ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。   作:塔乃登

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前回のあらすじ
ギルド活動は順調。
クローネとのフラグは特に立ってはいない。


009.食堂と辻斬り

「それじゃあ今日はここで模擬戦をするぞ」

 

 担任のスカーレット先生に引き連れられて訪れたのはダンジョンの一階層。

 今日はクラスメイト全員が普段の制服ではなく、探索用の装備に身を包んでいる。

 

「模擬戦というのは決闘システムを使った対人戦だ。相手のHPを削って戦闘不能にした者が勝者。危険はないから安心していいぞ。対人戦はダンジョン探索とは直接関係ない技術ではあるが、階層を進めば武器スキルを使ってくるモンスターも現れるから無駄にはならない。学校行事として対人トーナメントも存在し、その順位は成績に影響するのでしっかりと訓練するように。あとトーナメント優勝者にはここでしか手に入らない景品も与えられるぞ」

「おおー!」

 

「部門は全員参加の個人部門、任意エントリーのパーティー部門。同じく任意エントリーのギルド部門は最大12人までだ。個人部門は学年別にトーナメントが組まれるが、パーティー・ギルド部門は学年混合になるので覚えておけ」

「はい!」

 

 トーナメントなー。

 優勝賞品は滅茶苦茶有用だから取れるなら欲しいところではあるけど……、まあ目立たないって方針と両立するのは不可能だから諦め気味。

 

 ああでも、この世界なら優勝者から買い取らせてもらうみたいなゲームでは出来なかったアプローチも取れるかもしれないからそっちの方向性で模索するのは悪くないかもしれない。

 そもそも一年でトップ取るのは色んな意味で激ムズだけどね。

 

「じゃあ模擬戦を始めるぞ。自由に二人組を作れ」

 

 授業……二人組……うっ頭が……。

 なんて冗談は置いておいて、これは原作でもあった授業だから想定内だし別に困らない。

 

「せんせー! 魔法使いだけ不利じゃないですかー?」

 

 質問したのはルカさん。

 隣には魔法職のリズさんがいる。

 

「実際魔法使いが敵と一対一で戦うケースは少ないが、それでも無いわけじゃない。当然接近されたら近接職の方が有利ではあるが、やり方次第だ。とはいえいきなりでハードルが高いと思うなら魔法使い同士で組むといい」

 

「はい! 勝敗で成績は決まりますか!」

「今日は自由対戦だから勝敗は取らないぞ。ただしこちらで組み合わせを決めて勝敗を記録する授業内容もあるので訓練はしっかりしておけ」

「はい!」

 

「よし、質問は以上だな。では授業開始。模擬戦を申請する場合はそれ以外の人間から十分に距離を取ってから行うように」

 

 先生の号令でみんなが相手を探し始める。

 アクアさんはどうかな、とちょっと気になったけどチラッと見た限りはちゃんと相手を見つけられているみたいだ。

 なら俺も普通に相手を探そうかな。

 

「ジャック」

「ルーク?」

「模擬戦やらないか」

「えっ……、ああ、うん、大丈夫、やろうか」

 

 ルーク。

 主人公のクラスメイトで、原作では主人公の相方のような立ち位置のキャラだ。

 パーティーメンバーに強制加入とかそういうことではないけれど、クラスで起こるイベントでは主人公と一緒になることが多い。

 

 性能も優秀で、最初の仲間であるアクアさんと同じくらいの人気のキャラだ。

 性格は主人公らしい主人公なアレックスと対照的に冷静沈着だけど相性は悪くない。

 ちなみにイケメン。

 

「ところでアレックスはどうしたの? 別の相手と組んでる感じ?」

「私も最初はアレックスと組むつもりだったんだが……、横からかっさらわれた」

「ああ……」

 

 ルークに釣られて視線を送ると、そこにはメインヒロインの一人であるクリムと模擬戦を始める原作主人公の姿が見えた。

 まああのヒロインなら納得である。

 

「了解、じゃあ広い場所まで移動しよっか」

「そうだな。あっちがいいだろう」

 

「ちなみに、ルークの武器って両手槍だよね?」

「そうだ。ジャックは片手剣だったか」

「うん、左は小盾だよ」

 

