ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
現在23階層。
戦技祭を終えてそろそろ前期試験。
それが終わったら夏休みで一日ダンジョン漬けの日々が始まる。
夏も本番に差し掛かった今日は七月の第二週。
朝、スカーレット先生がホームルームを始めるために教壇に立った。
「さてそれでは、以前から話していたように今日から試験前期間が始まる。文字通り試験前の準備をする期間だな。具体的には今日から一週間、ダンジョンの立ち入りが禁止されるぞ」
さらにそこから前期試験が数日続くので、それが終わるまではダンジョンは立ち入り禁止だ。
「試験日程がすべて終われば前期日程は終了。約二ヶ月の夏期休暇が始まる」
スカーレット先生のその言葉に、クラスメイトがわっと沸く。
「ただし、試験が赤点だった者は夏期休暇に補習がある。学園で授業、その後の追試を合格するまではダンジョンの立ち入り禁止も継続だ。ほかの学生は一日ダンジョンに潜れる状況で足踏みすることの深刻さは言うまでもないな」
そんな先生の言葉を聞いて、盛り上がっていたクラスがスン……となった。
例えば一週間出遅れれば丸々1階層分くらいの差をつけられてもおかしくはない。
「とはいえこのクラスからはまさか補習になる者はいないだろう。無用な心配だな」
スカーレット先生が余裕を見せるように笑う。
すげえプレッシャーかけてくるじゃん。
「夏期休暇はダンジョン攻略を進めるうえで重要な期間だ。ここで生まれた差がその後の学園生活を左右することもある。そのためにも試験にはしっかりと準備をして挑むように」
「はい!」
………………
…………
……
そんなホームルームを受けてから授業も終わって今は放課後。
俺はギルドハウスに来ていた。
なお試験期間中はギルド活動も基本的に禁止だけれど、ギルドハウスに集まること自体は禁止されていない。
なら生産職はレベル上げをしててもバレないのでは?と思うけどどうなんだろうね。
どっちにしてもバレたら怒られるだろうからうちのギルドではやらないけど。
コンコン。
「どうぞー」
クローネに執務室のドアをノックされたのでそれに応える。
「ジャックさん、新聞部の方がいらっしゃってます」
「わかった、入ってもらって」
「わかりました」
クローネに通されて部屋に入ってきたのは新聞部部長のペス先輩。
先輩には攻略記事の資料を渡すためにこうして定期的に顔を合わせている。
「お邪魔しますよー」
「どうぞ」
俺はソファーに移動して、彼女を向かいに促した。
「こんにちは。相変わらずキミのギルドは好調なようね」
「ええ、おかげさまで」
店舗のショーウィンドウにはランク3の付与合成装備が並んでいて、その数は月末の販売予定まで順調に種類が増えている。
「あと『理と知の庭』も好調みたいよ」
ユリウスたちのギルドには既に装備一式を納品済みで、それを使って順調に攻略を進めているとのこと。
まあ試験期間中は攻略は止まるけど、その後の長期休暇にはさらに加速しそうだ。
「がんばってほしいですね」
なんて言いながら俺は取り出した用紙をテーブルに置く。
渡したのはもちろん攻略記事用の資料。
今回は25階層まで。
30階層まで資料は用意してあるんだけど、まだそこまで仲良くなってないから念のためね。
「はい、確かに。次回もよろしく頼むわね」
「ええ、もちろん。攻略が進むのはうちのギルドにもメリットがありますから」
トップを支援するのは目標を引き上げるのに大事。
学年一位が競いながら加速すれば先頭集団は皆それを目指してやる気を上げるだろうから。
ボトムを引き上げるのは母数を増やすのに大事。
数は力だ。
全体が底上げされれば、そこからまだ頭角を現していない優秀な人間が出てくるだろう。
本当はもっと上を目指せるのに、スタートダッシュでつまずいてしまった、そんな人間もいるだろうから。
どちらもうちのギルドメンバーのレベル上げ、それに俺の100階層攻略という目的に繋がっている。
生産職は作った装備を売る相手がいないとレベル上げに困るからね。
「ところで夏休み用に記事のページを増やしたいんだけど、なにかいい企画は無い?」
「ありますよ」
「あるんだ」
「まあそんなに大したものじゃないですけど、どうぞ」
