ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
前期試験は全員赤点を回避できました。



034.サマーシーズン到来!

「さてそれでは、ホームルームを始めるぞ」

 

 終業式を終えて前期登校の最終日。

 スカーレット先生が教壇に立つ。

 

「今日で前期の授業は終了、明日からは夏期休暇に入る。約二ヶ月の夏期休暇だが、以前から説明している通りダンジョンは開放されているぞ。つまり丸一日探索できる期間が約二ヶ月存在するということだな。当然ここでサボる奴は周囲から置いていかれることになるぞ」

 

 といっても全員が全員毎日ダンジョンに通うわけでもないだろうけど。

 そのへんは現代日本でも毎日勉強する学生ばっかりじゃないのと似たような理屈。

 あとシンプルに疲れるしね。

 原作でもダンジョンに通いつつ、並行してキャライベントを進めるのが基本だった。

 

「ちなみに学園は夏休み期間中も開放されている。校舎に来て勉強してもいいし、なにか困ったことがあれば教員に相談することも可能だ」

 

 当然スカーレット先生とも会えるので、原作で攻略したいときは足繁く通ったりもしたかな。

 

「なお当然のことながら、夏期休暇といえどなにをしても許されるわけではない。問題行動はくれぐれも起こさないように。わかっているな?」

 

 その言葉にクラスメイトの表情がキッと引き締まる。

 

「よろしい。では成績表を配るぞ。名前を呼ばれたら取りに来い」

 

 成績表というのはダンジョン攻略と学業、あと校内イベントの成績や授業態度などをまとめたもの。

 自分のそれを見るとダンジョン攻略とダンジョン学の成績は良好、総合成績も上の方ではあった。

 ダンジョン攻略とか上位一割には入らないけど上位二割からは漏れないくらいの位置を維持してるしね。

 まあ人に見られても目立つほどの位置じゃないけど。(なお歴史の成績)

 そんな成績表の配布が終わり、クラスメイトの表情に明暗が分かれている。

 

「では以上でホームルームは終わりだ。次に会う時は後期日程が始まるときなわけだが、夏期休暇におけるお前たちの躍進を期待している」

「はい!」

 

 スカーレット先生が教室から出ていって、クラスの中が活気付く。

 明日から夏休みということで浮かれた空気が教室の中を満たしている。

 

「ようジャック、成績どうだった?」

「サイモンか、そっちこそどうだった」

「…………」

「そこで黙るのかよ」

「いいだろ、成績表見せろっ」

「はいはい」

 

 俺が成績表を渡すと、サイモンはつまらなそうな顔を見せた。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

「それでは行ってまいりますわ」

「いってらっしゃーい」

「気をつけてね」

 

 夏期休暇に帰省するためにまとめた荷物を持ったマリーロールをギルドメンバー全員で見送る。

 今日のマリーロールは制服ではなく白いドレスを着ていて、こうしてみると貴族の令嬢というのに相応しい見た目だった。

 そんな彼女を見送って俺たちの夏休みが始まった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 転移陣をくぐった俺は、24階層の地面を踏む。

 

 今日は七月の第三週で夏期休暇の初日。

 学年トップの進捗は27階層だ。

 未だにシズカのギルドがトップを走っているけれど、うちから装備を販売したユリウスたちのギルドもそろそろ追いつきそうなところ。

 どっちもがんばえー。(小学生並みの感想)

 

 なんて話はともかく、今日来た24階層は密林階層らしく木々が生えているが、それでも草や茂みの生え方は控えめで地面が見えて足元は歩きやすい。

 その代わりに薄っすらと霧が発生していて、遠くまで見渡すことができない構造になっている。

 誰が呼んだか、通称『迷いの森』。

 そんな森の中を俺は一人で歩き出した。

 

 まずこの森がプレイヤーを迷わせる要素の一つが不規則に並んでいる太く背の高い樹。

 幅は50センチくらいだろうか、人が裏側に完全に隠れることができるくらいの太さがあり、直進しようとするプレイヤーの進路を阻み少しずつ進行方向を狂わせてくる。

 虱潰しにマップを埋めようとしても、気付いたら進行方向が左右にズレてる、なんてことがよくあるのはこの木々が原因だ。

 