 戦闘前に一応確認したのは、ルークが複数のスキル適性を持つキャラだから。

 得意武器といえる範囲でも、タンク・近接アタッカー・魔法アタッカー・デバッファーまで選択肢がある。

 

 なお両手槍は純近接アタッカーだ。

 片手槍だとタンクもできるんだけどね。

 槍は剣よりも間合いが長く、遠くから攻撃が届くというアドバンテージを選ぶ合理性は彼のキャラに合っているかもしれない。

 

「それでは」

「うん」

 

 決闘《デュエル》開始。

 スタートと同時に、対戦相手のステータスバーが敵対存在として大きく表示される。

 このHPバーを削り切ったら勝ちなので実に分かりやすい。

 

 普通の探索中でも他のキャラクターのステータスは表示されるけれど、一人に完全にフォーカスされるのはこのモード特有だ。

 開始時はある程度距離を開けて、遠距離職がいると間合いを縮める所から勝負が始まるんだけど、今回は二人とも近接武器なのでまっすぐに距離を詰める。

 槍は間合いが広く出が速い、タイマンではかなり有利な武器種のひとつ。

 

 格ゲーなんかだと槍の長さを十全に活用せずに、他の武器と同じくらいの間合いで戦う様子をよく見かけるけれどこのゲームにそんな忖度は存在しない。

 いや別に格ゲーの槍キャラに文句があるわけじゃないですけどね。

 

「『二段突き』」

 

 こちらの間合いの外から放たれた槍の突きは『カンカンッ!』と間髪置かず二度盾を鳴らす。

 初期槍の最大火力スキルは小盾で受けると普通に削りが痛い。

 槍といえば横への変化に弱いのが原作でもセオリーなので軸をずらして横に回り込む。

 

「『スイング』」

 

『スイング』は槍を振り回すように横を薙ぐモーション。

 原作では身を引いてスカすのがセオリーだが、今回は地面スレスレまで身を伏せて回避を試みる。

 顎が草につきそうなくらい体勢を倒すと槍が『ブンッ』と風を切る音と共に頭上を抜けていった。

 

 原作でもジャンプとかしゃがみで敵の攻撃を回避することはできたけど、ここまで極端な動きでスイングを回避することは不可能だったので、リアルになったことによる変化のひとつ。

 

「『ピアス』」

 

 俺の片手剣スキルはルークに直撃、ダメージレースで優位を取る。

 

「『二段突き』、『二段突き』」

 

 再び二度のガード音。

 そのままもう一度『二段突き』をガードすると気力がそろそろ危険領域になる。

 

「『パリィ』」

 

 まあパリィを取れば解決するんだけど。

『キィン──』と高い音が響き、槍を弾かれたルークが体勢を崩す。

 

「『スラッシュ』、『スラッシュ』」

 

 そのまま生まれた隙にスキルを連打。

 いい感じにHPを削った所で、ルークが硬直から復帰するので一旦距離をとる。

 盾パリィからの復帰時間は原作と一緒か。

 

 戦闘再開、ルークの槍スキルを今度は片手剣を前に出して防げるか試す。

『キィィィン』と甲高い音と共に『二段突き』の軌道を逸らすのに成功。

 攻撃自体は食らったけれど自身の立ち位置次第ではこれでスキルを回避できそうだ。

 

 武器と武器で鍔迫り合いみたいなのは原作にはなかった要素なのでこれも新発見。

 ここまでの流れでも原作との変更点が多く見つかっているので、対人戦は対モンスターよりも更に適応するのが難しそうだ。

 変更点の多さは難易度の高さでもあるけれど、それを検証していく過程は嫌いじゃない。

 

 正直言って、テンションが上がる。

 ということでルークには申し訳ないけれど、動きはそこそこに戦闘の中で検証を続けていくと普通にHPが尽きた。

 

 グエー死んだンゴ。

 

 いやまあ死なないんですけどね。

 デュエルの仕様で敗北の表示が出るとHPが全快まで戻る。

 というか普通に強かったな、ルークくん。

 流石原作でも強キャラなだけはある実力だ。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございました。もう一回いい?」

「ああ、問題ない」

 

