ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
学年一位が入れ替わる予定。(一ヶ月後くらい)
ユリウスには(将来の80階層↑まで来てギルドメンバーのレベル上げ用に作った装備を売る先の客になれるように)がんばってほしい。
「それでは授業を始めるぞ。今日は21階層からのフィールドについてだ。すでに到達している者もいるだろうがおとなしく聞くように」
今日も教壇に立ったスカーレット先生が授業を始める。
「20階層までの浜辺階層から構成が変わり、21階層からは木々で覆われた密林階層が舞台となる。歩きやすいフィールドだった草原、見通しの良い浜辺からは打って変わって視界の悪いフィールドが続くことになる。当然モンスターとの不意の遭遇も増えるので索敵が重要となるぞ」
リアルでも山の中を歩くと不意打ちでエンカウントからのバックアタックされたりするしね、猪とか、蛇とか。
あと天然の落とし穴みたいなトラップも多い。
落ちた先でモンスターに囲まれると退路が確保できず危険が危ないぞ。
「特に気をつけるのがポイズンスネークだな。こいつは草むらだけでなく木の上なんかにも生息している。噛まれたら毒を食らうから毒消しは必ず用意しておけ」
「はーい」
「さて、これ以外の密林階層の特徴だが、一番はモンスターの種類だな。特に多いのが獣種、次いでトカゲのような爬虫類、あと鳥類などだ。獣種は動きが機敏なモンスターが多いぞ」
扇角鹿なんかも突進は結構速いしね。
「黄猫猿などはその長い腕と尻尾を使い木の上を移動し攻撃してくる。頭上は攻撃も防御も難易度が上がるのでパーティーに遠距離職がいないと苦労することが多い」
『昇龍』みたいな斬り上げスキルで当てに行くこともできるけど、それでもモンスターの高さによるので場合によっては降りてくるまで待たないといけない。
というか木の上に登ったまま投石してきたりもするので対処法は欲しいところだ。
「ほかにも注意すべきモンスターは複数いるが、密林階層でも早い段階で出てくるのがノーマル熊だな。こいつは属性を持たない標準的な熊型のモンスターだが体が大きく攻撃力が高く走るのも速い高水準のモンスターだ。遭遇したら気を付けろ」
突進は軽トラが突っ込んでくるようなもんだし、立ち上がってのパンチは横に広い範囲で殴ってくるので犬猫類のモンスターより厄介だ。
ちなみにノーマル熊のほかにファイヤー熊、アイス熊、サンダー熊、ライト熊、ダーク熊、ファイブエレメント熊がいるぞ。
「これは密林階層に共通する特徴だが、この階層のモンスターの多くは氷属性が弱点だ。氷属性の使い手なら活躍できるだろう。氷属性の武器を持つのも有効だ」
獣種もそうだけど、爬虫類系のモンスターは特にその傾向が強い。
まあぼっちの俺は氷属性耐性持ちがいたら面倒だから使ってる刀は無属性だけど。
無属性というか斬撃属性でも居合で転がして殴れば大抵死ぬしね。(例外あり)
「さてここまで説明してきたわけだが、密林階層からは特に全滅を経験するパーティーが増えてくる。理由は強力なモンスター、毒などの状態異常、見づらいフィールド、天然のトラップなどだな。ここで躓くと先頭との差が広がる要因となる、油断せずに挑むように」
「はい!」
☆★☆★☆
ということで今日やってきたのは22階層。
周囲にはあいも変わらず生えている木々と目の前を流れている小川。
ちなみに今の学年トップは24階層、俺の攻略進捗は23階層。
「今日はよろしくね、ジャックくん」
「よろしく、アクアさん。ルビーさんも」
「なんだかアタシがオマケみたいに聞こえるんですけどー?」
「そんなことないよ?」
まあ大抵パーティー誘われるのアクアさんからだから主体が彼女の側に寄ってるのは否定できないけど。
とはいえルビーさんも本気で怒ってるわけでもないだろう。
その証拠に既に彼女は視線を先に向けている。
「どっち進む?」
ルビーさんに話を振られてアクアさんが答える。
「うーん、やっぱり北がいいんじゃないかな」
北はここまでの階層で一番正解の確率が高い方角なので無難な答えだ。
「俺は西」
「理由は?」
「勘。ルビーさんは?」
「あたしは東かなー」