「ん……」

『シャアッ』

 

 ついでにこの階層には霧猫というモンスターがいて、木の死角から襲ってきたりする。

 この霧猫は霧に溶け込むような灰色の毛皮をしていて、接近を視認するのはなかなか難しい。

 まあ索敵スキルを上げていればそれでも事前に気づけるけれど。

 

「『居合』」

『キャンッ』

 

 飛び掛かってきた霧猫を居合で弾くと、鳴き声とともに地面に倒れる。

 

「『縦一文字・弐』、『縦一文字・弐』、『縦一文字・弐』」

 

 スキルを連続で当てているあいだに、霧猫は体を起こす。

 

「『一角・弐』」

 

 霧猫はダウンから復帰するとバックジャンプをして距離を取る性質があるので、それを追従するように突進スキルで距離を詰めた。

 

「『居合』、はい終わり」

 

 居合のあとに通常攻撃で追撃。

 そのまま完封で討伐を完了する。

 残念ながらドロップアイテムは魔石【Ⅲ】のみ。

 霧猫の毛皮は防具の素材になるんだけど、まだまだ戦う機会はあるだろうからそのうち拾えるか。

 

 なんて思いながら歩いていると、左右にモンスターの気配。

 立ち止まってちらりと覗くと見えたのは霧猫が2匹。

 同時はちょっとだるいので、俺は気づかれる前に後ろに引き返して回り込んでから右手の霧猫にナイフを投擲した。

 命中したナイフで削れたHPはそこまで多くはないが、反対側の霧猫B(仮)の索敵範囲内に入る心配がなくこちらに引き寄せることができる。

 

『シャッ』

「『居合』」

 

 そのまま居合で弾いてHPを削る。

 ダウン復帰の跳躍は、霧猫の背後に木があるように立ち位置を調整してそのまま大きく動くことなく封殺に成功。

 バックジャンプで霧猫Bの索敵範囲まで下がられると面倒くさいからね。

 ドロップアイテムを拾ってから、そのまま霧猫Bを視界に捉える距離まで近づき突進スキルを使う。

 

「『一角・弐』。『居合』、『縦一文字・弐』……」

 

 距離が開くと動きが素早いからちょっとめんどくさいんだよね霧猫。

 なのでこうして距離を詰めて削り切ると比較的スマートに倒せる。

 

「これでトドメ」

 

 俺が刀を振り下ろすと、霧猫BもHPが0になって消滅した。

 ドロップアイテムは、また魔石のみ。

 そろそろ固有ドロップが欲しいところですね。(フラグ)

 

「おっ」

 

 そのままマップを進んでいくと、ほかのパーティーが探索しているのを見かける。

 あちら側に気づかれないように遠目で観察すると、四人パーティーで知り合いではなかった。

 四人で集合して何か話し合っているので、道に迷ってるのかな。

 

 この階層は高低差を用いた立体構造になっているので、視界を防ぐ霧と乱立する木々も相まって正しい道を見つけるのには苦労する。

 平面じゃないから片手を外周につけて歩く迷路的攻略法じゃ先に進めないしね。

 まあそういうのに四苦八苦するのもダンジョン攻略ということで、俺は気配を消したままその場をあとにした。

 

 それからまたしばらく歩いて、到着したのは下りの坂道。

 左右の水平な地面から溝のように掘り進んでいくその坂道は、近くまで来ないと気付くのが難しい構造になっている。

 ここが見つからなくてカレンダーで一週間以上彷徨い続けたこともあったなぁ。(過去の記憶)

 

 そんな道を進んでいくと、すぐに頭が左右の地面よりも低い位置までおりる。

 道の幅は俺の広げた両手が壁につくくらい。

 なおも続く坂道は、すぐに深さ10メートルを超えた。

 

 この位置まで上の地面から落ちたら、即戦闘不能判定で強制離脱である。(3敗)

 いやマジで、上でマップ走ってると崖に気づかずにスルッと落ちて死ぬからしばらく唖然とするんだよね。

 

 まあマ◯クラみたいに全ロスしないだけ有情かもしれないけど。

 え? マイ◯ラもアイテム回収すればいいだろって?

