ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
理想構成の装備を作れるようになったジャックは、ケミー・クローネ・シャオの三名とギルドを結成した。


007.アクアとシズカとルビー

「それじゃあ授業を始めるぞ」

 

 週頭の午前中、どこかけだるげな空気の中でスカーレット先生の声が響く。

 週末ゆっくり過ごした学生は休み明けの授業で怠いし、週末にガンガンダンジョンを攻略した学生は疲労で授業が怠いという合わせ技だ。

 一部真面目に授業を受けている優等生の姿も見えるけど、原作メインヒロインの一人とか。

 

「今日の内容は武器スキルについてだ。基本的なことだが、正しく認識していないと後々大きなミスに繋がったりするのでちゃんと聞いておけよ。スキルレベルを全部均等に上げれば最強だと勘違いする大馬鹿者が毎年現れたりするからな」

 

 そんな担任の言葉に教室内から小さく笑いが漏れるが、原作だと実際この学年にも同じことする奴が現れるんだよなあ。(ネタバレ)

 

「まずスキルレベル。これは武器を使っていると上がるものだな。片手剣、両手斧、例外として拳と蹴りは武器に依存しない、魔法は杖などの触媒ではなく、各属性に対応するスキルレベルが上昇する」

 

 魔法の基本属性は火、氷、雷、光、闇の五属性。

 攻撃メインの前者三属性の他に、光は回復、闇は状態異常を得意とする。

 

「スキルレベルを上げるとステータスが上昇する。これはレベルが高くなるほど上昇幅が大きくなるぞ。その分レベルアップに必要な経験値は上昇していく。その関係で一つのスキルレベルを10まで上げるよりも、10種類のスキルレベルを2に上げるほうが必要経験値は少なくて済む」

 

 その場合にレベルアップによるステータス上昇は引き継ぐので、合計のステータスとしては複数の武器スキルをあげることに意味がないわけではない。

 

「なら全てのスキルを均等に上げた方が強くなるんじゃと思うかもしれないが、基本的にそうはならない。それはレベル上昇によって獲得スキルが他の武器スキルでは使用できないことに起因する」

 

 例えば刀スキルの居合は他の武器では使えないし、この先レベルが上がって覚える攻撃スキルもそう。

 挑発みたいに複数の武器が使えるスキルも存在するけれど、それ自体も各武器に挑発のアクティブスキルが付いているだけで杖などでは使えない。

 

「片手剣スキルレベル1から使えるスキル『スラッシュ』が使えるのは片手剣だけだ。そしてレベルを上げればより強力なスキルを覚えていくことが、単一のスキルレベルを上げるのが推奨される理由だな。片手剣レベル20で覚える『ハイスラッシュ』は『スラッシュ』よりダメージ効率が高く、それ以降は『ハイスラッシュ』で攻略していくのが基本になる」

 

 これに関しては例外もあるけどね、それこそ居合とか。

 

「ただし、高レベルのスキルは消費SPも大きくなる傾向にある。つまり『スラッシュ』で倒せる相手に『ハイスラッシュ』を使うのはSPの無駄ということだな。また単発の威力ではなく、消費SPに対する威力効率も重要だ。威力100/消費SP10の『スラッシュ』よりも、威力100/消費SP8の『ピアス』はSPを節約したい場面では有効だ。また『ピアス』は突きなので攻撃範囲が狭い、基本的に単体の敵にしか当たらない、代わりにモーション発生は速い、などの差もある。こうした武器スキルの差を理解して使いこなすのも実力の内だぞ」

 

 こうやって聞いてるとまんまゲーム中の攻略理論だ。

 逆にこのままテストに出るなら座学でもそこそこの点数は取れそう。

 

「スキルに関してもう一つ重要な要素、それが『気力』だな。これはスキルやアクションで消費し、0になるとそれらの行動が出来なくなる。逆に気力を消費する行動をしなければ高速で回復していく。レベル1なら『スラッシュ』を連続で5回使用すれば気力が0になるが、数秒も待てば全快するぞ。これもレベルアップで上限が増えるので、自分が何回連続でスキルを使えるかは各自確認しておけ」