 ということで二回戦。

 勝つ意味は特にないというか勝たない方が良いまであるので、俺は心置きなく検証を続けた。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 学園入学から三週間経った頃、学年一位の到達階層は10階層まで伸びていた。

 ついでに言うと10階層の探索と最奥に存在するボスの準備に時間をかけているということで、一学年のランク上位50人は全員が10階層の表示になっている。

 上位層の攻略速度は順調なのでこのまま頑張ってほしいところだ。

 

 俺の到達階層は8、スキルレベルは刀が同じく8。

 こっちも順調で、上位の進行に歩調を合わせて探索とレベリング以外のことに割ける余裕があった。

 

 今日はギルドでの作業を終えてから、夕食を取るならそろそろ食堂に向かった方がいい時間になっていたのでそのまま向かう。

 

 原作では必要なかったギルド運営における在庫管理や仕入れ・売り上げの管理が結構手間でダルさの極みだ。

 まあクローネが手伝ってくれる分、まだ楽なんだけど。

 彼女をスカウトしたのは俺の慧眼だったな。(自画自賛)

 

「今日は何にするかなあ」

 

 メニューを見ながら考える。

 食堂はカウンターで注文してそのまま受け取る形式なので人が多い時間帯はその前に列ができてるんだけど、今は時間がギリギリなのもあって人は少ないから快適だ。

 メニューはパンとスープとサラダの簡素なものからステーキみたいなガッツリ料理、果てはカレーやラーメンなんかも存在している。

 

 中世ファンタジーな世界観はどこいったんですかね……、と思わなくもないけど実際に食い慣れたメニューがあるのはありがたい。

 この世界には調理スキルがあって、それを使って商売もできるからなんか見慣れた料理のラインナップがあるんだろうけどね。

 原作でも調理師を育てるとカレーとかラーメンがステータス上昇アイテムとして調理できたから、わかりやすさ重視の開発者の配慮だろう。

 

「いらっしゃい」

 

 カウンターで待っていたお姉さんに注文をする。

 

「ミートパイとキノコのソテー、あとパンプキンポタージュで」

「あいよ!」

 

 まあ毎日カレーラーメン食うわけでもないから普通に他のものも頼みますけど。

 頼んだものはさほど待つことなく奥のキッチンから運ばれてくる。

 これも調理スキルのおかげだろうか。

 

 一応ここの食事でも軽いバフは付くけど数時間で切れるから明日までは保たないんだよなあ。

 それなら朝食に頼めばいいんだけど、バフに支配された食生活はちょっと遠慮したいところではある。

 必要ならやるけど、今のところは数%のステータスアップに縛られるほど攻略には困っていないので。

 

「いただきます」

 

 広い食堂で周囲に人のいない席について手を合わせる。

 この時間だと静かに食えるのもメリットだなー、なんて思っていたら見知った顔が見えた。

 

「ジャック?」

「アレックスじゃん」

 

 現れたのは原作主人公のアレックスくん。

 特別一緒にいたりはしないけれど、クラスメイトなりに会話はするしこういう場所であったらスルーしない程度には交流がある。

 

「座る?」

「うん、ありがとう」

 

 ラーメンのトレーを持ったまま長いテーブルの向かいに立つ彼をそう促す。

 自分で持ってるときはそんなに気にならないけど、他人がラーメン運んでるの見るとやっぱり世界観がおかしくなりそう。

 持っている本人が洋風イケメンならなおさらだ。

 

 彼は俺と違って食事は他人と一緒の方が落ち着くんだろうか、主人公だけあって根が陽キャだし。

 

「ジャックはいつもこの時間に食事してるの?」

「いや、今日はダンジョンに潜ってて遅くなっただけ。アレックスは? デートでもしてたか?」

「そ……、そんなんじゃないけど……」

 

 既にクラス内を含めて数人のメインヒロインと接点を持ってるのを確認してるからそうかなと思ったけど違った様子。

 アレックスが誰とくっつくかは原作プレイヤーとしてかなり気になるところだ。

 

 生のアニメを見ているようなもんだよ。

 本人の意思と選択を尊重したいからお節介をする気はないけど。

 

「僕もダンジョンで探索してたんだよ。少しでもレベルを上げたくて」

「ふーん、大変だな」

「ジャックもダンジョンに行ってたんでしょ?」

「……、そうだった」

「?」

 

 本当はギルドで生産の仕事してたんだけど、ギルド自体を外部の人間には秘密にしてるから今さっきそう嘘をついたんだった。

 効率よく攻略することは俺がこの世界に転生した上での最重要項目なので、嘘をついていることに罪悪感とかは特にない。

 

 効率重視ならアクアさんとの探索も邪魔なのではって?