渡した用紙にまとめてあるのは草原階層と浜辺階層における効率的なレベル上げ方法。
モンスターがポップしやすくエンカウント率が高い場所や、同一の弱点属性が出現しやすいので効率よく倒せる場所、あとシンプルに経験値が稼ぎやすいモンスターの出現場所とか。
例えば浜辺階層の中でも14階層北西にある長い砂浜は、二枚貝の化け物の出現率が高いので闇属性魔法使いがいれば経験値もオーラムも稼ぎが捗るぞ。
ほかにも浜辺階層のカニは打撃に弱いので、打撃パを組んで群生地に行くと効率よくレベルが上げられる。
このあたりの知識があれば、夏休みに効率よくレベルが上げられるだろう。
なお密林階層は稼ぎポイントに人が群がると自分が使う時に邪魔になるので書いてないけど。
「これはまた、記事が飛ぶように売れそうね」
「それならよかったです」
記事が人気になればこちらも助かる。
「ところで試験期間中は部活動も禁止のはずでは?」
「ええ、だから前の記事は昨日に出して、次の記事は試験最終日の放課後よ」
「執筆する時間は……?」
「ジャックくん」
ペス先輩が真剣な顔で視線を合わせてくる。
「はい、なんでしょう」
「バレなきゃ校則違反じゃないのよ」
「えぇ……」
それでいいのかと思ったけど、まあある意味で新聞部らしいか。
「ま、アタシは怒られないように上手くやるから大丈夫よ。それにほかの部活やギルドもこっそり活動してるところはあるもの」
「へー、そうなんですね」
ほなええか。
そのバレないように上手くやるっていうのが重要なんだろうけどね。
「まあそういうことで。今日のお礼じゃないけどこれ、約束のモノ」
「ありがとうございます」
俺が渡したのとは別の用紙をペス先輩から受け取る。
これはギルドのこの先を左右するかもしれない重要な資料。
ある意味で、新聞部と取引を始めてからここまで一番の直接的な利益であった。
「あとトインさんにもよろしく言っておいてください」
記事が増えると必然的にそれを執筆する彼女の仕事量も増えるのでがんばってほしい。
「キミが直接褒めてあげてもいいのよ?」
「顔を合わせる機会があれば」
まあ顔を合わせる予定はないんだけど。
………………
…………
……
「さて、これで全員揃ったかな」
ペス先輩が帰ったあとのギルドハウスにて、テーブルを囲んでメンバー全員が集まっていた。
「みんなも知ってのとおりだけど、今日から試験期間でダンジョン探索は禁止、同じようにギルドでの作業も禁止だから試験勉強に専念することになるよ」
全員クラスで担任から聞いているだろうけど、一応確認をしていく。
「そのうえで試験期間が終わればすぐに夏休み。戦闘科だけじゃなく生産科にとっても貴重な作業期間だからこれを活かすために全員補習回避を目指すよ」
「当然ですわね」
マリーロールが胸を張って言う。
まあ彼女は実家に帰るんだけど、それでも予定があるんだから赤点回避は義務であろう。
「ということで先に聞いておくんだけど、赤点怪しい科目がある人は挙手。はい」
俺が手を挙げたのに釣られるように、挙がった手は三つ。
「対策が必要なのが四人。そうじゃないのが三人だね」
「必要なのは三人では?」
疑問を挙げるクローネに、俺は視線を巡らせて確認する。
「ケミー、カッツェ、グレイ、それに俺」
「ああ、ジャックもなのかの」
「貴方は試験は問題ないのかと思っていましたわ」
いや、原作知識が通用する場所はいいんだけどね……。
それ以外の場所はちょっとね……。
「歴史と地理嫌い」
「子供みたいなこと言い出したのう……」
「わかる!」
グレイが俺の意見に賛同してくれる。
ちなみに試験科目は全学科共通の物が語学、数学、地理、歴史。
語学は普通に理解できるし、数学は現代日本の小中学生レベルなので問題ない。
ただし地理と歴史は文字通り創作のオリジナル設定を暗記させられているようなものである。
いや、無理だって。
まあ最初から順に授業でやってるんだから、覚えられていないのはシンプルに俺のやる気とスペックの問題なんだけどさ。
暗記科目って昔から苦手なんだよなぁ。(計算科目が得意とは言っていない)
ちなみに共通科目のほかに学科ごとに専門科目がある。
戦闘科ならいつもスカーレット先生が教えてくれているダンジョン学だね。
これは原作知識が通用するから結構得意。
「ちなみにケミーの苦手科目は?」