さて、三者三様に意見が割れたわけだが。
当然多数決も通らないので結論は運に託された。
「じゃーんけんー、ぽん」
俺が出したのはチョキ。
それに対して二人が出したのはパーだった。
「俺の勝ち。じゃあ西に向かうってことで」
「うん」
「りょーかい」
ということで全員で西へ。
いつもの三人なので打ち合わせもそこそこに隊列を組んで歩き始める。
先頭が俺、次にアクアさん、最後尾がルビーさん。
ルビーさんが後ろなのは奇襲に備えてだ。
今回は俺が気を付けてればいいんだけど、二人はほかのメンバーともパーティー組むしね。
普段からそういう隊列に慣れておくのも大切だろう。
「ジャックー、上ー」
三人で獣道を進んでいると、最後尾のルビーさんから声をかけられる。
「了解、ルビーさんはそのままでいいよ」
「はーい」
視線を上げた先にいるのはポイズンスネーク。
俺はそれに向けて取り出したナイフを投げた。
『シャッ』
ナイフが見事命中すると、『ピシッ』という効果音とともにポイズンスネークが落ちてくる。
「『ハイスラッシュ』」
俺が片手剣で上位スキルを放つと再び『ピシッ』という効果音とともに対象のHPの大半が削れ、そのまま通常攻撃で撃破できた。
ちなみに氷が割れるような音がするのは俺が氷属性武器を握っているから。
片手剣もだけど、ナイフにも氷属性が付いてるよ。
まあ付与効果は自重してるから数字はほどほどだけど、それでも弱点を突ければいいダメージが出る。
なお氷属性の耐性持ちが出たらルビーさんに丸投げするつもりだ。
うーん、仲間って素晴らしい。
「おっ」
今度はポイズンスネークが二匹、木の幹にくっついているのを発見。
ある程度近寄ってもルビーさんが気付かないので、俺が報告することにする。
「アクアさん、あれお願いできる?」
「うん、わかった。『ブリザードストーム』」
アクアさんが呪文を使うと、二匹の蛇を両方巻き込むように氷の嵐が発生。
直撃した二匹がそのまま落ちてくるので、俺がサクッと両方にトドメを刺した。
「ナイスー」
「ありがと、ジャックくん」
やっぱり魔法職の範囲攻撃は便利でいいね。
SP効率的には範囲攻撃の方がダメージを稼げるので、複数敵が出てきたら優先的に頑張ってもらいたいところだ。
特にアクアさんの氷属性は密林階層だと弱点を突けることが多いし。
「ジャックー、アタシの出番はー?」
「ルビーさんの仕事もちゃんとあるよ」
なんて言葉を交わしながらも緩く道を進んでいく。
22階層は21階層とさほど変わりがないから、既にそこを通過している二人も動きは慣れた様子だ。
まあ油断してると不意の事態に慌てたりするんだけど。
「おっ」
俺が向けた視線の先で、茂みがガサゴソと揺れるとそこから灰色の巨体が現れた。
「ルビーさん、出番だよ」
「待ってましたっ」
「まあ先手は俺だけどね。『挑発』」
あちらもこちらに気がついたようで、突進を始める前に挑発でターゲットを取る。
これが先手を取られて俺以外にターゲットされると面倒なので、最初にヘイトを固定するのは大切だ。
『グオオオォォォ!!!』
サービス行動で熊さんが吠えてくれたので、俺はそのあいだになる早で距離を詰める。
距離があると高確率で突進してくるからね、走り回られると面倒だから近寄るのが最適行動だ。(なお至近距離でも突進はしてくるけど攻撃選択肢が増える分だけ確率は下がる)
俺は向かって左へ、ルビーさんはそれを見て右へ。
二人で挟み撃ちの姿勢になり、空いた正面の射線にアクアさんの魔法が飛ぶ。
「『アイスツインランス』」
生成された二本の氷槍は、そのまま熊の横顔に突き刺さる。
おお、結構いいダメージ。
「『ワンツー』!」
熊を挟んで反対側では、ルビーさんが下位スキルでコンボ数を稼いでいる。
下位スキルは上位スキルよりも威力が低いけど同じように消費SPも低いのでこういう場面には適している。
一方通常攻撃はSP消費なしなんだけど、ワンツーの方が普通に二回殴るよりもモーション短いからね。
さて、俺も仕事しないと。
熊さんの戦い方はシンプルで立ち上がっている状態ではパンチを避けてから殴るのが基本。
まあ熊なんて素人丸出しのテレフォンパンチをダッキングで躱、
『ブンッ!』
うおっ危なっ!