 そっちはまあ意味がないわけじゃないし、そもそも追い越せない上が詰まってる時点で先も急げないから……。

 

「アレックス、今到達スキルレベルいくつ?」

「今8かな、上がったばっかりだけど」

「今の時期にそれだけあれば十分だと思うけどな」

 

 実際ペースとしては悪くない、100階層完全攻略できるかはまた別の話だけど。

 

「でもランク上位はもう10階層まで行ってるから」

「あー」

 

 上を見て焦ってるのか。

 

「つってもいま学年ランキングの上の方にいる生徒は大体入学当時からスキルレベル上がってた層だろ? そりゃ差も出るだろ」

「えっ? そうなの?」

 

「知らなかったのか? スキルレベルは主にダンジョンで上がるけど、それ以外の訓練でも効率は悪いが上げることはできる。貴族生まれとかは入学前からそういう訓練をしてるし、今のランキング1位とか入学時点でレベル10だったはずだぞ」

「知らなかった……」

「だから今遅れてるのは当たり前でこれから追いつけばいいんだよ。レベル10なんて一ヶ月もあれば追いつける程度の差だしな」

 

 学生生活36ヶ月のうちの一ヶ月と思えば大した出遅れじゃない。

 

「そっか、ちょっと気が楽になったよ。ありがとうジャック」

「まあ最初からレベル高い勢って大抵スキル適性も高いから、追いつくのはやっぱり大変なんだけどな!」

「励ますのか脅かすのかどっちかにしてよ……」

 

「頑張りたいなら頑張ればいいし、頑張りたくないなら頑張らなければいいと思うぞ。他人事だし」

「酷いなあ……。でもうん、ちょっと元気出たよ。ありがとうジャック」

「どういたしまして」

 

 まあ主人公はこう言われて諦めるキャラじゃないのは知っているのでちょっとしたお節介である。

 同級生は攻略頑張ってくれればくれるだけありがたいので、利己的にもアレックスに期待したいところだ。

 

 

「アレックス、ここにいたのか」

「ルーク?」

 

 続いて現れたのは主人公の親友枠、ルーク。

 原作では見れないオリジナルの絡みは、女性ファン垂涎のシチュエーションであろう。

 

「ジャック、同席いいか?」

「一回1万オーラムね」

「高くないか?」

 

 なんて冗談を交わしながらルークが蕎麦の乗ったトレーをテーブルに置く。

 だから世界観ァ!

 

「アレックスは焦りが抜けたような顔をしているな」

 

 登場早々、ルークはアレックスの心境の変化に気付いた。

 

「わかるんだ」

「普通に見ればそれくらいわかる」

 

 いや、わからないんじゃないかな。

 少なくとも俺はわからん。

 

「ところでジャック、聞きたいことがあるんだが」

「俺?」

「ああ、模擬戦で『二段突き』に対してパリィを取っていただろう? あれはなにかコツでもあるのか?」

「あー、あれね……」

 

 彼とやった模擬戦で、槍によるスキルを何度も決まったタイミングでパリィしていたのに気付いていたようだ。

 その仕組みまではわかっていないようだけど。

 

「秘密なら無理にとは言わないが」

「いやあ、そんな大したことじゃないけど。ルークって二段突きのあとにまた二段突きを使ってたでしょ?」

「そうだな。現状それが一番ダメージ効率が良い」

 

「まあその理屈は合ってるんだけど。二段突きって最初のスキルをガードしたあと、最速でパリィを使うとちょうど二回目の二段突きを確定で弾けるんだよ」

「なんだと……」

 