 

 これは普通のゲームでいう『スタミナ』と同じ物。

 使い切ったらその場で息切れを起こして動けなくなる、なんてことはないけれど、ステップによる回避も盾によるガードもできなくなるので気力の管理は重要だ。

 特に対人だと気力のリードを取ったらそのまま押し込んで相手のガードを割るというのが重要テクニックだったのが原作の話。

 

「それともうひとつ、スキルには各個人に適性が存在する。この適性というのはレベルの上がりやすさだな。適性が高いほどレベルが上がりやすく、得意スキルとして扱われるぞ」

「センセー! 得意スキルの判定方法とかないんですかー?」

 

 質問したのはクラスメイトのルビーさん。

 

「そうだな。傾向としては、ステータスで筋力が高ければ物理スキル適性、魔力が高ければ魔法スキル適性が高いという傾向が見られる。各自ステータスウィンドウを開いて確認してみろ。なおここで注意する必要があるのが、見るのはスキルレベルによる上昇を除いた本人の元々のステータスというところだな。斧スキルを上げていて今のステータスが筋力の方が高いが、元は魔力の方が高かったり場合は適正スキルを間違えている可能性があるぞ」

 

 俺もステータスウィンドウを表示してみるとそこには『筋力:35(10)』と表示されているが、この(10)の部分が俺の元々のステータス。

 この筋力10って基礎ステータスは物理攻撃キャラでは最低レベルの数値だ。

 悲しいね。

 

 スキルレベルが高くなれば基礎のステータスは誤差みたいなものになるのが救い、なのだがジャックは結局スキル適正で同じ経験値貰っててもレベルが上がらずステータスで見劣りするというのがさらなる悲しみ。

 まあ他の武器が得意でも刀スキルが100%未満のキャラだったらそっちの方が都合が悪かったから、俺の中では及第点ではあるんだけど。

 

「一応、モンスターを狩った回数で適性を調べる方法もあるんだが、時間がかかるうえにレベルアップによるステータス上昇で正確な数値を割り出すのは難しい。自分のレベルがあまりにも上がらない時の最終手段だと覚えておくといい」

「はーい」

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 学園入学から二週間経った頃。

 学年一位は相変わらずシズカのままだが、その攻略階層は8階層まで伸びていた。

 それに応じて入学前からスキルレベルが上がっていたトップ層と、レベル1スタートで階層の攻略と並行してレベル上げが必要なそれ以下で到達階層にグラデーションのような分布ができている。

 

 一部キャラは入学時の初期設定レベルが1じゃなくて5とか10とかあったりするんだよね。

 そのトップ層のレベル上げを必要としない攻略速度もしばらく経てば落ち着くんだけど、置いていかれている側の学生には焦りが見えたりもする。

 傾向としてスタートダッシュが優秀なキャラはスキルレベルの成長率も高めなので、普通にやっていたら追いつくのはなかなか大変なんだけどさ。

 

 それに伴って、一学年の生徒にはいくつかの傾向が表れてきた。

 

 まず一つ目は、ギルドの結成と勧誘が活発になってきたこと。

 ギルドというのは生徒同士で組めるチームのようなもの。

 同学年でも自身でギルドを結成する者、既にあるギルドに入る者、加入しないものと様々だ。

 だいたい実力のある一学年は自分でギルド組んでるかな、シズカとか。

 

 既存のギルドに入ってパワーレベリングしたらかなり効率よくレベル上げられると思うけど、その傾向は今のところない。

 原作でもそういう話はなかったから、その世界観を引き継いでいる影響だろうか。

 パワーレベリングする側に恩恵が無いから流行らないのかもしれないけど詳細は要調査。

 

 二つ目は、学園生活を楽しもうという生徒が増えたこと。

 攻略の進行がひと段落したのと、入学からの授業やイベントに慣れてきたところで例えば趣味を楽しむとかそういう生徒も見ることができる。

 まあ現代日本の学生だって勉強だけじゃなくて遊びや恋愛をしている生徒も沢山いたから、普通のことといえば普通のことだ。

 