「あたしは数学が苦手ですぅ……」
錬金術って化学を挟んで数学の親戚なイメージがあるけど、とはいえこの世界では合成するのに数学的な理解はあまり求められないから無理もないか。
どちらにしろ自分で商売をするなら必須ではあるだろうけど。
「カッツェは?」
「語学……、にがて……」
ああうん、これはイメージ通りかも。
「グレイは?」
「ボクは全体的に苦手かなー」
「専門科目も?」
生産科には生産共通学と生産専用学の二種類がある。
共通学は生産職全体で共通する仕様やルール、それに広く知っていた方がいい知識、専門学は各職の専門的な知識や実習などが行われる。
グレイなら『木工』の授業だね。
当然これは各人の専門分野なので、これが苦手という人は珍しいかもしれない。
「だってめんどくさいんだもん!」
なんてグレイは言うけれど、彼女のスキル適性は全体で見ても上の方なので天才肌というか実践派というかそんな感じなんだろう。
「どっちにしろ試験は合格しないといけないけどね」
「やだー!」
泣いても叫んでも試験は無くなってはくれない。
泣いて叫べば無くなってくれるなら俺も楽なんだけど。
「勉強するしかありませんね」
「こればっかりはどうしようもないからのう」
「語学と地理と歴史はわたくしが教えて差し上げますわ!」
流石貴族の令嬢、その辺りは得意分野の様子で心強くはある。
「まあ苦手分野は得意なメンバーに教えてもらうとして」
「まだ何かありますの?」
「ああ、この試験には必勝法がある」
俺が笑うと、全員から視線が集まる。
「不安しかないのう……」
「でもジャックさんならぁ……」
「ボクはジャックを信じるよ!」
なんて声援を受けて、俺はペス先輩から受け取った用紙を取り出す。
「じゃん」
「それは何でしょうか?」
「一年前期試験の過去問、三年分」
これさえあれば試験にどんな問題が出るのかはもちろん、出題確率の高い問題、試験の傾向なんかもわかるし模擬試験としても使える。
唆るぜこれは。
なんて俺の反応とは裏腹にいくつか訝しむ視線が向く。
「それってありなんですの?」
「規則としては問題ないよ」
それにこれを貰うときにペス先輩に確認したけれど、実用としても問題ない。
というか新聞部に過去問が数年分保管されているのが、実際に使われてきた歴史を実証してるからね。
「とはいえ、使いたくないなら使わなくてもいいよ」
結論、俺としては赤点による補習を回避できればなんでもいいので、自力で頑張りたいというならそれを止める気はない。
「あとどっちにしろ勉強もするしね」
試験期間は結局ほかにすることがないから、勉強するのが合理的。
俺も全てに合理的に生きているわけではないけれど、それでもギルドの代表者として赤点を回避するつもりはあった。
「わたくしは遠慮しておきますわ」
「了解。まあマリーロールにはそもそも必要ないだろうしね」
見た目の通り成績優秀なのは想像に難くないし。
「ボクはやるよ!」
「あ、あたしもぉ……」
「(コクリ)」
ということで成績怪しい組は全員使うことに。
「私も使わせてもらいます」
「わしもそうしようかのう」
クローネとシャオもコッチ側。
実利を取るタイプだね。
「マリーロールだけ仲間外れじゃん」
「おーっほっほっほ、わたくしはそんなものに頼らなくてもトップを取ってみせますわ!」
つよい。
「んじゃみんなで頑張ろうか」
「おー!」
みんなで一致団結やる気を出して、まずマリーロール以外は過去問で授業の理解度の把握。
その結果、自己申告の通りに俺とケミーとカッツェは各種目が、グレイは全体的に苦手なことがわかった。
逆にクローネは生産科共通と数学と地理、シャオは語学と歴史が得意ということなので、マリーロールと合わせてバランスがいい。
翌日からはクローネがケミーの数学を、シャオがカッツェの語学を、マリーロールが俺の歴史と地理を、あと頭良い組三人でグレイの勉強を見ることになった。
「それじゃあ今日は解散!」
「はぁい……」
「…………」
「ジャックー、おんぶしてー」
勉強得意じゃない組は六教科の試験問題をやった時点で疲労困憊。
俺も疲れたのでおんぶはしないけど。
………………
…………
……
それからみんなと別れて寮に帰ると、ロビーにいくつか集まっている寮生たちの姿が見えた。