 不意打ち即死で落ちた谷底からアイテム回収できるわけないだろ!いい加減にしろ!

 

 なんて話はともかく、坂を下ると頭上が土で覆われた洞窟になっている。

 とはいえその洞窟はそこまで長くもなく、少し進めば外に出ることができるんだけど……。

 

「よっと」

 

 その洞窟の出口手前で、視線を上げて天井へとナイフを投げる。

 

『シャッ』

 

 その投げナイフがヒットしたポイズンスネークが落ちてきたので俺は刀を抜いてそれを処理する。

 こうやって忘れた頃にトラップを仕掛けてくるのが原作からの嫌らしいところ。

 

 それを通り過ぎると光が差し込んで、トンネルを抜けた先は崖の下。

 頭上を覗けばせり出すように反り立った崖。

 眼下を望めば急流の川が流れている。

 そしてその川の上を渡れる土でできた天然の橋が存在していた。

 

 ポイズンスネークに動揺して横に転がるとそのままスルッと川にドボンしそうな配置で原作スタッフの技が光る。

 この橋の耐久度は大丈夫なんですかね?と疑問に思う見た目だが、原作では問題なく渡れたので大丈夫だろう。

 なお下は川までさらに数十メートルあるので、高所恐怖症の人は御愁傷様だ。

 

 俺はそこまで気にならないのでそのまま渡れるけど。

 真下に川が流れているせいか、橋はわずかに湿っていて気をつけないと足元が滑りそう。

 原作ではキャラコントロールが難しくなるようなことはなかったからオリジナル要素だ。

 

 そのまま注意を払いながらも橋を抜けて、再びの洞窟を抜けると今度は上り坂が続いている。

 北に進むと転移陣があるエリア。

 なんだけど俺は坂を上りきってから、そのまま横に逸れて南東へと進路を取った。

 

 しばらく歩くと川の流れる崖上に出て、さらにそのまま崖沿いに進むと大きな滝に対面する。

 崖上から崖下まで流れ落ちる滝は合計で100メートルくらいあるだろうか。

 俺から上に70メートル、加えて下に30メートルの垂直落下は大迫力。

 この森の霧はここが発生源なんじゃないかと思わせるような水飛沫が舞っていて、ここだけ肌寒さを感じるほど。

 

 そんな威圧感のある滝に近づき、崖際に沿って滝の裏側に入った。

 外からは完全に隠されていて、そこに何かがあるかもしれないと見当をつけて近寄らないと気づかないようなその場所は洞窟が奥へと続いている。

 ある意味ゲームのマップでは定番のネタだよね。

 

「さぶっ」

 

 洞窟の中は外よりもさらに一段冷えて、息が白くならないか思わず確認してしまった。

 日光の遮られた洞窟内は暗く、取り出した小型のランタンを腰につける。

 まだ暗くはあるけれど、それでもなにもないよりはずっとマシだ。

 湿った足元を確認しながら進むと、視界の先から怪しい息遣いが聞こえてくる。

 

『ブモッ』

「出たわね」

 

 暗闇から姿を現したのは大きな豚。

 どれくらい大きいかというと体高で2メートルくらい。

 それに比例するように横幅も広く、狭い洞窟の中では突進を避けるのが難しい相手だ。

 

『ブヒィィィ!』

 

 掠れたような鳴き声とともに、その豚が突進してくる。

 なお回避をミスって転がされると、そのまま突進連発で出口の滝壺まで叩き落とされたりするので要注意。

 

「ふー……、『居合』」

 

 危ない時ほど落ち着いて、冷静にタイミングを計って居合を使う。

 ガキンという手応えとともに、巨大豚が腹這いにダウン。

 

「よっと」

 

 俺はそのまま豚を飛び越えて、その後ろから刃を突いた。

 

『ブモオオオオオ!!!』

 

 巨大豚の弱点部位は尻、弱点属性は刺突。

 なのでこうして後ろに回り込んでから突きを連発するとHPをゴリゴリ削れる。

 

「突き突き突き突き突きィ! あ、クリティカルだ」

 

