機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第1巻 第5章 「白い残響」

警報が鳴り続けていた。

 

 

地下格納庫。

 

赤い非常灯。

 

揺れる床。

 

 

フィロメラの足元で、

整備員達が怒号を飛ばしている。

 

 

「ジェネレーター接続急げ!」

 

「出力抑えろ!!」

 

 

だが誰にも分かっていた。

 

 

抑えられていない。

 

 

フィロメラは、

勝手に“起き始めている”。

 

 

マルクが端末を叩きながら、

低く呻く。

 

 

「くそ……

何で今さらなんですか……!」

 

 

セイラは、

少し離れた場所からその光景を見ていた。

 

 

巨大な白い機体。

 

 

昔から、

ガンダムは人を戦場へ引き戻す。

 

 

終わったはずの時代を。

 

忘れたかった記憶を。

 

 

全部、

連れて来る。

 

 

フィロメラ胸部。

 

 

赤い光が脈打っている。

 

 

それを見た瞬間。

 

 

セイラの脳裏へ、

赤いモビルスーツの残像が走る。

 

 

兄。

 

 

そして。

 

 

白い光。

 

 

アクシズ。

 

 

アムロ。

 

 

セイラはゆっくり目を閉じる。

 

 

「……嫌ね」

 

 

小さな声。

 

 

「こんな形で、

また思い出すなんて」

 

 

その時。

 

 

外で爆発音。

 

 

格納庫全体が大きく揺れる。

 

 

モニターへ地上戦映像。

 

 

黒い特殊部隊MS。

 

 

連邦軍制式機ではない。

 

 

サイコフレーム管理局直属部隊。

 

 

目的は明白だった。

 

 

フィロメラ。

 

 

そして。

 

 

“ここに残っているもの”の回収。

 

 

マルクが振り返る。

 

 

「セイラ様!」

 

 

その顔には、

焦りだけじゃない。

 

 

恐怖があった。

 

 

「奴ら、

ここごと消す気です!」

 

 

沈黙。

 

 

セイラは、

再びフィロメラを見上げる。

 

 

戦いたくない。

 

 

もう、

誰も失いたくない。

 

 

なのに。

 

 

世界は、

終わらせてくれない。

 

 

その時。

 

 

コックピットハッチが、

ゆっくり開いた。

 

 

白い蒸気。

 

 

静かな起動音。

 

 

まるで。

 

 

“待っていた”みたいに。

 

 

セイラの呼吸が止まる。

 

 

一年戦争。

 

グリプス。

 

ネオ・ジオン。

 

 

死んでいった人達。

 

 

帰って来なかった人達。

 

 

全部が蘇る。

 

 

セイラは、

震える足でリフトへ乗った。

 

 

ゆっくり上昇していく。

 

 

白い巨体へ近づく。

 

 

その途中。

 

 

格納庫壁面に飾られた古い写真が見えた。

 

 

ホワイトベース隊。

 

 

ブライト。

 

ミライ。

 

カイ。

 

ハヤト。

 

フラウ。

 

 

そして。

 

 

アムロとキャスバル。

 

 

若かった。

 

 

まだ、

未来を信じていた頃。

 

 

セイラは、

小さく笑う。

 

 

「……本当に、

馬鹿ばかりだったわね」

 

 

涙は出なかった。

 

 

もう、

泣き尽くしていたから。

 

 

コックピットへ辿り着く。

 

 

薄暗い内部。

 

古い操縦席。

 

 

中央には、

赤いサイコフレーム。

 

 

鼓動みたいに、

脈打っている。

 

 

怖い。

 

 

座れば分かる。

 

 

また、

“あの時代”へ戻る。

 

 

外で、

施設上層が崩落する。

 

悲鳴。

 

爆音。

 

 

セイラは、

静かに操縦席へ座った。

 

 

瞬間。

 

 

白い光がコックピットを走る。

 

 

『メインシステム』

 

 

聞き慣れた音声。

 

 

『戦闘モード、起動』

 

 

セイラの瞳が揺れる。

 

 

ホワイトベース。

 

ガンダム。

 

 

忘れたはずの記憶が、

一気に押し寄せる。

 

 

「っ……!」

 

 

その時。

 

 

正面モニターへ、

一瞬だけノイズが走る。

 

 

白い制服。

 

赤い軍服。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

 

二人が、

背中合わせで立っていた。

 

 

セイラの呼吸が止まる。

 

 

「兄さん……」

 

 

「アムロ……」

 

 

だが。

 

 

二人は何も言わない。

 

 

ただ静かに、

こちらを見ている。

 

 

次の瞬間。

 

 

映像が消える。

 

 

同時に。

 

 

フィロメラのサイコフレームが、

赤く発光した。

 

 

『共振率上昇』

 

『危険領域到達』

 

 

マルクの叫び声。

 

 

『セイラ様!!』

 

 

セイラは、

震える手で操縦桿を握る。

 

 

長い沈黙。

 

 

そして。

 

 

ゆっくり、

前を向いた。

 

 

「……もう」

 

 

低い声。

 

 

「誰も、

置いていかないわ」

 

 

次の瞬間。

 

 

フィロメラの瞳が、

完全に点灯する。

 

 

白い巨体が、

静かに立ち上がった。

 

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