「おっ、ジャックじゃん。今帰り?」
話しかけてきたのはテーブルに数人で輪を作っている集まりの一人、同じクラスのサイモン。
「うん。みんなはなにしてるの?」
「そりゃ試験勉強だろ」
へー。
「意外と真面目じゃん」
もう日も落ちていい時間なのに、ちゃんと勉強してるなんて偉い。
「真面目っていうか、不真面目だからこうなってるっていうか……」
「なるほど」
普段から真面目に勉強してるなら試験勉強なんて要らない説あるよね。
資質のある者の戯言だと思ってるけど。
とはいえ赤点なら普段の勉強に対する姿勢でおおよそ回避できる範囲かもしれない。
「完全に諦めてるやつもいるけどな、あの辺に」
そんな言葉につられて視線を向けると、テーブルの一つでカードゲームを遊んでいるのが見えた。
まあ休日の前の夜なんかは似たような光景が見れることもあるけれど、それでも今の時期に遊んでいるのは賢者か勇者かのどちらかだろう。
普段なら知り合いが遊んでたら混ぜてもらおうかなと思ったかもしれないけれどさすがに今日は無理。
「んで、お前はこんな時間までなにやってたんだ?」
「俺も勉強だよ」
「おっ、じゃあ一緒にやるか?」
「その前に飯食ってくるわ」
「いてらー」
ということで一旦自室に荷物を置いてからそのまま学食へ。
食堂の中ではロビーと同じように試験勉強に励む同級生たちの姿があった。
それでいいのかと思わなくもないけど、もうピークタイムは過ぎてるし飯食うのに困るほど席埋まってないからまあいいのかな。
そこには集まっているアレックスたちの姿もあったけど、今日はもう勉強はお腹いっぱいなので俺は離れた席に座った。
………………
…………
……
「それでは授業を始めますわよ!」
翌日ギルドハウスにて、俺はマリーロールの授業を受けていた。
「よろしくお願いします、マリーロール先生」
「先生、いい響きですわね」
そんなことを言う彼女は壁の前に貼られた地図の前に立っている。
あと何故か眼鏡をかけている。
ちなみに今日は部屋の中には二人きり。
グレイはケミーと一緒にクローネから数学の授業を受けている。
数学が一番ヤバかったからねグレイ。
「それではまずは国内の地名から覚えていきますわよ」
地理の一年前期では、王国内の大まかな地名と場所を把握するところから授業が始まる。
「資源と産業の話になると国内各地のダンジョンも重要なのですけれど、これは試験範囲ではありませんのでまた今度ですわね」
学園のほかにも国内にはダンジョンが存在するらしい。
ダンジョン自体が実質無限の資源だから、地獄のような利権争いがあるのは想像に難くない。
もうその時点で近寄らんとこ、ってなるよね。
「まず中央に位置するのが王都であるグラングロー。そこから西に行ってあるのがドランサスですわ。こちらは『ドラゴンの背』という言葉が由来の土地ですわね」
「ドラゴン?」
「ええ。といっても実際のドラゴンではなく、近くを流れる川に竜が住むという伝説があり、その川の背にある都市だからという話ですわ」
見るとたしかに、その都市の近くを曲がりくねった川が流れている。
日本でもうねるような川の流れとそこからの水害は、龍信仰として関連付けられたりするらしいって聞いたことがあるかな。
「川の氾濫とか多そう」
「昔は特に苦労したそうですわよ。今では治水が発達し川の恵みで農業が盛んな豊かな土地ですわね。次は北に行きますわ」
そんな感じでマリーロールの授業は続いていく。
こうやって豆知識を添えて解説されると比較的覚えやすいかな。
「わたくしもこうやって土地の名前を教わりましたわ」
「へー、マリーロールにもそんな頃があったんだ」
「ええ、6歳の頃ですわね」
「へー……」
6歳の頃のマリーロールと同程度の学力と言われると流石に負けた気分になるなあ。
まあ実際負けてるからしょうがないけど。
「次に王都から南に位置するモンテメール。こちらはフルール伯爵領、つまりわたくしの家の領地ですわね」
「へー」
地図を見ると領内は山が多く、町も山の中に点在しているところもある。
「食料を用意するのに苦労しそう」
山が多いということは必然的に平地が少なく、農業をするのに適さない土地に見えた。
まあそれを言ったら日本の県の多くも大概だけど。
「そうですわね、地名の頭のモンテは山を意味する言葉だそうですわ」