 つまり一度目の『二段突き』をガードしたあとの硬直と、そこから最速で『パリィ』を発生させたときの受付タイミングが、相手の二度目の最速『二段突き』の発生タイミングと自動で一致するのだ。

 その結果、何も考えずに『二段突き』からの『二段突き』は確定でパリィできるというそれだけの話。

 

「知らなかった……」

 

 賢い系のキャラなのに未知の情報に驚いてるルークはちょっと面白い。

 

「まあ対人じゃないと関係ないから大して役に立たない豆知識だしね」

「いやでも、モンスター相手でも同じことができるんじゃないか?」

「どうだろ。まずモンスターが決まったテンポで攻撃するタイミングがあるかって前提が謎だからなあ。ああでも、一連のスキルでヒット判定が二回発生する攻撃なら使えるかもね」

 

「それって僕にもできるかな?」

「アレックスの使ってる中盾でもパリィの判定は一定だからできる攻撃はあると思うぞ。小盾より有効時間が短いから使える攻撃の種類は減るかもしれないけど、一段目をガードするっていう前提なら中盾の方が有利だしな」

「そっか……、今度練習してみることにするよ」

 

 まあ実際に使えるかはともかく、こういう知識があって活用できるかもしれないという発想はあって困るものじゃないしいいだろう。

 

「しかしジャック、よくそんなことを知っていたな」

「まあたまたまね」

 

 本当は原作での知識というかネットの集合知の受け売りだけど。

 その辺はあんまり突っ込まれると困るので、俺はミートパイを口に運ぶ。

 これうまっ。

 

 それに釣られて二人もラーメンと蕎麦を啜り始めた。

 三人のメニューを比べると俺だけズレてるみたいに見えるけど、世界観的にズレてるのはあの二人だと声を大にして言いたかった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「そういえばジャック、知ってるか?」

 

 食事が一段落して、箸を置いたルークがこちらを見る。

 

「どうしたの、ルーク」

「最近ダンジョンで仮面をつけた化け物が出るらしい」

「化け物?」

 

「ああ、なんでも鬼の面に白い装束の化け物が刀で斬りかかってくるらしい」

「ただのモンスターじゃ?」

「それなんだけどな、遭遇したのが同級生、つまり一年なんだ。流石に一桁の階層にそんな魔物がいるなんて聞いたことないだろう?」

 

「それはたしかに。アレックスは何か知ってる?」

「うーん、僕も見たことはないけど噂は聞いたよ。たしか身長2メートルで長さ3メートルの刀を持ってるって言われてた」

 

「それは流石に嘘でしょ」

 

 長さ3メートルとかセ◯ィロスじゃないんだから。

 

「学園の管理しているダンジョンで万が一はないだろうが、気をつけたほうがいい」

「うん、ありがとうルーク」

「ところで知ってる? このまえダンジョン生態研究同好会の人が言ってたんだけど……」

 

 そんな話をしながら、食堂の夜は更けていった。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 まあ噂の主は俺なんですけどね。

 そして訂正しておくと、顔は鬼というか般若である。

 まあ般若も鬼の一種で扱われるから間違いでもないんだけど。

 

 世界観がヨーロッパベースだからか、般若面は伝わらなかったようだ。

 刀はあるし、防具としては和服もあるから和風文化が全く伝わってない訳でもないんだけどね。

 

 流石にほかの学生に斬りかかったりはしてないけど、噂が独り歩きしているんだろう。

 人間の認識と言葉による伝達というのは実に曖昧なものである。

 

「まあいいや」

 

 そうやって噂になるのは想定内。

 というかなんでこんな格好をしているのかといえば、ガワが目立つことで中身を隠すことが目的。

 実際幽霊の噂はあるけれど、その中身が誰なのかという話には今のところなっていないし。

 

 時間の問題?