太い腕から繰り出される横パンチはギリギリでしゃがんだ俺の頭上を、風切音を伴って通過していく。
予想以上に速くてビックリしたわ。
ちなみに熊パンチはヘビー級なので当たったらクソ痛いしガードしても気力をガッツリ持っていかれるぞ。
「よっと、『ハイスラッシュ』」
横パンチはしゃがむのが正解だが次の縦パンチは後ろに下がるのが正解。
こうして避けたあとはこちらの攻撃チャンスだ。
『グオオオォォォ!!!』
再び熊が咆哮し、威圧するように両手を広げる。
これはガード不可な掴みモーションの合図。
密着していたら避けられないので、後ろに下がりながら発生モーションに合わせてさらに後ろに転がる。
この攻撃は掴まれたらそのまま頭をガブガブされるので絶対に受けたくない攻撃であった。
モンスターと戦うのはもう慣れたけど、流石に捕食攻撃は積極的に喰らいたくはない。
普通にダメージも痛いしね、捕食攻撃。
そのあいだにも、二人の攻撃でノーマル熊のHPは削れていく。
この調子ならまもなく倒せるかな、なんて思ったところで熊が四足を地につける。
「ルビーさん、離れて」
「えっ?」
俺の警告は熊を挟んでルビーさんに届くが、目視を伴わないコミュニケーションに一瞬ラグが生まれる。
そしてその瞬間に、熊が大きく跳躍した。
跳んだのは真上。
後ろに下がる俺と異なり、熊がいなくなったことでルビーさんがその場で驚き見上げる顔が見えた。
そして重力に従って、熊がその場に落ちてくる。
「ぎゃっ!」
被弾したルビーさんがゴロゴロと転がっていく。
ボディプレスは威力控えめだからすぐに全回復できるだろうけど。
「コンボ切れたんですけどー!」
「どっちにしろ切れてただろうし気にしなくていいよ」
回復をもらって攻撃に戻ってきたルビーさんにフォローを入れる。
ジャンプの滞空で時間を稼がれると、コンボを繋ぐのは難しい。
まあ実際には繋ぐ方法もいくつかあるけど、初見に求めるものではないので黙っておいた。
「おりゃー!」
最後はルビーさんの蹴りでノーマル熊は倒れて消滅。
そのままドロップアイテムを回収していると集合したアクアさんが隣に並んだ。
「おつかれさま、アクアさん。SP大丈夫?」
「うーん、ちょっと怪しいかも」
「じゃあはい、SPポーション」
「ありがと、ジャックくん」
俺がSPポーションの入った瓶を渡すと、アクアさんはそれに口をつけた。
ちなみにこれは全体の利益から消耗品代として落とすやつ。
ノーマル熊のドロップアイテムは高く売れるからそれを差し引いても黒字なので安心だ。
「ジャックー、アタシの分はー?」
「ルビーさんはまだ必要ないでしょ」
アクアさんはSP無いとできることがなくなるしヒールのためにも一定量は確保しておくべきだけど、殴り職のルビーさんはそうでもないのでもっと減るまで頑張ってもらう方針で。
「ケチっ!」
「はいはい」
そもそもルビーさんが被弾したせいで余計にヒールが必要になったんでしょうが、とは言わない。
初見で全回避求めるのは過剰な要求だからね。
………………
…………
……
「それにしても歩きづらいわねー」
「それね」
再び歩き始めた獣道だが、ところどころ枝が飛び出してきたりするのでそれを伐採しながら進んでいる。
最後尾のルビーさんもたまに枝を手で払いながら歩いているのでやっぱりめんどくさそうだ。
「アクアさんは大丈夫?」
「うん、ジャックくんのおかげで歩きやすいよ」
笑顔でそう返事をしてくれる彼女も、長いローブを身に着けているので裾が引っかからないように気をつけているのがわかる。
一方ルビーさんは動きやすい服防具で、ショートパンツから太ももが露出してるから油断すると葉っぱで切ったり虫に刺されたりしそうだ。
「ん?」
「どうしたの、ジャックくん?」
「今あっちでなにか動いたような」
俺は横の草むらの先に視線を向ける。
「人?」
「いや、もっと小さかったかな」