それは覚えやすいかな。
「ですが山を利用した鉱山採掘と宝石の採集は国内でも屈指のものですのよ」
確かにこのくらいの時代だと特に鉱山は有力な収入源か。
戦国時代は鉱山から産出した金銀を売って鉄砲を揃えたらしいしね。
「なるほど、だから彫金師」
「ええ、そういうことですわ」
出土した金銀宝石を加工すれば、素材のまま出荷するよりも大きな利益になる。
地元の産業として推進するには十分な理由だろう。
「ですから、彫金師としての腕はフルール家では重要なんですのよ?」
領主家自ら彫金の仕事をするのかと思ったけれど、スキルのある世界なら貴族がその技術の筆頭として働いていてもおかしくはないか。
「ならレベル上げ頑張らないとね」
「もちろんですわ」
まあマリーロールはスキル適正高いし、将来的に見ても心配はいらないと思うけど。
「そいやマリーロールは夏期休暇になったら実家に帰るんだよね」
「そうですわね。地図でいうところのこの道、ジュエルロードを通って帰りますわ。ちなみにこの道は文字通り、領地から王都まで宝石が運ばれる道、という意味ですわ」
「なるほど」
産地と道で意味が繋がっているというのは理解できるとわかりやすい。
「馬車で往復二週間、あちらでの滞在も含めると帰ってこられるのは九月になってからですわね」
「貴族は大変だね」
「務めですもの、仕方がありませんわ」
聞くところによると、実家への報告とか貴族同士の付き合いとか色々あるらしい。
なおジャックの実家も貴族だけど、マリーロールと比べてはいけない。
弱小貴族の六男だしね。
「しかし領地デカいな」
王都から片道一週間というのもこれなら頷けるスケール感。
これが目の前の彼女の実家というのは全く実感が湧かない。
マリーロールと結婚する相手は凄い逆玉だ。
ああでも、兄弟がいるならそっちが領地を継ぐのかな。
「領地に興味があるのでしたら招待してもよろしくってよ」
「それは貴族として? それとも土地として?」
「望むのでしたらどちらでも」
貴族の子息としてマリーロールに付いていったら社交界に連れ出されたりするんだろうか。
想像するだけで疲れそうというかそんな場所に連れて行かれても困る。
観光として地元自慢してくれるなら興味がないわけでもないけど。
「そうだね、機会があったら行ってみようかな」
なんて俺の返事に、マリーロールはため息を吐いた。
「はぁ……、その返事は来る気はありませんわね」
バレテーラ。
社交辞令に敏感なのは貴族の嗜みだろうか。
「本音を言えば卒業するまでは学園の外に出る気はないからね」
それまでは攻略を最優先にしたいし、あと出かけるのめんどくさいし。
まあ卒業後にどうなってるのかもわからないんだけど。
「どちらにしてもまずはダンジョン優先かな」
「なら補習を避けるために勉強しないといけませんわね」
「結局そこに帰ってくるんだなぁ」
「学生ですもの、当然ですわ」
マリーロールはそう笑って再び地図に視線を向けた。
………………
…………
……
そんなこんなで授業を受けて時間はすっかり夜になっていた。
ほかのみんなは先に帰ったようなので、俺とマリーロールは二人でギルドハウスを出る。
日は既に落ちていて、夜空は暗く、夏の空気はそれでも暖かい。
「今日はありがと」
俺は改めてマリーロールに礼を言う。
結局半日勉強を教えてもらったのでかなりお世話になった。
ギルド内で決めた役割とはいえ、時間を使わせてしまったのは事実だ。
「構いませんわ。困っている人に手を差し伸べるのは貴族の務めですもの」
本心からこう言えるのが彼女の凄いところ。
「寮まで送るよ」
「あら、よろしいんですの?」
「今日は二人だけだからね」
これがギルドメンバー勢揃いなら一緒にいると関係性がバレるけど、彼女一人だけならそこまで心配する必要もない。
人に見られてもただの個人的な知り合いで済ませられるだろう。
まあ全員揃ってるならわざわざ俺が送っていく必要もないんだけど。
そもそも論で言うなら学園の敷地内は女子一人でも別に必要ないんだけど、そこはマナーとしてね。
「ではエスコートをお願いしますわ」
「喜んで、お嬢様」
さすがに手は引かないけれど。
ちょっとしたおふざけを挟んで、俺とマリーロールは二人で並んで歩き出した。
*長くなったので次回に続きます。