機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第3章 「帰還者たち」(後編)

■アマテラス・ドックブロック

 

整備アームが静かに停止している。

 

 

作業音はない。

 

誰も動けない。

 

 

全員の視線が、

同じ場所へ向いていた。

 

 

白い機体。

 

そして、

赤い巨影。

 

 

 

■Hi-νガンダム

 

白銀に近い装甲。

 

内部を流れる、

淡いサイコフレーム光。

 

 

まるで、

鼓動しているようだった。

 

 

装甲表面に、

時折わずかなノイズが走る。

 

 

完全ではない。

 

 

だが確かに、

こちら側へ近づいている。

 

 

 

その隣。

 

 

■ナイチンゲール

 

巨大な赤。

 

 

だが。

 

それは、

かつて存在した赤とは違う。

 

 

どこか静かで。

 

どこか薄い。

 

 

まるで。

 

記録から再構築された赤。

 

 

装甲端が、

時折わずかに揺らぐ。

 

 

完全固定には、

まだ至っていない。

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

整備ブロックで立ち尽くしている。

 

 

「……馬鹿な」

 

 

震える声。

 

 

「アムロの……

機体……?」

 

 

ジョブは知っている。

 

νガンダムを。

 

サイコフレームを。

 

そして——

 

アムロ・レイという男を。

 

 

 

■整備クルー

 

「本当に動いてるのか……?」

 

 

「あり得ねぇ……」

 

 

「記録映像じゃないんだぞ……」

 

 

誰も近づけない。

 

 

機械として認識できない。

 

 

兵器なのに、

生物に近い。

 

 

そんな違和感。

 

 

 

その時。

 

 

ドック照明が、

一瞬だけ遅れる。

 

 

Hi-νガンダムの

サイコフレームだけが反応した。

 

 

淡い光が脈動する。

 

 

ナイチンゲール側でも、

赤い粒子がわずかに揺らぐ。

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

端末を確認する。

 

 

「……質量値が安定してない」

 

 

「なんだこれは……」

 

 

「存在してるのに、

機体データが固定されない……?」

 

 

誰も返事をしない。

 

 

だがその言葉だけで、

空気がさらに冷える。

 

 

 

ドック入口。

 

 

一人の女性が、

足を止める。

 

 

■ベルトーチカ・イルマ

 

視線が、

Hi-νガンダムから離れない。

 

 

呼吸が浅くなる。

 

 

■ベルトーチカ

 

「……アムロ」

 

 

その瞬間。

 

 

Hi-νガンダムの

コクピットハッチが静かに開く。

 

 

全員が息を呑む。

 

 

ゆっくりと。

 

一人の男が降りてくる。

 

 

 

■アムロ・レイ

 

年老いてはいない。

 

 

だが。

 

昔のままでもない。

 

 

長い時間を生きたはずなのに、

その時間だけが見えない。

 

 

そんな違和感があった。

 

 

足が床へ触れた瞬間。

 

 

ドック全体の照明が、

わずかに明滅する。

 

 

空間そのものが、

彼を受け入れ始める。

 

 

 

■ジョブ

 

「アムロ……?」

 

 

 

■アムロ

 

静かに周囲を見る。

 

 

「……アマテラスか」

 

 

その声で、

現実になる。

 

 

誰ももう、

幻覚とは思えなかった。

 

 

 

■ベルトーチカ

 

駆け出していた。

 

 

「アムロ!!」

 

 

抱きつく。

 

強く。

 

 

消えてしまわないように。

 

 

 

■アムロ

 

一瞬だけ目を閉じる。

 

 

「……久しぶりだな」

 

 

 

■ベルトーチカ

 

「久しぶりで済むと思ってるの!?」

 

 

涙混じりの声。

 

 

怒っている。

 

泣いている。

 

笑ってもいる。

 

 

 

■アムロ

 

少し困ったように笑う。

 

 

「悪かった」

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

その姿を見ながら、

小さく呟く。

 

 

「本当に……

帰ってきたのかよ」

 

 

 

その奥。

 

重い足音。

 

 

■シャア・アズナブル

 

ナイチンゲールの影から現れる。

 

 

赤い気配。

 

 

だがそこにあるのは、

かつての苛烈さではない。

 

 

燃え尽きた恒星の残光。

 

 

 

■シャア

 

「騒がしい艦だな」

 

 

 

■旧クルー達

 

一斉に凍りつく。

 

 

「シャア……?」

 

 

「本当に……?」

 

 

 

■シャア

 

わずかに肩をすくめる。

 

 

「幽霊にしては重いだろう」

 

 

その時。

 

 

ドック入口に、

ブライトが現れる。

 

 

足が止まる。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

 

死んだはずの男達。

 

 

長い時間を共に戦った、

宇宙世紀そのもの。

 

 

 

■ブライト

 

「……遅かったな」

 

 

 

■アムロ

 

少し笑う。

 

 

「ああ」

 

 

 

■シャア

 

「寄り道をしていた」

 

 

 

■ブライト

 

「勝手に死んだ奴らが言う台詞か」

 

 

一瞬だけ、

ドックに笑いが漏れる。

 

 

 

■アムロ

 

「……ハサウェイは」

 

 

空気が止まる。

 

 

 

■アムロ

 

「見ていた」

 

 

「ずっと」

 

 

「だが、

届かなかった」

 

 

ブライトは目を閉じる。

 

 

 

■アムロ

 

「……すまなかったな」

 

 

 

■ブライト

 

「お前が謝ることじゃない」

 

 

 

■アムロ

 

「それでもだ」

 

 

「俺達は……

あいつらに背負わせすぎた」

 

 

 

■シャア

 

何も言わない。

 

 

ただ静かに、

ナイチンゲールを見る。

 

 

そこに映っているのは、

終わらなかった時代だった。

 

 

 

■ブライト

 

「……終わったんだ」

 

 

 

■アムロ

 

ゆっくり首を振る。

 

 

「いや」

 

 

「終わってない」

 

 

 

■シャア

 

小さく笑う。

 

 

「だから我々がここにいる」

 

 

 

■ブライト

 

苦く笑う。

 

 

「まったく、

迷惑な亡霊共だ」

 

 

その瞬間だけ。

 

 

ドックに、

昔の空気が戻る。

 

 

だが。

 

 

突然、

警報が鳴り響く。

 

 

■オペレーター

 

「外縁宙域に異常反応!」

 

 

「未確認機影、二!」

 

 

 

アムロの表情が変わる。

 

 

シャアの目が細くなる。

 

 

 

「来たか」

 

 

 

モニターに映る。

 

 

白でも黒でもない機影。

 

 

そして。

 

 

消えかけた赤。

 

 

 

■ブライト

 

「……あれは」

 

 

 

■アムロ

 

「俺達じゃない」

 

 

 

■シャア

 

「だが、

よく似ている」

 

 

その瞬間。

 

 

Hi-νガンダムの

サイコフレームが脈動する。

 

 

ナイチンゲールの装甲が、

わずかに揺らぐ。

 

 

まるで。

 

 

向こう側が、

こちらを見つけた。

 

 

そして。

 

 

世界は静かに、

次の接続を始めようとしていた。

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