 それは観戦者の理屈であって競技者の多くはまた異なるんじゃないかな。

 

 ちなみにこれを戦闘科のギルドに伝えると「お前ら弱すぎてシズカのギルドの競争相手にならねえから助力してやるよ、ケケケ」と取られかねないので言ってはいけない。

 そんな意図はなくてもね、コミュニケーションって難しいからね。

 

「ジャックが一番になる気はありませんの?」

「今のところはそのつもりはないかな。俺だけ独走してもみんなが作る装備の供給先に困るしね。それに……」

「それに?」

「学年一位がソロだったら、いろんな意味でなんだあいつ?ってなるでしょ」

 

 まあそれでも必要になったらやるけど、今はやらない。

 

「それはそうですわね」

「ジャックさん、あとこちらをどうぞ」

「ありがと、クローネ」

 

 受け取ったのはユリウスのギルドメンバーの情報。

 今回の話を受けた理由の何割かはこれが欲しかったっていうのもあるからね。

 特に俺の知らない非原作キャラのユニークスキルなんかは、今後のためにかなり有用な情報だ。

 

「何か興味深いことでも書いてありましたか?」

 

 俺が熱心に目を通していると、クローネにそんな質問をされた。

 

「同級生の、しかも競争相手の情報だからね。知っておいて困ることはないよ」

 

 敵を知り己を知ればってやつだね。

 まあでも二人を待たせていても時間がもったいないし、しっかり確認するのはあとにしよう。

 

「んじゃ話を戻すけど、マリーロール責任者やりたい?」

 

 俺の言葉にマリーロールは予想外といった顔をする。

 

「え? よろしいんですの?」

「俺はいいと思うよ、クローネは?」

「私もマリーロールさんが代わってくださるのでしたら異論はありません」

 

 クローネは現状でもギルドの副代表としての仕事を任せているので、役割をほかに振れるならそれに越したことはないんだよね。

 あとマリーロールはスキル適性が高いので時間的な余裕を捻出しやすい。

 まあその代わりに用事があったり実家に帰ったりって部分はあるけど、そのへんも本人のやる気次第でカバーできる範囲だろう。

 

「じゃあマリーロールが店舗の責任者、クローネは副責任者兼ギルドの副代表かな」

 

 特殊効果の構成なんかは結局クローネが必要だし、サポートとして役割分担するのがバランスいいんじゃないかな。

 

「一応ほかのメンバーにも確認してからの話になるけど」

 

 クローネはギルドの副代表だからそのまま役職兼任しても立場は変わらないけれど、マリーロールを役職なしから役職持ちに上げるならほかにもやりたい希望者がいないか確認する必要がある。

 まあいないと思うけどね、クローネの副代表も自然に決まったし。

 そもそも責任者の役割に向いているのがここにいる三人以外だとシャオくらいな気もするけど。

 

「どっちにしてもマリーロールのやる気次第かな。どうする、やる?」

 

「やりますわ」

 

 真剣な表情で短く答えたマリーロールの顔には責任を負う意思があった。

 

「じゃあそういうことで」

 

 話はまとまったので今日の会議はこれで終わり。

 

「また数日中にはユリウスのギルドから連絡が届くだろうから、そうしたら装備作りはよろしくね」

「わかりました」

「もちろんですわ」

 

 ランク3装備のアドバンテージは一日進むごとに失われていくので、彼らからの注文はすぐに届くことになるだろう。

 そんな俺の予想はすぐに現実になった。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 それから一ヶ月ほどあとのこと。

 

「おい、あれ……」

 

 ランキングが貼り出されている掲示板の前では、ざわざわとした声に包まれている。

 そのざわめきは普段の日常的な空気ではなく、驚きと困惑があった。

 そこに現れたユリウスとそのギルドメンバーに周囲の視線が集まる。

 

『理と知の庭』の一行は普段より人が多い掲示板の前で、自然と人が避けるように進んでいく。

 そしてランキングの目の前まで辿り着いた。

 

「やりましたね」

「ああ、だがこれからだ」

 

 

 ギルドメンバーの言葉に答えたユリウスの視線の先、その一番上には彼の名前が記されていた。

 




・ユリウスの装備
更新前→更新後
・武器
『トゥルーアイアンソード/片手剣武器ランク3/攻撃力169』
『攻撃力強化【Ⅲ】(9%)/斬撃属性強化【Ⅲ】(15%)』(合計24%)

『アイスブランド/片手剣武器ランク3/攻撃力135+氷属性51』
『攻撃力強化【Ⅳ】(12%)/斬撃属性強化【Ⅳ】(20%)/氷属性強化【Ⅳ】(20%)』(合計52%)

『トゥルーアイアンシールド/大盾武器ランク3/カット率・物理100・火60・氷58・雷50・光62・闇58/ガード強度65』
『ガード時気力消費軽減【Ⅲ】(9%)/ガード時ダメージ軽減【Ⅲ】(9%)』