 大抵自分でゲームをプレイすると主人公はダンジョン攻略するマシーンになるから新鮮ではある。

 まあ同時に効率よくヒロイン他のキャラフラグを立てるマシーンにもなるから多趣味多芸多忙のモンスターが爆誕するんだけど。

 

 それに関連して三つ目は、部活動や同好会の勧誘が活発になっていること。

 部活動は片手剣部とか氷魔法部とか、得意スキルをメインに掲げてる所が基本。

 同好会は魔物食同好会とかテーブルゲーム同好会とか趣味に走ってる傾向が強い。

 

 原作の話だと部活動は各スキルの得意キャラを仲間にするのに重宝したし、同好会は性格が濃いキャラが多かったかな。

 この世界だと仲間にできた原作キャラより、名前もなかったモブ生徒たちの方がずっと割合が多いから同好会に普通の人もいるけど。

 まあ気にするのは将来的にライバルになるであろうトップギルドの動向くらいで、俺の行動方針にはさほど関わりはない流れではある。

 

「ジャックくん」

 

 放課後、教室で話しかけられたのはアクアさん。

 ダンジョン初日のチュートリアル以降、何度か一緒にダンジョンに潜った縁もあってこうして挨拶をしたりする。

 挨拶くらいクラスメイトなら誰でもするだろって?

 ちょっと何言ってるかわからないですね……。

 

「授業おつかれさま、アクアさん」

 

 アクアさんはクラスメイトとも良好な関係を築けているようで、一緒にダンジョンに行っているのをたまに見かける。

 そんな彼女が未だに俺に話しかけてくるのは慈善事業か何かだろうか。

 

「ジャックくんはギルドとか部活動、どうするか決めた?」

「んー、まだ決めてないかなあ。アクアさんは?」

「私も悩み中かな。ギルドよりも部活動の方が気になってるけど……」

「氷魔法部?」

 

 氷魔法部って実際に口に出して言ってみるとなんだかアホっぽさが凄い。

 剣術部とか弓術部とかなら普通なんだけどね。

 まあそんな響きのわりにスキル専攻系の部活はみんなちゃんとしてるんだけど、一部の例外を除いて。

 

「うん……、勉強になるかなと思って」

「そうだね、部活には先輩もいるはずだから色々教えてもらえるんじゃないかな」

「そうだよね。うん、それじゃあ見学に行ってみようかな」

 

 話の流れでせっかくなら一緒に、と言うには専門分野が離れすぎているので流石にスルー。

 物理職ならともかく魔法職は残念ながら用がない。

 

「ありがとう、ジャックくん」

「どういたしまして」

 

 アクアさんを見送って、俺も席を立つ。

 ちょっと気になってる部活もあるし、俺も今度見学に行ってみようかな。

 とはいえ今日は、ダンジョン探索だ。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

「あら、こんにちは」

 

 ダンジョンに入る前、転移陣の順番待ちでシズカと出会ってしまった。

 別に彼女が嫌いなわけではないんだけど、目立ちたくない自分としてはあんまり絡みたくないんだよなあという気持ち。

 そんな俺とは逆に彼女は機嫌が良さそうに笑う。

 

「貴方もこれからダンジョンですか?」

「そうだな、そっちもか?」

 

 シズカには擬態も通じないのでもう良いかなという気持ちで自然とこんな口調。

 見ると彼女の後ろには7人の同級生たちがいる。

 彼女を含めて8人、一緒にダンジョンに潜るギルドメンバーなんだろう。

 

「ええ、おかげさまで私のギルドを組めましたので、階層を更新するために今日も探索です」

 

 ゲームだと2パーティー8人で協力して探索なんてことはできなかったから、これも原作から変わっている点である。

 まあ合理的だよね、ボス部屋はPT毎に独立したフィールドになるから無理だけど、通常階層なら雑魚を囲んでボコれるし全滅対策のリスクヘッジにもなる。

 ボッチの俺とは真逆の攻略法だ。

 