 尻の真ん中を狙って突くとクリティカルのズバッとしたエフェクトと共にHPバーの減少が加速する。

 これならスキル使うよりもよく狙って突いた方が効率がいいかもしれない。

 

『ブヒィィィ!!!』

「『居合』」

『ギャインッ』

 

 起き上がってから振り返り、再び突進してきた巨大豚を居合で転がす。

 本当は真後ろにいた時にやってくるヒップアタックをパリィしたかったんだけど、やってこなかったので仕方がないか。

 

「よいしょ」

 

 再び跳んで豚の背後へ。

 そのまま刀でひたすらに突く。

 

『ブヒィィィ……』

 

 刀を突き刺し何回かのパリィループを決めると、巨大豚が寂しげな鳴き声とともに消滅していった。

 そして残ったのは魔石【Ⅲ】と巨大豚の瞳。

 林檎くらいの大きさのその瞳は、消費アイテムの素材になるほかに、アクセサリーの素材としても使える有用アイテムだ。

 

 見た目キモいけど。

 女子にプレゼントしたら嫌われそうなくらいキモいけど。

 まあそれはともかく、本命はこの先。

 洞窟を進むと、奥にはキノコが生えていた。

 

「おぉ……」

 

 キノコの名前は『赤トリュフ』。

 その名の通り料理の素材アイテムだ。

 売却金額は1個5万オーラム。

 それを8つ拾えたので、合計で40万オーラムの儲け。

 同級生にここの情報流したら人が殺到しそう。(そして全滅が多発しそう)

 

「さて」

 

 素材を採取して満足した俺は、洞窟を脱出してそのまま来た道を戻る。

 そして坂道まで来ると、そのまま道を戻り始めた。

 今日はタイミングが悪くて、このまま次の階層に転移しちゃうとランキングに載っちゃうからね、仕方ないね。

 まあレベリングは捗ったしアイテムも拾えたので、今日の探索も無駄ではない。

 

「ん?」

 

 坂を下ってから橋を越え、坂を上りきってからしばらく進むと、離れた場所から声が聞こえてきた。

 近くに行くとそこにいたのは、今日この辺で見かけたパーティー。

 数時間経っても似たような場所にいるということは、順調に迷っているようだ。

 

 一応マップは見れるんだけどね、それでも迷うんだよねこの森。

 真っすぐ進んでるつもりでも、気付いたら進行方向がそれてるなんていうのはよくある話。

 

 まあ彼らの前に顔を出す気もないし俺にできることもないんだけど……、と思ったんだけど一つ思いついたので試してみることにする。

 アイテムインベントリを操作して取り出したのは夢見石というアイテム。

 これを地面に落とすと、石自体が淡く発光する。

 

 これ自体は光るだけの安価なアイテムでソロプレイ時には目印として地面に落としておくのがメインの使い方。

 たまにこれを並べて絵を描いたりイルミネーションを作ったりするプレイヤーもいたけどそちらはマイナーな使い方だろう。

 ついでにいえば攻略に慣れてしまえばあまり用がないアイテムでもあるんだけど、今回は役に立ってくれるかもしれない。

 

 なんでそんな石を持っていたのかって?

 原作からの癖……、ですかね……。

 

 ともあれその石を落としながら坂までの道を進む。

 振り返って確認してみると、ヘンゼルとグレーテルのパンくずのように夢見石の輝きが道を作っていた。

 霧の中でもちゃんと辿れる間隔で置かれているし、これなら鳥に食べられる心配もないから安心だ。

 

 まあ人に持っていかれる可能性はあるけど。

 しかしまあ、ソロプレイには存在しなかった使い方が生えてくるのはこの世界独特でちょっと面白い。

 原作だとプレイヤーがエリアチェンジするまで光ってたけど、この世界だとどうなるのかな。

 

 どっちにしてもすぐに消えてしまうことはないだろう、ということで坂の入り口に到着した俺は、そのまま再び道を引き返した。

 とはいえ夢見石をそのまま辿るとほかの人とばったり、なんてこともありうるので距離をとって歩いていく。

 

「この石、どこまで続いてるのー?」

 

 道を進むと先ほど見かけたパーティーのメンバーがそんなことを言っている声が、離れた場所から聞こえてきた。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「ただいまー」