「動物でもモンスターでもどうでもよくなーい?」
そう言うルビーさんは若干面倒くさそうな顔をしている。
襲って来なければ無視していいという意味では確かにその通りではあるんだけど……。
「レアモンスターかもよ?」
「よし、行きましょ!」
判断が早い。
そのままルビーさんが茂みをかき分けて進むので、俺とアクアさんもあとに続く。
といっても彼女はさほど先行することもなく立ち止まってこちらを向いた。
「ジャックー、なにもないわよー?」
「んー?」
進んだ先は数メートルの崖が立っていて、登るのは無理だし進む先もなさそうに見える。
「やっぱりジャックの見間違いじゃないの」
「んー、いや……」
俺が崖際の草を踏むと、そこに横穴が空いているのが見つかった。
穴の大きさは人がしゃがめば通れるくらい。
その先は壁の奥へと続いている。
「奥は見えないわねー」
「どうする?」
「とりあえず行ってみましょ」
「あっ、ルビーちゃん」
前屈みになって覗いていたルビーさんがそのまま四つん這いになって穴に潜っていく。
「追いかけようか」
「うん」
流石に放ってはおけないので、俺とアクアさんもその後ろに続く。
中に入ると見えるのはルビーさんの姿、その向こうに明かりはなく暗闇になっている。
普通に暗くて狭いので暗所恐怖症か閉所恐怖症の人間には耐えられなさそう。
原作だとここまで暗くないんだけどね。
それでも一応、先を行くルビーさんの尻と太ももは見えるけど。
流石蹴り適性ありのキャラだけあって、下半身には力強さがあるわ。
しかし順番がルビーさんのあとでよかった。
これがアクアさんのあとなら流石に尻に注視したらセクハラになるから。
なんてことを考えていると、穴の先から明かりが差し込んできた。
「まぶしっ」
日光を遮るように手のひらをかざすルビーさん。
俺とアクアさんもそれに倣って、周囲を見渡した。
「わあ……」
穴を抜けた先の光景を見て、アクアさんが思わず声を漏らす。
そこにあったのは円形の窪地で、地面には色とりどりの花が咲いている。
赤、黄、緑に青と紫、それに加えて白や黒など。
その鮮やかさはまるでカラーパレットのよう。
ここが楽園か?
いいえ、隠しマップです。
「綺麗だね、ジャックくん」
「そうだね、アクアさん」
ここまで彩色豊かな場所はダンジョン全体を見てもそう多くはない。
「ジャックー、なにもいないんだけどー?」
先行していたルビーさんが窪地を一周して、戻ってきてからこちらを見る。
彼女は花より団子みたいだ、まあルビーさんらしいけど。
窪地の外周は土の壁で囲まれてるからね、動物が穴を通ったならどこかに消えてしまうはずがないというのは自然な疑問だろう。
「穴の中じゃなくて別の場所に逃げたのかもね」
「そんなことある?」
「それよりルビーさん、知ってる? あそこに落ちてる桃はレアアイテムだよ」
「えっ、どこ!?」
俺が指差した先には桃が一つ。
窪地の中央には大きな樹が一本存在していて、そこから落ちたものだろう。
周囲を見渡すとほかにも何個か落ちているのが見えた。
「1個2万オーラムだったかな」
「ちょっと拾ってくる!」
言うが早いか駆け出したルビーさんに俺とアクアさんは顔を見合わせて笑った。
「ルビーさんはいつも通りだね」
「ルビーちゃんらしいね。ジャックくんも行く?」
「いや、俺はいいかな」
ルビーさんの邪魔したら文句を言われそうだし。
「ルビーさんが帰ってくるまで少し休憩してよっか」
「うん」
ということで俺とアクアさんはその場に座り込む。
女子ならここで近くの花を集めてカラフルな花冠でも作るのが似合いそうだけど、あいにく俺には心得がない。
草笛ならできるんだけどね、某ゲームの影響で。
まあたまにはゆっくり花を愛でるのもいいかなんて思っていると、近くを鳥が飛んでいるのが見えた。
「そうだ、アクアさん。ちょっと手出してもらえる?」
「どうしたの、ジャックくん?」