 有効すぎてみんな同じことしないのが不思議だけど。

 ああでも、8人で狩ると経験値的にはおいしくなさそうだからそこはデメリットか。

 

 モンスターを倒した時の経験値は参加人数で等分だしね。

 倒してから次に遭遇するまでの移動を短縮できないから、時間効率でいうと人数少ないほうがうま味だ。

 

「そちらはお一人ですか? それならよければ一緒に行きませんか」

 

 やっぱり機嫌が良さそうにシズカがそんなことを言う。

 第三者から見れば善意の提案に見えるかもしれないが、実際には俺の戦い方を直接見たいだけだろう。

 

 彼女が俺に興味を持っている理由はただの直感なんだし、平凡な戦い方を見せれば興味も失せるか?と思わなくもないが。

 本気出してないのを見抜かれるリスクの方が高そうだしやっぱりスルーする方が無難かな。

 

「そっちはパーティーだろ? 仲間に迷惑をかけるのは感心しないな」

「私のギルドですから、大丈夫ですよ?」

 

 当然みたいに言うなあ。

 まあ彼女にはそう言い切るに相応しい実力とカリスマがあるんだろうけれど、こうやって絡まれるとその統率の矛先がこっちに向きそうで嫌だ。

 

「それに到達階層も違うだろうし」

「今何階層ですか?」

「6」

「私は8ですね」

 

 その事実を聞いて、後ろのメンバーたちに安堵する空気がわずかに漏れる。

 部外者に混ざられても邪魔なだけだろうという彼ら彼女らの気持ちには俺も心から同意したい。

 

「私は6階層でも構いませんよ? 貴方と二人きりでも構いませんし」

 

 だからこっちが困るんだって。

 

「シズカさん今の時期にまだ6階層の奴に時間を割く価値なんてありませんよ」

 

 シズカの後ろの女子の一人がそんなことを言う。

 そうだそうだ、もっと言ってやれ。

 

「そうですか? 私はそうは思いませんけど」

 

 頼むから思ってくれ。

 否定された彼女は更に不満そうな顔をしている。

 かわいそ……。

 

「でもそうですね。あまり貴方に迷惑をかけるのも本意ではありませんし、今日はこの辺にしておきます」

「そうだね。他の人の迷惑にならないように次は二人きりで話せるといいかもね」

 

 個人同士で話しててもアレだけど、他の人間が一緒にいると加速度的に面倒ごとが積みあがってる気配がしてならない。

 

「それはデートのお誘いですか?」

「そういうのじゃないかな」

「それは残念。では今日はこれで失礼します」

「ダンジョン攻略頑張って」

 

 これは心からの本心。

 彼女が攻略頑張ってくれると俺のメリットにもなるんだよねこれが。

 そんな物言いが、シズカのギルドメンバーの子にはお気に召さなかったみたいだけど。

 

「格下に言われることじゃないですね」

「そうだね」

「ちっ」

 

 同意したのに舌打ちされるの酷くなーい?

 なんて思いながらも去っていく彼女たちを見送る。

 

 そういえば、あそこにいた8人のメンバーで、彼女は原作にいないオリキャラだったな。

 わりと成績優秀者は原作キャラが多いんだけど、そんな中に混じっているまだ名前も知らない彼女にはちょっと興味があった。

 これからの計画を立てる上でも、競争相手のスペックは知っておくにこしたことはないしね。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 入学してから三度目の週末。

 ケミーたちギルドメンバーは今日も朝から装備を生産している。

 俺? 俺もちゃんと精霊粉の配合はしてきたよ。

 

 でもその作業自体はそこまで時間がかかるわけでもないし、それに俺は本業のダンジョン攻略もあるのであまりギルドハウスでゆっくりしているわけにもいかない。

 なので今日は先週末と打って変わって一日ダンジョンの中だ。

 

「『スマッシュ』!」

 