 

 ダンジョンを出たあとそのままギルドハウスに向かい中へと入る。

 誰かいるかなと思ったけれどリビングには誰もおらず、わざわざ仕事をしているところに顔を出すほどの理由もないので俺はそのままギルドハウスのインベントリへ今日の収穫を流し込む。

 

「そういえば……」

 

 インベントリを操作しながら赤トリュフの項目で手が止まる。

 これって生で食べられるんだっけ。

 原作のアイテムテキストでそう書いてあった記憶があった。

 

 まあ原作だと調理素材でそのまま使用することはできなかったんだけど、逆に気になる。

 そのまま食べられるアイテムって回復したり効果がついてたりするんだよね。

 うーん……、せっかくだし食べてみようかな。

 

 ということで赤トリュフは共有インベントリに入れずにそのまま執務室に入った。

 さて、とソファーに腰を下ろした俺は、そのままテーブルに赤トリュフを並べる。

 赤トリュフなんていう名前だけれど外見は白というかクリーム色に近いそれは、皮を剥くことで赤い中身を見ることができる。

 

 というかこれ皮は食えるのか……?

 原作テキストには生食可能と書いてあったけど、皮をどうするかは書いてなかったはず。

 ……、やめとくか!

 

 さすがにお外にそのまま繁殖しているのを口にするのは怖いので調理用ナイフを取り出して皮を剥いていく。

 赤トリュフはゴルフボールくらいの大きさで、綺麗に皮を剥くと赤い実が姿を現すとともに芳醇な香りが部屋に広がった。

 そのまま口に運んで半分かじると、味と共に匂いがさらに広がる。

 

 味はチーズに近いだろうか、あっさりとした味だけど癖になりそう。

 白ワインが欲しくなるなぁ、今は飲めないけど。

 うーん、美味しい。

 

 残りの半分も口に入れて味を堪能しながら、ステータスウィンドウを開いて確認してみるけれど変化はなし。

 食事効果は特になしかな?

 HP回復効果って可能性もあるけど、普通のポーションで代用できるならコスパ悪いからどっちにしろ用はないので残念。

 

「ジャック……」

「カッツェ?」

 

 俺が赤トリュフをかじっていると、開けたままにしていた扉からカッツェが顔を見せた。

 

「ごめん、そっちまで匂いした?」

 

 部屋にいるのが一目でわかるように人に見られて困る作業をしていないときはドアを開けたままにしていたりするんだけど、そのせいで赤トリュフの匂いが外まで漏れてしまったかもしれない。

 

「だいじょうぶ……」

「ならよかった」

 

 ならなにかの用事だろうかと思ったけどカッツェは無言のまま、金色の瞳でこちらを見つめる。

 

「カッツェも食べる?」

「……、うん……」

「あっ、ドア閉じてもらえる?」

 

 長い黒髪を揺らしながらコクリと頷いて、カッツェが向かいのソファーにちょこんと座る。

 そんな彼女に渡すために皮を剥こうとナイフを握ると、それを止められた。

 

「そのままで……、平気……」

「あっ、そうなんだ」

 

 カッツェは赤トリュフについて知識があるらしい。

 

「じゃあはい」

 

 なので一つつまんでそのまま渡すと、彼女は取り出した布で拭いてからブラシで擦り、最後に細い針を取り出して表面の溝の隙間を掘っていく。

 あの針、カッツェが裁縫仕事で使うやつだろうか。

 

「ナイフ……、いい……?」

「もちろん」

 

 俺が皮を剥くのに使ったナイフを逆に持って差し出すと、彼女はそれを受け取って皮がついたままの赤トリュフを薄くスライスする。

 それと同時に、皮を剥いたときよりも強い香りが部屋に広がった。

 食欲を誘う良い匂いだ。

 そのまま丸々一個スライスされた赤トリュフが皿に載せられてこちらに差し出される。

 

「ありがと」

「うん……」

 

 皿を受け取ると、カッツェはもう一つの赤トリュフも同じようにしてそちらは自分の前に置く。

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます……」

 

 薄くスライスされた一枚を口に運ぶ。

 

「おお……」

 

