機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第11章 「境界消失」

■アマテラス

 

通信波形が揺れている。

 

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ノイズではない。

 

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故障でもない。

 

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言葉そのものが、

形を保てなくなり始めていた。

 

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■通信士

 

「アムロ・レイ、応答なし!」

 

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■通信士

 

「シャア・アズナブル、

リンク不安定!」

 

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■ブライト・ノア

 

前へ出る。

 

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■ブライト

 

「アムロ!!」

 

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「応答しろ!!」

 

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返事はない。

 

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だが。

 

届いていないわけではなかった。

 

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声は向こうへ流れている。

 

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しかし。

 

意味へ変換されない。

 

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■ベルトーチカ・イルマ

 

「アムロ……!」

 

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震える声。

 

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■ベルトーチカ

 

「聞こえてるなら返事をして!」

 

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一瞬だけ。

 

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通信波形が整う。

 

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だが次の瞬間、

再び崩れる。

 

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■通信士

 

「駄目です!」

 

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■通信士

 

「言語データとして成立していません!」

 

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ブリッジが沈黙する。

 

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誰もが理解していた。

 

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声は届いている。

 

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だが。

 

世界が受け取らない。

 

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■外縁宙域

 

白と赤が交差する。

 

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だが。

 

互いに触れていない。

 

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触れたという結果だけが消えている。

 

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■アムロ・レイ

 

呼吸が乱れる。

 

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通信が聞こえる。

 

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聞こえているはずだった。

 

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だが。

 

意味にならない。

 

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誰かの声。

 

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誰かの想い。

 

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その輪郭だけが流れていく。

 

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■アムロ

 

「ブライト……か?」

 

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答えはない。

 

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いや。

 

答えは来ている。

 

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だが言葉にならない。

 

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■シャア・アズナブル

 

静かに前を見る。

 

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■シャア

 

「境界が消え始めている」

 

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■アムロ

 

「境界……?」

 

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■シャア

 

「ああ」

 

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「人と人」

 

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「現実と記録」

 

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「こちらと向こう側」

 

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少し間。

 

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■シャア

 

「区別がなくなっている」

 

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白いノイズ。

 

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赤い揺らぎ。

 

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深蒼の波。

 

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戦場が遠ざかる。

 

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宇宙が遠ざかる。

 

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自分自身さえ、

輪郭を失い始める。

 

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■ラプラス・コア

 

「境界領域消失率上昇」

 

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「修正不能」

 

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■アマテラス

 

通路が軋む。

 

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照明が明滅する。

 

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誰もが同じ不安を抱いていた。

 

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もし。

 

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このまま進めば。

 

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アムロにも。

 

シャアにも。

 

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もう届かなくなる。

 

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■外縁宙域

 

白と赤。

 

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二つの光が交差する。

 

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だが。

 

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互いの存在さえ、

少しずつ曖昧になっていく。

 

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■シャア

 

「来ているな」

 

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■アムロ

 

「ああ」

 

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二人の視線が前を向く。

 

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その先。

 

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その瞬間。

 

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二人の機体を隔てていたはずの宇宙が、

一度だけ大きく揺らいだ。

 

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距離が消える。

 

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敵も。

 

味方も。

 

過去も。

 

未来も。

 

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全てが同じ場所へ、

重なろうとしていた。

 

まだ見えない深蒼が、

静かに広がり始めていた。

 

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そして。

 

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境界という概念そのものが、

少しずつ消え始めていた。

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