 勢いの良い声と一緒に放たれた一撃が、空を飛んでいた蜂のモンスターを打ち上げる。

『スマッシュ』は拳武器のスキルで、軽いモンスターを空中に打ち上げることができる便利スキルだ。

 

「『ワンツー』!」

 

 そのまま目の前に落ちてきたモンスターを、声の主の彼女は拳で空中に縫いつける。

 

「『二段蹴り』っ、『かかと落とし』!」

 

 二段蹴りは一息に二度の蹴り上げを当ててダメージを稼ぐ。

 締めに空中一回転からのかかと落としは見た目の派手さも満点のコンボだ。

 あと最後のかかと落としはダウンがつくからトドメが刺せてなくてもそこからまたターン継続できる。

 

「ジャックー、これ楽しい!」

 

 赤いポニーテールを振りながらこちらを見るのはクラスメイトであり、現パーティーメンバーのルビーさん。

 俺が教えた基礎コンボはお気に召したみたいでよかった。

 

「ルビーちゃん、お腹見えてるよっ!」

「えー、別にいいじゃーん。アクアは細かいなー」

 

 激しいアクションで捲れたルビーさんの服をアクアさんがなおす。

 ルビーさんは動きやすく身体のラインが出ている服防具に拳武器、アクアさんは杖と長いローブ、俺は片手剣と小盾と軽鎧。

 入学当初の量産型防具とは違って、ジョブに合わせた防具をつけている人も増えたのでバリエーションは豊かになっている。

 

 防具は当然重装の方が防御力は高くなるけど、その分移動速度が落ちるぞ。

 そういう意味でも速度重視のルビーさんの服防具は理にかなっている。

 ちなみに俺が握っている片手剣は軽鎧との組み合わせが基本。

 

 ギルドメンバー以外には居合はあんまり見せる気がないので、クラスでの授業なんかも基本はこの片手剣スタイルだ。

 実は俺も服防具でも問題はないんだけど、一応小盾でタンク役もやる関係で軽鎧を着ている。

 

 なんでこの三人でダンジョンに入っているかというと、アクアさんに誘われて俺が予定がつかない時に代わりに彼女と一緒にダンジョンに入ってくれる相手が一人でも多くいたほうがいいかなという都合で誘った感じ。

 俺もギルドの作業とソロ攻略があっていつもパーティー組めるわけじゃないからね。

 

「ジャックー、次の敵ー」

「あいよー、アクアさん、よろしく」

「うん、ジャックくん。『アイスストーム』」

「『挑発』。ルビーさん、狙うのはポイズンスネークからね」

「はいよ!」

 

 出てきたモンスターは5体。

 アクアさんのアイスストームで敵全体にダメージが入っているので、ルビーさんには氷弱点で一番HPが減っている敵を狙ってもらう。

 

 残りは俺が挑発で引き付けて、ガードと回避を使いつつヘイトを保つ。

 ルビーさんはこの階層では十分の火力が出ているし、アクアさんの氷魔法の補助もあるので小盾での不十分な受けタンクでもどうにかなっている。

 

「これで、おしまいっ!」

 

 ルビーさんの蹴りで最後の一匹を倒して戦闘は終了。

 

「『ヒール』」

「ありがと、アクアさん」

「どういたしまして、ジャックくん」

 

 HPダメージはアクアさんのヒールで十分なラインまで回復。

 SPの消耗もあるけれど移動時間による自然回復込みなら次の戦闘も問題ないだろう。

 

「ジャックー、ほいっ」

「はいよ」

 

 拾ったドロップアイテムをルビーさんから渡されて、それをパーティーインベントリにしまう。

 おっ、ポイズンスネークの牙がある。

 

 これ相手を毒にするアイテム作るのに必要だから地味にありがたいんだよな。

 なんて思っていると、ルビーさんがこっちを見る。

 

「ジャックってさあ、その戦い方なら小盾より中盾の方がいいんじゃない?」

 

 鋭い。

 

