機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第2章 「帰還者たち」(前編)

アマテラス艦内。

 

静かだった。

 

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戦闘直後とは思えないほどに。

 

⸻

 

だが。

 

その静けさは、

安堵ではない。

 

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誰もまだ、

“帰ってきた”

 

という事実を、

受け止めきれていなかった。

 

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艦そのものが、

どこか現実感を失っている。

 

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照明遅延。

 

微弱な通信ノイズ。

 

時折発生する重力同期誤差。

 

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アマテラスは今、

通常艦ではない。

 

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“現実避難座標”。

 

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その変質を、

乗員達も無意識に感じ始めていた。

 

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■医療ブロック

 

自動モニター音だけが響いている。

 

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ブライト・ノアは、

椅子に座ったまま

窓の外を見ていた。

 

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地球圏。

 

遠い光。

 

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まるで、

長い夢から覚めた直後のようだった。

 

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■ミライ・ノア

 

入口で立ち止まる。

 

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すぐには近づけない。

 

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そこにいるのは、

確かに自分の知るブライト。

 

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だが同時に。

 

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どこか、

“遠い”。

 

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戦争という時間を、

置き去りにした人間の距離。

 

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■ブライト

 

「……そんな顔するな」

 

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ミライが少し笑う。

 

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だが。

 

涙は止まらない。

 

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■ミライ

 

「するわよ」

 

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「どれだけ待ったと思ってるの」

 

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■ブライト

 

答えない。

 

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いや。

 

答えられなかった。

 

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■ブライト

 

「……どのくらい経った」

 

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■ミライ

 

「十分すぎるくらい」

 

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少し沈黙。

 

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■ブライト

 

「そうか」

 

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その声には、

疲労とも違う重さがあった。

 

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■ミライ

 

ゆっくり近づく。

 

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「……あなた」

 

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■ブライト

 

視線を落とす。

 

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「向こうでは、

時間の感覚がなかった」

 

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「戦場だけが続いてた」

 

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「終わっても、

また始まる」

 

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「誰かが死んで、

また次の戦場が来る」

 

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小さく息を吐く。

 

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「気づいたら、

自分がどこにいるのかも

分からなくなってた」

 

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「帰ってこれたのが、

不思議なくらいだ」

 

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■ミライ

 

その手を握る。

 

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「帰ってきたのよ」

 

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「ちゃんと」

 

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■ブライト

 

しばらく黙る。

 

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そして。

 

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「……ミライ」

 

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■ミライ

 

「なに?」

 

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■ブライト

 

少しだけ迷う。

 

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視線を落とす。

 

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「俺は……

最後まで知らなかった」

 

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「マフティが、

ハサウェイだった事を」

 

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ミライの表情が止まる。

 

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■ブライト

 

「父親なのに」

 

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「何も気づけなかった」

 

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「何も止められなかった」

 

⸻

 

拳が、

わずかに震える。

 

⸻

 

「……すまなかった」

 

⸻

 

長い沈黙。

 

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ミライは、

何も言わない。

 

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ただ、

ゆっくりブライトの前に立つ。

 

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⸻

 

■ミライ

 

「あなたが全部、

背負う必要ないわ」

 

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■ブライト

 

首を横に振る。

 

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「いや」

 

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「艦長だった」

 

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「軍人だった」

 

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「でも……父親にはなれなかった」

 

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ミライの目に涙が浮かぶ。

 

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⸻

 

■ミライ

 

「……私達、

ずっとそうだったじゃない」

 

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「戦争が終わるたびに、

“今度こそ”って言って」

 

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「でも結局、

子供達に全部残してきた」

 

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ブライトは答えられない。

 

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⸻

 

■ミライ

 

それでも、

小さく笑う。

 

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「だから帰ってきて」

 

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「今度は逃げないで」

 

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■ブライト

 

しばらく黙ったあと。

 

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小さく頷く。

 

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「……ああ」

 

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その瞬間。

 

艦内照明が、

わずかに遅れる。

 

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0.2秒。

 

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誰も気づかない程度のズレ。

 

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だが。

 

ブライトだけは、

その違和感に反応する。

 

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■ブライト

 

「……今、

遅れたか?」

 

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■ミライ

 

「え?」

 

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■ブライト

 

視線を天井へ向ける。

 

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戦場勘。

 

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だがこれは、

敵意ではない。

 

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もっと曖昧な何か。

 

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その時。

 

艦内通信が入る。

 

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■オペレーター

 

『ブライト艦長』

 

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『ドックブロックにて、

機体搬入完了』

 

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『確認をお願いします』

 

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ブライトの表情が変わる。

 

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艦長の顔。

 

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■ミライ

 

小さく笑う。

 

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「仕事?」

 

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■ブライト

 

「らしい」

 

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立ち上がる。

 

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だが。

 

足を止める。

 

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そして、

小さく振り返る。

 

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「……帰ってくる」

 

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■ミライ

 

「ええ」

 

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ブライトは歩き出す。

 

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向かう先は、

アマテラス・ドックブロック。

 

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そこに待つものを、

まだ彼は知らない。

 

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ただ。

 

⸻

 

艦の奥で。

 

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何かが、

静かに“同期”し始めていた。

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