 丸かじりした時よりも濃く、口の中に味が広がる。

 切り方一つでここまで味わいが変わるのかと思わず感動してしまう。

 

「おいしい……」

 

 同じように口に運んだカッツェも赤トリュフの味に感動していた。

 そのまま手が自然と皿に伸び、気付けばその上の赤トリュフはさっぱり無くなっていた。

 

「もう一個食べる?」

「いいの……?」

「もちろん」

 

 取ってきた赤トリュフはまだ数があるので、そのうちの一つをカッツェに渡す。

 一個完食して皿が空いた彼女は、二つ目を同じように調理して自分の皿に置いた。

 

「じゃあ俺も」

 

 カッツェを真似して俺も薄くスライスして皿に並べる。

 うーん、クセになりそう。

 味はさっぱりしてるんだけど、一枚食べたらもう一枚と手が動いている。

 さすがは高級食材といったところだろうか。

 

 というか気付けばあと三つしか残ってないわ。

 最初はギルドメンバーの人数よりも多かったはずなのに不思議だね。

 まあ別に全員に配る必要もない。

 ダンジョンでのドロップの裁量は俺に一任されているから。

 結局ほとんどの素材はギルドに入れるんだけどね、たまにはこういう役得もいいだろう。

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさま……」

 

 二人で赤トリュフを完食して皿を片付ける。

 

「美味しかったね」

「うん……」

 

 カッツェも満足の味だったみたいでよかった。

 普段から無表情なカッツェだけど、今日は心なしか嬉しそうに見える。

 

 さてじゃあ残りは共有インベントリに入れておこう。

 

「そうだ、カッツェ」

「?」

「今日のことはみんなには秘密ね」

「わかった……」

 

 不思議そうに首を傾げた彼女が、納得したように頷く。

 これでみんなにバレて数が足りないということは起こらないだろう。

 もう一回取りに行くのはめんどくさいからなあ。

 

「カッツェはもう寮に帰る?」

「まだ……」

「それじゃあ俺ももう少し仕事していこうかな」

 

 今日はダンジョン探索をしてきて今の時刻はもう夕方だけど、明日も休みな夏休みなだけあって遅い時間まで作業をしても平気だし。

 確認してないけどほかのメンバーも作業してるだろう。

 なんて思っていると、執務室のドアがノックされた。

 

「どうぞー」

 

 入室を促すと顔を見せたのはシャオ。

 

「お邪魔するんじゃよー。おや、カッツェもいたのかの」

「うん……」

「それでシャオ、どうしたの?」

「そうそう、ちょっとジャックに確認したいことがあっての。一緒に作業場まで来てもらってもいいかの?」

「わかった」

 

 俺がソファーから腰を上げると、それと一緒にカッツェも立ち上がる。

 そして一緒に部屋を出ると、シャオがカッツェの顔を見て、そのあとに視線を上げて俺の顔を見る。

 

「ところで二人でなにか食べてたのかの?」

「そんなことないよ」

「うん……」

 

 シャオの疑問をごまかして、俺とカッツェは二人で笑った。

 




・霧猫の毛皮
霧猫がドロップする灰色の毛皮。
霧猫は火属性に耐性を持ち、その毛皮も火耐性の防具を生産することができる。
製作できる防具は軽鎧だが、重量は服防具に近いほど軽く素早い動きを阻害しない物となっている。

・巨大豚の瞳
巨大豚がドロップする大きな瞳。
その瞳は白く濁っている。
巨大豚の瞳を素材とした消費アイテムは敵に使用することで正気を失わせ、混乱させることができる。
逆にアクセサリーの素材として使用する場合は混乱耐性を持つネックレスを製作することができる。

・赤トリュフ
24階層の滝の裏の洞窟で入手できるトリュフ。
料理素材だが生のまま食べることも可能。
売値1個5万オーラムで一度に複数採集することができる。
赤トリュフを素材として製作できるランク3アイテム、『トリュフ薫るクリームパスタ』の効果は魔法攻撃力+3%。

・夢見石
落とすと光る石。
購入価格は1個50オーラム。
原作では攻略のほか、スクリーンショット撮影のための飾り付けとしても愛用されている。

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