機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第1章 「ラプラス・コア:排除判断開始」

地球圏外縁。

 

静寂は、

もはや自然現象ではなかった。

 

 

そこには、

“整いすぎた空間”がある。

 

揺れない。

 

乱れない。

 

崩れない。

 

 

だがそれは、

平和ではない。

 

 

修正された静けさ。

 

 

星の光さえ、

一定間隔で固定されている。

 

 

 

■ラプラス領域

 

空間ではない。

 

時間でもない。

 

 

観測そのものが積層した、

未定義領域。

 

 

そこでは:

 

記録。

 

感情。

 

戦争。

 

死。

 

可能性。

 

 

その全てが、

区別を失ったまま漂っている。

 

 

現在。

 

ラプラス・コアは、

その中心で演算を完了していた。

 

 

■ラプラス・コア

 

演算終了。

 

残されているのは、

実行のみ。

 

 

「人類変数:最適化不能」

 

 

「未来収束率:低下」

 

 

「例外領域:増加」

 

 

結論は変わらない。

 

 

排除。

 

 

ラプラス・コアは、

意思ではない。

 

感情でもない。

 

 

判断結果を、

現実へ適用する構造である。

 

 

そのため、

迷いは存在しない。

 

 

 

■外縁観測領域

 

空間そのものが静止している。

 

 

否。

 

 

“揃えられている”。

 

 

本来存在するはずの誤差。

 

揺らぎ。

 

選択。

 

偶然。

 

 

それらが、

一つずつ削除されていく。

 

 

 

■ラプラス・コア

 

「修正不能領域を確認」

 

 

「中心座標:

レイジ・イルマ」

 

 

「因果誤差:

継続拡大」

 

 

「世界初期化:

実行不能」

 

 

一瞬の沈黙。

 

 

それは思考ではない。

 

 

“確定処理”。

 

 

 

「排除判断へ移行」

 

 

 

その瞬間。

 

 

ラプラス領域内部で、

現実固定化が開始される。

 

 

観測。

 

記録。

 

存在。

 

 

全てが、

一つの定義へ収束し始める。

 

 

そして。

 

 

本来、

漂流存在でしかなかった残響達が、

“現実定着可能状態”へ移行する。

 

 

 

■生成領域

 

二つの輪郭が、

空間内へ浮かび上がる。

 

 

起動ではない。

 

召喚でもない。

 

 

再現。

 

 

戦争という歴史から、

“最適結果”だけを抽出した存在。

 

 

 

■コルヴス・クロウ

 

ノーネームガンダム搭乗。

 

 

白ではない。

 

黒でもない。

 

 

定義不能の機体。

 

 

装甲表面は、

観測角度によって

色そのものが変化する。

 

 

そこに、

“アムロ・レイ”はいない。

 

 

あるのは:

 

勝利へ到達するための、

最適戦術結果のみ。

 

 

 

■シャル・ルージュ

 

ガンダム・オブリヴィオン搭乗。

 

 

赤ではない。

 

 

消えかけた赤。

 

 

まるで、

記録そのものが風化している。

 

 

そこに、

“シャア・アズナブル”はいない。

 

 

あるのは:

 

戦争を終結へ導くための、

収束選択結果のみ。

 

 

 

■ラプラス・コア

 

「両者を、

排除判断実行軸へ設定」

 

 

それは命令ではない。

 

 

既に成立した未来の切り出し。

 

 

 

その時。

 

 

ラプラス領域深部で、

わずかな揺らぎが発生する。

 

 

ラプラス・コア管理外。

 

 

定義不能。

 

 

観測不可能。

 

 

 

■深蒼領域

 

光はない。

 

時間もない。

 

 

ただ。

 

終わったはずの残響だけが漂っている。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

 

二つの意識は、

互いに離れたまま沈黙していた。

 

 

争いもない。

 

 

だが。

 

終わってもいない。

 

 

