アマテラス艦内。
静かだった。
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戦闘直後とは思えないほどに。
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だが。
その静けさは、
安堵ではない。
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誰もまだ、
“帰ってきた”
という事実を、
受け止めきれていなかった。
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艦そのものが、
どこか現実感を失っている。
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照明遅延。
微弱な通信ノイズ。
時折発生する重力同期誤差。
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アマテラスは今、
通常艦ではない。
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“現実避難座標”。
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その変質を、
乗員達も無意識に感じ始めていた。
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■医療ブロック
自動モニター音だけが響いている。
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ブライト・ノアは、
椅子に座ったまま
窓の外を見ていた。
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地球圏。
遠い光。
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まるで、
長い夢から覚めた直後のようだった。
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■ミライ・ノア
入口で立ち止まる。
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すぐには近づけない。
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そこにいるのは、
確かに自分の知るブライト。
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だが同時に。
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どこか、
“遠い”。
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戦争という時間を、
置き去りにした人間の距離。
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■ブライト
「……そんな顔するな」
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ミライが少し笑う。
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だが。
涙は止まらない。
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■ミライ
「するわよ」
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「どれだけ待ったと思ってるの」
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■ブライト
答えない。
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いや。
答えられなかった。
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■ブライト
「……どのくらい経った」
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■ミライ
「十分すぎるくらい」
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少し沈黙。
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■ブライト
「そうか」
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その声には、
疲労とも違う重さがあった。
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■ミライ
ゆっくり近づく。
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「……あなた」
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■ブライト
視線を落とす。
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「向こうでは、
時間の感覚がなかった」
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「戦場だけが続いてた」
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「終わっても、
また始まる」
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「誰かが死んで、
また次の戦場が来る」
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小さく息を吐く。
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「気づいたら、
自分がどこにいるのかも
分からなくなってた」
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「帰ってこれたのが、
不思議なくらいだ」
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■ミライ
その手を握る。
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「帰ってきたのよ」
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「ちゃんと」
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■ブライト
しばらく黙る。
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そして。
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「……ミライ」
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■ミライ
「なに?」
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■ブライト
少しだけ迷う。
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視線を落とす。
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「俺は……
最後まで知らなかった」
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「マフティが、
ハサウェイだった事を」
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ミライの表情が止まる。
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■ブライト
「父親なのに」
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「何も気づけなかった」
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「何も止められなかった」
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拳が、
わずかに震える。
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「……すまなかった」
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長い沈黙。
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ミライは、
何も言わない。
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ただ、
ゆっくりブライトの前に立つ。
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■ミライ
「あなたが全部、
背負う必要ないわ」
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■ブライト
首を横に振る。
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「いや」
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「艦長だった」
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「軍人だった」
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「でも……父親にはなれなかった」
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ミライの目に涙が浮かぶ。
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■ミライ
「……私達、
ずっとそうだったじゃない」
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「戦争が終わるたびに、
“今度こそ”って言って」
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「でも結局、
子供達に全部残してきた」
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ブライトは答えられない。
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■ミライ
それでも、
小さく笑う。
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「だから帰ってきて」
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「今度は逃げないで」
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■ブライト
しばらく黙ったあと。
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小さく頷く。
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「……ああ」
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その瞬間。
艦内照明が、
わずかに遅れる。
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0.2秒。
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誰も気づかない程度のズレ。
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だが。
ブライトだけは、
その違和感に反応する。
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■ブライト
「……今、
遅れたか?」
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■ミライ
「え?」
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■ブライト
視線を天井へ向ける。
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戦場勘。
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だがこれは、
敵意ではない。
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もっと曖昧な何か。
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その時。
艦内通信が入る。
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■オペレーター
『ブライト艦長』
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『ドックブロックにて、
機体搬入完了』
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『確認をお願いします』
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ブライトの表情が変わる。
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艦長の顔。
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■ミライ
小さく笑う。
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「仕事?」
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■ブライト
「らしい」
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立ち上がる。
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だが。
足を止める。
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そして、
小さく振り返る。
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「……帰ってくる」
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■ミライ
「ええ」
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ブライトは歩き出す。
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向かう先は、
アマテラス・ドックブロック。
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そこに待つものを、
まだ彼は知らない。
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ただ。
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艦の奥で。
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何かが、
静かに“同期”し始めていた。