警報が鳴り続けていた。
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地下格納庫。
赤い非常灯。
揺れる床。
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フィロメラの足元で、
整備員達が怒号を飛ばしている。
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「ジェネレーター接続急げ!」
「出力抑えろ!!」
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だが誰にも分かっていた。
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抑えられていない。
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フィロメラは、
勝手に“起き始めている”。
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マルクが端末を叩きながら、
低く呻く。
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「くそ……
何で今さらなんですか……!」
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セイラは、
少し離れた場所からその光景を見ていた。
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巨大な白い機体。
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昔から、
ガンダムは人を戦場へ引き戻す。
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終わったはずの時代を。
忘れたかった記憶を。
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全部、
連れて来る。
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フィロメラ胸部。
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赤い光が脈打っている。
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それを見た瞬間。
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セイラの脳裏へ、
赤いモビルスーツの残像が走る。
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兄。
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そして。
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白い光。
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アクシズ。
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アムロ。
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セイラはゆっくり目を閉じる。
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「……嫌ね」
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小さな声。
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「こんな形で、
また思い出すなんて」
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その時。
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外で爆発音。
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格納庫全体が大きく揺れる。
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モニターへ地上戦映像。
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黒い特殊部隊MS。
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連邦軍制式機ではない。
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サイコフレーム管理局直属部隊。
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目的は明白だった。
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フィロメラ。
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そして。
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“ここに残っているもの”の回収。
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マルクが振り返る。
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「セイラ様!」
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その顔には、
焦りだけじゃない。
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恐怖があった。
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「奴ら、
ここごと消す気です!」
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沈黙。
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セイラは、
再びフィロメラを見上げる。
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戦いたくない。
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もう、
誰も失いたくない。
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なのに。
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世界は、
終わらせてくれない。
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その時。
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コックピットハッチが、
ゆっくり開いた。
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白い蒸気。
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静かな起動音。
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まるで。
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“待っていた”みたいに。
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セイラの呼吸が止まる。
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一年戦争。
グリプス。
ネオ・ジオン。
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死んでいった人達。
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帰って来なかった人達。
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全部が蘇る。
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セイラは、
震える足でリフトへ乗った。
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ゆっくり上昇していく。
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白い巨体へ近づく。
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その途中。
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格納庫壁面に飾られた古い写真が見えた。
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ホワイトベース隊。
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ブライト。
ミライ。
カイ。
ハヤト。
フラウ。
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そして。
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アムロとキャスバル。
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若かった。
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まだ、
未来を信じていた頃。
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セイラは、
小さく笑う。
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「……本当に、
馬鹿ばかりだったわね」
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涙は出なかった。
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もう、
泣き尽くしていたから。
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コックピットへ辿り着く。
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薄暗い内部。
古い操縦席。
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中央には、
赤いサイコフレーム。
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鼓動みたいに、
脈打っている。
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怖い。
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座れば分かる。
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また、
“あの時代”へ戻る。
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外で、
施設上層が崩落する。
悲鳴。
爆音。
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セイラは、
静かに操縦席へ座った。
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瞬間。
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白い光がコックピットを走る。
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『メインシステム』
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聞き慣れた音声。
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『戦闘モード、起動』
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セイラの瞳が揺れる。
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ホワイトベース。
ガンダム。
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忘れたはずの記憶が、
一気に押し寄せる。
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「っ……!」
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その時。
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正面モニターへ、
一瞬だけノイズが走る。
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白い制服。
赤い軍服。
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アムロ。
シャア。
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二人が、
背中合わせで立っていた。
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セイラの呼吸が止まる。
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「兄さん……」
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「アムロ……」
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だが。
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二人は何も言わない。
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ただ静かに、
こちらを見ている。
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次の瞬間。
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映像が消える。
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同時に。
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フィロメラのサイコフレームが、
赤く発光した。
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『共振率上昇』
『危険領域到達』
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マルクの叫び声。
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『セイラ様!!』
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セイラは、
震える手で操縦桿を握る。
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長い沈黙。
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そして。
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ゆっくり、
前を向いた。
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「……もう」
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低い声。
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「誰も、
置いていかないわ」
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次の瞬間。
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フィロメラの瞳が、
完全に点灯する。
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白い巨体が、
静かに立ち上がった。
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