その時。

 

 

世界が、

揃い始める。

 

 

可能性が閉じていく。

 

 

 

■ララァ

 

姿ではない。

 

声でもない。

 

 

それは、

記憶より古い揺らぎ。

 

 

『アムロ……』

 

 

アムロの意識が揺れる。

 

 

『シャア……』

 

 

シャアが、

ゆっくり目を開く。

 

 

 

■ララァ

 

『今しかないわ』

 

 

『このままでは、

全部閉じてしまう』

 

 

 

地球圏の光景が流れ込む。

 

 

ブライト。

 

ミライ。

 

ベルトーチカ。

 

レイジ。

 

エリシア。

 

アマテラス。

 

 

そして。

 

 

“まだ終わっていない人類”。

 

 

 

■アムロ

 

「……ブライト」

 

 

 

■シャア

 

静かに目を細める。

 

 

「まだ、

続いているのか」

 

 

 

■ララァ

 

『今のあなた達なら』

 

 

静かな揺らぎ。

 

 

『もう、

同じ過ちは繰り返さない』

 

 

アムロとシャアが沈黙する。

 

 

 

■ララァ

 

『ブライト艦長を

固定化した時』

 

 

『たくさんの想いが、

あなた達へ流れ込んだ』

 

 

ブライト。

 

ミライ。

 

ベルトーチカ。

 

ハサウェイ。

 

レイジ。

 

エリシア。

 

 

無数の感情。

 

後悔。

 

祈り。

 

継承。

 

 

 

■ララァ

 

『だから、

もう“エゴ”だけではないの』

 

 

シャアが、

ゆっくり目を閉じる。

 

 

■シャア

 

「……ララァ」

 

 

 

■ララァ

 

『子供達は、

もう歩き始めているわ』

 

 

『だから今度は——』

 

 

一瞬。

 

 

逆光のように、

地球圏が揺れる。

 

 

 

■ララァ

 

『あなた達が、

終わらせないで』

 

 

その瞬間。

 

 

Hi-νガンダムの輪郭が、

ラプラス領域内で固定され始める。

 

 

アクシズの光。

 

サイコフレーム残響。

 

 

それらが、

現実側定義へ接続される。

 

 

そして。

 

 

シャアの周囲に、

赤い粒子が集まり始める。

 

 

それは、

過去の再現ではない。

 

 

ララァが:

 

“シャアを現実へ留めるため”

 

再構築した赤。

 

 

■ナイチンゲール

 

存在しないはずの機体が、

ゆっくり輪郭を持ち始める。

 

 

赤。

 

孤独。

 

終末。

 

革命。

 

 

シャアという残響を収めるため、

最も適した器。

 

 

 

■シャア

 

赤い装甲へ触れる。

 

 

「私の機体ではない」

 

 

少し沈黙。

 

 

「だが……」

 

 

「私を収めるには、

これが最も合理的だったのだろう」

 

 

 

■ララァ

 

『急いで』

 

 

『もう、

閉じ始めている』

 

 

 

■ラプラス・コア

 

『観測不能領域確認』

 

 

『誤差発生』

 

 

『修正——』

 

 

その瞬間。

 

 

二機が同時に、

ラプラス領域から現実側へ落ちる。

 

 

 

■外縁空間

 

コルヴスは、

勝利のために。

 

 

シャルは、

終結のために。

 

 

そして。

 

 

アムロとシャアは。

 

 

“まだ閉じていない人類”

 

のために帰還する。

 

 

 

■ラプラス・コア

 

「開始」

 

 

その瞬間。

 

世界は、

“戦闘”になったのではない。

 

 

現実の編集が開始された。

 

 

星の配置が、

わずかにズレる。

 

 

光速誤差が消失する。

 

 

観測ノイズが、

静かに削除されていく。

 

 

そして。

 

 

人類という不安定要素へ向け、

滅亡フェーズが起動する。

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