『装備同上(以下省略)』
『ガード時気力消費軽減【Ⅳ】(12%)/ガード時ダメージ軽減【Ⅳ】(12%)/装備重量軽減(12%)』

・防具
『トゥルーアイアンアーマー/胴防具・重鎧ランク3/防御力85』
『防御力強化【Ⅲ】(9%)/HP強化【Ⅲ】(9%)』

『防御力強化【Ⅳ】(12%)/HP強化【Ⅳ】(12%)/気力強化【Ⅳ】(12%)』

『トゥルーアイアンヘルム/頭防具・重鎧ランク3/防御力51』
『防御力強化【Ⅲ】(9%)/HP強化【Ⅲ】(9%)』

『防御力強化【Ⅳ】(12%)/HP強化【Ⅳ】(12%)/気力強化【Ⅳ】(12%)』

『トゥルーアイアンアーム/腕防具・重鎧ランク3/防御力34』
『防御力強化【Ⅲ】(9%)/HP強化【Ⅲ】(9%)』

『防御力強化【Ⅳ】(12%)/HP強化【Ⅳ】(12%)/気力強化【Ⅳ】(12%)』

『トゥルーアイアンレッグ/脚防具・重鎧ランク3/防御力34』
『防御力強化【Ⅲ】(9%)/HP強化【Ⅲ】(9%)』

『防御力強化【Ⅳ】(12%)/HP強化【Ⅳ】(12%)/気力強化【Ⅳ】(12%)』

『防具合計』
『防御力強化【Ⅲ】✕4部位(9%✕4=36%)/HP強化【Ⅲ】✕4部位(9%✕4=36%)』

『防御力強化【Ⅳ】✕4部位(12%*4=48%)/HP強化【Ⅳ】✕4部位(12%*4=48%)/気力強化【Ⅳ】✕4部位(12%*4=48%)』

・アクセサリー
『盾のお守り/アクセサリーランク3/防御力34』
『体力強化【Ⅲ】(9%)/精神強化【Ⅲ】(9%)』

『筋力強化【Ⅳ】(12%)/体力強化【Ⅳ】(12%)/精神強化【Ⅳ】(12%)』

『緑石の指輪/アクセサリーランク3/気力回復速度+8%』
『体力強化【Ⅲ】(9%)/精神強化【Ⅲ】(9%)』

『筋力強化【Ⅳ】(12%)/体力強化【Ⅳ】(12%)/精神強化【Ⅳ】(12%)』
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☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜(作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

火賀灯真は、世界が終わる日を知っていた。▼正確には、世界が“サービス終了する”日を。▼午前十時。▼現代日本にダンジョンが出現し、人類の一部にレアリティとクラスとスキルが配られる。▼世間は混乱し、国家は対応に追われ、凡人は怯え、英雄願望のある者は浮かれる。▼そして俺は、ゲームの周回で猛威を振るった、自爆宝具…もとい戦闘不能と引き換えに繰り出す超火力広域攻撃スキ…


総合評価:5955/評価:8.01/連載:35話/更新日時:2026年06月21日(日) 23:26 小説情報

(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん(作者:十田心也)(オリジナル現代/冒険・バトル)

【バトルワールド】▼それはただのカードゲームに非ず▼それは世界中の人々を熱狂に導き、いまだ醒まさせない▼ある国では1枚のカードを手に入れるため、世界有数の富豪が一文無しになり都市が壊滅した▼またある国では、そのカードゲームが最も強い者が皆を率いるリーダーとなった▼長年争っていた両国が、1回のカードゲームの勝負で終戦に合意したこともある▼カードゲームの枠を超え…


総合評価:4351/評価:8.34/連載:29話/更新日時:2026年08月26日(水) 18:30 小説情報

エロゲ転生〜やり込んだ知識でハーレム無双〜(なお特殊性癖)(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル現代/冒険・バトル)

やり込んだエロゲに転生してしまった主人公。▼抜きゲー世界であるが、バトルもあるので、死なない、詰まない様にしながらエロく生きたいと思います。▼なお初っ端から周回用アイテムを回収する模様。▼カクヨムとマルチ投稿▼諸事情により未完▼本当に申し訳ない。▼理由は活動報告にて


総合評価:5162/評価:8.24/未完:130話/更新日時:2026年06月01日(月) 18:00 小説情報

転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ(作者:水色の山葵)(オリジナル現代/冒険・バトル)

人より道のりは長いが、ダンジョン中毒の彼にはあまり関係がない。▼カクヨムにも投稿してます。▼https://kakuyomu.jp/works/2912051601499000526


総合評価:8063/評価:7.94/連載:39話/更新日時:2026年08月13日(木) 07:03 小説情報

この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜(作者:ゲスト047562)(オリジナル現代/冒険・バトル)

どうやら俺は転生したらしい。▼と思ったら妹?その口調、さては貴様も前世覚えてるな?というか今世でも兄妹とか、どんな偶然だよ。▼おい、この世界お前の好きな乙女ゲーだよな?俺ゲームしかしてないから知らないんだよ。基本的に主人公周りとは関わらない方針で行くからよろしく。▼ねえ?何で主人公ちゃんが俺に銃向けてんの?おかしくない?え?ラスボスクリアしたよな?後方師匠面…


総合評価:4829/評価:8.12/連載:21話/更新日時:2026年08月24日(月) 17:00 小説情報


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