 まあそこまで必死に隠す必要があるわけでもないからいいんだ。

 バレたくはないけれど、死ぬ気で隠すほどじゃないくらいの心持ちなんで。

 少なくともたまたま近くを通りかかった人間に俺だって特定されてないだけで十分な成果である。

 

「よし」

 

 今日も人目がないことを確認してから装備を替えて、8階層を走り始める。

 今の8階層は1学年全体の攻略進度平均よりちょっと上。

 とはいえかなり上ということもなく人は普通にいるのだが、フィールドが広くなったおかげで姿を見ることはそう多くはない。

 

 ここの8階層は1階層と比べたら縦横数倍に広がってるんじゃないかな。

 当然次の階層へと繋がる転移陣の位置を知らないなら、攻略にかかる時間も数倍だ。

 実際には探索可能時間内にダンジョンから帰還しないといけないせいで、帰り道を考慮して探索に割ける時間は減るし比例して探索の進捗は遅くなるし。

 

 これも階層が進む毎に階層を踏破する速度が落ちていく一因。

 俺としては、フィールドが広ければそれだけ人と鉢合わせになる可能性が減るからありがたいくらいだけどね。

 フィールドは一定位置を通過するときにモンスターのスポーン判定を行うので、こうやって走り回るとモンスターと素早く遭遇することができる。

 

「おっ、いた」

 

 その中で今日の目的はウォーキングマッシュルーム、通称歩きキノコ。

 文字通り身長数十センチのキノコに手と足が生えている。

 主な攻撃は体当たり、パンチ、ドロップキック、そして胞子噴出。

 

「『居合』」

 

 歩きキノコの攻撃のうち、前の三つは居合でそのまま封殺できる。

 

「『縦一文字』、『縦一文字』」

 

 上段斬りのスキルを二回重ねて、そのまま通常攻撃を二回重ねる。

 最後はキノコのパンチが発生する寸前だったけれど、その前にHPを削り切られたキノコは光の粒子となって消えていった。

 

 モンスターのHPと攻撃のダメージを計算できると、通常なら受けないといけない相手の攻撃を無視して押し切れるといった初歩の技術。

 これができるとちょっとだけ戦闘時間が短縮できるぞ。

 

 そして落ちたのは極小の魔石とキノコエキス。

 魔石【Ⅰ】は確定ドロップだが、キノコエキスは15%の確率でドロップなので一発目から拾えたのは幸先がいい。

 そのまま駆け出し、ウォーキングマッシュルームが湧くエリアをぐるぐると周回していく。

 

「おっと」

 

 マラソン中にも視界は広く保つように心がけて、同級生が見えたら一旦身を隠し可能な限り目立たないように進路を逆にとる。

 ゲーム時代は他のキャラクターを気にする必要はなかったからちょっと手間だなあ。

 フィールドでの採集とかもリアルになってちょっと仕様変わってるし。

 

 おかげでゲーム時代の稼ぎテンプレもちょいちょい修正する必要がある。

 なんてことを考えながらも見えたのは次のウォーキングマッシュルームが今度は二体。

 その両方がこちらに向かってくることなく、その場で身を揺らした。

 

「ハズレ」

 

 それは胞子噴出の予兆モーション。

 残念ながら胞子噴出は『居合』によるカウンターをとれないのでモーションを中断させることができない。

 

 加えて言うと胞子噴出は歩きキノコが周囲全方位に胞子を撒くので避けて横から殴ることも不可能。

 なので使われたらタイムロスが発生する技なのだ。

 

 Q.ならどうするか?

 A.使わせなければいい。

 

「『一角』」

 

 スキルにより発生したのはダッシュから更に一段加速した突進とそこから繰り出される突き。

 他のスキルよりも距離詰め性能が高いそれは、胞子噴出を発生前にキャンセルさせることに成功する。

 もう一体の歩きキノコBが胞子噴出でその場から動かないことを確認しつつ、目の前の歩きキノコAのパンチを確認。

 

「『居合』、『縦一文字』、『縦一文字』、これでおしまいっと」

 

 スキル三連からの通常攻撃一回でフィニッシュ。

 光になる歩きキノコAを横目に距離を詰めてきた歩きキノコBのパンチを居合でパリィし、そのままテンプレ攻撃で倒した。

 ドロップは極小の魔石が二つだけ。

 

「こっちもハズレかあ」

 

 まず最初の行動で胞子噴出を選択されるとスキル使用が一回増える分SPを余分に消費するのに、お目当てのドロップアイテムも出なきゃWハズレである。

 

「まあマラソンしてればよくあることだけど」

 

 この怒りは次のウォーキングマッシュルームにぶつけよう!