「いやいやいやいや、違うんですよルビーさん。これにはふかーい事情があって」

「なに?」

 

「今はモンスターの動きに慣れるためにガードしてるだけで、ちゃんと慣れたらパリィもしますよ。そう、いわばこれは準備期間、もっと高く羽ばたくための助走期間なわけなんですよ。だからね、今だけ見て評価されても困るっていうか、将来性を見て欲しいっていうか、まだ俺は本気を出してないっていうか、わかります?」

「すっごい早口で喋るじゃん。まあジャックがいいならそれでいいけど」

 

 ふー、なんとか誤魔化せたな。

 いや実際モンスターの攻撃は全部小盾でパリィできるんだけどさ、不自然じゃないくらいの成功率でパリィを入れていくって作業がめんどくさいんだよね。

 

 成功率は何割くらいが自然かな?とかこの攻撃は失敗したほうが自然かな?とか今何割くらいで成功させてるっけ?とか考えながらやるのはダルすぎる。

 逆になんも考えずに手癖でパリィすると、この辺の敵の素直な攻撃ならほぼ確実にパリィできるし。

 なので色々考えた結果、もうガードすればいいじゃんってことになった現在です。

 

「そんなことより先に進もうぜ」

「あっ、誤魔化した」

 

 誤魔化してナイヨー。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

「おっ、池だ」

 

 草原の中から現れたのはポツンとたたずむ大きな池。

 湖というには流石に少し大きさが足りないけれど、泳ぐには十分、ルアー釣りもできるくらいの広さはある。

 というか実際に原作でも釣りができるスポットの一つだった。

 流石にこの世界にリールはないけど釣り竿はあるんだよね。

 

「ちょっと休憩していいかな?」

「うん」

 

 俺が提案すると二人が頷く。

 池の水は澄んでいて、底の様子がはっきりと観察できる。

 

「折角だしちょっと水に入ってこ」

「えっ、ルビーちゃんっ?」

 

 ルビーさんとはパーティーを組んで数回目だけど、アクアさんとはすっかり仲が良いみたいでとても良いですね。

 靴を脱いで湖に入っていく二人を見送ってから、俺は近くの草むらに視線を落とす。

 

 目を凝らしながら歩き回り、見つけたのは黄色の花。

 それを摘んでインベントリにしまう。

 呼び出したウィンドウに表示されたアイテム名を確認して、俺は満足してその作業を続けていく。

 

 それから少しして、水遊びに満足した二人が戻ってきた。

 

「ジャックはなにやってるの?」

 

 地面にしゃがみこむ俺を見て、ルビーさんが聞いてくる。

 

「これを集めてた」

 

 インベントリから実体化させたのは先ほどの黄色い花。

 

「花?」

「太陽花。一個5000オーラム」

「たかっ!?」

 

 この階層で落ちる極小の魔石【Ⅰ】が50オーラムとかなので実際かなり高額だ。

 その理由はこの場所、草原エリアに存在する池の周辺でしか見つからないから。

 

 確率ドロップで運が悪いと一個も見つからないしね。

 なおパーティーとして分配するのは協力して倒したモンスターのドロップアイテムのみと事前に決めてあるのであしからず。

 

「レアアイテムだからな、俺が集めた後だから多分残ってないぞ」

 

 俺の言葉を聞いて探し始めようとするルビーさんに予め伝えておく。

 

「ずるい!」

 

 それでも彼女から抗議するような視線を向けられたので代わりに池の中を指さした。

 

「池の中にいる青色の魚も高いぞ。一匹五万」

「ちょっと探してくる!」

「あっ、ルビーちゃん!?」

 

 言うが早いかルビーさんが池に飛び込むと、ドボーンと盛大な水柱が上がる。

 ちなみにその青い魚は原作だと釣りでしか獲得できない設定にされているアイテム。

 まあ嘘は言っていないし、そもそもこの世界でも釣りでしかゲットできないとも限らないので試してみる価値はあるだろう。

 俺はやらないけど。

 