「ちょっとこれを持ってほしいんだよね」
俺が腕を伸ばすと彼女が手のひらを出してくれるので、そこにぽつぽつと小さな物を落とした。
「これって、ラズベリー?」
渡したのは赤くて小さな果粒の集合体のラズベリー。
食べて美味しい果実だが、人間と同じように鳥も食べることがある。
バサッ。
羽音とともに降りてきたのは風景にマッチした色鮮やかな鳥。
大きさは20センチくらいで名前は極楽鳥という鳥が、アクアさんの手に留まってラズベリーをついばみ始めた。
「ふふっ、くすぐったいよっ。あははっ」
手のひらをクチバシでつつかれたアクアさんがくすぐったそうな声をあげる。
うーん、平和な光景だ。
そのまま笑いを漏らすアクアさんを気にせずラズベリーを完食した極楽鳥は、バサッと翼を鳴らして飛び立っていく、と思ったらまた戻ってくる。
樹の上の巣に帰ってから戻ってきたんだろう。
そのクチバシには丸い鉱石が咥えられていた。
「? 私にくれるの?」
アクアさんが手を出すと、そこに石がポトリと置かれる。
「あっ」
極楽鳥はそれで満足したようで、今度こそそのまま飛び去っていった。
「なんだろう、これ」
手のひらの上に残された鉱石をアクアさんが覗き込んで、そのまま息を呑んだ。
「綺麗……」
五色石と呼ばれるそれは、名前の通りに見る角度でその色を五つに変える鉱石。
「俺も見ていい?」
「うん、すごく綺麗だよ」
差し出された手の上の五色石を覗き込むと最初は赤、そして緑から青と色が移り変わっていく。
それぞれの色はルビーとエメラルド、それにサファイアのよう。
さらに覗き込むと見えた色は白と黒。
前者はダイヤモンドで後者はオニキスだろうか。
今は原石の状態だけど、ちゃんと加工したらさらに美しく輝きそうだ。
ゲームでは実際にこの輝きを確認することはできなかったのでちょっと感動。
「ありがと、アクアさん」
その色合いを実際に堪能して満足したので、アクアさんの手のひらから顔を離す。
「その石は装飾品の素材になるらしいよ」
「そうなんだ……」
彼女が手の中の五色石を改めてじっと見つめる。
「ねえ、ジャックくん」
「どうしたの?」
「この石貰ってもいい?」
「もちろん」
というか最初からそのつもりだ。
「ありがと、あとでお金は払うね」
「いやいや、それは元々アクアさんのものだから気にしなくていいよ」
「それは流石に悪いよ」
どうぞどうぞ、いやいやと互いに譲り合う。
「あー、ズルい!」
桃を拾い終えて戻ってきたルビーさんが、アクアさんの持っている五色石を見てそんなふうに叫ぶ。
「アタシの取り分は!?」
ない、ない、ありません。
「これはモンスタードロップじゃないから、山分けにするならルビーさんの拾った桃も山分けにすることになるけど」
落ちてる1個2万オーラムの桃を一通り拾ってきたのなら、かなりの金額になるだろう。
五色石が高価なアイテムだとしても、山分けしてその1/3の代金が桃の稼ぎを上回るとは思えない。
そんな俺の考えと同じ結論にルビーさんもたどり着いたようで、そそくさと振り返った。
「さっ、もう用事は済んだし帰りましょ」
「もう、ルビーちゃんったら」
「まあまあ。俺たちも行こうか」
ここに来た目的も達成したので、俺も立ち上がってルビーさんを追った。
………………
…………
……
「つかーれたー」
夕日が傾いた頃、ダンジョンからの帰り道を歩きながらルビーさんが漏らす。
今日回ったのは22階層の全体からみて15%くらい。
15%と書かれると少なく見えるかもしれないが、100%まで埋めなくても次の階層への転移陣は見つかるので進捗としては順調だ。
マップの端っこみたいなたぶんここじゃないだろうって予想できる場所もあるしね。
稀にそういう部分に転移陣が置いてあったりすることもあるけど、例外を気にするよりは確率が高い場所から埋めてくのが効率がいい。
そもそも踏破済みだし原作知識で道を知ってるだろって?