 と理不尽な怒りを胸に再び走り出した。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

「誰か! 助けて!!!」

 

 もう何体目かのウォーキングマッシュルームと他モンスターを倒した頃、そんな声が聞こえて視線を向ける。

 結構遠く、見えたのはモンスターが三体と人間が三人。

 人間の一人は倒れ、もう一人が助けを叫んだ人物で、最後の一人は正気を失っている。

 

 胞子噴出を食らったんだろうなあ。

 胞子を食らうと混乱の状態異常が付与される。

 モンスターはウォーキングマッシュルームが二体、キラーアントが一匹。

 

 大きな鋏になっている顎を持つ蟻であるキラーアントは、その鋏を食らうと大ダメージを受ける要注意モンスター。

 なのでそちらを注意するあまり、胞子噴出を食らって正気を失っているんだろう。

 混乱になって正気を失ったキャラクターは敵味方関係なく攻撃をしてしまうので、倒れている一人はそれが原因かもしれない。

 

 どうしようかな……。

 同級生ということは競争相手であり、助けるメリットはさほどない。

 全滅しても腕輪の保護でダンジョンからは命を保証されたまま強制脱出できるからか、学校側からも別に救助を推奨されていたりはしないし。

 

 むしろ正体を隠している現状、関わりに行くのは明確にデメリットがあった。

 うーん……、まあいいか。

 別にそこまで必死に隠す必要があるわけでもないので、助けを求める声に応じて距離を詰める。

 

「『上段蹴り』『挑発』」

 

 まず混乱してる同級生をハイキックで転がして無力化、その後モンスターに対して挑発を投げてヘイトを取る。

 居合はいらないかな。

 三体のモンスターを引きつけながら、一旦距離を取るためにバックステップ。

 

 モンスターはゲーム時代より強く互いに干渉するので、一体を壁にしたら他の二体の攻撃から身を離すことができる。

 これがゲーム時代だと互いの3Dモデルを多少めり込ませながらもヌルっと殴りに来てたから、ここは明確に原作より有利に立ち回れるようになっている点だ。

 

「『横一文字』」

 

 流石に助けに入って死んだら恥ずかしすぎるので、安全を取ってチクチクとスキルを当てていく。

 単体相手なら間違えることはほぼないんだけど、これが二体三体と増えると難しくなってくるんだよね。

 

 なのでより慎重にスキルを振っていく。

 まあとはいえ、過剰に心配するほどのものでもないんだけど。

 

「『縦一文字』」

 

 最後のスキルを振ると、モンスターは全て討伐されて学生だけが残る。

 倒したのは俺だしドロップアイテムは全部もらっても問題ない気がするけど……、まあ半分にしておこうか。

 

「ひっ……!」

 

 そうしてアイテムを拾い終えて視線を向けると、無事だった同級生女子から恐怖の視線を返されて自分の今の格好と流れている噂を思い出す。

 うーん……。

 

 般若面を取って事情を説明しても別にいいんだけど、身バレ防止してるんだしわざわざそこまでする義理もないかな。

 いろいろ考慮した結果、倒れている二人分の回復アイテムを取り出して彼女にポイと放った。

 

「あっ……」

 

 んじゃそういうことで。

 そのまま無言で走り出すと、後ろから何か声が聞こえたような気もしたけれど、きっと気のせいだろう。

 

 そもそもスキルの使用に発声しているので声を隠せてなかったと気付いたのはその場を立ち去った後のことだった。

 

 まあいいや。

 別に問題が起きなければそれでいいでしょの気持ちで狩りを続けて、その日のうちに俺の刀スキルは9にレベルが上がった。

 やっぱりソロだと(死ななければ)レベリング効率は段違いだなあ。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 後日、学校にて。

 

「そういえば、ジャック知ってる?」

「どうしたの、アレックス?」

「実は……」

 

 なんでも話を聞くと、ダンジョンで鬼に出会うとレアアイテムを貰えるという噂が流れているとかなんとか。

 

 なぜぇ?