 別に自分の手を汚さずに(文字通りの意味で)他人に検証させようとしているわけではなく、純粋な善意での助言なので勘違いしないでいただきたい。(大嘘)

 さて、じゃあ待ってるあいだ暇だし、俺も調べ物をしようかな。

 

「ちょっと魚を捕まえたいんだけど、アクアさんも探すの手伝ってもらっていい?」

「うん。探すのは青い魚?」

「いや、俺が欲しいのは普通の魚。多分池に入れば普通に見つかると思う」

「わかった」

 

 ということで俺も靴を脱いで池に入る。

 最初は足首くらいから、少し進むと膝下くらいの深さだ。

 水は程よく冷たくて、魚が住むには良さそうな環境。

 もっと進むとルビーさんみたいに潜って泳げるけど、服が濡れると面倒くさいしそこまではいいかな。

 

「ジャックくん、いたよー」

「ありがと、アクアさん」

 

 呼ばれて池をゆっくり進むと、確かに水中に魚の姿が見える。

 あとローブを脱いでスカートから伸びるアクアさんの太ももも見えるけど……、失礼なのであんまり見ないようにしよう。

 

「よっと」

 

 普通なら水中の魚を素手で捕まえるなんて高難易度イベントだったけど、ゲームキャラのスペックをもってすれば不可能はない。

 水を切るようにさっと手を差し込んでそのまま持ち上げれば、その手にはしっかりと魚が掴まれていた。

 素手で捕まえた魚は、そのままインベントリに収納される。

 

「これでおしまい?」

「あともう一つ」

 

 インベントリから呼び出した短刀を投げると直撃した魚が水に浮かんでくる。

 それを手に取って収納。

 そうしてインベントリに表示されるグラスフィッシュ✕2を取り出すと、元の状態のまま片方は生きていて片方は死んでいる。

 

 へー、インベントリに入れても状態は保存されてるんだ。

 

「手伝ってくれてありがとね、アクアさん。ついでに魚焼こうと思うんだけどアクアさんもどう?」

「私も貰っていいのかな?」

「もちろん、アクアさんに手伝ってもらって捕まえた魚だし」

「それなら、貰おうかな」

 

 作るのは焼き魚。

 ただし片方は普通の料理の手順で、もう片方は調理のスキルを使って製作する。

 料理スキルのレベルはほぼ上げていないけど、焼き魚は初期レシピなので問題なく作成できた。

 

「そういえば、知ってるアクアさん。11階層からは草原じゃなくて海辺のフィールドになるんだって」

「そうなんだ。魚のモンスターとか出るのかな」

「そういうのもきっと出るだろうね。あとマップ内にはモンスターの出ないエリアもあるから、そこで泳いだりもできるらしいよ」

 

 専用の水着装備なんかも存在するので、原作プレイヤーにも人気のエリアだった。

 

「そっか、それはちょっと、恥ずかしいかも……」

「まあ嫌ならやらなくてもいいと思うけど」

「い……、嫌じゃないよっ」

 

「そっか、よかった。それなら楽しみだね」

「うん……」

 

 頷きつつもやっぱり彼女の顔は少し赤い。

 

「ジャックー! 青い魚なんていないんだけどー!?」

「レアな魚って言っただろ、確実に見つかるとは限らないぞ」

「騙したわね! しかもあたしが頑張ってるあいだ二人でイチャついて!」

 

「騙してないって」

「イチャイチャなんてしてないよ、ルビーちゃん……!」

 

 実際に騙してないかと言われると見方による、といった状況なので彼女も言葉一つで素直に納得はしてくれない。

 

「しゃーない、アクアさん、ちょっとこれ持って貰える?」

「う、うん」

 

 渡したのはどこからどう見ても爆弾。消耗品の攻撃アイテムだ。

 俺は取り出した火打石で、導火線に火をつける。

 

「わっ……」

 

 もちろんそのまま爆発させたら大事故なので、彼女から受け取って、そのまま池の真ん中にポイ捨てすると、『ドーン!』と盛大な音とともに上がる水柱。

 それが収まると、水面にプカプカと魚が浮いてきた。

 