それを言ったらマップを見る意味が無くなるから一旦置いといてくれ。
「たしかに疲れたね。俺も早く夕飯済ませて部屋でゆっくりしたいかな」
「アタシはその前にシャワーかなー。汗もかいたし」
「私も……」
浜辺階層は潮風で身体を洗いたくなるフィールドだったけど、気温高めの密林環境も探索が終わる頃には同じようにさっぱりしたくなるフィールドだ。
今日は特に洞窟に潜ったりしたしね。
まあ俺は飯食ってからの風呂で十分だけど。
これは俺だけじゃなくて同じ寮の男子たちも一緒である。
「女子は大変だね」
同じ寮生活でもこんなふうに差異があるのはちょっと面白いけど。
「ジャックは夕飯なに食べるの」
「んー、今日はパスタでも食べようかな。ルビーさんは?」
「アタシはラーメン!」
「アクアさんは?」
「私も今日はパスタにしようかな」
「食後のデザートは?」
俺が聞くとアクアさんはちょっと不満そうに答える。
「もー、いつも甘いもの食べてるわけじゃないよっ」
「あはは、ごめんごめん。でもルビーさんの拾った桃はデザートにもなるから食べてみるのもいいと思うよ」
ルビーさんの拾った桃は大量に拾えたので、そのうちいくつかを売らずに残していた。
「へー、そうなんだー」
なんて話をしているあいだに男子寮と女子寮に続く分かれ道へ。
「じゃあね、ジャック」
「またね、ジャックくん」
「二人ともまた明日」
「うん、また明日」
いつものように手を振りながら道を分かれた。
☆★☆★☆
「アクアー?」
ここは女子寮の中。
シャワーを浴びて私服に着替え、赤い髪に薄っすらと湿り気を帯びたルビーが姿を見せた。
その視線の先、アクアは同じようにシャワー後で頬が桜色に染まっている。
「どうしたの、ルビーちゃん」
寮の共有スペースで座っていたアクアは、手に持っていた五色石から視線を上げた。
「またその石見てたの?」
「またって言うほど見てないよっ」
「はいはい、別にいいけど夕飯行きましょ」
「うん」
頷いて立ち上がりながら、アクアはその石をポケットへとしまった。
・秘境の桃
22階層の隠しエリアで拾える桃。
買取金額は1個2万オーラム。
消費アイテムで効果はHP回復+HP継続回復。
料理にも使え、ピーチパイの素材としても利用できる。
・極楽鳥
22階層の隠しエリアに出現する鳥。
餌をあげるとアイテムをくれる。
あげる餌の種類によって貰えるアイテムが変わる。
さらに、餌をあげるキャラクターの性別によっても貰えるアイテムが変わる。
五色石のような高価なものもあればさほど価値がないアイテムの場合もあり。
・五色石
22階層の隠しエリアで拾える宝石。
角度によって見える色が五つに変化する。
買取金額は1個10万オーラム。
・五色石の首飾り
五色石を中央に添えた飾りの首飾り。
彫金師が製作できる装飾品。
五色石が手に入る階層は22階層(ランク3相当)だが、この装備はランク4。
なので製作するにはレベル31以上が必要。
装備効果は全魔法属性耐性+10。
火・氷・雷・光・闇の属性耐性が上がる。
合計値でいえば同ランクの耐性アクセサリーよりも強力であり、装備したままで安定して効果を発揮してくれる。
一方ボスなどでの単一属性への対策としては、同ランク耐性アクセサリーの+20の半分で効果は控えめ。