 




【キャラクター図鑑/No.001】
キャラネーム:アレックス
性別:男
身長:大
髪色:茶
髪型:短
瞳色:赤
年齢:15歳(ゲーム開始時)
誕生日:任意
呼称:僕/ジャック
カテゴリー:原作キャラ/初期キャラ/主人公
パーティー加入:初期
武器適性:全適性(150%+α)
ユニークスキル:『ブレイブ』(強敵との戦闘時、自身のステータスが30%上昇)→『ブレイブX』(絆ランク7以上のヒロインがパーティーにいる時、自身と該当ヒロインのステータスが絆ランク✕5%上昇。ただしこの効果は絆レベルが最大のヒロインにしか適用されない)
キャラtier:【S】
公式人気投票:【10位】
備考:原作主人公。主人公はチュートリアルでスキル適性とステータス傾向、誕生日を任意に選択可能。
ユニークスキルはブレイブ。エリアボスなどの強敵時限定だが、全ステータス30%上昇は強力。
このユニークスキルはヒロインイベントを進めることでブレイブXに変化。自身とヒロインが最大50%上昇するようになる。(絆ランクが最大値の10である場合)
加えてこのユニークスキルはパーティー内のヒロインの絆が同ランクであれば全員に効果が渡るので、最大でパーティーメンバー全員がステータス50%上昇という壊れスキルになる。
この状態はユーザー間でも異論の出ない最強編成となるが、絆10=恋人が三人という人の心の無い編成になるので注意が必要。
その状態で三年の冬になると専用イベントも発生する。
当然ヒロインエンドは一人しか見ることができないので他の二人は……。
あとヒロイン3人をランク10にするのは普通に大変。
ヒロイン15人を1プレイで同時に最大ランクまで上げることも理論上は可能だと確認されているが、かなりの苦行+運ゲーが求められる。
性格は真面目で明るく、まさに主人公といったキャラ。
キャラクターのテーマカラーは赤。
好きなタイプは年上。


【キャラクター図鑑/No.148】
キャラネーム:ルーク
性別:男
身長:大
髪色:青
髪型:長
瞳色:紫
年齢:15歳(ゲーム開始時)
誕生日:1月21日
呼称:私
カテゴリー:原作キャラ/パーティーメンバー/クラスメイト/貴族
パーティー加入:武器適性:両手槍(160%)/片手槍(150%)/中盾(150%)/氷魔法(155%)/闇魔法(145%)
ユニークスキル:『知を越えて』(攻撃のクリティカル率+50%。自身のスキルレベルが上がる毎にクリティカル率が上昇する。)
キャラtier:【A】
公式人気投票:【17位】
備考:原作主人公であるアレックスの親友キャラ。
優秀な成長率と豊富な適性を持ち、パーティーの必要なところを無理なく補ってくれる。
主人公でどの武器適性を選んでも別のロールとして活躍してくれるだろう。
最初期から加入可能で最後まで十分に通用する性能だが、後半加入するキャラやメインヒロインたちと比較すると性能的に一歩劣る部分があり、プレイヤーによってはそこで入れ替えることも珍しくない。
ユニークスキルはクリティカル率の上昇。
初期状態でも有用だが、自身のレベルが上がることでさらに火力が上がる。
幅広い適性とユニークスキルの兼ね合いから、どれを使わせるのが最適解かファンの間では日夜論争が繰り広げられている。
性格は知的で冷静沈着。
キャラクターのテーマカラーは青。
好きな食べ物は漬物。


【キャラクター図鑑/No.417】
キャラネーム:ジャック
性別:男
身長:普
髪色:茶
髪型:短
瞳色:茶
年齢:15歳(ゲーム開始時)
誕生日:2月8日
呼称:俺
カテゴリー:原作キャラ/パーティーメンバー/クラスメイト/貴族
パーティー加入:無制限
武器適性:適性無し(全100%)
ユニークスキル:『■■■■』(■■■■)
キャラtier:【E】
公式人気投票:【440位】
備考:スキル適性では圧倒的最下位のキャラ。
他のキャラは最低でも105%以上の適性スキルを持つので文句なしの無能貧乏。
逆にその設定の雑さからネタにはなるがネタにしかならない。
一応貴族の子息。
年下の幼馴染がいる。
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