「やっぱサファイアフィッシュはいないっぽいなあ」

 

 まだ検証というほどのデータを集めてはいないけど、これで雑に獲得できたら金策が捗りすぎるのでやっぱり獲得手段は釣りに限定されてるんじゃないかなって予感がする。

 まあ池はここだけじゃないし、一応また今度別の場所でもやってみよう。

 

「ルビーさん、魚食べる?」

「食べる!」

 

 完全に嘘をついたわけではないけど、お詫びに捕まえた魚を焼いて振る舞うと食べ終わる頃には彼女の機嫌も直っていた。

 

 ちなみに料理スキルで制作した魚は運+1の効果が発揮されたけど、手料理した方は能力向上の効果は付かず。

 この感じだと該当レシピをスキルで習得していないアイテムを、素材と制作技術で無理やり作ることは難しそうかな。

 まあ出来たら偉いけど出来なくても困らないという範囲なので、ちゃんとした検証結果を得られただけで満足ではある。

 

「んじゃ、そろそろ探索再開しようか」

「うん、ルビーちゃんも行こう?」

「わかったー」

 

 こうして、ダンジョン探索と検証の日々は続くのだった。

 

 




【キャラクター図鑑/No.191】
キャラネーム:ルビー
性別:女
身長:高
胸:巨
髪色:赤
髪型:ポニーテール
瞳色:茶
年齢:15歳(ゲーム開始時)
誕生日:4月19日
呼称:アタシ/ジャック
カテゴリー:原作キャラ/パーティーメンバー/クラスメイト
パーティー加入:無制限
武器適正:拳武器(130%)/蹴り(140%)
ユニークスキル:『烈火』(一度攻撃を当ててから3秒以内に次の攻撃を当てた場合、ダメージに3%のボーナスが加算される。ボーナスは1ヒット毎に加算され上限無く上昇する)
キャラtier:【C】
公式人気投票:【124位】
備考:主人公のクラスメイトの拳武器キャラ。
キャラ性能は平均的だがユニークスキルがプレイヤースキル次第で青天井に火力を伸ばせるので、操作キャラ変更で自分で動かすプレイヤーもいる。
一方、非操作時のAIはゴリ押し気味で被弾でコンボを切らしている姿がよく見られる。
仕様の穴を突いてユニークスキルで下準備をしてからボスをワンパンする通称9999%サンドバッグ拳は原作発売から2ヶ月目のアップデートで修正され使用不可能となった。
ぶっちゃけ手間だけかかって普通に倒す方が楽(諸説あり)だから仕様を元に戻せというお便りが発売から暫く経っても開発者に届くとかなんとか。
身長が高めで足技を使わせるとアクションが映えると一部のファンの間で評判。
性格は明るく活発。
好きな食べ物は激辛料理。


・拳武器
拳を使って敵を殴るスキル。
スキルは素手でも使用可能だが、ナックル状の武器を装備することで威力が上がる。
拳武器というカテゴリーだが、一部柔道のような投げ技等もあり。
一番の特徴は全武器最速の攻撃速度とそこから繋がるコンボ。
小型のモンスターは打ち上げてからの連撃で一方的にハメることも可能。
一方当然のようにリーチは全武器最低なので使いこなすには慣れが必要。
プレイヤーの練度と火力が比例して上限が高いので、熟練者に好まれやすい武器種だ。


・蹴り
蹴りを主体としたサブスキル。
サブスキルの特徴として、剣に対する盾のようにメインスキルである拳武器と同時使用が可能。
特に拳適性のキャラの多くは蹴り適性を持ち、並用することで拳だけでは繋がらないスキルを繋ぐことができる。
相手をダウンさせられる足払いや、軽量級の敵を大きく押し飛ばすことができる正面蹴りは搦手としてダメージ以外の部分でも有用。
あとハイキック系やジャンプキック系の攻撃はスカートの中が覗きやすいので一部のユーザーに人気がある。
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